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■  ポンと村おこし  第105話「駐在さんとシロちゃん」          ■
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「はい、ポンちゃんの分」
「じゃ、行ってきま〜す」
 わたし、ミコちゃんから配達のバスケットを受け取ると出発です。
 ミコちゃん、店先まで出て来て、見送ってくれますよ。
 手を振りながら、
「ごめんなさいね」
「なにがです?」
「だって、準備が遅れてしまって……」
「??」
「一人で行く事になっちゃったでしょ」
「ああ、それ……」
 ミコちゃんに言われて初めて気付きました。
 もう、みんな配達や登校・出勤した後なんです。
 一人で出発はちょっとさみしいかな?
 でもでも!
「ふふ、ミコちゃん、いいんですよ」
「え?」
「どっちかと言うと、いつも遅れてほしいかも」
「どうして?」
「だって、いつも出発、みんなと同じくらいですよね?」
「そうね」
 わたし、拳を固めて、ちょっと怒った顔。
「レッドと一緒に学校だと、いつもしっぽをモフモフなの」
「ああ、それで」
「一人で行ける方がいいかも」
「でも、レッドちゃん、がっかりするかも」
「ミコちゃんはレッドの味方だもんね」
「ふふ……レッドちゃん、ポンちゃんの事すごい好きなのよ〜」
「ちがいます、わたしじゃなくて、しっぽが好きなんですー!」
「ふふふ」
 ミコちゃん笑ってます。
 わたしも手を振って出発しゅっぱつ!
 今日の配達は老人ホームと……駐在所です、めずらしい〜。

 老人ホームの配達も、駐在所の配達も、正直まだまだ時間に余裕。
 わたし、バスケットを左腕にさげて、のんびりお散歩気分で向かいます。
 まずは駐在所なんですが……駄菓子屋さんの前で、
「パン屋さん、パン屋さん、ポンちゃん、ポンちゃん!」
 駐在さんの声がしました。
 見れば駄菓子屋さんでお茶をしているみたい。
「おはようございます、配達に行こうって思ってたんですけど」
 駐在さんニコニコ顔で、
「どら焼き、ここでいただきます」
「わかりました、はい、どうぞー」
 駐在さん、すぐに開けて、駄菓子屋のおばあちゃんに一つ渡しながら、
「ポンちゃんはお急ぎですか?」
「まだ配達はあるけど、余裕ありますよ」
「一緒にお茶しましょう、どら焼きまだありますから」
「えっと……」
 配達途中だけどいいのかな?
 老人ホームのお昼にはまだ大分あるから、全然余裕なんだけどね。
 駄菓子屋のおばあちゃん微笑みながら、わたしの分のお茶を出してくれました。
「じゃ、ごちそうになりま〜す」
 わたし、駐在さんのお隣に座って熱々のお茶をいただきます。
 フーフーしながら、
「あのー」
「なんですか?」
「駐在さんはいつも朝は駄菓子屋さん?」
「どうしてです?」
「朝、いつも駐在所にいないような気がします」
「……」
「ここでおばあちゃんといつもおしゃべり?」
「……」
 駐在さん、笑顔で……でも、くちびるに人差し指を立てます。
 静かにしてって事ですが、どうしてかな?
 おばあちゃんが外を指差します。
 駄菓子屋さんから駐在所が見える、そっちを指差してるの。
 なんなんでしょうね?
「あ!」
 ついつい声でちゃいました。
 駐在所の前にシロちゃん登場ですよ。
 うーん、感じからすると、レッド達と一緒に登校した後っぽいかな。
 シロちゃんはいつも村をパトロールしてからお店を手伝ってくれてるから、今はそのパトロールの最中でしょう。
『あのー!』
 さっき「静かに」って「くちびる人差し指」あったから小声なの。
『あの……』
『ポンちゃん、何ですか?』
『シロちゃん来てますよ』
『はい』
『行かなくていいんですか?』
『よく見ててください』
『?』
 シロちゃんは駐在所の前でじっと立っています。
 熱っぽい目で見てるんです。
 なんだか恋する乙女な目なの。
 こ、これはっ!
 わたし、駐在さんの腕をしっかとつかまえるの。
『ちゅちゅちゅちゅーざいさんっ!』
『は、はいはい、ポンちゃん何ですか?』
『あ、あれを見てください!』
『見てます見てます』
『あれは恋する乙女な瞳っ!』
 わたし、駐在さんをゆすりまくり。
 でも駐在さんは微笑んでばかりなの。
 駄菓子屋さんのおばあちゃんもニコニコしたまま。
『真面目に聞いてるんですかっ!』
『聞いてます聞いてます』
 むー、駐在さんもおばあちゃんも、笑顔なまんまです。
 なんというか……この顔はわたしを子供扱いしてる顔ですよ。
『あれを見てなんとも思わないんですか!』
『え?』
『あのシロちゃんの顔、よーく見てください!』
 シロちゃんはいつものミニスカポリス姿。
 胸元で両手を結んで、じっと駐在所の中を見つめてるの。
illustration やまさきこうじ
 中には……ここに駐在さんいるんだから、誰もいないはず。
 きっと誰もいない駐在所を見つめてるんです。
 熱っぽい瞳で!
『あれは恋する乙女の瞳ですっ!』
『……』
『大人はそーやって、いつも若者の言葉をスルーしちゃうんですっ!』
 どー見ても、駐在さんはあきれ顔なんですよね。
 わたし、駐在さんをゆすります。
『駐在さん、わたしの話、まじめに聞いてます?』
『ポンちゃんは、シロがどうだと?』
『あれは、きっと駐在さんに恋心なんですよ!』
『はあ?』
 シロちゃんはというと……駐在さんいないわけで、じっと見つめていたけど、行っちゃいました。
「駐在さん、いないから行っちゃったじゃないですか!」
 もう小声な必要ないから普通のボリュームでお届けです。
 駐在さんはあいかわらずニコニコしながら、
「ポンちゃんは何が言いたいんです?」
「だから、シロちゃんは駐在さんが好きなんですよ!」
「はぁ……」
「どうして大人はそうやってスルーしちゃうんですかっ!」
「い、いや……ポンちゃんはシロが私に恋心とでも?」
「あの目はそうじゃないですかっ!」
「ポンちゃん……いいですか、私は人間で、シロは犬ですよ?」
「シロちゃん、今は人間でしょー!」
「ふむふむ……では、シロは人間でいいでしょう」
 駐在さん、あきれ顔でお茶をすすりながら、
「私は『おじいちゃん』ですよ」
「シロちゃんとはつりあわないとでも?」
「人間のシロはどう見ても20代ですよ」
「駐在さんはわかっていませんっ!」
「?」
「わたし、駐在さんの事はよく知らないけど、シロちゃんは犬の頃から一緒だったんですよね?」
「ええ……そうですね……」
「恋心に年齢なんてないんですっ!」
「ふむ……」
 駐在さん、一瞬は真面目な顔になったけど、すぐに肩を揺らしながら、
「では、明日、はっきりさせましょう」
「!!」
「コンちゃんも連れて来てください……シロが遅れて駐在所に来るように段取りをしておきますから」

 次の日の駐在所ですよ。
「大勢で来ましたね」
 で、約束した通り、コンちゃんを連れて来ました。
 コンちゃんだけじゃなくて、店長さんとミコちゃんもいます。
 あとは昨日から話を聞いていた駄菓子屋のおばあちゃんもいるの。
 駐在さんは店長さん達に、
「お二人は呼んでいないと……」
「はい、でも、相談されたから」
 店長さん、頭をかきながら、
「気になっちゃったから、付いてきました」
「気になった?」
「だって駐在さん、シロちゃんを老人ホームの配達にって言ってたから」
 駐在さん、シロちゃんが後からこっちに来るように、店長さんに相談したみたい。
 ミコちゃんも微笑みながら、
「私もすごく気になって……それに……」
 ミコちゃん、わたしを見ながら、
「ポンちゃんから話は聞いています……実は私もシロちゃんが熱っぽい目でここを見てるの、何度も見た事があるから……」
 そこまで言ってから、ちょっと頬染めしたミコちゃんは、
「シロちゃん、駐在さんが好きなんだって、私もちょっと思ったんです」
「でしょ、わたしと一緒、ミコちゃんもそう思ってたんだ」
「だってシロちゃん、すごい恋する乙女の瞳」
「だよね! だよね!」
 盛り上がるわたしとミコちゃん、店長さんも頷いて、
「うーん、シロちゃんはここで飼われていたくらいだから、そういったのもあるかも……」
 ほーら、店長さんも賛成してくれました。
 でもでも、駐在さんと駄菓子屋のおばあちゃんは相変わらずニコニコ。
 コンちゃんはムスっとした顔で、駐在さんを見て、
「これ、駐在よ、なぜわらわを指名するのじゃ、大体わかっておるが」
 口を開いたコンちゃんに、駐在さんも頷いて、
「コンちゃんは……シロから話を聞いています、不思議な術を使うんですよね」
「うむ……術を使え……言うのじゃな」
「はい……お願いします」
「えー、タダでかの?」
「さつまあげ、持って行きますよ」
「了解なのじゃ!」
 安い神さまですね。
 みんなで奥の座敷に上がったところで、
「あと、意見を聞いていないのが……」
 駐在さん、駄菓子屋のおばあちゃんとコンちゃんを見ます。
 駄菓子屋のおばあちゃんが、
「私かね……私は恋心に賭けるかね、私も子供の頃は大人の男に憧れたもんだよ」
 駐在さん頷いて、コンちゃんに視線を向けます。
「わらわは……ふむ……とりあえず『恋心ではない』に百円じゃ!」
「え……コンちゃん見た事ないからそんな事言えるんだよ、アレは絶対恋する乙女なんだから」
「わらわの灰色の脳細胞が違うとささやいておるのじゃ」
「なんにもしない脳細胞ですよね?」
「大きなお世話なのじゃ!」
 駐在さん頷くと、
「私にはわかっているんです」
 鍵のかかった引き出しから拳銃を出しました。
 机の上に置いてから、
「もうすぐシロが来ます、姿が消える術と、ニオイや気配も消える術をお願いします」
「お安い御用なのじゃ」
 コンちゃんが指を弾くと、みんなの姿が消えちゃうの。
 ナイスタイミングでシロちゃんが登場。
 外から駐在所の中を覗いているの。
 あの熱のこもった目でじっと!
 でも、その目が、まるで映画なんかのレーザー照準みたいに机の上の銃に注がれるの!
 恋する瞳が★になってます。
 駐在所の引き戸を開けて、拳銃スキーが飛び込んでくるの。
「きゃーん、本物ーっ!」

 場所は変わってパン屋さんの駐車場。

 あれから何があったかですって?
 飛び付くシロちゃんを駐在さんが捕まえたんですよ。
 それからお説教だったんだけど、わたしやミコちゃん、店長さんに駄菓子屋のおばあちゃんはあきれちゃったの。
 コンちゃんだけは胸を張って、
「ほれ、わらわの言った通りなのじゃ! 恋心ではないのじゃ!」
「むう、コンちゃんに負けると、なんかくやしいっ!」
「大体シロは店長スキーなのじゃ、普段はそんな風でもないがの」
「そ、そう言われると、そうですね」
「それに、わらわ、呼ばれた時点で……拳銃が出た時点でわかったのじゃ」
 偉そうに胸を張って見せるコンちゃん。
 くやしい〜
 一方店長さんやミコちゃんは渋い顔をしています。
 ミコちゃんが頬を引きつらせながら、
「シロちゃん、今夜の夕飯、抜きかしら」
 ああっ! 食事抜きはすごいつらいのっ!
 店長さんもあきれた笑みをうかべながら、
「今夜はお外かなー」
 シロちゃんあわれ……
 でもでも、いいかげん銃に執着するのはやめた方がよくないでしょうか?
 銀弾鉄砲で我慢してればいいんですよ。
 正座して小さくなっているシロちゃん。
 駐在さんは力なく笑いながら、
「シロがこんな警察の犬だったとは……」
「ほ、本官は机の上に銃が出しっぱなしなのは危険だと思い!」
 叫ぶシロちゃんに、駐在さんは銃を目の前に出しながら、
「シロ、撃ってみたいですか?」
「ぶっ放したいでありますっ!」
 叫んでから、シロちゃん口を押さえてます。
 わたし達、笑うしか。
 駐在さんはため息をついて、
「では、私を倒せたら、銃、あげましょう」

 そんなわけで、パン屋さんの駐車場なんです。
 ギャラリーはパン屋さんファミリーと駄菓子屋のおばあちゃん。
 都合のいい事に、お客さんはいませんよ。
 駐車場はガラガラで、駐在さんとシロちゃんが拳銃を手に立ってるの。
 うーん、二人とも本物拳銃を持ってます。
「あの、店長さん……」
「何、ポンちゃん?」
「シロちゃん、本物持ってますよ」
「そうだね……駐在さん2丁も持ってるんだ……いいのかな? ま、いいか」
「そうじゃなくて……」
「何、ポンちゃん?」
「本物の銃で撃ち合ったらとんでもない事になりません?」
「……」
 店長さん、黙っちゃいました。
「シロちゃんが負けたら血まみれで、駐在さんが負けたらやっぱり血まみれですよ」
「そ、そうだね」
 他のメンバーを見てみますが、久しぶりの「西部劇モード」を楽しんでいるみたい。
 コンちゃんが、
「ほれ、どっちが勝つか賭けるのじゃ!」
 レッドが手を挙げながら、
「シロちゃ!」
 みどりは腕を組んで、
「シロちゃんの方が勝つわよ、きっと!」
 駄菓子屋のおばあちゃんは、
「駐在さんをを応援するかね」
 ミコちゃんも考える顔で、
「やっぱり家族を応援しないとね、シロちゃんよ」
 みんな、楽しそうですね。
 実弾真剣勝負なのに。
「店長さん店長さん、シロちゃん負けたら死んじゃいますよ!」
「う……でも、いまさら止められないし」
「そ、そうですね……」
 もう、二人ともにらみ合って、視線で火花散らしています。
 店長さんの言う通り、とても止めに入れそうにないの。
「先に動いた方が負けかの」
「コンちゃん、どうしてわかるの?」
「大体、そんなもんなのじゃ」
 その時、シロちゃんが動きました。
 腰に下げた銃を抜いて、狙いを定める!
 銃声!
「え?」
 みんな同時に声をあげちゃいます。
 ついつい先に動いたシロちゃんに見とれてました。
 シロちゃんの手から拳銃弾け飛んじゃってるの。
 駐在さんを見ると、腰の所で銃口が煙をゆらしているんです。
「狙わないで銃を弾いちゃうなんて、駐在さんすごいすごい!」
 駐在さん、にこにこしながら、
「今の人は狙って撃つのが流行みたいですが」
「はぁ」
「私は西部劇世代ですので、抜いてすぐ撃つのが流行だったんです」
「ねぇ、駐在さん」
「?」
「それって警察でOKなんです?」
 駐在さん、愛想笑いだけで、返事がないの。

 ダンボールの夜……わたしはシロちゃんに付き合ってるんです。
 最初は付き合う気はなかったけど、シロちゃんすごい落ち込んでるんだもん。
 わたし、先輩だから心配なの。
「シロちゃん、元気出してよ〜」
「駐在さんに負けたであります、悔しいであります」
「おじいちゃんに負けたのが悔しいのはわかるけどさ〜」
「せっかく本物が手に入るチャンスだったであります」
「……」
「あー、悔しいでありますっ!」
 この撃ちっぱなし警察の犬は死んだ方がいいかもしれません。
 同情して損した気分になってきましたよ。
 でもでも、こーゆ時変につっかかるよりは……
 同情のふりして誘導するのがいいでしょ。
 ちょっと考えて、
「でもでも、本物握れたから、よかったですよね」
 途端にシロちゃん笑顔です。
「えへへ、本官、超嬉しいであります」
「そう思ったら、満足では?」
「でもっ!」
「な、なんですかっ!」
「撃てなかったであります、残念であります!」
 あーもう、この撃ちたがり警察の犬は〜!


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NCP5(2013)
illustration やまさきこうじ
HP:やまさきさん家のがらくた箱
(pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=813781)

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