■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■ ポンと村おこし 第112話「動物園はNG」 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ラーメン屋さんにお客を盗られて、パン屋さんはガランとしてるの。 コンちゃんがぼんやりと眺めているテレビの音声。 風がそよいで、木の葉っぱをこする音。 そしてわたしが沸かしているお湯の音とか。 店長さんやミコちゃんは配達に行ってます。 シロちゃんはパトロールだし、たまおちゃんは神社。 レッドとみどりも学校ですよ。 そんなパン屋さんですが……めずらしく村長さんがいるんです。 コンちゃんのテーブルでテレビを見つめているの。 どうかしたんでしょうか? 沸いたお湯でコーヒーいれて、持って行くついでに聞いちゃうんです。 「はい、コーヒーです、村長さんどうしたんです?」 「あ、ありがとう……ちょっとね」 むう、村長さん、テレビからマグカップに視線を移して、 「ちょっと……ね」 物憂げ……どうしたんでしょ? 「遠足……なんだけど」 村長さん、マグカップを見ながらポツリと言います。 「遠足……またですか!」 「え?」 「また遠足でニンジャ屋敷やるんですか! わたし、子供恐怖症になったかも!」 そうです、この間、幼稚園の遠足がぽんた王国に来たんです。 わたし、手伝った上に最後はプロレスまでやったんですよ。 「もうプロレスしないですよっ!」 そうそう、最後の女子プロレス、わたしには全然話が来なかったんだから! プロレスする度に、なんだかいろいろ伝説出来てるみたいだし。 って、村長さんに笑顔が戻りました。 コーヒーを一口飲んでから、 「遠足は遠足でも、村の小学校の遠足」 「ああ、村の学校の遠足ですか」 「ちょっと……ね」 「?」 村長さん、窓の外に目をやりながら、 「私も子供の頃、遠足行ったわ」 「村長さん……どうしたんです?」 「私も行ったの……」 「はぁ?」 わたし、村長さんが物憂げだったり悩んでいそうなの、さっぱりわかりません。 めんどうくさいから直球ですよ。 「どうしたんです?」 「私も行ったの」 「それはわかりましたから……なにを悩んでいるのかな〜って」 「遠足の行き先」 「遠足の行き先に悩んでるんですね」 「そう」 「村長さんはどこに行ったんです? 定番は?」 「動物園」 「じゃぁ、そこに……」 って、言った途端に村長さんわたしのしっぽをモフモフするの。 「ちょっ! なんでしっぽを触るんですかっ!」 「私は動物園に行ったの……多分遠足の定番よ」 「動物園に行けばいいじゃないですかっ!」 村長さん、ムッとした顔でわたしのしっぽをモフモフ。 すごい怒ってるの。 モフモフされて怒るのはこっちって思うんだけどなぁ。 村長さんの顔を見てたら、とてもかみつけません。 「な、なんでしっぽをモフモフするんですかっ! 怒ってるしっ!」 「そりゃ、怒るでしょ」 「どうして! モフモフやめて!」 村長さん、モフモフをやめてくれました。 でも、ムッとした顔のままコーヒーを一口飲んでから、 「ポンちゃんはお姉さんって思ってたけど、全然思いやりがないのね」 「??」 「動物園に行くのよっ!」 「それが?」 「レッドちゃんとみどりちゃんはどう思うかしら?」 「!!」 って、コンちゃん薄ら笑いを浮かべて、 「大丈夫なのじゃ、レッドなぞ『いまはにんげんゆえ』とか言うのじゃ」 途端に村長さんから「ゴン」なんて重いゲンコがコンちゃんに投下。 ★三つのダメージと首が引っ込んじゃってますよ。 「ををを……」 コンちゃん頭を押さえてうめいています。 いつも思うけど、余計な事言わないといいのに。 でもでも、レッドはきっとそう言うと思いますよ。 「特にみどりちゃんは動物園から誘拐して来たって話じゃない」 「あ、そうです、長老から聞いた事あります」 「動物園、トラウマかもしれないし」 「で、村長さんは遠足に行く場所に困ってるんですね」 「そう……年に一度は動物園行っておけばってね」 「そ、それはそれで手抜きじゃないです?」 「しょうがないじゃない、動物園は定番なんだから」 「そうかもしれないけど」 「動物園もあちこち変えてたのよ、よその県の動物園とか」 「そうなんだ」 「変に公園とかに行っても、ほら、ここ、山の中よね」 「ええ」 「公園なんか退屈なのよ」 「あー!」 わたし、考え付きません。 「じゃあ、どうしたら?」 「だから困ってるんじゃない」 「むう……名案、誰か……」 わたし、コンちゃんを見ます。 まだ頭を抱えてるの。 「ねぇねぇ、コンちゃん、なにか名案ないですか?」 「ふん、何故わらわが名案を出さねばならんのじゃ、叩かれたのに」 「余計な事言うからでしょ〜」 「フンじゃ」 村長さん、不思議そうな顔で、 「ねぇ、ポンちゃん、なんでコンちゃんなの?」 「だってコンちゃん、若く見えても平家の落ち武者時代の歴史があるんです」 「?」 「だから、行楽の生き字引に違いないですよ」 「昔からの行楽を知ってるって事ね」 わたしと村長さん、コンちゃんにジッと視線を向けます。 コンちゃんプイッとそっぽ向いて、 「わらわ、さっき叩かれた、知らんのじゃ」 しっぽ、ブンブン振ってます。 嫌がらせして悦に入ってるのを示してますね、このしっぽの振りは。 「最近村長はわらわの事を『コンちゃん』と言う、昔は『コン……ちゃん』だったのじゃ」 もう……駄々っ娘がいます。 すごいご長寿だけど。 村長さん真顔で、 「いなり寿しとか食べたくない?」 「きゃーん、すぐ考えるのじゃ、待つのじゃ」 すごい簡単に攻略されちゃってます。 小難しい顔して考えてますよ。 「村長さん、コンんちゃん使うのうまいですね」 「誰だって好物を目の前にしたらあんなもんよ」 コンちゃん、ウキウキ顔で、 「お座敷遊びとか、鷹狩とか、湯治とか……」 ブツブツ言ってるのが聞こえてきます。 村長さんため息ついてから、 「検索ばりに件数だけ出そうね」 「そ、それを言っちゃあ……」 「でも、100出たら2〜3個は使えるでしょ」 「じゃあ、出待ちですね」 「そうね」 すると窓の外に白衣が見えます。 保健の先生がレッドと一緒にご帰還なの。 「こんちは〜」「ただいま〜」 二人の声、レッドはダッシュで村長さんのもとへ、 「そんちょ〜、すきすき〜」 「お帰りなさい、手を洗って来てね〜」 「らじゃー!」 レッド、奥に行っちゃいました。 わたし、おやつって思ったけど、 「あの、保健の先生」 「何、ポンちゃん?」 「学校終わるにはまだ早いですよ?」 「退屈だから、校外学習なのよ」 「サボってますね?」 「いいじゃない、早くおやつ出してよ」 「はーい」 ここで変に逆らったり絡んだりしたら、めんどうくさいだけです。 コーヒーと残り物のパンでやりすごすの。 村長さん、そんな保健の先生に、 「ねぇ、長崎先生(保健の先生)、名案ないかしら?」 「村長、何の話です?」 「遠足の行き先のね」 「動物園でよくないです?」 わたし、コーヒーを保健の先生に出しながら、 「動物園はレッドとみどりがダメなんですよ」 「ああ、それで」 保健の先生、視線を泳がせてから、 「水族館!」「水族館どーかの!」 なんと保健と先生・コンちゃん同時です。 保健の先生、コンちゃんを見ながら、 「水族館なら、ほかの動物を見る事もないでしょ」 「そうなのじゃ、いてもペンギンくらいのものなのじゃ」 村長さんも一瞬は表情、明るくなったんです。 でも、すぐに難しい顔になって、 「水族館は高いのよね……」 パンフレットを出してきました。 一応水族館、調べていたみたいです。 保健の先生、そんなパンフレットを見ながら、 「団体割引とか、社員割引を使えばいいのよ」 「!!」 またそこに、都合よく配達人の車がやって来たんです。 「ちわー、綱取興業っす」 わたし、見ちゃったんです。 村長さんの目がキラン。 コンちゃんのくちびるがニヤリ。 保健の先生もメガネがピカッ。 3人の女が、今、まさに狩る者の目になった瞬間なの。 「あ、みなさんそろってどーしたんです?」 ああ、配達人、ネギ背負ったカモです。 真っ先に村長さんが、 「綱取興業さんで入場券安く入らないかしら?」 水族館のチラシを見せながら村長さん語ります。 「かしら?」って言ってますが、きっと「安く仕入れて」の意味でしょね。 コンちゃん、配達人の腕をゆすって、 「わらわも水族館行きたいのじゃ!」 「いきなり何で水族館なんか……」 「遠足なのじゃ、遠足なのじゃ」 「あー!」 配達人、チラシを見ながらうなずいていますよ。 保健の先生、配達人の肩をつかまえて、 「タダで手に入れてきないさいよ、ほら」 って言いながら、白衣の中からポワワ銃を出しました。 銃身で配達人の頭をコツコツしながら、 「ほら、ハイって言いなさいよ、ほら」 って、保健の先生、一度ポワワ銃をお店に向けて発砲! ああ、メロンパンに光線が当たっちゃいました。 黒くなって、チョコパンになっちゃいましたよ。 試し撃ちの損失は、この際だから配達人のツケにしましょう。 わたしも女だから、村長さんチームに入っておくんです。 だってこの3人に逆らう方が無理ってもんですよ。 「むー、チケット屋さんに聞いてみます」 みんなにゆすられながら、配達人困った顔で言いました。 なんだかちょっとかわいそう。 トボトボお店を出て行く配達人。 タダでチケット出来ないで、もしかしたら自殺しちゃうかもしれません。 後をついていっちゃいましょう。 ああ、ポケットから携帯出しましたよ。 なにかお話して、すぐに携帯閉じちゃいました。 「あのー」 「うわ、びっくり、ポンちゃんどうしたの!」 「いや、みんなにやーやー言われてしょぼんとしてるように見えたから」 「って、ポンちゃんもあっち組だよね」 「あの3人に逆らえと?」 「賢明な事で」 「で、電話はどーだったんです?」 「あ、チケット、なんとかなりそう」 「え……なんかすごく簡単に片付きましたね」 「水族館にも出入りしてるからね」 「綱取興業ってなに屋さんです?」 「なんでも屋さんかな……食材卸かな? どうかな?」 配達人さん笑ってます。 「チケットはタダだけど、額面が1000円だから500円くらいで売るかな」 なんだか配達人さん、ぼってませんか? わたし、面白い方に味方するんですよ。 「おーい、水族館のチケット、タダだけど500円だってー!」 「!!」 大声で叫ぶの。 青ざめる配達人。 お店から飛び出してくる3人。 村長さん、配達人をゆすりまくり。 「ちょっと、タダを500円ってどういう事かしら?」 コンちゃん、配達人の首に腕を巻きつけて……「決めて」 「悪いヤツなのじゃー!」 保健の先生、配達人のレバーをボスボスと叩きながら、 「あんた、いつからそんな商売するようになったのよ」 みんなにフクロにされる配達人、ちらっとわたしの方を見て、 「ポンちゃんの裏切り者ー!」 「だって面白くなりそうだったんだもん」 「悪魔ー!」 「わたし、タヌキ」 って、配達人、本当にボロボロになってます。 ちょ、ちょっとは助けないといけないかな? あ、奥に行ってたレッドが戻って来ましたよ。 「みんなでたのしそー!」 レッドも配達人の服を引っ張って笑顔えがお。 「ねぇねぇ、レッド」 「なに、ポンねぇ〜」 「遠足、知ってますか?」 「このあいだ、ともだちたくさんでした〜」 「ふふ、幼稚園の遠足でしたね」 「ですでーす」 「あの時はよそから遠足に来てたんですよ」 「??」 「レッドは遠足に行きたくないですか?」 「はわわ! いきたーい!」 わたし、即、テレパシーto配達人。 『ほら、レッドを抱っこして逃げるっ!』 『おお、ポンちゃんが助け舟!』 『わたしがきっかけだったし』 『そうだよね』 配達人、すぐにレッドを抱っこして、 「遠足、水族館だぞ〜」 「わーい、すいぞくかんってなに?」 配達人がレッドを抱っこしたら、みんな攻撃できなくなりました。 レッドを高いたかいしながら村長さん達から距離をとる配達人。 とりあえず、逃げるのに成功したみたいです。 「すいぞくかんとはなにごと?」 「お魚がたくさんいるの」 レッド、ポカンとして、 「たくさんとは?」 「めだかの学校風味かな」 「おお!」 よくわからない配達人とレッドの会話。 でも、レッドは理解したみたいで、 「ちょうみたーい!」 レッドさん、配達人をゆすりまくりなの。 水族館……わたしも漫画で見ただけかな。 わたしも遠足行きた〜い。 pmy112 for web(pmc112.txt/htm) pmy112 for web(pmy112.jpg) NCP5(2013) illustration やまさきこうじ HP:やまさきさん家のがらくた箱 (pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=813781) (C)2008,2013 KAS/SHK (C)2013 やまさきこうじ