■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■ ポンと村おこし 第124話「学芸会『赤ずきん』」 ■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 「えへへ〜」 レッド、さっきからレジの前に立ってニヤニヤしてるの。 体をもじもじ。 しっぽもふりふり。 わたしにチラシをくれますよ。 なにかな? 「あ、学芸会なんだ」 そう言えば、この間学級会でそれを話し合ってましたね。 「おお、学芸会かの?」 聞こえたみたいで、コンちゃんもやって来て覗きこみます。 「あかずきん……ですね」 「ほほう、あかずきんかの」 さっきからレッドが嬉しそうにしてるのは「コレ」ですね。 主役は……やっぱりレッドです。 これにはコンちゃんびっくりして、 「おお、レッド、主役ではないか、すごいのう」 「えへへ〜、だいかつやくで〜す」 わたしはちょっと渋い顔になっちゃいます。 レッドにチラシを返しながら、 「レッド、主役ってなにをするか知ってるんですか?」 「あかずきん!」 「あかずきん……は……女の子ですよ」 「……」 って、奥で手を洗っていたみどりがおやつを持って出てきます。 今日のおやつは昨日の残り物なの。 「ちょっとアンタ、文句あるのっ!」 「みどり……あかずきんは女の子なんですよ?」 「そこは男の子って設定にするのよ!」 「設定を変えるんですか……」 「何よ! 問題あるの!」 言われてわたしとコンちゃん、一緒になって考えます。 「別にいいですね……」 「うむ、わらわもびっくりじゃ、別に男でも女でもいいかの」 って、それだけじゃないんです。 「みどりっ!」 「何よ! まだ文句あんの!」 「ありありですよ、レッドで大丈夫なんですか?」 「?」 「主役は台詞とかたくさんあるんでしょ?」 みどり、眉間にしわを刻んで、 「アンタ、寝る時に本を読んでるでしょ!」 「ええ……レッドに言われて読んでますね」 「レッド、『あかずきん』が好きでしょ」 「ですね〜、レッドだけに『あか』が付くから」 「だから覚えてるのよ」 「そうなんだ」 毎晩のように本を読み聞かせてるけど、ちゃんと聞いてるんだ。 いつも途中で寝てると思ったんだけどなぁ〜 「それよりアンタの方が大丈夫なの?」 「は?」 「アンタも出る事になってるのよっ!」 「え!」 レッドからチラシを奪って改めて確認。 コンちゃんと一緒になって見るの。 「わわわわたし、狼なんですかっ!」 「そうよっ! 文句あるのっ!」 「聞いてなーいっ!」 「アンタの役は校長先生が決めたのよ」 「校長……村長さん……」 他にシロちゃんは「猟師」でコンちゃんは「語り」なんだって。 なんでわたしが狼なんでしょ。 納得できなーい! でも、やるしか! 学芸会の「あかずきん」は、なんだかパン屋さんオールキャストっぽいです。 いいのかな……って思ったけど、これは寄宿舎暮らしの子供たちのためなの。 客席は子供やそんな親、老人ホームのおじいちゃんおばあちゃん、村の人でいっぱい。 あ、客席後方の村長さんがペンライトで合図です。 たまおちゃんが頷いて、ポン太の笛・ポン吉の太鼓・みどりの鈴で…… 「あかずきん」なのに神楽な音楽で始まります! みんなクスクス笑ってますよ。 まぁ、ウケてるからいいか。 暗転。 スポットライトで浮かび上がるレッドの姿。 「むかーしむかし、あるところにレッドというのがおったのじゃ」 コンちゃんの語り……もう「あかずきん」も「レッド」。 「むかーしむかし」って……なんてか日本昔話っぽくないですか。 「レッドちゃーん、おじいちゃんの家にお使いに行ってー」 ミコちゃんはお母さん役なんですね。 「はいはーい、おつかい、おまかせゆえ!」 レッド、ミコちゃんからバスケット受け取ってそでに消えるの。 テントンテントン。 ピーヒャララ。 シャンシャン。 太鼓と笛・鈴の音で場面が変わるの。 「道でレッドと狼出会う」シーン。 わたしとレッド、舞台の中央で、 「ふふ、レッド、荷物を置いて行くのだ!」 「きゃー! こわいー!」 「食べちゃうぞー!」 「わーん!」 レッド、台詞では「こわい」「わーん」とか言ってるけど、顔はニコニコなの。 わたし、チョップをお見舞いして、 「レッド、ここは泣き顔を演じるところですよ」 「おお、そうでした!」 でも、ニコニコはかわらないの。 「ほらほら、泣き顔をして〜」 「むむむむずかしいゆえ」 って、ここでナレーションが割り込んでくるの。 「レッドは狼にからまれてピンチなのじゃ」 でも、レッドは笑顔ですよ。 演技下手ですね。 そでで語っているコンちゃんは渋い顔で、 「レッド、おぬし、このあいだポンのプリンを食っておったの」 「!!」 いきなりわたしとレッドの間に緊張が走るの。 レッド、泣き顔じゃないけど、恐怖の表情。 わたし、いきなり怒りがレッドゾーン。 「レッド、ちょっとお話し、しましょうか?」 「ころされるー!」 レッド、ダッシュで消えるの。 何故か客席から拍手。 「きゃー! こわーい!」 千代ちゃんの声です。 わたし、握った拳を震わせて、 「千代ちゃん、後で覚えてろ〜!」 すると客席みんなが、 「こわーい!」 言ってから笑ってるの。 みんな覚えてろっ! シーン「おじいちゃんの家」……おじいちゃんは店長さんなんです。 セットはお家を上から見た感じになってるんですね。 わたしは普通に歩いているんですけど、ベットは立てて置いてあるの。 変なの……って思ったけど、設定じゃ「おじいちゃん」は「寝たきり」なんだって。 わたし、ベットに近づいて、 「おうおう爺さん、お命頂戴っ!」 「ひえー、お助けを!」 「ふふ、食ってやるー!」 わたし、店長さんに抱きつくの。 ここはわたしが店長さんを食べちゃうシーン。 どさくさにまぎれてキスの一つもしちゃうんだから! 「さ、店長さん、覚悟はいいですね」 「え、ポンちゃん、何する気?」 「わたし、今、狼だから、おじいちゃんを食べちゃうんです、えへへ」 「……」 「あーん!」 「あーん! じゃねぇ!」 「店長さん、今は『役』なんですよ『役』!」 「……」 「覚悟決めてください!」 それ、キスですキッス! 「後で覚えてろー!」 「ふふ、今がよければいいんです!」 もう怒られるの決定みたいだから、行くとこまでいっちゃいましょ。 今日は店長さんをしっかり捕まえて逃がさないんだから。 って、あれ? なんだか店長さんの視線、わたしに向いていません。 店長さんの視線はわたしをそれて客席へ…… 客席後方……で……怒りで目を輝かせてる人は村長さん! 『ポンちゃん、後でどうなるか、わかっているわよね?』 ああ、わたしの頭の中でチェンソーウーメン大暴れ。 って、足音がしたと思ったら逃げて行く店長さんの背中! 「こらー! 寝たきり設定はどうしたんですかっ!」 「ポンちゃんこわーい!」 店長さんに合わせるように客席からも、 「こわーい!」 みんなの声、合って来ましたよ。 わたしが客席ににらみをきかすと拍手がおこるの。 まったくモウ! さーて、セットはそのままでレッド登場なの。 テトテト歩いてレッドはベット際へ、 さっきまで店長さんが寝ていた(立ってるんだけど)ベットにはわたしがいるんです。 「ポン姉、どうしましたか?」 「今は狼さんなんですよ、忘れましたか、プリン泥棒!」 「こわーい」 ふっ、レッドに合わせて客席も、 「こわーい!」 後で覚えてろー! 「ほら、レッド、お芝居ですおしばい、あかずきん」 「はーい」 レッド、ニコニコ顔で、 「ポンねぇはどうして『どらやききゅー』なんですか?」 「そこは『どーして大きなお口なんですか』でしょー!」 もう怒った! わたし、逃げようとするレッドを逃がさないの。 「レッド、覚悟はいいんでしょうね」 「きゃー、たすけてー!」 「えーい、食べちゃうんだから!」 って、わたし、レッドを服の中に押し込んじゃうの。 お芝居用に伸び縮み素材でできてるんですね。 「しぬー!」 「ちょっとはお芝居してください、叩きますよ!」 「ほんき?」 「ちょっと本気」 「むう」 レッド、わたしにしがみついて大人しくなりました。 ふふ、レッドで膨れたお腹のところをポンポン叩きながら、 「ふふ、うまかったぜ、なんだか眠くなったなぁ」 わたし、完全悪役ですね。 って、客席から、 「れ、レッドちゃんは? 本当に食べられちゃったの?」 なに馬鹿言ってるんですか……って、レッドスキーな常連さん。 「うう、ポンちゃんのバカー!」 お芝居なのに取り乱されても…… って、そんな常連さんに子供たちも、 「ポンちゃんのバカー!」 みんなわざと言ってますね〜!(怒) さて、わたし、ベットで寝ている設定なの。 店長さんこと「おじいさん」が猟師のシロちゃんを連れて来て、 「悪い狼がいるんです、やっつけてください」 「本官のウィンチェスターでタイホであります」 猟師が「本官」はどうかと思いますが…… 気になるのがウィンチェスターって銃…… なんだかすごい本物っぽいの。 わたし、テレパッシーで、 『シロちゃんシロちゃん、その銃すごいね』 『今日のお芝居のために帽子男から借りたであります、本物であります』 本物…… 猟師・シロちゃんは「チャッ」とか音をさせて銃口をわたしに向けるの。 シロちゃんの「タイホ」は即発砲。 むむ、本気でわたしを「殺す」気かもしれません。 って、そんなシロちゃんをおじいちゃんこと店長さんがチョップ。 「ああ、まだレッドが無事かもしれない、ちゃんとお芝居やってください」 台詞&チョップにシロちゃん我に返って、 「おお、でありました、それ!」 「きゃっ! シロちゃんちょっとちょっと!」 「服を捲らねばレッドを出せないであります」 「そんなみんなの目の前で!」 わたし、お腹丸出しなんだから。 って、レッド、完全に寝ていますね。 さっきから静かって思ったらすっかり寝ていたみたい。 「救出成功であります」 「きゃー、レッドちゃん!」 レッドスキーの常連さん、ダッシュでやって来てレッドを抱っこ。 「よかった、死んでなかったのね!」 本気でやってますね……わたしも本気で怒ろうかな。 店長さんとシロちゃん、わたしを捕まえて、 「ほら、お芝居おしばい」 「演じるでありますよ」 二人はわたしの服にバスタオルを丸めたのをどんどん押しこみます。 わたしのお腹はレッド入りの時と同じくらいの膨らみっぷり。 おじいさんこと店長さんが、 「これで井戸に水を飲みに行ったらドボンだ」 「成敗でありますね」 って、シロちゃん、切なそうに銃を見て、 「残念ながらブッ放せないであります」 この警察の犬は本当に撃ちたいだけですね。 そしてクライマックス。 わたし、井戸に落ちるんです。 「うわー!」 って、井戸のセットの中には紙。 なにかな? ふむふむ、追加シナリオだそーです。 ……。 「狼、井戸からはいあがり、赤ずきんを食らう」……ループしませんかね? わたし、井戸から顔を出すの。 ってスポットライトに浮かび上がるわたしとレッド。 「きゃー、こわい、ポンねぇこわい」 「レッド、そこは『狼こわい』じゃないですか」 「ふわわ……おおかみさんととポンねぇどっちがこわい?」 「怒りますよ?」 「じゃ、どっちがつよい?」 「ポン姉が強いって言いたそうですよ?」 「ちがうの?」 わたし、井戸から這い出てレッドをキャプチャ。 「わるい仔キツネは食べちゃいます」 「いまはあかずきんですよ」 「だまらっしゃい、えいっ! えいっ!」 「きゃはは!」 わたしがレッドをくすぐっていると、客席から悲鳴なの。 「きゃー、レッドちゃん死なないで!」 わたし、くすぐってるだけですよ。 まったくモウ、レッドスキーさんは大げさですね。 って、また暗転。 スポットライトに浮かび上がるのはコンちゃん。 それも女王さまルックなの……「物語あかずきん」どこにいっちゃったの。 こ、これは……って、暗がりのわたしにミコちゃんがやって来て、 「ポンちゃん、もう解ってるわね」 「えっとー、いつもの、アレ?」 わたし、レッドを渡しながら苦笑い。 「そう、いつものアレ」 「わたし、いつも最後は女子プロレスって思うんだけど……」 「みんなも楽しみにしてるから、頑張って!」 「ミコちゃん、止める立場じゃない?」 「頑張って!」 トホホです。 それに、いつの間にか体操服にコスチュームチェンジしてるし。 ミコちゃん止める気さっぱりないですね。 「わらわ、前からポンの事が気にいらんのじゃ!」 コンちゃん叫びます。 「神であるわらわに対して、尊敬する態度がないのじゃ!」 「いつもダラダラしているコンちゃんに言われたくなーい!」 「わらわは神ゆえ、ダラダラしていてもよいのじゃ!」 「ちょっとは店を手伝ってよ!」 「つーん」 「もう怒った!」 カーン! ゴングも鳴って、会場のライトアップ。 みんなの声援も大きくなるの。 ぶつかり合うわたしとコンちゃん。 つかみ合う手と手。 「日ごろの恨みー!」 「わらわの台詞じゃ!」 ここで「ケンカ」しても「お外でお休み」にはなりません。 思いっきりやっちゃうんだから! って、コンちゃんの攻撃、わたしの髪を引っ張るの。 「痛いいたい!」 わたしも反撃、コンちゃんの方が髪長いから引っ張りやすいんですよ〜だ。 「何するのじゃ馬鹿タヌキ!」 「返り討ちなんだからこの女キツネ!」 勝敗のゆくえ……みなさんの想像におまかせです! pmy124 for web(pmy124.txt/htm) pmy124 for web(pmy124.jpg) NCP5(2014) illustration やまさきこうじ HP:やまさきさん家のがらくた箱 (pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=813781) (C)2008,2014 KAS/SHK (C)2014 やまさきこうじ