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■  ポンと村おこし  第90話「おふろめがね」               ■
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「ただいま〜」
 レッドの声。
 学校から帰ってきたところです。
 送ってくれたのは千代ちゃんとポン太。
「千代ちゃん、ポン太、レッドをありがとう」
 千代ちゃん微笑んで、
「どういたしまして」
「みどりは?」
「図書室で勉強してたよ」
「ふうん……」
 わたし、千代ちゃんとポン太を交互に見ます。
 それから千代ちゃんの耳元で、
『千代ちゃんヒューヒュー!』
『?』
『千代ちゃんとポン太、夫婦ふうふ!』
『……』
『黙っちゃって、かわいい〜』
『ポンちゃん子供みたい』
『あ、すり替えようとしてる、やっぱり夫婦ふうふ』
 千代ちゃん、返事しません、黙ってます。
 むう、千代ちゃんがポン太を好きとは……
 でもでも、千代ちゃんとポン太はちょっとお似合いかも。
 どっちも「まじめ」だもん。
「あらあら、今日は二人なのね」
 奥からミコちゃんがおやつを持って出てきます。
 レッド、そんなミコちゃんの服を引っ張って、
「きょうはすてきなひです〜」
「あら、どうして?」
「だってだってー!」
 レッド、今度は千代ちゃんとポン太をつかまえて、
「りょ、りょうてにめがね」
 あー、さっき千代ちゃん茶化したけど……
 メガネつながりだったんですね。
 ミコちゃん微笑みながら、
「ごめんなさいね、レッドちゃんが無理言って」
「いえいえ、こちらこそ」
 千代ちゃんはそんな返事。
「ボクはコン姉に会えるから」
 なるほど、ポン太はそれですか。
 レッドはそんな二人に挟まれておいしそうにおやつなの。
 ミコちゃん、考えていたけど、
「ねぇ、レッドちゃん」
「なになに、ミコねぇ〜」
「メガネが好きなのよね?」
「は〜い」
 ミコちゃん、指をパチンと鳴らします。
 宙がキラキラ輝いて「メガネ」出現。
「ほら、メガネ」
「おお、ミコねぇ、まじしゃん」
 レッドも千代ちゃんもポン太もびっくりしてます。
 ミコちゃん、メガネを手に、
「ほら、レッドちゃん、メガネですよ〜」
 よーく見ると、メガネ、レンズはないみたい。
「ほらほら〜」
「おお!」
 ミコちゃん、レッドにメガネをかけちゃいます。
「どう?」
 ミコちゃんニコニコして言います。
 でも、レッドは戸惑ったままなの。
 あたふたしてます。
 わたし、聞いちゃいましょう。
「ねぇ、レッド、うれしい?」
「は、はえ?」
「レッド、メガネしてるんですよ」
「そ、そうなんですか?」
 レッド、メガネをさわって上下します。
 ようやくメガネしているのを理解したみたい。
「おお、めがねしてまする〜」
「嬉しいですか?」
「……」
「嬉しくないの?」
 みんな、レッドをじっと見つめます。
 レッド、口を固く結んでいたけど、
「わ、わかりません……」
「は?」
「じぶんめがねは、めがねみえませぬ」
「そ、そりゃそーでしょうね」
 ミコちゃん、何度もうなずいて、また指を鳴らします。
 今度は手鏡出現なの。
「はい、レッドちゃん」
「かがみ?」
 レッド、手鏡を手に固まります。
 メガネをした自分を見て……ウットリ。
「はわわ〜」
 これ以上ないといった幸せ顔です。
illustration やまさきこうじ




 レッドはたまおちゃんとみどりと一緒にお風呂に入っちゃいました。
 わたしと店長さん、一緒にテレビを見てるところです。
 店長さん、さっきのメガネを手に取って、
「そんな事があったんだ」
「そーなんですよ」
「でも、レッド、メガネ持っていかなくていいの?」
「レッドはメガネを見るのが好きなんです」
「見るの?」
「そーです、自分でメガネをしても見えないでしょ?」
「は?」
「自分でメガネをしても、メガネ、見えませんよね?」
「そ、そりゃ、そうだけどさ」
「レッドは人がメガネをしてるのを見るのがいいんですよ」
「そ、そうなんだ……」
 店長さん、納得したみたい。
 レンズのないメガネを眺めながら、
「で、これは?」
「だから、レッドは興味なしなんですよ」
 って、ミコちゃんお茶を持ってやって来ました。
「店長さん、それ、私がポンちゃんにお願いして外させたんです」
「?」
「レッドちゃん、メガネをすると、鏡を見てばっかりだから」
「なに? それ?」
「レッドちゃんはメガネをしている人を見るのが好き」
「うん、ポンちゃんから聞いた」
「レッドちゃん、メガネをしたら鏡を見てばっかりになるから」
「ナ、ナルシスト?」
 わたし、店長さんの手からメガネを受け取って、
「だからわたしが没収したんです」
 そう、レッド、動かなくなっちゃったから没収したんですよ、わたしがね。
「ポンちゃんが……」
「うん、もう、レッド、鏡見てニヤニヤして気持ち悪かったから」
 店長さんうなずいてます。
 まぁ、レッドの嬉しそうなのって想像簡単ですよ。
「次の人どーぞ」
 たまおちゃん、パジャマ姿で登場です。
 湯上りでホクホクなの。
 そんなたまおちゃんの後をみどりとレッドが続きます。
 みどり……普通。
 レッド……元気ない?
 って、レッド、わたしと目が合うとやって来ました。
「ポンねぇ〜」
「なんですか、レッド」
「また、おふろにはいる〜」
「はぁ?」
「ポンねぇといっしょにはいる〜」
「ま、まぁ、別にいいんですけどね」
 わたしとレッド、コンちゃんでお風呂です。
 でもでも、なんでレッド、またお風呂に入りたいんでしょう?
 わたし、レッドと一緒に湯船に浸かりながら聞いちゃいます。
「レッド、なんでまたお風呂なんですか?」
「たまおちゃとみどちゃ……」
「たまおちゃんとみどりがどうかしたの?」
「ざんねん」
「はぁ?」
「おふろでめがねはずします」
「そ、そりゃそーでしょうね」
「がっかりです」
 あ、コンちゃん合図してます。
 わたし、上がってコンちゃんの背中をこすりながら、
「コンちゃん、どう思う?」
「風呂でメガネはせぬなぁ」
「だよね」
 そんな会話を聞いてレッド、湯船の中でほっぺ膨らませてます。
「なぜーっ!」
「なぜではないのじゃ、普通なのじゃ」
「コンねぇどこでそれを?」
「聞いたとかではないのじゃ」
 はて、わたしもレッドの問いにちょっと気になりました。
「ねぇねぇ、コンちゃん、どうしてお風呂でメガネしないの?」
「ポン、おぬしバカかの?」
「え、なんで?」
「風呂でメガネをしたらどうなるか、わかるであろう」
「わ、わかんないよ、わたし、メガネしないもん」
「ふむ……レッドもポンもよく思い出すのじゃ」
 わたしとレッド、頷きます。
「朝の食事の時がいいかの」
「お風呂なのに食事の話?」
「まぁ、聞くのじゃ」
 コンちゃん、腕を洗いながら、
「よーく思い出すのじゃ、朝の食事を」
「……」
 わたし、レッドを見ます。
 レッドもわたしを見ています。
 二人してよーく思い出してみますがわかりません。
「わたし、わかりません」
「ぼくも〜」
「味噌汁なのじゃ」
「お味噌汁?」
「すきすき〜」
「よいか、たまおはともかくみどりじゃ」
「みどり……」
「みどちゃ?」
「二人とも、みどりが味噌汁を飲んでおるのを思い出してみるのじゃ」
 わたしもレッドも思い出してみます。
「あ……」
 わたし、気付いちゃいました。
 レッドはまだみたいですけどね。
「メガネ、曇っちゃいますね」
「であろう……風呂でも同じじゃ」
「メガネ、曇るから外すんですね」
「その通りじゃ」
 レッド、わたしの腕をゆすります。
「ポンねぇ、なになに〜、わからないよ〜」
「レッド、みどりがお味噌汁飲んでると、メガネ曇っちゃうでしょ」
「おお! そーですよ! ええ! くもりまする!」
 レッド、うれしそうに身をよじりながら、
「くもっためがねもすてきです〜」
 レッドはメガネだったらどーでもいいのかな?
「レッド、メガネが曇るから、お風呂にして入らないんだよ」
「ええ……どーして?」
「曇ったら見えないから」
「そ、そんな〜」
「……」
「くもりめがね、すてきなのに〜」
 わたし、レッドを湯船から上げて、洗ってあげます。
 一度お風呂入ってるから洗わなくてもいいと思うけど。
『これ、ポン、何かないかの』
『は?』
 いきなりなコンちゃんテレパシー。
『コンちゃんなにを?』
『いや、何か手はないかの?』
『なんの事ですか?』
『たまおとみどりがメガネをして風呂に入ればじゃ』
『?』
『わらわ達がレッドの面倒を見ぬでよいではないか』
『なるほど……ですね』
 わたし、よーく考えます。
『レッドとコンちゃんと一緒だと、お風呂上がってからが面倒〜』
『え……わらわもかの?』
『そーですよ、お風呂上がりにしっぽを乾かすでしょ』
『それが?』
『コンちゃんなにが「それが?」ですか!』
『?』
『ドライヤー使って乾かしてるのわたしですっ!』
 コンちゃん、そっぽ向いて、
『いいから、何かよいアイデアを出すのじゃ』
 むう……
 しかし、レッドだけでも世話を焼かないでいいなら……
 わたし、アイデア絞り出しですよ。

「……と、いうわけなんです」
 居間にはわたしと店長さん、たまおちゃん。
 店長さん力無く笑いながら、
「ポンちゃん、レッドの世話、嫌なの?」
「面倒くさいし、たまにグサッて来る事言うし」
 たまおちゃん、お茶をすすりながら、
「私にレッドの世話を押しつけるわけですか?」
「たまおちゃんはレッド嫌い?」
「べつに……何とも……」
「レッドと一緒だったら、ミコちゃんに接近するチャンスだよ」
「それは……そうですけど……」
「なんですかっ!」
「私はミコお姉さまと二人きりがいいのであって、レッドがいるとちょっと……」
「レッドがいるから、ミコちゃん近くにいても逃げないんだよ」
「そ、そういう考えもある……かな?」
 たまおちゃん、考える顔をしています。
 なにかな?
「それとは別に……」
「なになに?」
「レッドと一緒にお風呂に入って」
「うん?」
「入る時、レッド、すごく嬉しそうにしています」
「ですね、たまおちゃん、メガネしてるから」
「それが出る時は元気なくなって……」
「メガネしてないからね」
「なんだか私が悪いみたい」
「メガネしてるかしてないか……だけなんだけどね」
「曇ってもいいからメガネした方がいいのかな?」
 って、いきなり店長さん立ち上がりました。
「メガネが曇るからダメなんだよね」
 言うと行っちゃいます。
 すぐにメガネを手に戻って来ました。
「例のメガネ、取っておいたんだ」
 店長さん、レンズがないのを指を通して見せています。
「ああっ!」
 わたしとたまおちゃん同時です。
 レンズがないなら、曇らないんですよ。

「うふふ〜ん」
 レッド、ルンルンで湯上りです。
「レッド、ご機嫌ですね」
「たまおちゃ、めがねのままでした」
「そうですか、よかったですね」
「おふろ、ちょーたのしかったで〜す」
「それはよかったですね」
 わたし、冷たい牛乳をレッドに渡します。
 喉を鳴らして飲んでますよ。
 牛乳、すごくおいしいそう。
 コンちゃん、横にやって来てわたしを肘でつつきます。
『なんですか』
『ほれ、よかったではないか』
『?』
『わらわ達がレッドの世話をせんでよい』
『まぁ……それはそれでいいんですが……』
 って、レッドと一緒に入ったたまおちゃんとみどりがまだです。
 どうしたのかな?
 わたし、コンちゃんと一緒にお風呂まで行ってみます。
 いました、たまおちゃんとみどり。
illustration やまさきこうじ
 二人とも放心状態、瞳に魂ありません、ぬけがら。
「どうしたんですか!」
「あ……ポンちゃん」
「ぐったりして……なにが?」
「レッドがあんまり元気で……」
「付き合っててのぼせたとか?」
「レッドのテンション、高すぎ」
 たまおちゃんはしゃべれるだけマシです。
 みどりなんかぐったりして、だらんとしてるの。
 わたし、みどりの体を拭いてパジャマを着せます。
 まだ放心気味のたまおちゃんに、
「レッドの世話は大変だね」
「そう……うん……うん……」
「でも、これからはたまおちゃん達がお風呂、ずっと一緒だよ」
「え!」
「だってメガネだし」
「ちょっと待ってっ!」
 たまおちゃん、湯上りで赤いのか怒って赤いのかわかりません。
「だってわたしとコンちゃん、メガネしてないもん」
「そ、それは……」
 たまおちゃん、一度は引きます。
 でも、すぐにお風呂メガネを手にして、
「このメガネ、レンズないからポンちゃんでもかけれるっ!」
 うう……そうですね。
 このメガネでレッド、ハイテンション。
 お風呂、どーなるか、こわいです。

 
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NCP5(2012)


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