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■  ポンと村おこし  第85話「温泉と配達人」               ■
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「サインお願いします」
「はい、サラサラっと」
 今日は配達の日です。
 わたし、伝票にサインして目の細い配達人に返します。
「お茶していきます?」
「ゴチになりま〜す」
「ねぇ、配達人さん」
「なに? ポンちゃん?」
「ここでお茶して、サボっていいんですか?」
「サボりって……俺、今日はここで終わりなの」
「そうなんだ」
「最後の仕事って、ここの残りのパンをもらって行く事なんだけど」
「そうなんだ……じゃ、ゆっくりしていってください」
「コンちゃんのところで一緒にテレビでも見てるよ」
「そーしてください」
 カウベルが鳴ってお客さん……
 じゃなくて、シロちゃんのお帰りです。
「ただいまであります」
「おかえり〜 もうすぐおやつだよ」
「楽しみであります……その前に……」
「?」
「ポンちゃん、温泉掃除に行くであります」
 って、シロちゃん、ポケットから温泉の鍵を出します。
「まだ当番じゃ……」
「わかっているであります」
「じゃあ……なんで?」
 あそこには温泉の神さまがいるんですよ。
 面倒くさい神さまじゃないならいいけど……
 正直面倒くさい神さまですよね。
「湯加減が熱いそうであります」
「?」
「神さまの機嫌、悪いであります」
「そ、それとわたしが掃除するのが、どう関係あるんですか?」
「別にポンちゃん一人に行かせるわけではないであります」
「?」
「本官も同行するでありますよ」
「シロちゃん一人じゃだめなの?」
「本官、よく神さまの事を知らないでありますが、子煩悩でありますよね」
「あー、そっちですか」
「わかったようでありますね」
「わたしだけじゃなくて、レッドですね」
「であります」
 シロちゃん愛想笑いを浮かべて、
「一度はポンちゃんに同行して、神さまの事を知りたいであります」
「それなら、一緒に行ってもいいかな」
 わたし、鍵を手に、
「レッドがいたら、神さま機嫌がいいから、掃除は楽だよ」
 でも、マナーにうるさい神さまだから、一度は一緒、した方がいいでしょ。
「ともかくレッドが帰ってからですね」
 久しぶりの温泉掃除。
 大きなお風呂でのびのびするのは楽しみです。

 わたし、シロちゃん、レッドで温泉掃除です。
 あれれ、温泉小屋の前には車がとまってますよ。
 これは目の細い配達人の車です。
「綱取興業」って書いてある車。
 まだ営業時間ではあるけど……
 お掃除の邪魔ですね〜
 まぁ、あの配達人なら、言えばすぐ出てくれるでしょ。
「ポンちゃん」
「なになに? シロちゃん」
「大丈夫でありますか?」
「なにが?」
「神さま……こわくないでありますか?」
「まぁ、レッドがいれば神さまのご機嫌はばっちり」
「そうでありますか」
「じゃ、お掃除に突入!」
「おー!」
 わたしに合せてシロちゃんとレッドもこぶしを上げます。
 二人は脱いで、わたしはスクミズに着替えです。
「ポンちゃんポンちゃん、本官水着ないであります」
「ああ、これ、わたしだけでいいの」
「?」
「シロちゃんは神さまとよく話すといいよ……掃除はわたしがやるから」
「そうでありますか? 悪いでありますね」
 ふふ、あんな神さまの相手をする方が大変ですよ。
「ともかく、シロちゃんは神さまに慣れて……」
 って、浴室の引き戸を開けた途端、
「レッド、待っておったぞ!」
 龍の形になったお湯が待っています。
「かみさま、おひさしぶり」
「レッド、なぜ来んのじゃ」
「おふろ、おうちにありますゆえ」
「こっちの方が広いであろうが」
「ですね〜」
「さては……」
 神さま、わたしの方に向き直ります。
「これ、タヌキ娘、おぬしレッドを引きとめておらんか?」
「連れて来たのにその言いようですか」
「むう」
「今日はもう一人いるんですよ」
「うむ、わかっておる、そっちの……犬ではないか?」
「そう、こっちはシロちゃん、警察の犬なの」
 わたしが紹介すると、シロちゃんぺこりとお辞儀します。
 うーん、シロちゃん平気な顔してますね、テレパシーで、
『ねぇねぇ、シロちゃん、びっくりしないの?』
『神さまの事は以前から知ってるでありますから』
『ちょっとはびっくりしてほしかったかなぁ』
『ちょっとはびっくりしてるでありますよ』
『そうなんだ』
『ポンちゃん……』
『?』
『コンちゃんやミコちゃんも神さまであります』
『そだね』
『神さま……普段から見慣れているであります』
『でも、温泉の神さまは龍の姿で、ちょっと神さまっぽくない?』
 わたしとシロちゃん、温泉の神さまを見ます。
「レッドよ、もっと温泉に来るのじゃ」
「まえむきにぜんしょします」
「政治家みたいな口ぶりじゃの」
「きめるのはミコねぇゆえ〜」
「儂はさみしいのじゃ」
「そうですか〜」
 もう、神さま、レッドを前に眼尻下がりっぱなし。
『ポンちゃん』
『なになに?』
『なんだか温泉の神さま、ミコちゃんに似てるであります』
『子供好きなところはね〜』
 わたし、神さまの体を叩いて、
「ちょっと神さまっ!」
「むう、なんじゃ、タヌキ娘」
「シロちゃんがお話、あるんだって」
 神さま、シロちゃんの方に向き直って、
「なんじゃ?」
「えーっと……そうでありました」
「?」
「温泉、熱すぎるそうであります」
「そんな事、あるかの?」
「村長さんから連絡を受けているであります」
「そんなつもりは……」
 シロちゃん、レッドの背中を叩きます。
 レッド、頷くと温泉につま先を入れて、びっくりした顔。
「かみさまー!」
「レッド、どうしたのじゃ?」
「あつい〜」
「ふむ……それではヌルくしてやるかの」
 シロちゃんやりますね、レッドを使って温度調節成功です。
『シロちゃん、神さまとうまくやれそうですか?』
『なんとなく、うまくやれそうな気がします』
『じゃ、わたし、男湯の掃除してくるから、神さまとお話してていいよ』
『そうするであります』
 シロちゃん、レッドと神さま見守りながら湯船に浸かっています。
 ほっといても大丈夫そうですね。
 わたし、さっさと男湯掃除に行きましょう。
 男湯……湯気で真っ白です。
 あふれるお湯で床を磨いていると……
「邪魔?」
「!」
「邪魔?」
「うわ、配達人っ!」
 そうでした、表に車、止まっていました。
 目の細い配達人、湯船に浸かってこっちを見てます。
「邪魔なら上がるけど……」
「えーっと……」
 最初は追い出すつもりだったけど、先に邪魔かって聞かれると調子狂っちゃいました。
「しかし残念」
「?」
「シロちゃんが掃除に来ると思っていたのに」
「なに言ってるんですか」
「さっき、お店で話してるの聞いたんだ」
「いましたもんね」
「ポンちゃんが掃除と……ハズレ」
「ちょっ!」
 わたし、デッキブラシを構えます。
 配達人、手桶をヘルメット代わりにして防御。
「ハズレってなんですか!」
「シロちゃんが掃除だったら大当たりだったのに〜」
 くっ!
 言いたい放題です。
 目が細いくせにっ!
「わ、わたしだってスクミズなんですよ」
「スクミズってスクール水着じゃん、それがどうしたんだよ」
「スクミズ、萌えじゃないですか」
「中身が……」
 わたし、デッキブラシで配達人の手桶をコツコツ。
illustration やまさきこうじ
「本気で叩きますよ?」
「こわーい」
「配達人、おかしくないですか、ピチピチなわたしのスクミズ、萌えでしょ!」
「どら焼き級だし」
「中学生設定なんですよ、そんなもんです」
「そうかなぁ〜」
「ほら、萌てください、かわいいって言うんですよ!」
「タヌキだしなぁ〜」
 もう、コツコツしちゃうんだから。
 あ、でも、いい事思いついちゃいました。
 えへへ、この目の細い男をびっくりさせるんです。
「モウ……そんなにシロちゃんの裸が見たかったんですか?」
「ポンちゃんよりは」
 えいっ! コツコツ!
 配達人、笑ってます。
「じゃあ、配達人に命令です」
「?」
「女湯に移動してください」
「え……」
「なにが『え』ですか?」
「だって女湯、行っていいの?」
「男湯は掃除するから、邪魔なんです」
「でも、女湯にはシロちゃんがいるんだよね」
「嬉しいですか?」
「女湯に入ってチカンとか犯罪者とか言われないかな?」
「わたしがOKしてるんですよ」
「でも、シロちゃんがいるんだよね」
「うふふ、シロちゃん、裸ですよ」
「そ、それは……」
 あ、配達人、赤くなってます。
「余計犯罪者にされない? シロちゃんミニスカポリスだし」
 わたし、しゃがんで配達人に顔を寄せます。
 耳元でささやくの。
『シロちゃんは犬なんですよ、人間じゃないんです』
「!!」
『したい放題です』
 この男は……耳まで真っ赤になってます。
 わたしには無反応のくせに。
 でも、女湯に行ったらすぐに青くなるんだから。
 あっちには龍の姿をした神さまがいるんです。
 わたし、配達人の腕を引っ張り上げます。
 大事なところを手桶で隠しながら、
「ちょ、ちょっと! ちょっと!」
「漢ならガーンと行っちゃってください」
 ふふ、「逝っちゃう」が正解かな?
 配達人を女湯に押し込んで、戸を閉めちゃいます。
 かんぬきもしちゃうんだから。
 戸に耳を押しあてて、女湯の様子を……
 って、レッドと神さまの声はするけど、変化なしですね。
 どうしてかな?
 あ、戸をノックしてます。
『ポンちゃんポンちゃん、ちょっといい?』
 向こうから声です。
 だましているのかもしれません。
 ここは開けずに話しをしましょう。
「なんですか?」
『すごい事になってるんだけど』
「シロちゃんの裸に萌えましたか?」
『シロちゃんは湯船に浸かっているよ、普通かな』
「なにがすごいんですか?」
『龍がいるよ、レッドが乗って日本昔話状態』
 そんなの知ってますよ。
 でもでも、配達人、全然びっくりした感じじゃないですね。
「すごい」って言ってるけど、普通な感じなの。
 わたし、戸を細めに開けて女湯をのぞきます。
 配達人もこっちをのぞきながら、
「ほら、龍がいる」
 わたし、戸を開けて、
「あれは温泉の神さまなんですよ」
「温泉の神さま〜」
 配達人、神さまに近づいて、体を触ってます。
 神さまも顔を寄せますよ、
「これ、おぬし、何をする」
「おお、しゃべるのか〜」
「無粋なマネをすれば、許さんのじゃ」
「それはそれは、どうも」
 配達人、ぺこりとお辞儀。
 神さまも満足みたい。
「ねぇねぇ、配達人さん」
「なに? ポンちゃん?」
「びっくりしないんですか? 神さまですよ? 龍の姿ですよ?」
「ははは、俺だって知ってるんだよ」
「?」
「こーゆーの、CGって言うんだよ、CG」
 神さま、怒ってお湯を吹きます。
 配達人、直撃です。
 でも、配達人はノーダメージみたい。
 ヘラヘラ笑って、
「すごいCGだ、びっくり」
「儂は『しーじー』ではない、神じゃ」
「はいはい」
 神さま、どんどん攻撃するけど、配達人、へっちゃらみたい。
 一応止めた方がいいのかな?
 ってか、配達人、熱湯によく平気です。
「神さま、やめるであります」
「おお、警察の犬よ、止めるでない」
「ここが殺人現場になってはこまるであります」
「うむ……ここは憩いの場ゆえ、しかたあるめい」
 シロちゃんの言葉で神さまの攻撃終了。
 わたし、配達人に、
「大丈夫ですか?」
「あはは、CGじゃ死なないよ」
「あれはCGじゃなくて神さまですよ」
「まさか〜」
 この男「スルー」を発動してたみたいです。
 思い込みもここまで来ると無敵かも。
 目の細い配達人、ニコニコしながら、
「今日はいいもの見せてもらったよ」
「神さまですか?」
「CGね、うん、よかったかな」
「?」
「シロちゃんの裸も巻きタオル越しに見れたし」
「エッチ」
 って、配達人、マジマジとわたしを見ています。
「ちょっ……なんですか!」
「……」
「ま、まさかエッチな目でわたしを……」
「残念なのはポンちゃんくらい」
 わたしの中でなにかが弾けた。
 目の細い男の暴言。
 わたし、体が勝手に動きます。
 配達人をフルボッコなの。
illustration やまさきこうじ
「残念ってなんですか! なんですか! ええっ!」
 配達人撃沈しました。
 ふん、「残念」なんて言うからです。
 まったくモウっ!


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