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■  ポンと村おこし  第88話「温泉の神さまとコンちゃんと」        ■
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「ミコ、覚悟するのじゃ」
 コンちゃん、髪がうねりまくり。
 でもでも、お店の中でバトルはやめた方がいいと思うよ。
 ほら、ダンボールの刑になっちゃうし。
「ブウン」なんて音がして、コンちゃんの手に光る弓矢。
「ゴット・ア……」
 って、ミコちゃん見向きもしないで「パチン」って指を鳴らします。
 すぐに雷がコンちゃん直撃、すすまみれ。
「け、けほっ!」
「ご神体を壊したのはポンちゃんでしょ」
「け、けほっ!」
「何で私を攻撃するの」
「だって、わらわを封印したのはミコ」
 ミコちゃん、また指を鳴らします。
 雷が再度直撃、コンちゃん頭上にキノコ雲こさえてますよ。
 コンちゃん、床に崩れ落ちてボロ雑巾状態。
 見てた店長さんが、
「ミコちゃん、ほどほどにね」
「はい……」
「で、ポンちゃん」
「なんですか、店長さん」
「ポンちゃんが山の頂上のミコちゃんの所に持って行ったんだよね」
「ですね」
「まだ、コンちゃんのご神体、あるんだよね」
「たぶん」
「とりあえず、ご神体、取りに行って来てよ」
 店長さん命令。
 放置していたコンちゃんのご神体、回収に行くことになりました。

「山の上までは遠い〜」
 わたし、正直行くの面倒くさい……
 行っても行かないでもコンちゃんかわらないんじゃないかな?
 今だってピンピン……いつもお店でぼんやりか。
 余計な時だけ元気なんだけどね。
 し、しかし……やっぱり行くのは大変だよ。
 だって、ずっと上りなんだもん。
 ふふ、こーゆー時は「自動車」なの。
 この間、店長さんの運転でスーパーに買い物に行きました。
 店長さんに車を出してもらうのがいいんですが……店長さんはお仕事で忙しい。
 って、いつも車に乗ってやって来る人がいるんですよ。
「ちわー、綱取興業っす」
 キター!
 目の細い配達人です。
 って、わたしと目が合った途端に逃げちゃいました。
「まてーっ!」
「やだーっ!」
 ああ、あっと言う間に行っちゃいました。
 こっちの気持ちが見透かされていたのか……
 いや、そういえば、この間「フルボッコ」にしちゃったんです。
 配達人が改めて現れるのを待つか……
 なんたって配達は終わってないんです、戻ってきます。
「これ、ポン、何をやっておるのじゃ?」
「山の頂上まで歩いて行くのはきついんですよ」
「そんなのわかっておる」
「配達人の車に乗せてもらうんです」
「ポンをこわがっておる、戻ってこぬ」
「そうかなぁ、配達まだ残ってるし」
「車なんかより、わらわの術でひとっ飛びなのじゃ」
「は?」
 わたし、コンちゃんに手を引かれて駐車場。
 コンちゃん、わたしを一度持ち上げてから、
「ふむ、ポン、軽いのう」
「姿は人でもタヌキですから」
「これであれば余裕かの」
 って、コンちゃん、わたしの脇に腕を通して……
 うわ、宙に浮きました。
 どんどん空に上がって行きます。
「こここコンちゃんっ!」
「うるさいのじゃ」
「空、飛んでるよっ!」
「わらわの術なのじゃ」
「すご! コンちゃん神さまみたい!」
「わらわ、『みたい』ではなく『神』なのじゃ」
「そうでしたよ」
「ふふ、ここでポンを放したら、わらわがパン屋で一番なのじゃ」
「呪うよ」
 って、コンちゃん、黙っちゃいました。
「どうしました?」
「いや、本当に呪われそうで嫌なのじゃ」
「それ、どーゆー意味ですかっ!」
「そーゆー意味じゃ」
 コンちゃんの術で空を飛んだから、山の頂上まであっという間でした。

「ここか……くっ!」
 あ、ミコちゃんの社の前でコンちゃん悔しそう。
「どうしたんです?」
「これがミコの暮らしていた社かと思うと悔しいのじゃ」
「そこまで悔しがらなくても……」
「わらわは石でできた小さな祠じゃったのじゃぞ」
「ああ、あの祠と比べると段違いだね」
「じゃろう!」
「でも、ミコちゃん、誰も来ないって言ってたよ」
「ふむ……」
「コンちゃんの祠は毎日掃除してもらってるだけいいのでは?」
「まぁ、確かにそう言われるとそうかも知れんのう」
 掃除をしているわたしから言わせると……
 もうちょっとお仕事やってほしいですね。
 最近のコンちゃん、ちょっとひどいんです。
 観光バス一台くらいじゃ動かないし……
 たくさん観光バスが来る時はしれっと配達に行っちゃうの。
 コンちゃん社に入ると、すぐにご神体発見です。
 神器の鏡の横にお稲荷さまの人形。
「あったのじゃ、わらわの本体」
「さ、帰りましょ」
「ふふ……これがあるから、いちいち弱みをにぎられるのじゃ」
 コンちゃん、ご神体を手にムニュムニュ言い出しました。
 ご神体がキラキラ輝いて消えちゃいます。
「ふふ、これで一体化完了なのじゃ」
「ご神体、消えちゃったの?」
「今、一体化と言ったではないか」
「最初からそーすればよかったのに」
「確かにそうじゃのう」
 って、コンちゃん、邪悪な顔になってます。
「こ、コンちゃん大丈夫?」
「ふふふ、わらわ、今までにない力の充実を感じるのじゃ」
「それは一体化したからかな?」
「ふふふ、今ならミコも倒せそうな気がするのじゃ」
 コンちゃんが構えます。
 光る弓矢が表れますよ。
「ゴット・アロー!」
 いままで見たことのないくら強そうなゴット・アローです。
「ちょ、ちょっとコンちゃん!」
「なんじゃ、ポン!」
「ここでそんなのぶっ放したら社が壊れちゃいます!」
「かまわんのじゃ、ミコの家なんかぶっ壊すのじゃ」
 って、言いながらコンちゃんシュート!
 光の矢、発射です。
 飛んで行って……神器の鏡に命中。
 か……鏡……嫌な予感。
「あ!」
 わたしとコンちゃん、同時です。
 光の矢、鏡に反射して戻ってきましたよ。
 わたしとコンちゃん、笑ってしまってるんです。
 光の矢、コンちゃんに当たって爆発、わたしも巻き添いなの。
illustration やまさきこうじ
「コンちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫なのじゃ」
 わたしとコンちゃん、真っ黒なの。
 社はというと無傷です。
「ふむ、ミコの家だけあって、いろいろ術がかけてあるようじゃの」
「コンちゃん、それって察知できなかったの?」
「うむ、一体化で浮かれておって、うっかりなのじゃ」
「まったくモウ」
 わたし、水道探します。
 一度来た事あるから、すぐに……
『タヌキさん、タヌキさん』
 わたしとコンちゃんしかいないはずなのに声が、テレパシーが……
『タヌキさん』
「あ、ご神木さん?」
『聞こえてたんですね、よかった』
 そうそう、噴火を止めるために、ご神木を連れてきたんです。
 行ってみたら、ご神木さま、大きくなってました。
 切り倒される前よりは細いけど、もう、見上げる大きさなの。
「ふわわ、大きくなりましたね」
『おかげさまで』
 ご神木、風で葉をカサカサ鳴らします。
『地脈を押さえているから、霊力で大きくなってるんです』
「そうなんですか」
 わたし、水道で顔を洗って、落ちていたペットボトルに水を汲んでご神木にあげます。
「もう、噴火はいりませんよ〜」
『おまかせです』
 コンちゃんも顔を洗ってやってくると、
「何をやっておるのじゃ」
「このご神木、噴火を止めてくれたんです」
「うむ……以前、村にあった神木じゃな」
「そうですよ」
「わらわは声など聞こえぬが……ポンは聞こえると言っておったな」
「お話してましたから」
 コンちゃん、への字口でご神木に触れます。
 びっくりした顔になって、
「うむ、確かに感じるのじゃ」
「コンちゃんもお話できましたか」
「触れればな……うむ」
 コンちゃん、ご神木とお話終わってから、難しい顔です。
「どうしたんです?」
「うむ……この木は噴火した神と代わってここにおるわけじゃが」
「そーですよ」
「交代した神とは、村におる温泉の神だと言うではないか」
「そーですよ」
「あの温泉の神、ミコに封じられておったのが、ミコがおらんようになったので噴火したというのじゃな」
「ええ、たしかそーだったと思います」
 コンちゃん、コクコク何度もうなずいています。
 どうしたのかな?
「そうか……ミコの敵はわらわの友なのじゃ」
 え……!
 なにか嫌〜な予感が!
 たまらなく不安です。

「わらわ、散歩に行くのじゃ」
「ぼくもいく〜」
「レッド、ミコが呼んでおったぞ、行くのじゃ」
「ふえ、ミコねぇ〜」
 コンちゃん、レッドを巻いてお店を出て行っちゃいました。
 まぁ、お散歩とか言って、ふらふらするの、いつもなの。
 でも、今日は違います。
 お散歩はいつも手ぶら。
 それが今日はお風呂セットを持ってました。
 それにレッドをうまく巻いていましたよ。
 わたし、さっき山の上でコンちゃんの様子が様子だから気になります。
 お店にはちょうどシロちゃんもいます。
「シロちゃん、わたしもお散歩行く」
「ポンちゃん……珍しいでありますね、サボりとは」
「サボりじゃないんですっ!」
「コンちゃんと同じでありますよ?」
「その事なんだけど……」
 わたし、山の事やコンちゃんがお風呂セット持参で出かけたのを言います。
「コンちゃんが温泉の神とミコちゃん暗殺を企てる……でありますか」
「暗殺って物騒ですね」
「ポンちゃんはコンちゃんを追うであります、温泉へ」
「じゃ、シロちゃんはミコちゃんに言っておいてね」
「了解であります」
 わたし、コンちゃんを追います。
 温泉は……「清掃中」になってるの。
 わたし、こっそり中に入ってみます。
 脱衣籠には脱ぎっぱなしのコンちゃんの服。
 女湯からは声がします。
 コンちゃんと温泉の神の声ですよ。
 わたしも脱いで、中を覗くの。
 ゆっくり引き戸を開けて中に入ります。
 抜き足差し足忍び足。
 コンちゃんと温泉の神さまはお話に夢中みたい。
 わたしには気付いてないみたいなの。
 なにを話しているのかな?
「大体あの女は悪魔なのじゃ」
「うむ、儂もそう思うのじゃ」
「わらわを小さな祠に封じよって!」
「ほう」
「石でできた小さな祠なのじゃ、それをあの女は」
「儂も知っておる……卑弥呼の社は山の頂上の」
「そうなのじゃ、あの女はあんな立派な家に住んでおったのじゃ」
 力説コンちゃん。
 温泉の神さまもうなずきながら、
「儂も卑弥呼には霊力を吸われておったので……」
「ほう、おぬしもやられておったのかの?」
「うむ、卑弥呼は地脈から霊力を吸っておったのじゃ」
「あやつの事じゃ、容赦なかったであろう」
「笑いながら吸い取られるのじゃ」
「おお……やはりそうかの」
illustration やまさきこうじ
「卑弥呼おそろしや」
「あの女め」
 わたし、洗い場の隅っこで小さくなって聞いているけど……
 なんですか、この二人は!
 わたし、てっきり暗殺計画でも練るって思ってました。
 それがどーでしょ。
 コンちゃんは「立派な家に住んでおった」って、そこですか!
 山の上からそんな気持ちだったんですね。
 聞いてるとバカらしくなってきました。
 せっかく来たから温泉入って行きましょう。
 体を洗って……って、引き戸の開く音ですよ。
 細めに開けて、中を見てるみたい。
 ミコちゃんとレッドです。
 あ、わたしに気付きました。手招きしてますよ。
 テレパシーでGO!
『ミコちゃん、来たんだ』
『シロちゃんから聞いたわ……ちょっと気になって』
「むー! むー!」
『レッド「むー! むー!」言ってますよ』
『レッドちゃんは温泉の神さま好きだから』
『すぐにでも行きたいんでしょうね』
『まぁ、温泉の神さまの気持ちもわかるけど……』
 って、わたし、ミコちゃんからレッドをバトンタッチ。
 レッドの口を手でふさぎます。
「むー! むー!」言うと手がくすぐったいかな。
「ポンちゃん、レッドちゃんとしばらく男湯行ってて」
 ミコちゃんのバックに青白いオーラ。
 わたし、黙っちゃいます。
 レッドも「むー! むー!」言うのやめましたよ。
 この仔キツネもシリアス感じてるんでしょうね。
 わたし、レッドを抱っこして男湯へ移動。
 背後で声がします。
「ゴットアロー! ゴットアロー! ゴットアロー!」
 三連射か……
 直後「ぴぎゃー」なんて声も聞こえました。
 抱っこしているレッドも震えています。
 あ、でも……
 ちょっと心配事がありますよ。
 レッドのお気に入りの温泉の神さまとコンちゃん、やられました。
 お気に入りがいない温泉にレッドは満足なのかな?

 午後のパン屋さん。
 今はお客さん、いませんよ。
 わたしとコンちゃん、テーブルでゆっくりしてるところです。
「わたし、ちょっとびっくりしたよ」
「なにがじゃ?」
「温泉で……コンちゃんと温泉の神さま、やられたよね」
「ポン、おぬしなぜ言わぬ……」
「そんな雰囲気じゃなかったし」
「むう」
「あの後、コンちゃんも温泉の神さまも元気にしてたよね」
「うむ……そうなのじゃ」
 コンちゃん、青くなってます。
「ポンはどこまで知っておるのじゃ」
「ゴットアロー三連発辺り」
「あの後、ミコめ、わらわと温泉の神をフルボッコだったのじゃ」
「だろう……ね」
 って、いきなり奥から光の矢が飛んできました。
 コンちゃんの体を貫く光の矢。
「ふごっ!」
 次から次に矢が飛んできて刺さります。
 コンちゃんハリネズミ状態なの。
「ミコちゃん止めやめっ! コンちゃん死んじゃうっ!」
 って、わたしが叫んだら、ミコちゃんお茶を持って登場です。
「手加減してるから大丈夫よ」
「な、何連射してるんですか……」
「数えてなかったわ」
 テーブルにくずれたコンちゃん、ビクビク痙攣してます。
「ピクピク」じゃなくて「ビクビク」ね。
 ほ、本当に手加減してるの? これ?
「コンちゃんもお稲荷さま、もうちょっとそれらしく振舞ってほしいわ」
 ミコちゃん、死にかけコンちゃんに手をかざします。
「ほら、コンちゃんから奪った霊力、返してあげるわよ」
 って、ミコちゃんからコンちゃんにオーラが移ってます。
 コンちゃん、すぐに復活。
 おお、治癒の魔法ってやつでしょうか。
 コンちゃん懲りずに反撃って思ったら、二人、にらみあってます。
 いや……にらんでるのはコンちゃんだけですね。
 ミコちゃんは微笑んでるの。
 あ、ミコちゃん行っちゃいました。
「コンちゃん、よく我慢できたね」
「ふん、わらわだって学ぶのじゃ」
「ミコちゃんにはかなわない……と?」
 コンちゃん、プルプル震えながら、
「あやつはえげつないのじゃ」
「そうなの?」
「ほれ、先ほどわらわ、やられたのじゃ」
「うん、そうだね」
「そして復活させられた」
「よかったよね」
「ばかものー!」
「な、なに?」
「それがあの女のおそろしいところなのじゃっ!」
「ち、治療してもらったのに?」
 コンちゃん、わたしにチョップしてから、
「まず攻撃するのじゃ」
 ですね、ゴット・アローとか。
「わらわ、痛いのじゃ」
 わたしにミコちゃんの術は効かないんだけど……痛そうですね。
「そして術で元気にされるのじゃ」
 いいじゃないですか、それって。
「そしてまた、攻撃されるのじゃ!」
 え……
「攻撃と治癒を繰り返しやられるとどうか、ポンでもわかるであろうっ!」
「そ、それはえげつな〜い」
 って遠くから「ゴット・アロー」聞こえましたよ。
 振り向けば光る矢が飛んできます。
 わたしの体……すり抜けます。
 その矢、コンちゃんに当たって刺さりました。
「ふごっ!」
「ああ、コンちゃん!」
 さっきまで元気だったコンちゃん、またビクビク痙攣中。
 ミコちゃん奥からやってきて、
「まったく悪口ばっかり……」
「ねぇねぇ、ミコちゃん」
「なに? ポンちゃん?」
「今、わたしも狙いませんでした?」
 さっき「えげつない」って言ったから、きっと狙ってます。
 ミコちゃん微笑んで、
「そんな事、ないわ」
「本当?」
「本当にほんとう」
「神に誓う?」
「私、一応神さまなんだけど……」
「わたしが『えげつない』って言ったから狙ったよね?」
 わたし、ミコちゃんの瞳をまっすぐ見つめるの。
 あ、ミコちゃん、目、逸らしました。
 やっぱり狙ってたんです。
「ポンちゃん、今夜ごはん抜き?」
 み、ミコちゃんそれは反則っ!
 モウっ!


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NCP5(2012)


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