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■  ポンと村おこし  第86話「スーパーにお買い物」            ■
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「いただきます」
 ミコちゃんが言います。
 みんな、それにあわせて手を合わせます。
「いただきま〜す」
 今日の夕飯はカレー。
 みんなのスプーンが動くわけなんですが……
 わたしと店長さんは疲れ果てて「どんより」。
 今日はいろいろあったんです、ええ。
「カレー、しあわせすぎ」
 レッド、もりもり食べてます。
 まったくモウ、この仔キツネはモウ!
 今日のカレー、なんと「ちくわ入り」なの。
 まぁ、これはこれでおいしいんですけどね。

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 朝ごはんの後、お説教なの。
「ポンちゃん、手加減しないと」
「ミコちゃん……ごめんなさい」
「私に謝らないでいいけど……」
「だ、だって〜」
 テーブルにはファックス。
「今日はお休みします」って書いてあります。
 そう、昨日、わたしが配達人を撃沈しちゃったんですよ。
「だって、配達人、『残念』なんて言うんだもん」
「それは言いすぎだけど……」
 ミコちゃんはそう言いながらも、一瞬笑いました。
「ミコちゃん、味方ですか? 敵ですか?」
「はいはい、笑ってごめんなさい」
「モウ!」
「でも、配達人さんお休みは困るのよ」
「うう……」
「今日の夕飯、材料ないのよね」
「ご、ごめんなさい」
 わたしが小さくなっていると、
「やーい、ポンが悪いのじゃ」
 コンちゃん、すごい嬉しそうな顔。
「ポンのせいで夕飯抜きなのじゃ」
 言われ放題なの。
「ポン、悪いヤツなのじゃ、暴力女」
 く、くやしい……でも、事実です。
「だ、だって配達人が『残念』なんて言うから!」
「だからと言って、手加減なしかの」
「うう……」
 ミコちゃん、コンちゃんにゲンコを投下しながら、
「コンちゃんも意地悪言わない」
「ミコ、夕飯はどうするのじゃ!」
「そうねぇ……」
 ミコちゃん考えていましたが、
「買い物に行ってもらいましょう」
 って、ミコちゃん、わたしとコンちゃん見ます。
「わらわ、店番で忙しいのじゃ」
 コンちゃん即退場です。
 逃げましたね。
 でもでも、わたし、逃げられません。
 なんたって、わたしが配達人を撃沈させたんですから。
 買い物はわたしの仕事でも、しょうがありません。
「でも……村にはお店、ないから……」
 バスに乗ってお買い物に行かないとダメ……って思います。
「ミコちゃん」
「なに、ポンちゃん?」
「不安〜」
「お買い物なら、駄菓子屋さんで経験済みでしょ、どこも一緒……」
「わたし、バスに乗った事ないし……初めてのお店もやっぱり不安」
「ああ!」
 ミコちゃん、何度もうなずきます。
 奥から店長さん出て来て、
「ポンちゃん、俺が車運転して一緒に行くんだよ」
「え!」
 って、ミコちゃん、わたしの横に立って肘でつついてきます。
『店長さんとデートしてらっしゃい』
『で、でーと!』
『うれしい?』
『ひゃー!』
 舞い上がっていると、さっき逃げた女キツネが、
「ちょ、待たぬか、それでは罰になっておらんではないかっ!」
「コンちゃんは私と店番よ」
「ちょ、店長がポンに食われてしまうのじゃ」
「ほら、一緒に朝の配達よ」
「ミコ、放すのじゃ、わらわ、店長をポンに盗られるなど我慢ならんっ!」
「はいはい」
 ミコちゃん、コンちゃんを引っ張って行っちゃいました。
 店長さん、メモを出して、
「ミコちゃんから夕飯の買い物リスト貰ってるから」
「えへへ、店長さんとデート、デート」
「これ、罰なんだけど……」
「うう、まじめにやります」
「車は老人ホームから借りてるから……」
 店長さん、言いながら固まってます。
 うう……しっぽが痛い……なんで?
「ぼくもいく〜」
 レッドがしっぽを握っていますよ。
 ぴょんぴょんジャンプして、
「ぼくもいく、いくの!」
 学校、どうしたんですか、まったくモウ。
『ふふふ……』
 不気味な笑いのテレパシー。
 わたし、店長さん、顔がひきつります。
 テレパシーのぬしはコンちゃん。
『ふたりきりになど、させんのじゃ』
 うう、レッドはコンちゃんの差し金ですね。
「ぼくもいく、いく、いくのーっ!」
 うわ、レッド、泣いちゃってます。
『ポンちゃん』
『あ、今度はミコちゃん』
『学校には連絡しておくから、連れていってあげて』
『えー、せっかくの店長さんとのデートが〜』
『ねぇねぇ、ポンちゃん』
『なに、ミコちゃん?』
『店長さんと二人きりだと舞い上がっちゃうでしょ』
『そりゃ、うれしいモン』
『レッドちゃんがいたら、ちょうどよくないかしら?』
 レッド、今は店長さんの手を握って跳ねてます。
 そうですね、二人きりがうれしいんだけど……
 レッドがいると、ちょうどいいかもしれませんね。

「どらいぶ〜どらいぶ〜」
 レッド、大喜び。
 さっきから窓にかじりついてます。
「レッド、楽しいですか」
「ひさしぶりで〜す」
「久しぶり?」
「ペットのころはたまにどらいぶ」
「そうなんですか〜」
「ちょう、たのしい〜」
 わたしとレッド、後の座席で一緒に外を見ていたんですが、
「前のご主人さま……思い出しました?」
「まえのごしゅじん? さぁ?」
 レッドは振り向かない人生みたいですね。
「でもでも〜」
「でもでも、なんですか?」
「やってみたかったですよ〜」
「?」
「おかいもの〜」
「そうなんだ、よかったですね……」
 って、わたし、レッドと一緒に景色見てました。
 一瞬、恐怖の旋律、走っちゃいます。
「ててて店長さんっ!」
「な、何っ! いきなり大きな声でっ!」
「帰りましょうっ!」
「えーっ!」
 店長さん・レッド、同時です。
 でも、今、すごい帰りたいです。
 店長さん、車を路肩に停めてくれますよ。
 びっくりした顔で運転席から振り向いて、
「ポンちゃん、大丈夫? 真っ青」
「よったの?」
「さっき、看板があったんです」
「?」
 二人はどーして「きょとん」なんですかっ!
 ええ、どんだけのん気なんですかっ!
 今、そこに、危機が、迫ってるってのにっ!
「山を降りたら危険なんですっ!」
「な、何の事やら……」
 わたし、窓を開けて後ろを見ます。
 大きな看板、まだ見えますよ。
「店長さん、アレ!」
「?」
 店長さんとレッド、一緒になって看板を見てます。
 まだわかってないです。
 男はどーしてこうも鈍感なんでしょ。
「アレ、わかんないんですかっ!」
「何? わかんないよ?」
「七つの傷の男ですよ、非行で死んじゃうだから、爆死です」
 店長さん、脊を向けて震えてます。
 ようやくわかってくれたみたいですね、危険を。
 いやいや……
 これ、笑いをこらえているんです!
「ちょっ……店長さん、笑ってませんか?」
「ご、ごめん、笑ってる」
「笑ってる場合ですか、ええ、非行で死んじゃうんですよ、爆発して」
 って、レッド、わたしのお腹を指で押しながら、
「ひこう、おへそをついた、きさまのいのちはあとさんびょう」
「……」
「いち……に……さん……あの〜」
「レッド、なにやってんですか」
「ぼく、しってる、てれびでやってたゆえ」
「……」
「ポンねぇ、ここは『ひでぷ』ってせりふです〜」
 レッドにはチョップをお見舞いです。えいっ。
「うう、ポンねぇはたぬきさんゆえ、ひこうききませぬ」
「あの伝説の男がいるんです、その、パチンコ屋さんに」
illustration やまさきこうじ
「ポンちゃん……その……あの……」
「店長さん、なに笑ってるんですかっ! ええっ!」
「取り乱してないでさ」
「危険なんですよ、爆死したいんですかっ!」
 店長さん、考えてます。
 レッド、まだわたしのお腹を指でツンツンしてるの。
「俺、ケーキ作りの道具とか買わないといけないんだけど」
「死にたいんですかっ! わたしは嫌っ!」
「パチンコ屋さんに近付かないからさ」
「あ……パチンコ屋さんにしか出現しないんですか?」
「うん」
「その……やっぱりすごく強いんですか?」
「うーん、そうだね、よく『呑まれる』んじゃないかな?」
「『呑まれる』? 『ひでぷ』じゃないんですか?」
「俺、やった事ないから、わかんないよ」
 店長さん、車を出します。
 まぁ、パチンコ屋さんに近付かないならいいでしょう。
 でも、ちょっと本物を見てみたいかな……
 わたしがもうちょっと強くなったら、偵察しましょう。
「レッド、もうお腹、押さないでください」
「ポンねぇにはききませぬ」
「レッドは修行してないでしょ?」
「そっか〜」
「で、なんの非行を突いたんですか?」
「どらやき、おおきくなれ」
 ちょ、車、大きく揺れましたよ。
 店長さん、しっかり運転してください。
 さ〜て、わたし、レッドの頭をグリグリ。
「ほーら、レッド、痛いですか〜」
「ポンねぇがラヲウにみえます〜」
 ほ〜ら、もっとグリグリ。
 店長さんとレッド笑ってます。
 まったくモウっ!

「あ、このお店、知ってます」
 スーパーマーケット、テレビで見た事あります。
「買い物リストはミコちゃんから貰ってるから……って、カレーだけど」
「やったぁ〜、カレー」
 レッド、うれしそう。
 さっそく中に入ります。
 いい匂いがしますね。
 お店の人がウィンナー焼いて配ってます。
「店長さん、デパチカ!」
「ポンちゃん、デパチカじゃなくて、実践販売」
「ふわ〜」
 わたし、初めてでついつい見入っちゃいますよ。
 レッドなんか店員さんの服を引っ張ってます。
「はい、坊や」
「わーい」
「はい、お母さんも」
「ありがとうございます」
「お母さん」……なんて素敵な響き。
 わたし、ウィンナーの爪楊枝を手に、もう一方の腕は店長さんの腕に絡めます。
「ぽ、ポンちゃんっ!」
「店長さん、今は夫婦でいいでしょう」
「うう……」
「い・い・で・す・よ・ねっ!」
 って、店員さん、店長さんにもウィンナー渡しながら、
「はい、かわいいお嫁さんでよかったね〜」
 店長さんどんよりしてるけど、わたしはウキウキ。
 レッドはウィンナーを食べ終わって別の販売員さんの所に行きました。
 隣の実践販売はちくわを売ってるみたいです。
 ウィンナーの店員さん、わたしとレッドをしげしげ見てから、
「しっぽ?」
 どきーん、正体がばれちゃったとか?
 って、店長さん愛想笑いで何かをポケットから出しました。
 なんでしょ?
 真っ黒で長いフサフサ。
 店長さん、自分のズボンのおしりにそれを付けました。
 猫のしっぽですよ。
 うわ、うねってます、リアル〜。
「コスプレなんです」
「ああ、そうなんだ」
 店長さんの言葉に店員さん、とりあえず納得したみたい。
『店長さんっ!』
『なに、ポンちゃん?』
『どこでしっぽを?』
『あ、これ、保健の先生』
『ああ、あの……ポワワ銃とか持ってる』
『ちょっと……マッドサイエンティストっぽいよね』
『ですね〜』
 でも、今日、そろってしっぽ付いてて、なんだかうれしいな。
「さ、俺、買い物してくるから」
「わたしも……」
「ポンちゃん、レッドの子守でいいよ」
「レッド……」
 ちくわの販売員さんをつかまえてゆすってます。
「レッド……店員さん困ってますよ〜」
「だって〜、おいしいゆえ〜」
「ひとつでがまんですよ」
「ざんね〜ん」
 店長さんもやってきて、
「ポンちゃんとレッドはお店をまわってていいから」
「てんちょー!」
「なに、レッド?」
「ぼく、やってみたかったこと、あります」
「?」
 レッド、店長さんのズボンを引っ張ってます。
 わたし、顔を寄せて、
「やってみたかったですか? 欲しいものじゃないんですか?」
「ペットのころ〜」
「ペットの頃?」
「そとでまってないとだめでした」
「まぁ、ですかね」
「そとからみてると〜」
「外から見てると?」
「こどもがやってたんですよ」
 わたしと店長さん、ちょっと困った表情。
『店長さん、わたし、嫌な予感がします』
『ま、まさかって思うけど、万引きを見ていたとか』
『あ、店長さん、するどい』
『悪いことはやっちゃダメなんだけど』
 ここはわたしが注意するところですかね。
「レッド、万引きとかダメなんですよ、悪い事はダメです」
「ちがいま〜す」
 レッド、でも、すぐに真顔になって、
「まんびきってなに?」
「知らなくていいです」
 店長さん、首を傾げて、
「レッド、何がしたいの?」
「しま〜す」
 レッド、わたしのスカートをつかんでゆすります。
「かって、かって、かって、かって〜!」
 うわ、駄々っ子です。
「わーん、かって、かって、かって、ねぇ、ねぇ、ねぇ!」
「あー、レッド、迷惑ですよ」
 大体「買って」って言ってるわりに何買って欲しいかさっぱりわかりません。
 大粒の涙ぽろぽろこぼしてます。
『店長さん、レッド、迫真の演技です』
『まぁ、「やってみたい」って言ってたから、演技だよね』
illustration やまさきこうじ
 わたしと店長さん、床でゴロゴロして駄々こねてるレッドをじっと見ます。
『これ、ポンちゃんが教えたの?』
『まさか』
『誰に似たのかな?』
『同じキツネでコンちゃんでは?』
『あー、なんだかわかるかなー』
『駄々っ子やってみたいなんて、変なの』
『本当に』
 わたしと店長さん、呆れていると、レッドも泣き止みます。
 じっとわたし達を見て、また瞳に涙が溜まってくるの。
illustration やまさきこうじ
「わーん!」
「……」
「ぼく、すてられちゃうんだ」
「!」
「ぼく、いらんこなんだ」
「!!」
「わーん、すてないで、すてないで、すてないでーっ!」
「!!!」
 ああ、なんか周囲からの視線、刺さるみたいに痛いっ!
 わたしと店長さん、一気に冷や汗だらだらなの。
『ポンちゃん、レッドを抱っこ!』
『はいっ!』
『すぐに店を出るっ!』
『はいっ!』
 店長さんは、ちくわの販売員から一袋奪うとレジに直行。
 お店の外で合流です。
 外には百円で動く象の乗り物があって、座らせるとレッドはすぐに笑顔になりました。
 ってか、今までずっと演技だったんだけど。
 店長さん、乗り物に百円入れて、買ってきたちくわをレッドに握らせます。
 揺れる乗り物&ちくわにレッドはこれでもかって笑顔なの。
「ちょーたのしー!」
「わ、わたし達、激疲れですよ」
「そう?」
 レッド、また瞳に涙をためます。
「すてないで、すてないで、すてないでーっ!」
 って、わたし、レッドの口を手でふさぎます。
「レッド、怒りますよ!」
 って、レッド、ニコニコしてます。
 どことなーく、コンちゃんに似てます。
 やっぱり同じキツネって事でしょうか。
 店長さん、なんか怒ってるオーラ背負って、レッドの頭をなでながら、
「ミコちゃんに言うよ?」
 途端にレッド、真顔になって、
「もうしません」

   :
   :
   :

 わたしと店長さんも、ようやくカレー食べ終わりました。
 味なんてしませんでした。
 せっかくのカレーなのに……
 レッドはミコちゃんの膝の上で寝息をたててます。
 ミコちゃん、そんなレッドの髪を指ですきながら、
「そんな事があったんだ」
「そーですよ、デートなんて楽しめませんでした」
 ミコちゃん、寝ているレッドの額に額を押しつけます。
 術でレッドの記憶を読んでるの。
「うーん、レッドちゃんの記憶、その通りみたいね」
「駄々っ子したいなんて、変なの」
「かまってもらえるのが、うらやましかったみたいね」
「かまってあげてるよ〜」
「でも……」
 ミコちゃん、こわい顔をして指をパチンって鳴らします。
「ぎゃーっ!」
 遠くでコンちゃんの悲鳴。
 ミコちゃん、なにか術を発動したみたい。
「な、なんでコンちゃんを?」
「『すてないで』はコンちゃんの入れ知恵よ」
 やっぱり!
 あの女キツネめっ!


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NCP5(2012)


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