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■  ポンと村おこし  第96話「さよならヒットマン」            ■
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 日曜日の「ぽんた王国」。
 お客さんがいっぱいです。
 以前は神社に参拝に来る人が多くて、それって女の人メイン。
 でも、「ぽんた王国」は家族層がターゲット?
 親子連れが多いの。
「ニンジャ屋敷」で遊んで、そのまま長老のおそば屋さんでお食事。
 最後におみやげや、お豆腐を買って帰るパターンみたいです。
 わたし、今日はそんなぽんた王国をお手伝いしてるの。
 おそば屋さんの引き戸が音をたてて、お客さん入ってきます。
「いらっしゃいませ〜」
 わたし、前のぽんた王国でも働いていたから、おそば屋さんでもばっちりなの。
 お客さんを席に案内して、注文を取ります。
 紙に注文を取ったら、すぐに厨房に指でサイン。
 長老がちらっと見て頷きます。
 そんな長老の隣では、ポン太がせわしなく働いているの。
 わたしがポン太の所に戻る時には、注文したおそばが並べられてるんです。
 コンビネーションもばっちりってもんでしょ。
 でも……
『ぽ、ポン太!』
『な、なに? ポン姉?』
『お、お客さんすごくないです?』
『今日は多いかも……』
 ぽんた王国が復活してから、たまにお手伝いはしてました。
 でも、今日は今までにない多さです。
『どうしてかな?』
 ポン太、それを聞いて首を傾げます。
 そして長老を見ると、
『神社の方は何もなかったと思うのですが』
『お祭りもないよね』
『そのはずですが……』
 って、またお客さんです。
 よく見れば、パン屋さんでよく見かける女のお客さんですね。
 今日はこっちにお食事でしょうか?
 ちょっと聞いてみましょう。
「いらっしゃいませ、今日はこっちなんですね」
「あ、ポンちゃん……どうしてココに?」
「はい、ここのお手伝いなんです」
「へぇ……そうなんだ」
「今日はおそばな気分なんですか?」
「え? 何の事?」
「いつもパン屋さんに来てくれてるから……」
「ああ……帰りにパン屋さんにも寄って行くけど……」
「?」
 常連さん、体をくねらせながら携帯電話を出して、
「ニンジャ姿のレッドちゃん、かわいい〜」
 一緒に写っている写真を見せてくれます。
 そういえば、この人はレッド目当てかも。
「あの……もしかして……」
「何、ポンちゃん?」
「他の常連さんも、レッド目当てで来てません?」
「そうかも……みどりちゃんもかわいいし、ポン太くんやポン吉くんもいいわね〜」
 そう……ニンジャ屋敷はポン吉がやってるんですが、レッド・みどり・シロちゃんがヘルプしてるんです。
 わたし、注文をとってポン太の所に戻ると、
「人が多いの、レッドのせいかもしれません」
 それを聞いてポン太と長老、頷いてくれました。
 お店、それからも大忙しでし。
 わたし、大活躍だけど、すごく疲れました。

 外はすっかり暗くなってます。
 お店の片付けも終わって、もう帰ってもいいかなって空気です。
 わたし、一緒にどんぶりを洗っているポン太に、
「今日はすごかったね」
「ボクもびっくりしました……途中でおそばもなくなるし」
「おそば、作りながらだったもんね」
 って、奥から長老が出て来ました。
「ポンちゃん、ポン太、おつかれさま」
「長老もおつかれさま〜」
「今日は……」
 長老、すまなさそうな顔で、
「今日は……いつもなら残り物をお土産にしてもらうところですが」
「あ、ないんですよね、そんなもんですよ」
 今日はすごい繁盛したから、残り物なんてないんです。
 長老、ニコニコしながら、
「そう言ってもらえると助かります」
「長老、どこに行ってたの?」
「ニンジャ屋敷の方……あちらもすごかったみたいです」
「やっぱりレッド効果?」
「かもしれません」
「こんなにお客さん多いなんて、びっくり」
「前のぽんた王国よりも条件は悪いはずなんですが……」
「そうだよね、ここは大きな道路からちょっと入らないとダメだし」
「逆に……来る客は必ずここにって感じで」
「そう言われると、そうかも」
「ちょっとこれからの事、考え直さないといけませんね」
「というと?」
「この人数でやるのは……人を雇わないといけないかもしれません」
 その時です、戸を開く音がして、帽子男が入って来ました。
「おい、爺さん、いるか!」
「どうしました?」
「爺……いやがった!」
「?」
 帽子男、すごい怒ってます。
 それに、どことなーくやつれた感じもしますね。
 長老に詰め寄ると、
「爺さん……俺はのんびりできる仕事って聞いてたぞ!」
illustration やまさきこうじ
「あ、あの、どうしたんですか、帽子男さんっ!」
「タヌキ娘……今日すげー忙しかったんだよっ!」
「え……学校のおそば屋さんも忙しかったんですか?」
「そうだよ……こんな村のそば屋だからって思ったらどーなってんだ」
「どれくらい来たんです?」
「200だ、200、正確には221!」
 か、数えてたんだ……
「え……200……わたし、最近卸してるけど、50食くらいだよね?」
「そーだよ、50だよ、キャパは!」
 帽子男、長老に向き直ると、
「最初と話が違うんじゃねーのか?」
「繁盛していいではありませんか」
「爺っ! 俺に押し付けてるだろうがっ!」
 長老はひょうひょうとしてますが、帽子男はカッカしてるの。
 険悪なムード、わたしもポン太も割り込むタイミング失っちゃいました。
「はーい、夕飯の準備、出来てるわよ〜」
 また戸が開いて、今度はミコちゃんがレッドやみどり、ポン吉と一緒に入って来ました。
「今日はすごく忙しかったわね、みんな頑張ったから、今日は焼き肉よ!」
 ミコちゃんニコニコ顔で言います。
 帽子男に目をやって、
「お肉、たくさんあるから、用務員さんも来てくださいね」
「いっしょ、しよー!」
「ふん、一緒に食べるのを、許してあげるわよ」
 みんなが言うのに帽子男も怒りのやり場を無くしたみたいです。
「しょうがない、ごちそうになるか」
 とりあえず、険悪なムード回避成功なの。

「大体爺、調子のいい事ばっかじゃねーかっ!」
 食後は帽子男、荒れまくり。
 わたし達はテレビの前にいるんですが……
 食卓には長老と帽子男がいて、まだ続いているんです。
 不安そうにミコちゃんも見守ってはいるけど……
 帽子男の怒りは本物なんですね。
 わたし、一緒にテレビを見ている店長さんに、
『あのー、店長さん』
『何、ポンちゃん』
『どうなるんでしょうね、帽子男さんと長老』
『長老さんは、全然受け合ってないよね〜』
 店長さんと一緒になって、ちらっと見ます。
 長老、頷いているけど……あれって頷いているだけです、きっと。
『また決闘になっちゃうんでしょうか?』
『どっちにしても……』
『どっちにしても?』
『用務員さんは長老さんには勝てないんじゃないかな?』
『え? 西部の決闘モードなら、帽子男は早撃ちすごいですよ』
『知ってるけど……で、長老さんがやられたら、結局お店やらないといけないんだよね』
『あ……』
『あきらめた方がいいと思うんだけどんな〜』
『教えた方がいいでしょうか?』
 わたしと店長さん、見つめ合い。
『ほっとこ』
『ほっときましょう』
 二人ではもっちゃいました。
 帽子男が満足するまで、いくとこまでいくしかないでしょ。

「このクソ爺っ!」
「用務員さん……シロちゃんの勝負に負けたのですから、言われた通りにするしかないでしょう」
「シロちゃんに負けた訳で、爺に負けたわけじゃ……」
「男らしくないですね」
「ちっ!」
 ああ、帽子男と長老、視線で火花散らしまくり!
「約束をこうもあっさり……小さい男ですね」
 長老の言葉に、帽子男は怒りマークがポンポン頭からはじけ出してるの。
「このクソ爺っ! 覚えてろっ!」
 ああ、帽子男、食卓を叩いて行っちゃいました。
「長老、帽子男さんをいじめてない?」
「そんな事はないです、お店を任せているだけです」
「丸投げですよね?」
「でも、一国一城の主、こんな話はそうそうないです」
「でもでも、ぽんた王国もあんなに忙しいんですよ」
「……」
「帽子男さん、逃げ出しちゃうかも」
「それはないでしょう……男ですから」
「心配だから、行ってきます!」
 わたし、帽子男を追っかけて飛び出します。
「ちょっと待って!」
 ミコちゃんの声。
 配達に使うバスケット……中はおはぎですね。
「なに、ミコちゃん」
「カッカしてる時は甘いもので落ち着かないかしら」
「子供じゃあるまいし……」
「あと……レッドちゃーん」
 ミコちゃんが呼ぶと、レッドがやって来ました。
 もう、テレビを見たら寝るだけだからパジャマ姿。
「レッドちゃん、お使い、いいかしら?」
「なにごと?」
「用務員さんのところにお泊りしてきて」
「はーい」
「わたしもお泊りしてくるの? 襲われないかな?」
「レッドちゃんがいるから大丈夫よ」
「でも、なんでレッドも?」
「子供だからよ」
「?」
「用務員さんが逃げ出さないように……ね」
「そんなに心配?」
「だって、用務員さん、子供達に人気あるのよ」
「まぁ、遊んでくれるから……ね」
「なんとしても、なだめて逃がさないでね」
「逃げる事はないと思うけど……」
 でもでも、さっきの怒りっぷりは気になります。

 レッドをおんぶして学校に……宿直室に明かりが点いてます。
 そんな明かりに一瞬人影。
 わたし、びっくりして、
「だ、だれっ!」
「ポンちゃん! レッドちゃんも!」
「そ、村長さん」
 いたのは熟女の村長さんです。
「村長さん、どうしたんですか?」
「用務員さん、すごい怒ってたから」
「知ってるんですね?」
「今日は日曜日でしょ、私もちょっと、お店手伝ったのよ」
「すごく忙しかったんですよね?」
「ええ……」
 わたし達、宿直室に向かいます。
 夜の学校は不気味で……宿直室から帽子男のグチる声が聞こえてくるの。
 ちらっと中を見ると……
 吉田先生にグチを聞いてもらってるんですね。
「大体あの爺は……」
「こんばんわー」
「おおっ! タヌキ娘っ! 村長もっ!」
「まだグチってるんですか?」
「グチらずにおれるか……か……か……」
 わたし、おんぶしていたレッドをリリース。
「よーむいん、おとまりにきました〜」
「おお、レッド、そ、そうか……」
「うふふ、いっしょにおねむです〜」
「むう……そうだな……」
 レッド、帽子男に抱きついたら、もうまぶたが半開き。
「うふふ、いっしょにおねむです〜」
 言いながら落ちていくの。
 わたし達、部屋の時計を見ます。
 いつもなら、もう寝付いているような時間なの。
 わたし、押入れから布団を出して敷きます。
 村長さんが、
「逃げたら、子供達が悲しむわよ」
 真っ先に釘をさします。
 帽子男、レッドを布団に寝かせながら、
「そんなの、わかってるっ!」
 すると、吉田先生が、
「あのタヌキの爺さんをギャフンと言わせれば満足なんだよな」
 缶ビールを飲みながら言うと、ちょっと考えてから、
「爺さんのそば屋をやっつければいいんじゃねーの?」
「た、確かに……何でもいいから負かせられれば!!」
 村長さん、笑顔で、
「頑張って、用務員さんっ!」
 しかし、また吉田先生がつぶやきます。
「あの爺さんのそばに勝てるかな?」
 わたしと村長さん、吉田先生をにらみます。
 村長さん、すごい剣幕で、
『どうしてそんな事言うのっ!』
『村長、実際そうでしょ、あの爺さんタヌキのそばは一級品』
『帽子男さんのそばもおいしいですよ』
『タヌキ娘……あの爺さんの味には年季があるんだよ』
 吉田先生、一瞬考えてから、
「看板変えればいいんだよ、看板を」
「え?」
 吉田先生の言葉に、みんな声を上げます。
「そば屋もいいが……ラーメン屋でいいんじゃねーか?」
「な、何故ラーメン屋?」
「ともかくラーメン屋でそば屋をやっつけたらいいじゃねーか」
「!!」
 帽子男、ラーメン屋さんになっちゃうみたい!

 平日は……観光バスが来ない時は暇なの。
 店長さんに言われて学校に配達に行ったけど……
 学校のおそば屋さん、見事に「ラーメン屋」になってました。
 っても、のれんと看板が変わっただけですけどね。
 わたし、ちょっと覗こうと思ったら、いきなり戸が開いて現場監督さんが出てきました。
「じゃ、またな〜」
 中の……きっと帽子男に言ってるんです。
 現場監督さんに続いてぞろぞろと職人さんが出てきます。
「みなさん、おそろいですね」
「おお、ポンちゃんか、そうだな、今日はここで昼」
 職人さん達、歩いて現場に向かいます。
 現場監督さんはニコニコ顔で、
「ラーメン屋出来てよかったよ」
「どうしてです?」
「そばもいいし、パンもいいけど……」
「?」
「塩っぽいのが食べたいもんなんだよ、力仕事だし」
「そんなもんですか〜」
「ポンちゃんも食って行かないのか?」
「わたしは家で食べるもん」
「コンちゃん、中にいるぜ」
「またツケですね……」
 現場監督さんが行っちゃうのに、わたし、中を覗いてみます。
 コンちゃんがカウンターでラーメンをすすってますね。
 もう、いきなりチョップです、チョップ。
「またツケですかっ!」
「うお、ポン、食べている時にチョップはなしじゃっ!」
「まったく、いつの間にかいなくなったと思ったら!」
「どうせ暇なのじゃ」
「そ、そうなんですけどね……」
 見れば吉田先生もいます。
 学校は……昼休みか……
 その時、戸がカラカラいって、長老が入って来ました。
 厨房にいる帽子男との間に視線火花が散ってるの。
「何しに来た、タヌキ爺……」
 途端に長老、ハンカチで目元をぬぐいながら、
「ラーメン屋に客を取られて、そば屋は閉店の危機……」
「ざまぁ」
「一杯いただきます」
「おう、待ってな」
 すぐさまラーメン出てきます。
 わたしの前にも出てきました。
「注文してな〜い!」
「コンちゃんのツケにしとくから、食べな」
 だ、そーです、いただきましょう。
 白いスープの豚骨ラーメンですね。
「帽子男さん、おいしいですよ」
「おう、殺し屋の時はあちこち食べ歩いていたからな」
「ふふ、修行になってたんですね」
「今、思えばな」
 長老、食べ終わるまで黙っていましたが、どんぶりを置いて、
「これは美味しいですね、たいしたものです」
「どうだ、タヌキ爺、まいったか!」
「まいりました」
 長老、あっさり降参しましたよ。
「くやしいから帰ります」
 長老、出て行っちゃいます。
「俺も休み時間終わっちまう」
 吉田先生も席を立ちました。
 長老が心配だから、ついて行っちゃいましょう。
「長老、大丈夫?」
「ポンちゃん……」
 って、振り向いた長老はニコニコしてます。
「さっき泣いてませんでした?」
「これ」
 って、たまねぎですね……以前ミコちゃんがウソ泣きで使ってました。 
 わたしの横から吉田先生が、
「爺さん、約束だからな、そば屋のツケ、ちゃらだぜ」
「ふふ、その約束は守りますよ」
 長老と吉田先生の目がキラリ。
「え……まさか二人の作戦だったんですか?」
 長老は何も語りません……でもでも間違いないみたい。
 吉田先生がニコニコ顔で、
「俺、ラーメンが食べたかったんだよ、餃子とかチャーハンもな」
「ラーメン屋ができたから、そば屋は土日だけでもいいでしょう」
 むー!
 帽子男さん、まんまとはめられてるみたいですね。
 勝ったつもりがやられてるんです。
 

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NCP5(2013)
illustration やまさきこうじ
HP:やまさきさん家のがらくた箱
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