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■  ポンと村おこし  第100話「悪い子はキツネうどん」          ■
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「ポンちゃん、配達の準備できたわよ〜」
 ミコちゃんの声、行ってみるとバスケットが置いてあるの。
 今日は朝から老人ホームに配達なんです。
「レッドちゃん、お弁当できたわよ〜」
「は〜い!」
 レッドが幼稚園カバンを下げてやってきます。
 ミコちゃんお手製おにぎりを受け取ってカバンにしまうの。
 と、わたしと目が合いました。
「ポンねぇもごいっしょ?」
「そうですね、学校まで一緒かな」
「わーい!」
 って、レッド、わたしのしっぽをモフモフしてます、モフモフ。
「ちょ、なにやってんですか」
「モフモフでーす、モフモフ」
「やめてくださいっ!」
 チョップです、チョップ。
 一度は手を止めるレッド。
 でも、にっこり微笑んで、
「ではでは、モッフモフ、モッフモフ」
「一緒でしょー!」
 ミコちゃん、別のバスケットを準備して声をあげます。
 みどりとコンちゃんがやってきて受け取りました。
 二人は学校に配達なんでしょう。
 コンちゃん、わたしを見て、
「ポン、楽しそうじゃの」
 みどり、わたしを見て、
「アンタ、なにグズグズしてんのよーっ!」
 二人とも、目、腐ってませんか?
「コンちゃん、レッドのモフモフ止めてくださいっ!」
「よいではないか、子供のする事じゃ」
「コンちゃんだってしっぽ触られるの嫌でしょ!」
「ポンは好きという事にしておけ」
「勝手を言うなーっ!」
 コンちゃんにヘルプ、期待するのが間違いみたい。
 ではではみどりに、
「みどり、レッドを注意してくださいっ!」
「え? え!」
 みどり、戸惑ってるみたい。
「アンタ、ワタシにどうしろと!」
「レッドのモフモフを注意してください!」
「……」
 みどり、モフモフしているレッドをじっと見てから、わたしに視線を戻します。
「なにを注意しろと!」
「人の嫌がる事をしないって言えばいいんですよ!」
「自分で言えば?」
「わたしが言っても聞かないんです!」
「そう……」
 みどり、レッドをしげしげと見ています。
 それから……みどりもモフモフし始めました。
 わたし、言葉もありません。
 みどりはわたしに目を戻すと、
「アンタのしっぽ、すごいモフモフ、楽しいのね」
 もう、みどりの広いおでこにデコピンです、えいっ!

 老人ホームの帰り道、学校の職員室にも配達です。
「あ、ポンちゃん」
「配達人さんも配達ですか?」
「うん、学校で使う物をね」
 わたしと目の細い配達人で職員室に入ります。
 今は授業中で、中には村長さん一人。
「村長さん、おはようございます」
「はい、おはよう」
 村長さんは校長先生でもあり、老人ホームの園長さんでもあり。
 そう、それに、レッドの世話をしてくれてたりします。
「あの、村長さん」
「うん?」
「レッドをなんとかしてください」
「レッドちゃんを? どうしろと?」
「わたしのしっぽをモフモフするんです」
 村長さんと配達人、わたしをじっと見つめます。
「しっぽをモフモフされるの、嫌なんです」
「どれどれ」
 二人の手が伸びてきます。
 わたし、すぐに一歩引くんです。
「ちょっと、二人がモフモフしてどーするんです」
「だって、モフモフしてみないとわからないし」
「俺もそう思った」
「学校じゃ人の嫌がる事をしちゃダメって教えないんですか!」
 村長さん、頷いています。
 でも、配達人、ニコニコして。
「ポンちゃんタヌキじゃん」
「叩きますよっ!」
「こわーい!」
「た・た・き・ま・す・よっ!」
 わたしが配達人に怒っていると……村長さんわたしのしっぽをモフモフして、
「すごい触り心地いいのよね、ポンちゃんのしっぽ」
「ちょ、村長さん、いつの間にーっ!」
 って、配達人もしれっとモフモフしています。
「大人の二人が人の嫌がることしちゃダメでしょーっ!」
 って、二人ともようやくしっぽを放してくれました。
 村長さんと配達人、しばらく目で会話をしてからわたしに向き直ると、
「我慢できないの?」
「モウ、二人には期待しませんっ!」
 配達人には期待してなかったけど、村長さんにはがっかりです。
 むー!
 これは……ミコちゃん、ミコちゃんしかいません。
 ほら、「お尻ペンペン」したのだってミコちゃんなんです。(4c・48話)
 わたしと配達人、一緒になって職員室を出て、
「配達人さんだって、されたら嫌な事あるでしょ!」
「うーん、ポンちゃんすぐ叩くよね」
 えい、ポカポカ!
「力加減してるじゃないですか!」
「たまに本気で叩くよね」
「本気で叩きましょうか?」
「こわーい」
 配達人の車に乗せてもらって、パン屋さんに帰ります。
「でもでも配達人さん」
「何、ポンちゃん?」
「レッドがひねくれたら嫌でしょ?」
「むー!」
 配達人、真剣に考えてくれてます。
「そうだね……俺、ちょっとそんな事、経験してるから、わかるかな」
「だったら、レッドのモフモフやめさせてください」
「我慢したら?」
「人の嫌がる事をしないのがミソなんですよ!」
「だったねー」
「でも……配達人さん、そんな経験あるんだ」
「そーなんだよ、俺もいろいろあるの」
「ふーん」
「レッドは素直に育って欲しいな〜」
「今は無邪気で被害を受けているのはわたしだけだけど」

 お昼、今日はお客さんさっぱりなの。
 わたしとミコちゃんでおやつの準備をしている最中。
「ポンちゃん我慢できないの?」
「ミコちゃんもみんなと同じ事言ってるよ」
「だってポンちゃんのしっぽ、すごいモフモフ」
「人の嫌がる事をしちゃいけないって事なんです」
「そう……なのよね……」
 ミコちゃんが出してきたのはカップのキツネうどん。
「今日はこれ?」
「ほら、お昼、ちょっと少なくしてたの、これがあるから」
「そうだったんだ〜」
「でも、2つしかありませんよ」
「わたしはいいわ……ポンちゃん達で食べて」
「いいの?」
「2個しかないのよ」
 わたし、コンちゃんのテーブルに持って行きます。
「おお、ポン、今日はキツネうどんかの」
「はーい、コンちゃん好きだよね」
「おあげじゃぞ、おあげ、大好物じゃ」
 ちょっとレッドやみどりが帰って来ないかって思ったけど……
 今日は駄菓子屋さんに買い物の日だから大丈夫……
「あ!」
 レッドとみどり、帰ってきちゃいました。
 なぜっ!
 そんなの考えている間にも、入ってきちゃいます。
「ただいま〜」
「今帰ったわよっ!」
 わたし、コンちゃんの手首をつかまえます。
『な、何をするのじゃ』
『レッドとみどりが帰ってきたら、カップ麺分けないといけないんです』
『まだあるであろう、即席じゃ、お湯を入れるだけじゃ』
『2個しかないの!』
『ポンのをやればよい』
 わたし、コンちゃんの手首を「ぎゅっ」!
『い、痛いではないか!』
『大人がそれでいいんですかっ!』
『ここではポンが一番先輩ではないかっ!』
『コンちゃん神さまでしょーっ!』
 わたしとコンちゃんがにらみあっていると、レッドとみどりがしげしげ見ています。
「どしたの?」
「アンタたち、なにしてんのよ!」
 って、レッド、もうわたしの食べる予定だったうどんを両手でロックオン。
 もう、あきらめるしかないですね。
 でもでも、ちょっと聞いてみましょう、気になりますよ。
「今日は駄菓子屋さんじゃなかったんですか?」
 レッドはもう、食べたくてわたしの言葉なんて届いていません。
 みどりが今日のお小遣い全額を見せながら、
「来週まで我慢して、お好みを食べるのよ!」
 な、なるほど……
 我慢して食べるとはたいしたものです。
 どっかの誰かさんは、神さまをかたってツケで食べちゃうんです。
 本当に神さまなんですかね、銀キツネは詐欺師かもしれません。
『ポン、おぬし、何を考えておるのじゃ』
『なんでもないですよ』
 レッドがしっぽをブンブン振って、
「これ、たべてよいですか?」
「はいはい、お椀持って来るまで待っててください」
「ポンっ!」
「なに、コンちゃん、分けて食べますよ!」
「わかっておるのじゃ……でも……でも……」
 瞳を潤ませるコンちゃん、なにごとですか!
「わらわ、おあげ全部もらってはダメかの」
「はいはい、おあげはあげるから」
「やったー!」
 って、2つのキツネうどんを分け合って食べます。
 コンちゃんはおあげがあれば満足みたいで、もう文句なんて出てきません。
 レッドとみどりは仲良く半分こかと思いきや、みどりはおあげを辞退してます。
 しっかりお姉さんしてるんです、えらいエライ!
 コンちゃんとレッド、おあげを持ち上げて、同時に食べるの。
 キツネうどんのおあげ、おいしいんですよね。
 全部あげちゃったのは残念じゃないかって?
 それは食べたかったですが……
 二人のしあわせ顔を見れば、よかったかなって思うんですええ。
 レッド、モグモグしながら考える顔。
「ポンねぇ〜」
「なんです、レッド」
「キツネうろん」
「そーですね、キツネうどん」
「なぜにきつね?」
「なぜにって……」
 はて、なんででしょう?
「キツネさんはおあげが好きだからですね、きっと」
「そうなんだ〜」
 レッドは食べかけのおあげをしげしげと見ています。
「おあげ、うまうまです」
 わたし、急にひらめいたの。
「レッド、本当は違うんですよ」
「ええ、ではではなにゆえキツネうろん?」
「『うろん』じゃなくて『うどん』ですよ、おあげは何色ですか?」
「おあげはきいろ? きなこいろ?」
「キツネの色はこんなですよね」
「おお、そういわれるとそうかも」
 レッド、自分の髪を触りながら、
「ぼくはけのいろあかいからレッドー!」
「レッドは普通のキツネさんよりは赤い毛ですよね」
「はいはーい」
「普通のキツネさんはおあげの色なんですよ」
「そういわれると、そんなきがします」
「むかーし昔、ある所にえらいお坊さんがいました」
「おぼうさん、それで? それで?」
「人間の姿に化けて、ツケをためる悪いキツネがいたんですよ」
 うわ、コンちゃんの視線が痛い。
 でも、コンちゃんが悪いと思う。
「お坊さんは、そんな悪いキツネをおあげにして、うどんの具にしちゃったんです」
「はわわ……おあげはキツネさん?」
「そうです、悪いキツネは食べられちゃうんです」
「はわわ……」
 レッド、しばらくおあげを見ていたけど、結局食べちゃいました。
「ふう、うまうまでした」
「はい、お粗末さまでした」
 わたしがお椀やカップを片付けていると、レッドはわたしのしっぽをモフモフ。
「ちょっ、レッド、なにやってんですかっ!」
「モフモフ」
「モフモフじゃないでしょー!」
 わたし、コンちゃんに視線を送ります。
『コンちゃん、さっきおあげをあげたんだから、レッドにお説教してください』
『ポンはさっき、「ツケをためる悪いキツネ」とぬかしおった』
『は? わたし、コンちゃんとか言ってないよ』
『悪意を感じたのじゃ』
『なんでもいいから、レッドをお説教するんですよ!』
 コンちゃん考える顔をしてから、
「レッド、人の嫌がる事をしてはいかんのじゃ」
「はーい」
「本当にわかったのかの?」
 って、レッド、返事の割にすぐにわたしのしっぽをモフモフ。
「ちょっ! レッド、今言われたばっかりでしょ!」
「きもちいいですよね?」
「レッドが楽しいだけでしょ!」
「ポンねぇもよろこんでいます」
「怒ってるんです」
 わたし、コンちゃんをにらみます。
『ポン、おぬしが我慢すればよいではないか』
『人の嫌がる事しちゃダメって強く言うんですよ!』
『めんどうじゃのう〜』
 コンちゃん、どうでもよさそうな顔で、
「レッド、ポンが嫌がっておる」
「いやよいやよもすきのうち?」
「ともかくやめるのじゃ」
「ざんね〜ん」
「のう、レッドよ」
「なになに〜」
「今、ポンが言ったであろう」
「?」
illustration やまさきこうじ
「悪いキツネはキツネうどんになってしまうのじゃ」
「……」
「キツネうどんになって食べられるのは嫌であろう?」
 レッド、真剣に考え込んでいます。
 でも、急にモジモジしはじめて、
「コンねぇにたべられたいです〜」
 か、かわいい事言ってますね。
 コンちゃんあきれてわたしにテレパシー。
『もうわらわの手におえん』
 レッド、コンちゃんに抱きついています。
 わかりました。
 わたし、レッドを捕まえます。
「コラ! レッド!」
「ふわわ」
「いいですか、人の嫌がる事をしたらキツネうどんなんです!」
「コンねぇならたべられていいかも〜」
「馬鹿ですね、コンちゃんなんかに食べさせるもんですか」
「!」
「わたしが食べちゃうんです!」
「!!」
 あ、レッド、真顔です。
 本気で反省してるみたい……かな?
「だから、しっぽモフモフしたらダメなんですよ」
 わたし、レッドを放してあげると、
「ポンねぇにたべられる……ポンねぇにたべられる……」
 ぶるぶる震えながら行っちゃいました。

 ダンボールで過ごす夜。
 わたしはレッドをおどかしたからなんです。
 あれからレッド、すごいおびえてたんですよ。
 で、で、そんなレッドはわたしの隣で丸くなって寝ています。
 しっぽを枕にしてスースー寝息。
 レッドはわたしのしっぽをモフモフしたからなんですが……
 本当に反省してるんですかね?
 わたしに食べられるが嫌なだけじゃないのかなぁ。


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NCP5(2013)
illustration やまさきこうじ
HP:やまさきさん家のがらくた箱
(pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=813781)

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