■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■ ポンと村おこし 第119話「床屋さん」 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 今日は老人ホームに配達なんですが…… 老人ホームの配達は配達だけじゃないんです。 職員さんと一緒におじいちゃん・おばあちゃん達と一緒にいろいろするんですよ。 ストレッチをしたり、歌を唄ったり、習いごとをやったりするの。 たまにはお風呂のお手伝いもしたりもするかな。 「村長さん」 「何?」 「老人ホームって大変なんですね」 「そうねぇ……でも、ここは重度の人はいないから、ラクな方かもしれないわよ」 「じゅうど??」 「うーん、ポンちゃんになんて説明していいのやら……」 「??」 「ともかく、起きれない人とかいないでしょ」 「でもでも、車椅子の人とかいますよ!」 「でも、まだ軽いほうじゃないかしら」 「そうなんですか……」 「起きれない人や、体が自由に動かない人だったら、私達が動かさないといけないから」 「うーん、寝たきりの人はいませんね」 老人ホームにもいろいろあるみたいです。 「それに……」 「なんです、村長さん」 「ここに来た人は、なんだかみんな前向きになるみたいなのよね」 「はぁ?」 「ポンちゃん達のおかげじゃないかしら」 「わたし、なにもやってないですよ?」 「でもでも」 村長さん、微笑みながら……モフモフしてます。 「タヌキが化けてるところなんて、余所にはないわよ」 「も、モフモフしないでくださいっ!」 「長老さんにポン太くんやポン吉くん、コンちゃん」 「むー、動物大活躍?」 「そうね、長老さんのごはん、すごくおいしいし、ポン太くんの料理もいいわ」 「おそば屋さんで鍛えられたんでしょ」 「ポン吉くんのお魚もいいわね」 「ポン吉は釣りバカですね」 って、思いましたよ。 「村長さん村長さん、コンちゃんはどこがいいんです?」 「うーん、正直私は微妙に思っていたんだけど……」 「?」 「いつもなにもしないで『わらわは神なのじゃ』でグダグダ」 「ダメじゃないですか」 「でも、みなさんにはそれがいいみたいよ、コンちゃん綺麗だし」 「村長さん、村長さん、わたしは?」 「ポンちゃんはしっぽね、すごいモフモフ、夢のさわり心地」 「綺麗とか、かわいいってないんですか」 「えーっと……そうそう」 むむ、話題、すりかえますね〜 「一番なのはレッドちゃんね」 「そうなんだ……レッドのどこがいいんでしょ?」 「レッドちゃん、なんでも『好き好き〜』だから」 見ればレッド、おじいちゃんの膝でニコニコしてます。 乗られているおじいちゃんもニコニコしてますね。 確かにレッドは癒しに一役買っているみたい。 「あ、でもでも!」 「どうしたの、ポンちゃん?」 「わたし、ミコちゃんじゃないかなって思ってるんです」 「ミコちゃん?」 「そう、ミコちゃんですよミコちゃん」 「ミコちゃんのごはん、たまに作ってもらうけど、おいしいわね」 「それもですけど……ミコちゃんは回復系の術あるんですよ」 「へぇ……でも、この間現場監督さんには使わなかったのよね」 「あの時は……ですね」 って、本人がのこのこやって来ました。 今日は学校の配達だったはずだから、ついでにこっちに来たんでしょ。 「ねぇねぇミコちゃん、ミコちゃん回復系の術、使えるよね」 「えっと……それは……」 「コンちゃんが言ってたよ、ダメージ与えて回復させてってえげつないって」 「コンちゃん……」 ミコちゃん、ムッとした顔で指をパチン。 今頃どこかでコンちゃんに「ゴット・サンダー」が命中してるんですよ。 「まったくコンちゃんはモウ」 「ミコちゃん容赦ない〜」 村長さん笑いながら、 「その回復系の術って使ってもらえないのかしら?」 「えっと……人間には強すぎるからダメなんですよ」 「そうなの、残念ねぇ」 「でも、村長さん」 「なに、ミコちゃん」 「保健の先生がいるから……いいと思うんですけど」 って、ミコちゃんの言葉に村長さんの微笑みが固まるの。 「長崎先生(保健の先生)いいんだけど……ちょっとね」 「?」 わたしもミコちゃんも首を傾げちゃいます。 村長さん苦笑いしながら、 「結構マッドなのよね、ポワワ銃とか持ってるし」 ですね、気分屋さんのところもあるし。 どことなーくコンちゃん属性な女なんですよええ。 きっと今頃、保健室でくしゃみしてるんです。 村長さん笑顔で、 「ミコちゃんにはいろいろお世話になってるから、これ以上はね」 って、ホールにまた人がやってきましたよ。 おじいちゃんとおばあちゃん、新しく入所の人でしょうか? むむ、荷物あるけど、そのカバンには1日分の着がえくらいしか入りませんよ。 「村長さん村長さん、新しい人ですか?」 「あ、あの人は床屋さんなの」 「床屋さん……ってなんですか?」 「髪切ってくれる人」 「あー!」 髪を切ってくれる人だそうです。 「ポンちゃんは行った事ないの?」 「えっと、パン屋さんはですね」 って、わたしが言おうとしたらミコちゃんが、 「私がチャチャっと切っちゃってます」 村長さんニコニコ顔で、 「そうよね、お母さんが切ってくれる家もけっこうあるわよね」 床屋のおじいちゃんとおばあちゃん、すぐに仕事にはいりました。 姿見の鏡を持ってきて、老人ホームのおじいちゃん・おばあちゃんの髪を整えてます。 「あ、わたし、ドラマで見た事あります」 そうです、世間話をしながら髪を切るんですよ。 なんだかほのぼのした空気ですね。 むむ、そんな散髪を指をくわえて見てるレッド。 しっぽをブンブン振ってます。 「レッド、お仕事の邪魔しちゃダメですよ」 「むむ、ざんねん」 「レッドはミコちゃんが切ってくれるでしょー」 「でもですね」 レッド、真剣に見ているの。 わたしもおじいちゃんのはさみ捌きに見入っちゃいます。 「もしかしたらカリスマ美容師さんでしょうか?」 床屋のおじいちゃん、笑ってます。 「あんた達がタヌキのポンちゃんとキツネのレッドちゃんかい?」 「けのいろがあかいからレッド!」 「はい、そうです〜」 「今度お店に来たらいいよ」 「でも……わたしはミコちゃんに切ってもらうから……」 って、わたしが言ってたらミコちゃんが、 「レッドちゃんものびてきたし、ポンちゃんもちょっと揃えてもらったらいいじゃない」 「でもでもミコちゃん、お金が……」 わたしの言葉にミコちゃんが言うの。 「床屋さん、1000円でいいですよね?」 「はいはい、村の人だからサービスするよ」 でも、床屋のおばあちゃん、考える顔になって、 「あんたのところのコンちゃん……だっけ?」 「え、コンちゃん知ってるんですか?」 「たまに来るねぇ……そこでなんだけど……」 「?」 「ツケ、払ってもらえるかねぇ」 コンちゃん、床屋さんにもツケをためこんでいるみたいですよ。 途端にミコちゃんが怒った笑み。 指をパチンと弾くと雷鳴がとどろくの。 どこかで女キツネが「キツネ色」に「焼けちゃって」るんでしょうね。 「わらわがテレビを見ていると雷が連射なのじゃ!」 叫ぶコンちゃんにチョップするミコちゃん。 「ツケ、床屋さんにもためてるんでしょっ!」 「な、なぜそれをっ!」 「老人ホームに床屋さん、来たのよ」 「むむ、あのおばばめ、しゃべりおったな」 「ツケをためる方が悪いんでしょ!」 ミコちゃん再チョップしながら、 「コンちゃん行った事あるみたいだから、ポンちゃんとレッドちゃん、連れてってもらうといいわ」 「うん、そうする」 「わらわも行くのかの?」 「ツケを払うのよ!」 ミコちゃん、再チョップしながら、 「で、いくらためてるの?」 って、コンちゃん顔を青くして指2本。 「2000円?」 「……」 「ま、まさか2万円!」 ミコちゃん、怒りマークが浮かんでますよ。 「どーして床屋さんにそんなにためるのっ!」 「ぱーまは高いのじゃ!」 「どーしてパーマかけるのよっ!」 「わらわはおしゃれなのじゃ」 コンちゃん、ゲンコツ食らってます。 そんなコンちゃんを先頭に床屋さんに出発するの。 「ねぇねぇ、コンちゃん、床屋さんにいつから行ってるの?」 「うむ、復活してすぐなのじゃ」 「へぇ、そうなんだ」 「わらわは美しいゆえ、身なりを整えるのに髪結いは必須なのじゃ」 「で、ツケ、ためるんだ」 「むむ、わらわは神ゆえ、タダで奉仕すればよいのに〜」 って、駄菓子屋さんの近くなんですね。 むー! この神社の前には行った事のないお店がまだまだあります。 これから出会いがまだまだありそうですね。 赤・青・白がくるくる回るお店に入るの。 「これ、お婆、来てやったのじゃ!」 「あら、コンちゃん、ツケ、払ってくれるかね」 「今日はちゃんと持って来たのじゃ」 床屋のおばあちゃんとコンちゃんはレジに行っちゃいました。 お店の中には……お客さんがいます。 「あ、駄菓子屋さんのおばあちゃん」 「ポンちゃん、床屋さんかい?」 「ええ、わたしとレッドです」 「そうかい」 ちょうど終わったところみたいで、おばあちゃん席から立ちながら、 「いつもは……ミコちゃんに切ってもらってたのかね?」 「ですね〜」 「まぁ、床屋さんもいいもんだよ」 床屋のおじいちゃん、わたしとレッドを見ながら、 「うーん、レッドちゃんは婆さんにやってもらって、ポンちゃんは儂がやるかね」 おじいちゃん、子供用のイスをセットしてレッドを座らせます。 すぐにおばあちゃんやって来て切り始めるの。 「レッド、大人しくしてないとダメですよ〜」 「らじゃー!」 「いつも動くでしょー!」 「ですっけ?」 そうです、ミコちゃんが切ってるといつも苦戦してるもん。 きっと子供だからじっとしていられないんですよ。 あれれ……でもでも! レッド、もう舟を漕いでいます。 あっという間に夢の中なんですね。 「びっくり、寝ちゃってる」 床屋のおばあちゃんは笑ってます。 駄菓子屋のおばあちゃんが、 「ここの床屋にかかると子供なんかすぐに寝ちゃうよ」 コンちゃんも胸を張って、 「ここの腕はピカイチなのじゃ、眠たくなるのじゃ」 「な、なにか術とか使ってないよね?」 床屋のおじいちゃん、ニコニコしながら、 「雰囲気なんじゃないのかな、さ、座って座って」 わたし、レッドの隣のイスに座らせられると、早速髪を切られちゃうんです。 ああ、なんだかハサミの「チョキチョキ」が心地いいんですね。 「むー、ミコちゃんはバリカンで切るから、そこが違うのかもしれません」 切っているおじいちゃん、感心した感じで、 「ミコちゃん……あの老人ホームにいた」 「はい」 「バリカンで揃えるんだ……たいしたもんだね」 「でもでも、ハサミでチョキチョキの方が気持ちいいですよ」 「そんなもんかねぇ」 って、そんなハサミの音が止まっちゃうの。 見ればおじいちゃん、びっくりして隣の席を見ています。 レッドの髪を切っていたおばあちゃんも固まってるの。 舟を漕いでいるレッド。 寝ているのに獣耳になっています。 「ちょ、ちょっと、耳が!」 おばあちゃんびっくりしているの。 「わたしもびっくりです」 「この仔はキツネさんだよね」 「でもでも、テンションあがらないとキツネ耳にはならないんですよ」 「どうしてかね?」 「きっと気持ちいいんですよ……寝てるのに」 寝ちゃったレッドをおんぶしてお店を出ます。 「ありがとうございました〜」 見送りに出て来たおばあちゃん、 「また来るといいよ……キツネ耳になるのもわかったから、次はびっくりしないからね」 「はーい」 「ほかに……シロちゃんやみどりちゃんも連れてくるといいよ」 「言っておきます」 「コンちゃんはお金持ってきてくれよね」 「おばば、他に言う事はないかの?」 おばあちゃん、ちょっと考える顔になって、 「ミコちゃんに言うかね?」 「ど、どこでその言葉をっ! まったくっ!」 pmy119 for web(pmy119.txt/htm) pmy119 for web(pmy119.jpg) NCP5(2014) illustration やまさきこうじ HP:やまさきさん家のがらくた箱 (pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=813781) (C)2008,2014 KAS/SHK (C)2014 やまさきこうじ