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■  ポンと村おこし  第135話「駐在さんvs帽子男」           ■
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 開店前に一緒しているのはシロちゃんなの。
 いつもはパトロールに行くんですが……
 今日はお店に残ってもらって、お手伝いしてもらうんです。
「ポンちゃん、本官は何をするでありますか?」
「うーん、パンを並べるのはわたしの仕事で、手伝ってもらうと楽だけど……」
 それだったら別に一人でも出来ちゃうんです。
 なんでシロちゃんに残ってもらったんでしょ?
 わたしとシロちゃんがモジモジしていると、奥から足音がしてミコちゃん登場。
「あ、ミコちゃんミコちゃん!」
「はいはい、何、ポンちゃん?」
「今日、シロちゃんに残ってもらってるんだけど」
 わたしがシロちゃんに目をやると、シロちゃん小さくうなずきます。
 ミコちゃんニコニコして、
「シロちゃんには、これを手伝ってもらいます」
「??」
 ミコちゃん、紙袋に入った「なにか」をテーブルに置きます。
 中から出て来たのは……チラシですね。
「これ、チラシ、どうしたんです?」
「うん、配達人さんに頼んで作ってもらったの?」
「はぁ?」
「このチラシを『ぽんた王国』に置いてもらうの」
「ああ、なるほど、これでお客さんに来てもらうんですね」
「ピンポーン」
 でもでも、チラシ、ただ印刷されただけだったの。
 場所をとるから……
 3つに折ってから「ぽんた王国」のレジの所に置いてもらうんだって。
 わたしとシロちゃんで、もらったチラシを3つに折りながら、
「そういえば……」
 わたしがレジの方を見ると、シロちゃんもチラっと目をやって、
「最近レジに『ぽんた王国』のチラシがあるであります」
「そうそう、置いてある、あんな感じなのかな?」
「きっとそうであります」
 レジには3つに折った「ぽんた王国」のチラシがあるんです。
「最初はどうなんだろ〜って思ったけど」
「どうしたでありますか?」
 わたし、ぽんた王国のチラシを持ってきます。
 開いてみると豆腐屋さん・おそば屋さん・土産物屋さんの案内。
 そうそう、ニンジャ屋敷の案内もあるんです。
 カラーで写真もいっぱいで、ぽんた王国の雰囲気がよくわかるの。
「なんといってもポイントはですね」
「?」
「これですよコレ!」
「ニンジャ屋敷割引クーポン?」
 そうそう、ニンジャ屋敷の割引クーポンがついてるの。
 家族で入場するときは小学生まで無料なんだそうです。
 ニンジャ屋敷はぽんた王国の目玉アトラクションですからね。
「でも、こっちもよくないですか?」
「?」
 もうひとつ「チラシ持参の方には」ってあって「ラスクをプレゼント」。
「ねぇ、おいしくない?」
「ラスクはおいしいであります……って、ラスクはパン屋が卸しているであります」
「ですね、なにかその流れでこっちのチラシも置いてもらうんじゃない?」
 って、パン屋さんのチラシなんですが……
 ぽんた王国のチラシと比べるとチープもチープ。
 黄色い紙に印刷してあるだけ。
 写真もなにもない……って思ったら絵があります。
 レッド画伯の描いた絵ですね。
「パン屋のチラシは絵だけであります」
「だね……カラーじゃないし、なんだかぽんた王国とえらい差です」
 シロちゃん、しげしげと絵を見ながら、
「でも、この絵はすごいでありますよ、ミコちゃんが描いたでありますか?」
「あ、シロちゃんは知らないんだ、これ、レッドだよ、写真みたいに描けるの」
「レッドの絵でありますか!」
「この間、わたしも学校で初めて知ったの、鉛筆で写真みたいに描くよ」
「レッド、すごいでありますね」
 わたし、チラシを見ます。
「やっぱりダメです、レッドは下手です」
「なんででありますか、すごい上手でありますよ、写真みたいであります」
 チラシにはわたしとコンちゃんが描いてあるの。
「パン屋さんでお待ちしてま〜す」なんて書いてありますが……
「シロちゃん、よく見てよ」
「?」
「わたしの胸が小さいっ!」
「……」
「この間、大きく描くように言ったのに、全然聞いてないっ!」
 シロちゃんの頭上に裸電球が浮かびます。
「ポンちゃんこの間、お外でお休みであったであります……あれは確か!」
「うう……お外でお休み言わないで」
「レッドに強要したでありますね、胸を大きく描くように」
「うう……だってだってー!」
「しょうがないでありますね」
 シロちゃん手を止めて、チラシをしげしげ見ています。
「チラシ作戦、うまくいくかな?」
「難しいでありますね」
 シロちゃんため息まじりに、
「今のパン屋は正直充分と思うであります」
「なんの事?」
「お客さんの数であります」
「??」
「観光客のバスも来るでありますし、車のお客も来るであります」
「だね」
「村に来る人の人数で客の数が決まるでありますから、きっとこのくらいで充分の筈であります」
「むむ、そっかー」
「まぁ、本官、チラシ折りの任務に努めるであります」
 シロちゃん黙々と折り始めました。
 わたしも一緒するとしましょう。
 二人で紙のこすれる音。
 そしてテレビの音がします。
 コンちゃんは配達に行っていないんですが、テレビはついてるの。
 そんなテレビの音を聞きながら、手を動かし続けていると……
 いきなりテレビから「バン!」って音。
 一瞬手を止めて見てみると、時代劇で御老公がピンチです。
 また「バン!」「バン!」って銃声。
 時代劇なのに……今回の悪党は南蛮渡来の御禁制・ピストルを持ってるみたい。
 わたしもついつい手が止まって、画面に見入っちゃいます。
 これは印籠を出してもダメですね。
 むむ、どーなるんだろ。
「ポンちゃん……」
「なに、シロちゃん、今、いいとこなんだけど……」
「わかっているであります、本官も気になってるであります」
 わたしとシロちゃん、固唾をのむ。
 画面が暗くなって、「風ぐるま」が飛んできました。
 悪党の拳銃を持った手に刺さる「風ぐるま」。
「むむ、ここぞというときは弥七ですね」
 弥七登場、そして飛猿に由美かおる、ニンジャ大活躍!
「悪党もたいした事ないでありますね」
「まぁ、時代劇だしね、ヤラレ役だしね」
「銃を持っててやられるなんて、腑抜けであります」
「婦警さんが悪党を推していいのかな〜」
「今はパン屋の娘であります」
 御老公終わっちゃいました。
 シロちゃんとわたし、黙ってチラシを折っていたんだけど、シロちゃんの手がそっと動いてテレビのリモコンを操作するの。
 チャンネルが切り替わって「ドカーン」!
 いきなり爆発シーンです。
 今度は刑事ドラマ「西警察」。
 派手なアクションが売りで、老人ホームでも人気なんですよ。
 ちょっと派手すぎて……大袈裟でちょっと面白い。
 今日も西警察のパトカーが犯人を追いかけて……
「ねぇねぇ、シロちゃん」
「何でありますか、ポンちゃん」
「シロちゃん、これ見て面白い?」
 わたし、すごく面白いというか、大袈裟で笑っちゃうけど……
 婦警のシロちゃんはどう思ってるんでしょうかね?
 普通の警察官はこんな事しないと思うんですよ。
 パトカー箱乗りして、拳銃撃ちまくり。
 爽快……ないでしょ、こんなの。
 ああ、テレビの中では悪党がやられちゃってます。
 すごい銃撃なんだけど、最後は怪我くらいで逮捕されちゃうの。
「本物の警官はこんな事しないよね」
「ドラマでありますからね……ふう」
「どうしたの、ため息なんかついて」
「本官もこれくらい盛大に撃ちまくってみたいであります」
 言いながら銀玉鉄砲出してきました。
 一瞬わたしに狙いをつけて、
「ちょっ! 人に向けたらいけないんだからっ!」
「豆タヌキであります」
「今は人なんですー!」
「どっちにしても……」
 あれれ、シロちゃん、元気ないですね、ため息ばっかり。
「シロちゃん大丈夫? どうしたの?」
「本官、撃ちたいのは本物であります……」
「……」
「駐在さんは知ってて、本官に銃を与えてくれません」
 そりゃ、そーでしょ。
「帽子男も、本物を貸してくれません」
 そりゃ、そーでしょ。
「撃ちたい! うちたい! ウチタイ! UCHITAI! であります」
 ダメですね、この女犬はただの撃ちたがり。
 もう聞く耳持ちません。
 わたし、黙ってチラシを折っていたけど……
 テレビの中では悪の幹部連中が悪だくみの相談してるの。
 ついつい見入っちゃいました。

『ボス、我々の戦力では●●組には勝てません』
『むう……サツの連中もうるさいというのに』
 そこにメガネのインテリやくざ登場です。
『我々が●●と警察を相手にするのではなく、●●と警察を戦わせるのです』

 むう、インテリやくざ、言いますね。
 弱者が生き残るためには、それも戦略の一つでしょう。
「でも、こーゆー作戦は案外うまくいかな……」
 わたしがシロちゃんに言ってると、シロちゃん目が少女漫画みたい。
「これであります!」
「は?」
「これであります!」
「え?」
「駐在さんと帽子男を闘わせるであります!」
「はぁ!」
「駐在さんスゴ腕であります」
「ですね」
「帽子男もスゴ腕であります」
「なんたって元殺し屋ですからね」
「両雄並び立たず、両者共倒れであります!」
「……」
「早速闘わせるでありますよ」
 ああ、シロちゃんルンルンしてるの、すごい伝わってくるの。
 チラシの裏になにか書き始めました。
 ふむふむ……果し状ですね。
「いけすかない警察の犬、勝負だ……ですか」
「これで駐在さんをおびき出すであります」
「こっちは……所詮は殺し屋風情の腕前、相手になりません……ですか」
「帽子男は激怒するであります」
 シロちゃん、果たし状を持って立ち上がると、
「早速届けて来るでありますよ!」
 行っちゃった……なんだか嫌な予感がするんだけど……

「で、ポンちゃん、どうなってるの?」
「わたしに言われても〜」
 そう、パン屋の駐車場はまさに西部劇決闘モード。
 久しぶりの対戦は……駐在さんと帽子男です。
「で、ポンちゃん、どうなってるの?」
 さっきからわたしに聞いているのはミコちゃん。
 ニコニコ愛想笑いしてるけど、こめかみに「怒りマーク」ピクピクしてます。
「わ、わたしに聞かれても……」
「何があったの! ねっ!」
「えっと、シロちゃんがね……」
「シロちゃんが?」
 わたし、シロちゃんが果し状を二人に出したのを言います。
 ミコちゃんの「怒りマーク」は消えましたが、あきれ顔になってるの。
「ミコちゃん、どうしたの?」
「うん……シロちゃんが果し状を書いたのよね」
「うん、わたしの目の前で」
 ミコちゃん腕組みして考える顔。
「でもって、駐在さんと帽子男さんはここで決闘してるのよね」
「まだ『見合って』る状態ですけど」
 わたしとミコちゃん、駐車場の二人に目を向けます。
 まず帽子男が、
「ゴラ、ポリ公、『所詮は殺し屋風情の腕前、相手になりません』だとっ!」
 駐在さん、さめた顔で、
「『いけすかない警察の犬、勝負だ』とは身の程知らずですね」
 二人の目が鋭く光りました。
 同時に構える二人。
「「パンッ!」」
 銃声も同時でした。
 そして静寂。
 崩れ落ちる二人。
「あわわ、二人とも死んじゃった!」
 わたしがびっくりして言うと、ミコちゃんもトレイを抱きしめて、
「私もびっくり……本当に死んじゃうなんて!」
 あんまりびっくりで、どうしていいかわかりません。
 駐車場に倒れている二人。
 小鳥の鳴き声が聞こえて、すごいのどかだったりするの。
 でも、二人は倒れていて動きません。
「えっと……ミコちゃん、なにかしないといけないと思うんだけど」
「わ、私もびっくりして固まっちゃった」
「ど、どうしよう、ミコちゃん」
「ど、どうしたらいいかしら、ポンちゃん」
 って、問答してると新たな人影が登場、シロちゃんです。
 二人が倒れているのを見て、少女漫画のキラキラ瞳になってるの。
「ああ、警察官と殺し屋が死んでいるであります!」
 すっごい嬉しそう。
 シロちゃん、一瞬銃に手が伸びそうになりますが……
 まずは二人の手首を触って、
「ミコちゃん、あれ、なにやってるんでしょ?」
「脈をとってるんじゃないかしら」
「脈?」
「死ぬと心臓止まっちゃうでしょ」
「あー!」
 シロちゃんの顔、真顔なんだけど、ちょっと崩れて頬がピクピク。
 笑いを堪えていますね、あれは。
 シロちゃん、倒れている二人を仰向けにして、
「さすが二人、心臓を一撃であります!」
 ルンルン顔で言うシロちゃん。
 って、ミコちゃんわたしの肩をつついて、
「ねぇ、ポンちゃん、シロちゃんは何がしたいのかしら?」
「二人を決闘させて、共倒れさせる作戦」
 ミコちゃんしかめ顔をわたしに向けて、
「共倒れさせて、何がしたいの?」
「二人の持ってる拳銃ゲットじゃないの」
「あのバカ犬〜」
 シロちゃん、拳銃ゲット出来ても、後でミコちゃんの術の餌食確定です。
 ニコニコ顔で拳銃を拾いに行くシロちゃん。
「!!」
 わたしとミコちゃんびっくり!
 駐在さんと帽子男、胸を血に染めて立ち上がったの。
 二人同時にシロちゃんの頭に「本気チョップ」!
illustration やまさきこうじ
「ゴン」なんて音がして、シロちゃん☆3つのダメージです。
 ああ、シロちゃんの頭上でひよこがダンス。
「ななな!」
 びっくりするシロちゃん。
 駐在さん、への字口で、
「まったくシロは……」
 帽子男、腕組みして、
「どうしようもない撃ちたがりだなぁ〜」
 シロちゃん、頭を押さえて涙目なの。
 でも、その目が「キラン」と輝きました!
 落ちている銃を拾います。
「これさえあれば、こっちのものであります!」
「チャッ」って両手撃ちの構え。
 漫画みたいでかっこいい!
 でも、駐在さんも帽子男も「トホホ顔」ですよ。
 シロちゃんの指が引き金を引きます。
 あれれ、銃声、しませんね。
 どうしたのかな?
 駐在さん、果し状をシロちゃんに見せながら、
「この文面で引っ掛るわけがないでしょう」
 帽子男は果し状の裏を見せながら、
「チラシの裏に果し状書くかなぁ、バレバレ」
 シロちゃんの手から銃が落ちます。
 わたしとミコちゃんもあきれてため息。 

 夜、月がとってもきれい。
 わたしとシロちゃん、ダンボールの刑。
 お外でお休みナウですよ。
「シロちゃんのバカ」
「うまくいくと思ったでありますよ……二人の脈はなかったであります」
「あ、それ、気になった、どーしてですか?」
「二人ともプロフェッショナル、一瞬脈を止めるなんてお茶の子らしいであります」
「そうなんだ……駐在さんはなんで脈を止める必要なんてあるんです? 警察でそんな必要あるんですか?」
「射撃の時の手ぶれ防止であります」
「そ、そうなんだ……」
「奥が深いでありますよ」
 そんなの解っても、お外でお休みのがっかり感は減りません。
「もう、シロちゃんのとばっちりなんだから」
 わたしが「お外でお休み」なのはシロちゃんを止めなかったから。
 でもでも、シロちゃん果し状書いてダッシュだったもん。
 止めようがないんですよええ。
 シロちゃん、体育座りで小さくなってます。
 むむ、小さくなってる……反省してるみたい。
「ポンちゃん……」
「なに、シロちゃん?」
「今度は駐在さんと帽子男を、保健医と闘わせようと思うでありますが、どうでありましょう?」
 この女犬は全然反省していません。
 チョップですチョップ!



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