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■  ポンと村おこし  第80話「みどりの作戦」               ■
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「ちょっとアンター!」
 みどりがやってきました。
 なんてかいうか……いつも不機嫌な感じがするのは気のせいでしょうか?
「ちょっとー!」
「はいはい、なんですか?」
「アンタ、いつもお店を手伝ってるのよね」
「そうですよ」
「ててて店長と一緒なの?」
「……」
 なんで店長さんが出てくるのかな?
 みどりも店長さんスキーですか?
 まぁ、みどりは子供ですから、コンちゃんやミコちゃんのように脅威じゃないからいいか。
「ねぇ、店長と一緒なんでしょ!」
「はい、そーですよ」
「どうやったら店長と仲良くできると思う?」
「店長さんと仲良く……ですか」
「アンタ、どうなのよ」
「うーん、わたし……仲良くやってるかなぁ」
 みどりに言われると考えちゃいます。
 店長さんとはケンカしているわけじゃないから、仲が悪いわけじゃないでしょう。
 でも、仲好くやってるのか……言われると悩んじゃいます。
 わたし、店長さんと世間話をしたりしても……
 こう「好きだ」とか「愛してる」なんてささやかれてないもん。
「アンタ、どうなのよっ! ねえっ!」
「はいはい、仲好くやってますよ」
「だから〜!」
「なんですか?」
「だから、店長とどうやったら仲良くできるのよっ!」
「みどり……店長さんが好きなんですね」
 って、一瞬で顔が真っ赤です。
「そ、そんな事、ないんだからっ!」
「顔、真っ赤ですよ」
「モウッ!」
「はいはい、怒らない怒らない」
「ワ、ワタシはお手伝いしたいだけなのっ!」
「別に子供なんだからそんな事しないでも……」
「いいじゃない、教えなさいよ」
「店長さんと仲良くしたくて、お手伝いしたいって……ですよね」
「そうよ、なにかないのっ!」
「お手伝いお手伝い……」
 わたしがやってるお手伝いは……お店のお仕事は「お仕事」です。
 そうですね、ごはんの後にお皿を洗ったり……
 洗濯物を取り込んだり、たたんだり……
 お風呂掃除もしたりします……
 でもでも、それって店長さんと一緒って事、ほとんどないですね。
「パンを作るのを手伝うってのはどうでしょ?」
 わたし、ナイスアイデアだけど、みどりに言っちゃっていいのかな。
 黙ってて、わたしがお手伝いしてポイント稼ぐのがよかったような。
 でもでも、言っちゃいました。
「パン作りを手伝う!」
 みどり、表情が明るくなりました。
 この表情はすごいかわいいって思えるんだけど……
 わたしが見てると視線に気付いて、
「ふん、ワタシはお世話になってるお返しでやってあげるんだから」
 強がるところがかわいくないんですよね〜

『ポンちゃんの入れ知恵だね』
『ダメでしたか?』
 パン工房の前で店長さん腕組みして考える顔です。
 みどりはさっきからわくわく顔で店長さんの返事待ち。
「パン作り手伝う」って言った時のみどりは真剣な顔でしたよ。
『ねぇ、店長さん、なんでダメなんですか?』
『ポンちゃんもコンちゃんも、あんまりパン工房に入っちゃだめって言ってるよね』
『まぁ、あんまり入りませんね、パンを運ぶ時くらい』
『しっぽがね』
『?』
『しっぽの毛がパンに入らないようになんだよ』
『へぇ、そうだったんだ』
『だから本当はこの家自体動物禁止なの』
『そんな事言ってわたしを追い出す気ですかっ!』
 店長さんをにらんじゃいます。
『しっぽある以外は人間だからいいけど、さすがにパンを作るのを手伝うのはね』
『でも、みどり、真剣ですよ』
『それだけじゃないんだよ』
 店長さんの視線の先には……柱からちょっと顔を出して見てるのはミコちゃんです。
『ダメって言ったらミコちゃんへそ曲げそう』
『店長さん、ミコちゃんに弱いですね』
『ごはん作ってるの、ミコちゃんだしね』
『そ、それはたしかに』
 って、柱の陰からレッドが出てきました。
「てんちょー、ぼくもやるー!」
 ああ、やっかいなのが増えました。
 レッドがやるっての、拒否なんてしたらミコちゃん荒れます。
 店長さんが困っていると、ミコちゃんもようやく出てきました。
「あの……店長さん」
「ミコちゃん、どうかしたの?」
「二人を手伝わせてあげて」
「っても……うちは食べ物を扱ってる仕事だし、しっぽの毛が」
 ミコちゃん、ニコリとして、なにか出しましたよ。
 細長い……袋みたいですね……なにかな?
 一つは赤くて、一つは緑色、もう一つは真っ白。
 ミコちゃん、赤いのはレッド、緑色はみどり、白いのはわたしのしっぽに付けます。
 しっぽ袋?
 レッドとみどりは背中を見るようにして、袋を見てます。
 ミコちゃん微笑みながら、
「これで毛が入る事もないわね」
 みどりのお手伝い作戦、できるようになりましたよ。

 でもでも、みどりの作戦、失敗かな。
 みどりと店長さんだけだったら「成功」だったんだろうけど、レッドも一緒なの。
 二人はまだ子供でパンをうまく形にできないから……
 さっきからみどりが生地をのばして……
 レッドが型を使って切り抜く……
 クッキーを作ってるんです。
illustration やまさきこうじ
 みどりは店長さんと仲良くなりたかったはずですが、店長さんはちょっと離れたところにいます。
 わたしはミコちゃんの和菓子作りを手伝いながら、
『ねぇねぇ、ミコちゃん』
『何? ポンちゃん?』
『わたし、みどりに相談されて手伝いの事を……』
『うん、知ってるわよ、話を聞いてたから』
『これは、店長さんと仲良くはなってないと思います』
 わたしのテレパシーにミコちゃん微笑みます。
『ポンちゃんはわからないかしら』
『?』
『みどりちゃんは……不安なんじゃないかしら』
『なにがですか?』
『ほら、ぽんた王国の件でいろいろあったし、ここに来たばっかりだし』
『うーん……居場所がないとか?』
『もう、充分家族なんだけどね……みどりちゃん本人はそう思ってないのかも』
『それで……お手伝いとかしてアピールしてるとか?』
『そんな感じかしらね』
『でも、店長さんと一緒じゃないですよ』
『店長さんとかだけじゃないのよ、レッドだったり私だったり、ポンちゃんだったり』
『だれかの役に立つとか……そんな感じ?』
『そう、そんな感じ』
 みどり、レッドと一緒にクッキー作ってます。
 確かに活きいきした顔してますね。
 店長さんにアピールできなかったかもしれないけど、これはこれでよかったのかも。

「ちょっとアンタ!」
 またみどりです。
 ごはんの後のお皿洗いの最中なのに、
「なんですか?」
「そこはワタシの場所なんだからっ!」
「?」
 みどり、怒った顔でわたしを見てます。
 えーっと、足元には箱がありますね。
 みどり、わたしを押しのけて、箱に立ちました。
『ポンちゃんポンちゃん』
 ミコちゃんのテレパシーです。
『どうしたの、ミコちゃん?』
『それ、みどりちゃんの踏み台だから』
『うん……そうだったんだ……なんでこんなのって思ってた』
『店長さんのお手伝いと一緒よ』
『そうなんですか……』
 踏み台に立ったみどり、お皿洗い頑張ってます。
 そんなみどりの頭をミコちゃんなでて、
「ありがとう、助かるわ」
 途端にみどり、うれしそうな顔になります。
 あれれ……どうした事でしょ。
 いつもなら「手伝ってあげてるんだから」とか強がるところですよ。
 忘れちゃったのかな?
 強がるの。

 今日もお客さん、さっぱりです。
 観光バスも来る予定がないから、のんびりした時間なの。
 って、レジに立ってるわたしの横にみどりがいるんですが……
 さっきからコンちゃんをじっと見つめています。
 コンちゃんはいつもの席でぼんやりとテレビを見てる最中。
 みどり、ゆっくりとコンちゃんの方に向って歩き出します。
 なんだか嫌な予感……コンちゃんのところに行ってなにするつもりでしょ?
 みどり、コンちゃんのしっぽをつかんじゃいました。
「アレ」は店長さん以外触ったらダメって設定です。
 でも、きっと、誰でも(店長さんでも)触ったら怒ると思う。
 みどり、コンちゃんのしっぽを触ってポーっとしてます。
「きれい……」
 あ、ほめたら大丈夫かな?
 いやいや、コンちゃんのゲンコがみどりの頭に投下されました。
 ★一つ弾ける音です。
「うえっ!」
「何を勝手に人のしっぽに触れておるのじゃ」
「うう……」
「何を勝手にしっぽに触れておるのかと聞いておるのじゃ」
 コンちゃん、ポンポンみどりの頭を叩いてます。
 その都度★が飛び出します。
「これ、何か言わぬか、のう」
 コンちゃんムッとした顔で言います。
 本当に怒ってるみたい。
 しっぽくらい触らせてあげたらいいのに。
 わたしなんてしょっちゅう「モフモフ」されてますよ。
「何か言わぬか」
「うう……うわーん」
 ああ、泣きだしちゃいました。
「コンちゃん、なに叩いているんですか」
「ポンも見ておったならわかるであろう」
「しっぽをさわっただけですよね?」
「わらわは神ぞ、そのしっぽに触れてよいのは店長だけじゃ」
「はいはい……だからって子供を叩くかなぁ」
「躾じゃ、しつけ」
「はいはい……ミコちゃんが見てても叩ける?」
「むう……」
 さて、みどりはまだ泣いてます。
 ★いっぱい出ましたからね。
 コンちゃん、みどりを抱きあげて、
「これ、みどり、わらわのしっぽに触れてはならぬ」
「うう……」
「どうしてしっぽに触れたのじゃ」
「きれいだったし……」
「ふむ……」
「お話したかったから……」
「ならば、普通に話しかければよいであろうが」
「うん……ごめんなさい……でも、でも」
「何じゃ?」
「なにを話しかけていいかわからなかったから……」
 みどり、コンちゃんとお話したかったけど、きっかけがなかっただけみたい。
 わたしとコンちゃん、視線が合っちゃいます。
『これ、ポン、お茶の準備はできておるかの』
 ああ、なんとなくわかっちゃいました。
 わたし、ウィンクでこたえます。
 すぐに奥に戻ってお茶とティーカップを準備します。
「みどり〜、コンちゃんにお茶、持って行って〜」
 すぐにみどりがやってきて、お茶を持って行っちゃいます。
 わたし、柱の陰から見守り。
「みどり、お茶を注ぐのじゃ」
「はい」
「うむ、なかなか上手ではないかの」
 コンちゃん、みどりの差し出したティーカップを口に運んで、
「みどり、おぬしにわらわのしっぽに触れるのを許す」
「!」
 コンちゃんが指を鳴らすと、みどりの眼の前にブラシが出現。
「そのブラシで、丁寧にすくのじゃ」
「はいっ!」
 みどり、コンちゃんのしっぽにブラシをいれます。
 仲直り、できたみたいです。
 よかったですね。
illustration やまさきこうじ





「ちょっとアンター!」
 みどりがやってきました。
 なんてかいうか……わたしの時は不機嫌な感じがするのは気のせいでしょうか?
「ちょっとー!」
「はいはい、みどり……ちょっと質問」
「なによ?」
「わたしの時だけ不機嫌なのはなぜ?」
「は?」
「いつも不機嫌な感じですよ」
「……そう?」
「ミコちゃんやコンちゃんの時は強がったりしませんよね」
 みどり、固まっちゃいました。
 でも、すぐにわたしに視線をくれると、
「だってアンタ、きれいじゃないもん」
「!」
「話しかけてあげてるんだから、感謝しなさいよねっ!」
「わわわわたしがきれいではないと!」
 もう怒った。
 前からお見舞いしたかった「デコピン」です、えいっ!
「ううう……うわーん!」
 ベソかいて行っちゃいました。
 ふん、「きれいじゃない」とか言うからです。
 って……みどり、ミコちゃんと一緒に戻ってきました。
 ミコちゃん、ムッとした顔で段ボールを組み立てながら、
「ポンちゃん、何妹を泣かせてるの」
 むー!
 今夜はお外でお休みです……とほほ。
 って、今、みどり、ちらっとわたしを見ましたよ。
 笑ってなかったですか?
 も、もしかしたら、作戦だったとか!


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NCP5(2012)

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