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■  ポンと村おこし  第89話「手抜き長老」                ■
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「ふふ〜ん」
 レッド、ご機嫌でクッキー作ってます。
 伸ばした生地から型で抜いていくの。
 ★やハート、●▲■の形もあるの。
 レッドが抜いたクッキーをみどりが並べてます。
 そしてオーブンにいる店長さんに向かって、
「店長、火加減大丈夫なのっ! ねぇっ!」
「うん、大丈夫だよ」
「しっかりしてよねっ!」
「はいはい」
illustration やまさきこうじ
 みどり、店長さんに対してもツンツンしてますねぇ。
 店長さん、にこにこして、
「みどり、上手に並べてくれるね、助かるよ」
 って言って、みどりの頭をなでています。
 みどり、頬染めでクネクネしてるの。
「てんちょー、ぼくは〜」
「はいはい、レッドも型抜き上手になったね」
 レッド、頭をなでられてしっぽ振りまくりなの。
 わたしはですね……さっきからクッキーの生地をこねてるんです。
 わたしも店長さんとお話したり、ほめられたりしたいけど……
 クッキー作っている時はレッドとみどりが主役だから我慢がまん。
 わたしもいつか、店長さんと「二人きり」でパンを作りたいかな。
 むー、でもでも……
 生地、もう作るの、ないんです。作り終わり。
 レッドたちの邪魔になったらなんだから、パン工房から撤退しますか。
 なにもしないで突っ立ってたら、みどりがツンツンしそうだからですね。
 しかし……お店に戻ってもお客さんいません。
 コンちゃんがテーブルで舟を漕いで……
 ミコちゃんがパンを並べています……
「わたし、仕事ある?」
 とりあえずミコちゃんのお手伝いって思ってたら、
「ちわー、綱取興業っす」
 あ、目の細い配達人登場。
 わたしを見て一瞬「ビクッ」。
 まだ温泉の事、根に持ってるんでしょうか?
 でも……今日は逃げませんね。
 それ、捕まえちゃえ。
「なに、わたし見てビクビクしてるんですか」
「暴力タヌキ」
「叩きますよっ!」
「警察に行きたいっ」
「わたしはタヌキだからいいんですっ!」
 ミコちゃん、わたしの背中をトントンして、
「配達人さんをいじめちゃダメよ」
「だってこの男はっ!」
「はいはい、ポンちゃんは配達人さんを手伝う手伝う」
 わたしと配達人、ミコちゃんに押されてお店の外へ。
 しょうがないですね、配達人を手伝って荷物を倉庫に運びましょう。
「手伝ってあげるんですから、感謝してくださいよねっ!」
「ポンちゃん、みどりちゃんに似てきたね」
「黙ってキリキリ働くんですよっ!」
「こわーい」
 くっ!
 荷物運び終わったら叩いてやるんだから!
 わたしは砂糖とか小さい包み。
 配達人は小麦粉の大きな包みを運びます。
 わたし、配達人の車で見つけたの。
「ちょ……あの、これ」
「何? ポンちゃん?」
「これ、なんですか?」
 そう、荷台で「おそば」発見したんです。
「これ、長老に頼まれたの」
「ふーん、長老、おそばを販売してるんですね」
「いや、違って」
「?」
「長老の店が卸したそばじゃなくて、長老が頼んだの」
「は?」
「長老が頼んだの」
「長老、おそば屋さんだよ?」
「だから、そばを買うんじゃないの?」
 わ、わたし、理解不能です。
 長老のおそば屋さん、なんでおそばを頼むんですか?
 自分のお店で作っているのに。
「わーい、はいたつにんっ!」
「ちょっとアンタ、なにしてんのよっ!」
 レッドとみどり、やってきて配達人に飛びつきます。
 そんな二人を抱っこして、配達人はわたしに、
「長老がお店で出すそばに使うって言ってたよ」
「はぁ、あののんだくれ爺、なに考えてるんですかっ!」
「だから、そば屋だからそば麺注文するんじゃないの?」
「なんで自分で作らないんですか? 作れるのに?」
「そ、そんなに俺に怒ってもどーしたもんだか」
 そ、そうですね、配達人に怒ってもしょうがないです。
「あらあら、どうしたの?」
 ミコちゃんも出てきました。
「ちょっと聞いよ、ミコちゃん!」
「何?」
「この麺、見て」
「おそば? それが?」
「長老がこれを注文したんだって」
「そう……」
「ミコちゃん、ここは怒るところですよっ!」
「え? そうなの?」
 ちょっ……ミコちゃんも配達人もおかしいですよ。
「おそば屋さんがどーして麺をよそから注文するんですか!」
 目の細い配達人が、
「そんなもんじゃないの?」
「黙って!」
「は、はい」
 わたし、こんな男に同意求めません。
 でも、ミコちゃんには分かってほしい。
 ミコちゃん、麺を見ながら、
「ポンちゃんは知らないかもしれないけど……そんなお店もあるのよ」
「えー! そうなのー!」
「でも……」
 ミコちゃん考える顔。
「長老のおそば、おいしいのよね」
 わかってくれたみたいですよ。
「ミコちゃん、あのおそば屋さんはやっぱり手造りなのがいいと思うの」
「そうねぇ……山の中のそば屋で既製品のおそばじゃね」
「でしょ!」
「どうかしたのかしら?」
「きっと面倒くさくなったんだよ、飲んだくれだから」
 わたし、言いたい放題です。
 でも、きっと当たってると思うの。
「ちょっと行ってみましょうか?」
「コラー!」
 ミコちゃんが言った途端にコンちゃん飛んで来ます。
「おぬしら、わらわ一人に店番させる気ではないかのっ!」
 こーゆー事はすぐに察知するんですね。
「わらわも行くのじゃっ!」
「コンちゃん、ツケ、ためてないわよね」
 ミコちゃん、にらむ目キラン!
 青ざめるコンちゃん。
「ふむ、みなで行くのであれば、わらわ、店番を買って出るのじゃ」
 って、コンちゃん引っ込んじゃいました。
 もう「ツケ」バレバレですよ。

 学校の一画のおそば屋さん。
 表には信楽焼のタヌキもいます。
 本当はコンクリート製なんですけど。
 わたし達、カウンターで長老とお話です。
「なんでおそば屋さんなのにおそば頼むんですかっ!」
「ポンちゃん、それは普通なんですよ」
 長老、わたしの言葉を軽くいなします。
「でもね、山の中のおそば屋さんが手造りじゃないのは……」
「卑弥呼さま……」
 おお、長老、ミコちゃんには弱いですね。
 って、長老、ささっとざるそば出してきました。
「卑弥呼さまのおっしゃる通りです」
「じゃあ……」
「しかし、私も歳を重ねました」
 まぁ、確かに見た目はお爺ちゃんです。
 でも、わたし、ケンカすると負けちゃうんだよ。
「今まではそばを自分で打っていました」
「もう歳で、自分で作るのは骨って言いたいの?」
「はい、卑弥呼さま……確かにポン太やポン吉もいます」
「ポン太くん、ポン吉くん……」
「しかし、あれはもう豆腐屋の子でしょう」
「……」
「先日雇った従業員も……」
 そう言えば元殺し屋・帽子男で学校の用務員がそば屋に雇われたはず。
「たばこを吸うのであれば、そばを打たせる事はできません」
 長老の言葉にミコちゃん返す言葉ないです。
「ささ、食べてください」
 言われて配達人、みどり、レッドは箸が止まりません。
 わたしとミコちゃんも食べてみます。
 な、なんだ……これ?
 わたし、一口食べてから、改めてクンクン。
 これはもう、テレパシーです。
『ミコちゃんっ!』
『どうしたの、ポンちゃん』
『わたし、違いがわかりませんっ!』
『え……そうなの?』
『ミコちゃんはわかるの?』
『そ、それが……今まで通りおいしいわ』
『だ、だよね、香りも前と同じかな』
 そんなわたしとミコちゃんの気持ちを見抜いたように、
「そば、厳選してますから」
 配達人もそれを聞いていたみたいで、
「会社の付き合いのあるところでいいところがあったからさ」
「そ、そうなんですか……」
 いいものを使っているなら、しょうがないのかな?
「でもね、長老さん、やっぱり手造りじゃないとダメだと思うの」
 ミコちゃん、言います。
「山の中まで来て、みんな、それを期待してると思うわ」
「卑弥呼さま……」
 って、今度は奥から帽子男、登場です。
 皿洗いでもしてたのかな、濡れた手を前掛けで拭いながら、
「じいさん、体力的にきついんだよ」
「えー、本当かなぁ〜」
「タヌキ娘……ここの客が最近増えたの、知ってるか?」
「え……そうなんですか?」
「じいさんのそばは絶品だからな」
「まぁ、長老のおそば、おいしいけど」
「前と同じだけ作ってればいいなら、じいさんでも出来たんだよ」
「はぁ」
「増えたお客全部に応えてたら……な」
「……」
 長老一人で作るのには限度があるって事でしょうか。
 それならしょうがないですかね。
 わたしもミコちゃんも黙っちゃいます。
「うまうまでした〜」
「ふん、おいしかったわよっ!」
 レッドとみどりも完食。
 って、みどり、口元を拭いながら、
「長老、そばのコシが弱いわね、歳のせいかしら」
 言うだけ言って、行っちゃいましたよ。
 長老と帽子男、ポカーン。
 レッドもニコニコしながら、
「ちょうろう、げんきないの?」
「レッド、どうして?」
「おそば、ちょっとざんねん」
 レッド、どこからともなくクッキーの包みを出します。
「ぷれぜんと、はやくげんきにんなってください」
 レッド、行っちゃいました。
illustration やまさきこうじ
 長老、レッドのクッキーを見つめています。
「やはり、手造りですか」
「長老、どうしたんですか?」
「あんな子供に見抜かれるようではダメですね」
「でも、たくさんは作れないんですよね?」
「そうですね……」
 みんな、帽子男を見つめます。
「な、なんで俺を見るんだよ」
「たばこやめればいいのに」
「それなら死ぬ」
 帽子男はダメみたいです。
 長老、レッドからもらったクッキーを一口。
「なかなかおいしいですね」
「レッドは型を抜いただけだよ」
「そうなんですか」
「焼いたのはみどりだから、みどりが上手なのかも」
「なるほど……生地を作ったのは誰ですか?」
「こねたのはわたし」
「ポンちゃん……」
 って、長老、わたしをじっと見つめています。
 なにかな?

「きょうもたくさんつくりま〜す」
 レッド、どんどん型を抜いていきます。
「店長、火加減はいいのよねっ!」
 みどり、どんどん焼いてます。
 わたし、今までレッドやみどりに気を遣って、居づらかったの。
 でも、今はパン工房に居ていい理由ができました。
 わたし、手ではクッキーの生地をこねてます。
「ちょっとアンタ、早くしなさいよっ!」
 あ、みどりが叫んでます。
「はいはい、できてますよ」
 わたし、出来上がりをみどりに渡します。
 そんな生地をもってみどりはレッドの元へ。
 今まではわたし、ここで退場でした。
 でも、今日は違います。
 わたし、足を踏みふみ。
 足元にはおそば屋さんのそばがあるの。

 わたしの踏んだおそば、なかなかだそうです。
 い、いいのかな?

ps.
 帽子男さん、たばこをやめました。
 なんでかって?
 ミコちゃんが呪をかけたそーです。
 たばこを吸ったら胸が苦しくなるんだって。


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