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■  ポンと村おこし  第111話「ニートさんがんばる」           ■
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「はい、カフェオレです」
 わたし、お客さんに飲み物を配ってるところなの。
 ちょうどお昼の時間で、神社のお参り帰りの人が何組かいるんです。
 みんな神社でひいたおみくじやお守りをテーブルに並べてお話&お食事。
「めんどうくさいのう」
「しょうがないよ、お昼なんだから」
「わらわ、配達に行けばよかったかの」
「ジャンケンで決めたでしょー!」
 そう、今日の配達はジャンケンだったんですよ。
 わたしとコンちゃん勝ってお店当番だったけど……
 こんなにお客さんいるなら配達がよかったのかな?
 お店のカウベルがカラカラ鳴って、新しいお客さん。
「!!」
 店内のお客さん達が一斉に注目。
 入って来たのは花屋のお兄さんです。
 イケメンとは思うけど……
『コンちゃんっ!』
『なんじゃ、ポン、テレパシーで』
『花屋のお兄さんです』
『うむ、知っておる、それがどうしたのじゃ』
『お店の空気が変わりましたよ』
『うむ、それはわらわも感じたのじゃ』
 お店にいたお客さんは全部女性客なんですよ。
 なんたってたまおちゃんの神社のヌシ・白ナマズは美肌になるって噂。
 あやかりに来るのは圧倒的に女性なんです。
 わたしは胸が大きくなる神さまだったら嬉しいんだけどな〜
『コンちゃん、どう思います?』
『は?』
『どう思いますか?』
『何の話かの?』
『花屋のお兄さん、イケメンと思うんですよ』
 まぁ、わたしの感想なんですが……
 雑誌やテレビで見るような顔です。
『ふむ、確かにそうかのう』
 コンちゃんの返事は「YES」だけど、表情を見ると「NO」。
『コンちゃんはときめきませんか?』
 途端にコンちゃんため息一つ。
 わたしの顔をチラ見してから、
『ポンもときめいておらんではないか』
 わたし、ついつい笑っちゃいます。
『お兄さんイケメンかもしれないけど、なんだか……オーラが……』
『わらわもじゃ、あの男は見た目は良いが、微妙なのじゃ』
 あ、そんなお兄さんが手を振ってます、注文みたい。
「いらっしゃいませ〜」
「あの、あの……食事がしたいんですが……」
「お好きなパンを選んでください、お飲み物は注文してください」
「そ、そうなんですか……アイスコーヒーをおねがいします」
「はい、テーブルはここでいいですね?」
 花屋のお兄さん頷くと、すぐにパンを選びに行きました。
 わたし、レジに戻って、
「アイスコーヒーだって」
 わたしが言うと、コンちゃんすぐに冷蔵庫から出してグラスに注いでます。
『なんだかあの男には「漢」を感じんのじゃ』
『うわ、同感ですね』
 って、花屋のお兄さんレジにやって来ました。
 メロンパンとアンパンとチーズパンと猫パン……猫パン!
 わたし、トレイからお皿に移していると、ついつい猫パンで手が止まっちゃいます。
 ちらっと顔を上げてお兄さんを見ると……
 お兄さん、ニコニコして、
「このパン、なんだかかわいいですよね〜、食べるのちょっとかわいそうかも」
 猫パンは猫の顔のパンです。
 最近ミコちゃんが作ってるパンなんだけど、お店で人気あるんです。
 ネズミやゾウやパンダもあるんですよ。
 そりゃ、かわいいと言えばかわいいです。
「そうですね、お店でも大人気なんです」
 お兄さん、パンを持って席に行っちゃいました。
 わたし、アイスコーヒーをトレイに載せながら、
『コンちゃん、猫パンかわいいって言ってましたよ』
『うむ、わらわもドン引きしたのじゃ……あやつ中は女ではないかの』
『そりゃ、猫パンかわいいけど』
 お客さん達、花屋のお兄さんに視線送っているけど、お兄さんはパンを嬉しそうに食べているだけ。
 あれだけ美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけど……
 なんだか食べ方も大人しいというか、女の子っぽい?
『男らしさを感じない人ですね』
『ポン、あの男と配達人ではどっちがマシかの』
『配達人』
 そう、目の細いどー見ても「イマイチ」な配達人の方が断然良く感じちゃうの。
 アイスコーヒー持って行くと、なんだか本当女の子っぽいオーラを感じます。
 でも、イケメンです。
 そんなお兄さん、女性客の視線どこ吹く風でパンをたいらげちゃうと、そわそわした顔でやって来ました。
「あのあの〜」
「どうしました?」
「お財布持ってきてなくて……」
「あー!」
 無銭飲食だそーです。
 困った顔でモジモジしている花屋のお兄さん。
 コンちゃんが、
「花屋の娘からいただくからよいのじゃ」
「ツケってやつですね」
「その通りじゃ」
「よかった〜」
「どうしたのじゃ」
「警察に突き出されるかと思いました」
「普段ならそうするところじゃが、花屋の娘には世話になっておるでのう」
「ありがとうございます〜」
 ぺこりとお辞儀、顔をあげるとお兄さんは、
「じゃあ、学校に行きますので」
 わたし、びっくりです。
「お兄さん、小学生? 中学生?」
「え、まさか〜」
「だって学校って、村じゃ小学校と中学校ですよ」
「子供達と遊ぶ約束してるんです……えーっと」
 お兄さん考える顔をしてから、
「『毛の色が赤いからレッドー』って、ここの子ですよね?」
 言いながらお兄さん、わたしとコンちゃんのしっぽを見ます。
 ニコニコしながら、
「タヌキやキツネが化けてる所があるなんて、すごいびっくりです〜」
 言いながら、手を振って行っちゃいました。
 わたしも手を振りながら見送ります。
「なんていうか……男らしくないんですよね」
「おぬしもそう思うかの」
「本当、せっかくのイケメンが台なしですよ」
「どうしてあんなになったものかのう」
 窓の外、花屋のお兄さんの姿が小さくなっていきます。
 と、カウベルがカラカラ鳴って、今度は「コソコソ」とシロちゃんと花屋の娘さん。
 あ、もう一人、帽子男さんもいます。
 どうしたのかな?
「シロちゃんおかえり……隠れていたみたいだけど?」
「お店に花屋のお兄さんいたでありますよね?」
「うん……だから隠れていたの?」
 これには花屋の娘さんが、
「私、お兄ちゃん嫌いだもん」
 すぐに財布からお金を出すと、
「兄がすみません……まったくモウ」
 わたしがレジでお金を出し入れしていると、コンちゃんが娘さんに、
「わらわもおぬしの気持ち、わかったかの」
「え、コンちゃんもわかるの!」
「あの女々しい男はどーかならんのかの」
「でしょ、女々しいっていうのか、イライラするんですよね」
「わかるのじゃ」
 なんだかこれだけけなされると、ちょっと弁護してあげたくなりますね。
「せせせ……繊細なんじゃないですか?」
「違うっ!」「違うのう」
 花屋の娘さん・コンちゃん、すごいはもってます。
「お兄ちゃんずっとあんななんですよ、一人でなんにも決められないし」
「大体男のくせに猫パンかわいいなぞ、アホかの」
「うわ、お兄ちゃん、そんな事言ってたんですか!」
「アイスコーヒー飲むのに小指立てておったのじゃ」
「うわー、気色悪いっ」
 なんだか弁護しなきゃよかったかな。
 わたしが責められてる空気なんだもん。
「あれくらいのイケメンなのじゃ、ちょっとは男らしくしたらどーかの!」
「ですよね、ですよね、モジモジしてると叩きたくなる」
「配達人の方がマシなのじゃ」
「あー、私もそう思います、マシです、ええ!」
「おいおい」
 あ、帽子男さん、割り込んできました。
「自分の身内を悪く言うもんじゃねーよ」
「あんな身内を持った事ないから用務員さんは言えるんですっ!」
 花屋の娘さん、帽子男にかみついてます。
 こーゆー時は関わらない方がいいのにね。
 ああ、花屋の娘さん、帽子男をゆすりまくってます。
「あのお兄ちゃんのどこがいいって言うんですかっ!」
「っても……子供達と仲良く遊んでるぜ、なかなかいいヤツじゃねーか!」
「そんなのシロちゃんもポンちゃんもやってますよね!」
 わたし、シロちゃん、コクリ。
「私だってお兄ちゃんいない時は遊んでたし、用務員さんも遊んでますよね」
「でもな〜、あの歳の男で子供受けいいってのは」
「配達人も遊んでますよね」
「まぁ、そうなんだが……」
 帽子男さん、ちょっと視線を泳がせてから、
「じゃあ、花屋の娘はあの兄貴をどうして欲しいんだよ?」
「死んでほしい」
「おいおい」
「じゃあ、用務員さんなんとかしてください」
「!」
「私は……会わなければケンカしなくて済むんです」
「会わなければ……か」
「お兄ちゃん、夜には私の家に帰って来るんですよ」
「今は花屋に居候……ってわけだな」
「わたしは早くどっかに行って欲しい、消えて欲しい」
「……」
「お兄ちゃん寝てるの見ると、殺意がみなぎってくるの」
 ぶ、物騒ですね。
 でもでも、本当に花屋の娘さん、あのイケメンお兄ちゃんが嫌いみたい。
 まぁ、ずっと一緒だと、イライラが募るの、わかる気もしますね。
 って、帽子男さん、わたしを見ながら裸電球が点灯しましたよ。
「さっきポンちゃん、繊細って言ってなかったっけ?」
「ええ……言いましたけど」
「何か理由っていうか、そんなの見た事あるのか?」
「え、えっと……別にそんなふうには……」
「細かい所とか、見たり感じた事ないのか?」
 これにはすぐに花屋の娘さんが、
「細かいの! この間、お昼ごはん作ってくれたんですよ」
「へぇ、優しいところ、あるじゃないですか」
「ポンちゃん、どっちの味方?」
「だ、だって、ごはん作ってくれたんですよね」
「ごはんはいいから、さっさと出て行けばいいのに!」
 わーん、援護するとすぐに責められます〜
 ここは話題を元に戻して、
「で、ごはんがどうかしたんですか?」
「やきめし作るのにいちいち調味料計量するの!」
「べつによくないですか?」
「やきめしくらい、適当でいいのよ、素で味付けするんだから!」
 あー、もう、花屋の娘さんはカッカして頭から湯気たててますよ。
 顔も真っ赤で怒ってる怒ってる!
「よーし、お前の兄貴、俺がもらった」
「え!」
 みんなびっくりではもっちゃいました。
 帽子男さん、ニヤニヤしながら、
「今のやきめしの話、俺の思った通りだ」
「帽子男さん、何か作戦あるんですか?」
「あの男、料理の才能があるかもしれん」
 帽子男さんが目をやると、花屋の娘さんもコクコク頷きます。
「お兄ちゃん、料理はいいかもしれません」
「ラーメン屋で雇ってやるからよ」
「!!」
 イケメンラーメン店、開店です!

 お昼なのに、お店はガラーンとしてるの。
 駐車場には車が三台とまっています。
「ふわわ……お客さんさっぱりですね」
 わたしがつぶやくと、いつもの席でテレビを見ていたコンちゃんが、
「ふわわ……あくびが移ってしまったではないか」
「わたしもそっちでテレビしようかな〜」
「どうせ客もおらん、一緒にダラダラするのじゃ」
 わたし、お茶を持ってコンちゃんの斜め隣に座ります。
 コンちゃん、早速湯呑に手を出しながら、
「ポン、ちょっと聞くがの」
「なに、コンちゃん」
「駐車場に車がおる……降りるのも見たがの」
「うん、わたしも見たよ」
「全部で十人くらいおったのじゃ」
「うん、知ってる」
「別に、細かい事は言わぬが……なぜ客がおらんのじゃ」
「さぁ」
 わたし「さぁ」って言ったけど、確かにどうしてでしょうね。
 別に村に用事がある人なら駐車場に車をとめたっていいんです。
 でもでも、わたし、参拝終わったら食事かお茶で寄るって思ってたもん。
 それが全然お客さんいないんです。
「参拝に行った人達はどうしちゃったんでしょ?」
 なんて言ってたら窓の外に人影です、二人。
 でも、お客さんじゃないの、シロちゃんと帽子男さん。
 ドアが開いてカウベルがカラカラ鳴るの。
「おかえりシロちゃん、いらっしゃい帽子男さん」
「ただいまであります」
「おう、ポンちゃん、暇そうだな」
「そうなんですよ、参拝に行った人はどこに行っちゃったんでしょ?」
 あ、また人影です、今度もお客さんじゃなくて、村長さんに花屋の娘さん。
「いらっしゃいませ〜」
 村長さんも花屋の娘さんもニコニコしてます。
 なにかいい事あったんでしょうか?
 わたしが聞きたそうな顔してお茶を出していると、帽子男さんが、
「ポンちゃん、客、全然だな」
「そーなんですよ、どうしてでしょ?」
「みんなラーメン屋に行ってるんだよ」
「はぁ? ラーメン屋さん?」
 別にお食事なら、ラーメンでもいいですよ。
 でもでも、なんでしょ、わたし、パン屋さんの方がおしゃれと思うんだけど?
「ラーメン屋さんに全部行っちゃったんです?」
「ああ、まぁ、な」
「どうして?」
「あのニート兄貴を引き取ったんだよ」
「?」
「やきめしに計量する細かいヤツだったろ」
「ああ、そんな事、言ってましたね」
「作り方教えたら、すぐにメニューをマスターしやがった」
「へぇ、料理の素質、あったんですね」
「ポンちゃん、解ってないなぁ〜」
「??」
「ニート兄貴、イケメンだったろ、二枚目」
「!!」
 わかりました。
 参拝に行った女性客がどーしてパン屋さんに来なくなったか。
 あのイケメンにとられちゃったんです。
 村長さん、ニコニコしながら、
「名物が増えてよかったわ、また村おこしね」
 花屋の娘さんも笑顔で、
「お兄ちゃん、学校に住み込む事になって、私も一人暮らし満喫」
 シロちゃんも頷きながら、
「黙ってネギを刻んでいたであります、案外合っているようでありました」
 帽子男さん、ニヤニヤしながら、
「これでラーメン屋、ニート兄貴に押しつけて俺も用務員ゆっくりできるわ」
 花屋のお兄さん、みんな思惑にはまっちゃってるみたい。
 でもでも、それはそれで花屋のお兄さんにもよさそうです。
 しかし……パン屋さんのお客さんは減っちゃいました。
「コンちゃんコンちゃん、お客さん盗られちゃったらお店がつぶれちゃいます」
 コンちゃん、お茶をすすりながら、
「むう、確かにすっからかんじゃの」
「こっちもイケメンです、イケメン」
「しかし……あのイケメンに店長ではのう」
 店長さんも格好いいと思うけど、花屋のお兄さんのイケメン度にはかなわないような。
「コンちゃん、なにかいい手はないですか?」
 普段はグダグダしているコンちゃん。
 コンちゃんも石の上に三年。
 三年寝たコンちゃん。
 さぁ、妙案をどうぞ!
「話を聞けば、ラーメンおいしそうなのじゃ」
「ですね」
「出前を頼むのじゃ」
「はぁ! なにラーメン屋さんの売上に協力してどーするんですかっ!」
「わらわが払う訳がなかろうが、ツケて、未払い踏み倒しなのじゃ!」
 途端にシロちゃん・帽子男さん・村長さん・花屋の娘さんが立ち上がりました。
 四人同時にコンちゃんにチョップ!
illustration やまさきこうじ
 うわ、コンちゃん、チョップの勢いでテーブルに頭ぶつけてます。
「ゴン」なんていって、★四つのダメージなの。
「無銭飲食は犯罪であります」
「こら、今までのツケも払わないつもりじゃねーだろうな?」
「まさかラーメン屋をつぶす気?」
「お兄ちゃん家に帰ってきちゃうでしょーっ!」
 四人の怒りのオーラに、コンちゃん小さくなってますよ。
 花屋のお兄さんの再就職が決まっておめでとうございます。
 でもでも、パン屋さんには危機到来かもしれません。


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NCP5(2013)
illustration やまさきこうじ
HP:やまさきさん家のがらくた箱
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