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■  ポンと村おこし  第83話「長老とヒットマン」             ■
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 老人ホームにおやつの配達です。
 学校の近くを通るんですが……つかまらないかな?
 子供たちにつかまってドッチをやらされる事、しょっちゅうなの。
「?」
 でもでも、今日は大丈夫みたい。
 子供たちの中に、一際大きな影。
 今日は誰が相手をしてるんでしょう?
 工事現場の人たちかな?
 よーく見ると……帽子男です。ヒットマン。
 子供たちと仲良くボールを追っかけてます。

 さて、帰り道、子供たちにつかまらないようにチャイム待ちなの。
 授業のチャイムが鳴るのを聞いて、運動場から人影がなくなって老人ホーム出発です。
「おお、タヌキ娘っ!」
 誰にも会わないつもりが、帽子男にはちあわせ。
「ドッチ、おつかれさまです」
「みんなポンちゃんポンちゃんって待ってたぞ」
「遊んでる暇はないんです」
「本当かよ〜」
 わたし、帽子男と一緒に歩きながら、
「用務員さんは大変ですか?」
「子供相手がなぁ〜」
「あはは」
 って、おそば屋さんの前。
 帽子男、のれんを手でくぐりながら、
「俺は今から昼を食べてく」
「……」
「じゃぁ、な」
「……」
 帽子男、お店に入っちゃいました。
 えーっと……なんだか嫌な予感です。
 お店は営業中なんですが……
 帽子男は長老やポン太・ポン吉の命を狙っていたんです。
 今は休戦状態なのかな?
 ちょっと中をのぞいちゃいましょう。
「ポンちゃん」
「!!」
「どうしました?」
 背後から声、長老です。
「ちょちょちょちょーろー!」
「どうしました?」
「お店にいたのでは?」
「村長さんの所に出前の帰りです」
「お店開けっ放し?」
「泥棒は入らないでしょう」
 ヒットマンは入ってますけどね。
 長老、さっさとお店に入っちゃいます。
「ポンちゃん、おそばごちそうしますよ」
「え、えっと……」
「いつもポン太とポン吉がお世話になっているので」
「それはうれしいけど……」
 お店に入った長老、カウンターの帽子男と目が合います。
 こ、これは、もしかしたら「決闘」?
「タヌキ爺、店、開けっ放しだったぜ」
「これはいらっしゃい」
「天ザルひとつ、かしわにぎり付き」
「はいはい、しばらくお待ちを」
 長老、中に入ってさっそくおそばを茹で始めます。
 わたし、帽子男の隣に座って二人を見るけど……
「殺気」とか感じられません。
「長老、あの〜」
「なんですか、ポンちゃん」
「長老……帽子男さんは敵じゃなかったんですか?」
 長老、わたしにざるそばを出しながら、
「前は、そうでしたね」
 帽子男は天ザルを前に、
「もう、契約は終わってるからな」
「契約?」
「俺は『ぽんた王国』をつぶすのが目的だったからな」
「……」
「関係者の抹殺……それが仕事だ」
 帽子男、言いますが、殺気は感じられません。
 わたし、長老を指差します。
 帽子男、笑いながら、
「タヌキ娘、言ったろう」
「?」
「ぽんた王国を潰すのが目的なんだ」
「だから?」
「ぽんた王国は潰れてなくなったろう」
「だから?」
「もう、目的は達成されたわけ」
「でも、この間、駐在さんを……」
「あれは、ぽんた王国とは別枠なわけさ」
「じゃあ、長老やポン太・ポン吉はもういいんですか?」
「ぽんた王国はもう、ないからな」
 ちょっと安心しました。
「決闘」にはならないみたいです。
「じゃあ、今は仲良しなんですか?」
 って、二人とも笑ってます。
 長老、肩をゆらしながら、
「ポンちゃんが言うのを聞いてたら……」
「なに、長老っ!」
「仲直り簡単ですね」
「わるい?」
 帽子男、笑いを堪えながら、
「本当、おめでたいヤツだ」
「わるい?」
 もう、二人とも、わたしを馬鹿にしてますねっ!
「じゃあな、仕事あるんで」
 帽子男、食べるだけ食べたら行っちゃいました。
 長老、「ツケ・ノート」に書きこみながら、
「ポンちゃんが言うのは極端ですが、まぁ、仲直りしてますかね」
「ほら、わたしの言う通り」
「今はこの村で平和に暮らしています」
「ですね……あの帽子男、元ヒットマンですよ」
「ふふ……」
 長老、微笑みながら、
「あの男、用務員頑張っているようです」
「ですね〜」
「なかなか仕事熱心ですので……」
「?」
「正直、ここに雇いたいと思っています」
「ちょ、長老……長老は村長さんに雇われてるんですよね?」
「老体にそば屋は大変なんです」
「絶対さぼりたいだけですよね?」
「ふふ……ポンちゃん、何かいい案はないですか?」
 長老は本気で雇いたいみたいですね。
 ふむ……帽子男のおそば屋さん、おもしろそう。
「どうですか、ポンちゃん?」
「そう……ですね」
「妙案が?」
「決闘したらどうです?」
「え?」
「長老、強いんですよね」
「……」
「勝負して勝ったらここで働く……みたいな」
「わかりやすいですね……でも、はたして勝負してくれますかな?」
「ああ……そうだ、勝負に乗ってこないかもしれませんね」
「ですよね」
 決闘したら即解決って思ったけど、そう簡単にいかないみたい。
 って、長老、カッって目を見開いてます。
 頭上に裸電球も光ってるの。
 なにか妙案、浮かんだみたいです。
「パトロールに寄ったでありますよ」
 あ、シロちゃん入ってきました。
「ポンちゃん……さぼりでありますか?」
「シロちゃんこそ〜」
「本官はパトロールであります」
 わたし、「ツケ・ノート」を開きます。
「これでも?」
「うう……」
 シロちゃんもしれっと食べてるみたい。
 あんまりツケをためると、ミコちゃんに怒られるよ。
 って、長老、わたしの手から「ツケ・ノート」取り上げながら、
「シロちゃん、そろそろツケを払ってもらいたいですね」
「ちょ、長老、ツケは月末払いのはずっ!」
「卑弥呼さまに言いますよ」
illustration やまさきこうじ
 シロちゃん、真っ青です。
 しっぽもすっかりトーンダウン。
「シロちゃん……私の為に決闘してもらえませんか?」
「え!」
 わたしとシロちゃん、はもっちゃいます。
 でもでも、読めました。
 長老、シロちゃんに決闘させるんです。

 ここはパン屋さんの駐車場。
 今、まさに、西部劇決闘モードです。
「こんなに早く決闘できるとはな……」
「本官、正直決闘したくないであります」
「何故?」
「同じ道を歩む者同士、仲好くしたいでありますね」
「俺はヒットマンでね」
「……」
「仕事がら、本来はここでグダグダするタチでもないんだ」
 帽子男、銃に弾を込めています。
「子供たちと仲良くしてるであります」
「お前と勝負するためさ」
 帽子男、銃を確かめながら、
「本来なら、本物でお前の命をもらう」
「……」
「しかし、お前を殺して子供たちが悲しむのを見たくないから……今日はエアガンだ」
 帽子男、シロちゃんに向けて発砲。
 シロちゃんのスカートの裾に穴が開きました!
 エアガンって事ですけど、すごい強力そう、当たると痛そうです。
 帽子男、エアガンを確かめながら、
「俺も甘くなったかな」
「本官が勝ったら、そば屋でパートでありますよ」
「ああ、いいだろう、村長にも言ってある、用務員暇な時はOKだ」
「では、いくでありますっ!」
 シロちゃんも構えました。
 横にダッシュです。
 帽子男も追いますよ。
illustration やまさきこうじ
「もらった!」
 帽子男のエアガン、発砲!
 シロちゃん、転びました。
 拍子に何発が撃っちゃったみたいですよ。
 でもでもシロちゃん、転がりながら体勢とります。
 しゃがんで帽子男を軸線にとらえました。
「いただきであります」
「こっちが早いっ!」
 帽子男も引き金を引きます……あれれ、不発?
「なっ!」
「使い慣れない得物を使うからであります」
 シロちゃん、銃を構えたまま語ります。
 でも、帽子男も黙ってません。
「お前も……弾切れだろ?」
「試してみるでありますか?」
 シロちゃん、ニヤリとします。
 引き金を引くシロちゃん。
 あれれ、音がしませんよ。
 シロちゃんもやっぱり弾切れかな?
「ふふ、お互いさまだな」
「それはどうでありますか」
「!!」
 シロちゃんが言った途端、帽子男の胸元がペイント弾で赤く染まります。
「本官の勝ちであります」
「な、何故だっ!」
 シロちゃん、にこにこしながら銃に弾を詰めます。
「帽子男は普段は本物拳銃で仕事をしているであります」
 わたしと帽子男、うなずくばかり。
「本物の拳銃は『まっすぐ狙う』でありますよね」
「普通……そうだろう」
「本官の銃はコンちゃんから貰った銀玉鉄砲であります」
「?」
 シロちゃん、何気なく空に向って発砲。
 わたしと帽子男がキョトンとしていたら……
 うわ、また帽子男の胸で弾けます。
「山なりの弾道で当てたであります」
「本物の銃じゃあ、考えつかない作戦だな」
「本官、いつもこの銃であります……本物に勝つには何でもするであります」
「俺……油断したのかなぁ」
 帽子男、やられたけど嬉しそう。
 へんなの。
「また、しばらく村から離れられなくなったな」
「用務員と店員をするでありますよ」
「ふふ……また決闘してくれるか?」
「もう、やめるでありますよ」
 シロちゃんはもう、うんざりみたい。
「本官、もう手をつくしたであります、今度決闘したら負けて死ぬでありますよ」
 だ、そうです。
「シロちゃん、そんな事言わないで、決闘してあげたら?」
「ポンちゃん……」
「シロちゃんやられたら、骨くらいひろってあげるよ」
 シロちゃん、ムッとした顔をして銃をわたしに向けて発砲!
「痛い痛いっ!」
「ポンちゃんなんか死ぬであります」
「ちょっと言っただけなのに〜」
「先輩は応援するものであります」
「ちょっ……撃つのやめてください、人に向けて撃ったらダメですよ」
「タヌキであります」
「今は人なんですっ!」
 余計な事、言わなきゃよかったかな。
 シロちゃん撃ちまくりで痛いイタイ!

「配達帰りでありますか?」
「あ、シロちゃん……撃つのなしだよ」
 配達帰りにばったり遭遇です。
「シロちゃんはパトロールの帰り?」
「であります、老人ホームに寄ったであります」
「パトロールってさ、お散歩だよね」
 って、シロちゃんなんですぐに銃を抜くかなぁ。
 銀玉鉄砲って当たると「気持ち痛い」から嫌なんだよね。
「パトロールで……そば屋に寄るであります」
 シロちゃんが言います。
 おそば屋さんですよ。
 のれんも出てるから営業中。
「お茶くらいならいいかも」
「では、さっそく入るであります」
 のれんをくぐると……帽子男が働いています。
 帽子はあいからわずですが……なかなかどーして、似合ってますよ。
 長老がにこにこしながら出てきました。
「ポンちゃん、シロちゃん、いらっしゃい」
「ちょっと寄ってみたよ……もう働いているんだ」
「なかなかスジがいいです、もう店を継いでもらってもいいです」
「じじい、いいかげんな事言うな」
 帽子男怒った感じで言うけど、口元はちょっとにやけてます。
 うれしいのかな?
 そんな帽子男が、
「俺のそば、食っていかないか?」
 って、返事もしていないのに、ざるそばがわたし達の前に置かれます。
「サービスだ、やってくれ」
 わたしとシロちゃん、見つめあいますよ。
 クンクン、普通にざるそばですね。
「教えた通りに作ってますよ」
 長老の言葉です。
「じゃ、いただきます」
「いただくであります」
 つるつるでおいしいざるそばです。
 長老のおそばもおいしいけど、これもおいしいですよ。
 お試しなのか、量は少なめ?
 あっと言う間に完食なの。
「帽子男さん、おいしいですよ」
「本官もそう思うであります」
「そうか……」
 って、帽子男、銃を手にして、
「食ったからには、決闘してもらおうか」
「えーっ! サービスって言ったーっ!」
 これってずっと前にやられた気がします。
 ミコちゃんの社でやられましたね。
「サービスって言いました!」
「つゆがサービス」
「せこーい!」
「タヌキ娘はどうでもいいんだ」
「あ、そうなんだ、わたしはタダでいいんだよね」
「ツケ……」
「なんですってーっ!」
 もう、即チョップです。
 ああ、帽子男、笑ってます。
「用があるのは……わかってるだろ」
 帽子男、シロちゃんを見ます。
 シロちゃん、澄まし顔、ハンカチで口元を押さえながら、
「ポンちゃんと決闘して勝ったら本官も決闘するであります」
「ええっ! わたしに振るの〜!」
「ポンちゃん、先輩でありますよね」
 もう、いつも都合のいい時ばっかり「先輩」出すんだからモウっ!


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