■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■ ポンと村おこし 第108話「みどりのお話」 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ お泊り会の夜ですよ。 「あの、村長さん……」 「何、ポンちゃん?」 わたし、寄宿舎……老人ホームの中を見て思ったんです。 「わたし、親が全員来るとばかり思ってました」 「ああ、その事」 「違うんですか?」 そう、今回のイベントにやってきた親御さんは3〜4人って感じなの。 「うーん、村長さん、わたしですね」 「何? ポンちゃん?」 「子供も親も、会えるの楽しみじゃないんでしょうか?」 「ええ、楽しみなんじゃない?」 「じゃぁ、なんであれだけしか来ないんでしょう……」 「ふふ……ポンちゃんなら解ってるって思ってたんだけど」 「??」 「ポンちゃんだってお仕事忙しいでしょ?」 「まぁ、忙しいと言えば忙しい……かな?」 わたし、こっそり苦笑いなの。 そりゃ、朝にはいつも配達に出てるけど…… パン屋さん、観光バスが来る時以外はのんびりしたもんです。 「親御さんも仕事で忙しいのよ」 「で、来れないと……」 「だから催し物いろいろやるの、運動会とか、学芸会とか」 「ここに来る理由を作ってるわけですね」 「そうね」 一緒しているミコちゃんが、 「最初お泊り会を聞いた時はちょっと心配だったの」 「なに、ミコちゃん、心配って」 「親御さんがたくさん来たら……運動会の時は結構来てたのよ」 「……」 「レッドちゃんやみどりちゃんがどう思うかなって」 レッドとみどり、さっきから他の子とゲームしたりしてますね。 とっても楽しそうですよ。 「今日はちょっとしか来てないから……よろこんでいいかわからないけど、ちょうどよかったかなってね」 ミコちゃん、レッドを見ながら、 「わたし、レッドちゃんがいなかったらさみしいもん」 「ミコちゃんレッドすきーだもんね、みどりも好きだよね」 「子供好き」 女の子がやって来たと思ったら、みどりと千代ちゃんが立ちあがって行っちゃいます。 その女の子、わたしのところにもやって来て、 「ポンちゃんもお風呂どうぞ」 ああ、お風呂のお誘いだったんですね。 途端に村長さんの表情に緊張が! 遊んでいるレッドとポン太・ポン吉を連れて戻って来ます。 「どうしたんですか?」 「ポンちゃん、私、ちょっと外します」 「はぁ?」 「この子達、借りていきますよ」 「借りて……どこに行くんですか?」 「今日はお風呂、ここのにしちゃったでしょ」 「老人ホームのお風呂、大きいから大勢で入れるんですよね」 はて、話が見えません。 「レッド達をどうするんです?」 「温泉に行って来る」 「なにもここにお風呂あるんだか……あー!」 温泉の神さまです、行かなかったらヘソ曲げちゃいますからね。 「この子達は神さま知ってるから、余計な心配なさそうだし」 「はい、行ってらっしゃ〜い」 そうそう、今回のお泊り会、結局パン屋さん全員参加してるの。 見守りっていうのが一番の理由みたいだけど…… 親御さんが来ない子供達の相手をするのが理由かな。 わたし、コンちゃん、ミコちゃん、シロちゃんにたまおちゃん。 店長さんだっているんです。 みんなで子供達と過ごしているの。 うーん、いつも昼に会ってるはずなんだけど〜 今日はいつもとちょっと違う感じかな。 夜にみんなでごはん食べたり、テレビ見たり、ゲームやったり。 あっという間に消灯時間が来ました。 でもでも、みんな、目がランランとしてますね。 「店長さん、まだみんな、寝てくれそうにないですよ」 「俺もお泊り会に来た事あるけど……楽しいからね」 コンちゃんやって来て、 「しかし寝る時間が来たのじゃ」 「コンちゃん、子供達言う事聞かせられますか?」 「わらわ、消灯後はマージャンをするのじゃ」 「はぁ?」 今度は髭教師・吉田先生登場です。 「俺とコンちゃん、シロちゃん、用務員でマージャンするんだよ」 「吉田先生……だから子供達が邪魔なんですね?」 「邪魔とか言ってないだろ……」 あ、でも、ビンゴですよね。 今の吉田先生は何か考えている顔です。 頭にピカーっと裸電球点灯。 「よい子は9時になったらお休みなんだよ」 「いまどきそんな子いるんでしょうか? 深夜アニメやってるご時世ですよ?」 「ポンちゃんは何時に寝るんだよ」 「パン屋は朝が早いから、早くお休みしちゃうんです」 「じゃぁ、協力しろよ」 店長さん笑いながら一歩前に出ると、 「村長さんが来るぞ〜」 途端にみんなの表情に緊張が! 大人しく部屋に引っ込んで行きます。 「村長さんっておそれられてるんですね」 「俺も学校行ってる時はしょっちゅう怒られたよ、俺の頃は吉田先生いなかったし」 そんな事を言っている店長さんの背後に、さっきお出かけした村長さんの影。 店長さんにチョップをしながら、 「あら、またお説教されたいのかしら」 「そそそ村長〜!」 店長さん縮みあがってますよ。 「ちょっとアンタ!」 いつの間にかみどりがわたしの服を引っ張ってます。 なにかな? 「もう寝る時間でしょ、一緒に寝てあげるわよ」 べ、別に一緒に寝てくれなくてもいいけど……いつもと違って不安なのかな? 千代ちゃんもやって来て、 「ポンちゃん、一緒に寝よう〜」 『千代ちゃん千代ちゃん』 『なに? ポンちゃん?』 『千代ちゃんは平気そう』 『うん……たまにお呼ばれでお泊りしてるから』 『そうなんだ〜』 『みどりちゃん不安そうだし』 『ですね〜』 わたし、みどりと手をつないで一緒に行きます。 実はわたし、不安とかないけど…… いつもと違うから、ちょっと緊張してるかな。 まだまだ眠たくないんですよ〜 お布団に入っていると、みどりが枕を抱いて、 「一緒に寝てあげるんだから!」 「はいはい、どーぞ」 みどり、わたしの横に入ってきます。 たまに一緒に寝てるからなんですが……今日は抱きついてきましたよ。 「みどり、今日は楽しかったですか?」 「ふん……楽しかったわよ!」 千代ちゃんもやって来て、 「私も入れて〜」 「はいはい、千代ちゃんもお子さまです」 「ふふ……ポンちゃんに言われるなんて」 「は?」 「だってポンちゃんは……家に来てたタヌキなんだよね?」 「い、今は人間なんですっ!」 「だから、家に来てたよね」 むう、昔の事は話したくないのに〜 千代ちゃん、わたしの顔を見ながら、 「ポンちゃん、いつもゴハンを食べたら、縁の下で寝てたもんね」 「〜!」 「私、つかまえて抱っこしても起きなかったし」 「千代ちゃん、わたしがタヌキだった時の事はやめて〜」 「何で? 楽しいのに〜」 千代ちゃん、最初は笑ってましたが、途中で真顔になって、 「私よりお姉さんとは!」 「そうです、今は設定で中学生だからお姉さんなんです」 わたしが威張っていると、千代ちゃんクスクス笑ってます。 むー こう、千代ちゃんの攻撃をかわさないと。 どこか別方向に…… そうです、隣にはみどりがいるんです。 みどりに攻撃の矛先を向けちゃうんです、えいっ! 「みどりは動物園にいたんですよね」 「そうよ、悪い?」 「動物園でなにをやってたんですか?」 千代ちゃんも興味深そうに、 「そうそう、みどりちゃん、動物園でどうだったの?」 みどり、わたしをじっと見ながら、 「動物園……」 もしかしたら嫌な事聞いちゃったんでしょうか? みどりはしばらく黙っていましたが、 「いつもお散歩してたのよ」 「は?」 「お散歩よ、お散歩!」 「動物園なのに?」 わたし、動物園に行った事ないけど、テレビで見て知ってるつもり。 「動物園って檻の中に入れられてるんじゃないんです?」 「ワワワワタシは子供だから、お散歩してたのよ」 「?」 「みんなに撫でられたりしてたわよ!」 さっきから黙っていた千代ちゃんが、 「ああ、触ったり餌をあげられる動物、いるもんね」 「そうよ、その当番だったのよ!」 「みどりちゃん、お客さんとお散歩してたんだ〜」 「だけじゃないわよっ!」 ほかになにやってたんでしょ? わたしと千代ちゃんがじっと見ていると、 「数字のカードがたくさんあって……」 「で?」 「係員がパネルを見せて……」 ふむふむ。 「計算してその数字のカードを置くのよっ!」 「計算させられるわけですね」 「そうよっ!」 千代ちゃん、パッと明るい顔になって、 「あ、私、テレビて見た事ある!」 「そ、そうっっ!」 「あれってみどりちゃんだったんだ〜」 千代ちゃん、ちょっと考えてから、また思い出したみたいで、 「そうそう、みどりって言ってた、うん、思い出した!」 「千代は知ってるんだっっ!」 「賢いタヌキがいるってテレビだったよ〜」 「そ、そうよ、ワタシは賢いんだからっっ!」 「だから学校にもすぐに馴染めたんだね〜」 「ワタシはすごいんだからっっ!」 でも、千代ちゃん、すぐに邪悪な顔になります。 「くくく……みどりちゃん……」 「ななななによっ!」 「係員さんって、店長さんに似てなかった?」 「!!」 途端にみどり、真っ赤です。 千代ちゃん、さらに悪い目になって、 「みどりちゃん、係員さん、好きだったんだよね〜」 「そそそそんな事ないんだからっ!」 「テレビで甘えてたよ〜」 「そそそしょんな事ないんだからっ!」 あー、もう、バレバレですよ。 みどりもいろいろあったんですね。 わたし、ちょっとびっくりです。 ずっと一緒に暮らしているのに、知らない事をたくさん聞きました。 千代ちゃん口撃にわたわたしているみどり。 目が合いました。 「ちょっとアンタ、文句あんのっ!」 「なにもないですよ〜」 あ、でもでも、ちょっと聞きましょう。 「動物園に帰りたくなりました?」 「!!」 みどり固まっちゃいました。 口撃していた千代ちゃんも黙っちゃいます。 みどり、わたしの腕にしがみついて、 「アンタと一緒にいてあげるわよっ!」 pmy108 for web(pmc108.txt/htm) pmy108 for web(pmy108.jpg) NCP5(2013) illustration やまさきこうじ HP:やまさきさん家のがらくた箱 (pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=813781) (C)2008,2013 KAS/SHK (C)2013 やまさきこうじ