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■  ポンと村おこし  第150.5話「いもほり本番」            ■
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 今日は「芋掘り遠足」の日なんです。
 花屋の娘に頼まれて、わたしとレッド、それとシロちゃんも参加するの。
「ねぇねぇ、花屋さん」
「何? ポンちゃん?」
「わたし達はなにをしたらいいのかな?」
 花屋の娘、わたしとシロちゃんを見ながら、
「そうね、ポンちゃん、シロちゃんは子供が逃げないのを見てて欲しいのよ」
「逃げる?」
「ほら、山の中の畑でしょ、どこかに行ったらわからないじゃない」
「それを監視する役ですね」
「そうそう、それにポンちゃんもシロちゃんも半分は動物なんでしょ」
「半分は動物……」
 まぁ、そんな感じでいいんですけどね。
「だから、見失ってもニオイで探してくれそうだし」
「あ、それは確かに、わたしの鼻はタヌキの時と同じ様に利きますよ」
「まぁ、そこまで悪い子はいないとは思うけどね」
 そうそう、今日はポン吉がいません。
 リハーサルの時にはいたのに、
「ねぇねぇ、なんでポン吉はいなんですか?」
 わたしが聞くのに、花屋の娘は感情のない顔で、
「ポン吉は来れないって言ってた」
「はぁ、そうなんですか」
「でも、だからこそ、シロちゃんを呼んだのよ」
「え?」
 わたしびっくり、シロちゃんも気になったのか、
「本官、呼ばれた理由が別にあるでありますか?」
「シロちゃんは警官よね、ミニスカポリス」
「であります」
「泥棒が現れたら、当然タイホしてくれるのよね」
「で、ありますね」
 花屋の娘、園児を迎える準備をしながら、
「実は、芋畑とは別にスイカやとうもろこし、あるでしょ」
 そうそう、リハーサルの時にも気になっていました。
「あの野菜とか、明日収穫するって、ポン吉に聞こえるように話したのよ」
「「!!」」
 わたし、シロちゃんを見ます。
 シロちゃん、わたしを見てます。
 わたしたち、花屋の娘を見て、
「つまり、ポン吉は野菜泥棒に現れるとでも?」
「そう、遠足は来週って言ってあるの」
「はたして、ポン吉現れるでありますか?」
「今日、私は仕事で不在って設定なのも聞こえるように言ってある」
「来ますね」
「来るであります」
 あのポン吉の事です、この間のリハーサルの時だって野菜に目をつけてました。
 でも、ちょっと待てよ……
「さっき、『ポン吉は来ない』って言いませんでした?」
「うん、それが?」
「それって、一応ポン吉に声、掛けたんですよね?」
「うん、そうだけど」
 花屋の娘、ニヤリとして、
「ポン吉には、とても重要な『役』をやってもらうのよ」
 言いながら、「水鉄砲」と書かれたダンボールを見せてくれる花屋の娘。
 ダンボールの中には大小の水鉄砲がどっさり。
 わたしもシロちゃんも納得して、小さくうなずきました。
 って、幼稚園のバスがやってきましたよ。
 これからはまず、芋掘りですね。

「助かります、でも」
 引率の先生は、芋掘りにとりあえずは満足みたいです。
 園児たちは、芋掘りに熱中しています、今は。
 レッドもそんな園児たちにまじって、芋を掘っているんですが……
 引率の先生、不安気な顔でわたしを見ます。
「そろそろ飽きちゃう気が……」
「あー、ですね、なんだかわかりますよ」
「逃げないか、心配で心配で」
 一方では配達人がバーベキューの準備をしています。
 そんなわたし達の話しを聞いたのか、
「じゃあ、ごはん早めにする? 焼くだけだけど?」
 引率の先生、バーベキューの準備を見ながら、
「あの、ごはんは……」
 配達人、困った顔で、
「レンジごはん持ってきたけど、茹でると10分・15分なんだよね」
 配達人は言いながら、大きな鍋を見つめるの。
 レンジごはんが大きな鍋にたくさん茹でられていますね。
 まだ、園児たちは「飽き」たような感じではないです。
 でもでも、引率の先生の顔は暗いの。
 頑張って芋を掘っている園児たち。
 一緒しているレッド。
 シロちゃんも、周囲に目を配りながら芋を掘っています。
 わたしは「大丈夫」って思うんだけど、先生の表情からすると「やばい」んでしょうね。
 ここは先生の「カン」が、なんだか正しい気がします。
 花屋の娘がやって来て、
「じゃあ、今からサバゲーの開始ね」
「え?」
 戸惑う引率の先生。
 わたしはさっき見たからびっくりはしないけど、
「ちょっと早くないですか?」
「いいから、いいから、はーい、みんなー。こっちに集ってー!」
 花屋の娘が「水鉄砲」を手に声を掛けると、園児たちは顔を上げて駆けて来るの。
 引率の先生も、なんだか訳の解らない顔で水鉄砲を配るのに参加です。
 園児たちは受け取った水鉄砲に
「なに! なに?」
「これからなにがあるの!」
 レッドも小さい水鉄砲を手に、
「なにごとですかな?」
 花屋の娘はみんなに水鉄砲が行き渡ったのを見てから、
「はーい、みんなー、得物はゲットできましたかー?」
「「「「はーい!」」」」
 みんな、いい返事です、またテンションがあがってきたみたいですよ。
「みんなー、芋掘りは楽しかったー?」
「「「「はーい!」」」」
「みんなにはー、今からー、やってもらいたい事がありまーす!」
「「「「なになにー!」」」」
 花屋の娘、シロちゃんを手招きしながら、
「みんなにはー、得物を使ってー、退治してもらいたい悪い動物がいまーす!」
 って、園児たちの目が、水鉄砲が、わたしに向けられます。
 わたしだって負けていません、睨み返すんですよええ。
 って、花屋の娘、そんな園児たちの態度にびっくり。
「ちょっ、あんた達にポンちゃん殺せるわけないじゃない、返り討ちにあうわよっ!」
「花屋さんは、今度しっかり話し合う必要があるみたいですね」
「だってポンちゃんこわいじゃない」
 言いたい放題ですね、園児たち、笑ってます、引率の先生も笑ってます。
 配達人がニコニコしながら、
「そうだよな〜、こわいよな〜」
「配達人さん、覚えててください、電気あんまとか覚悟しててください」
「こ・わーい」
 みんなが笑顔になったところで、花屋の娘はペットボトルのついた水鉄砲?をシロちゃ
んに渡してから、
「ここの周りにはー、野菜畑もあるんでーす」
 周囲の畑を見回す園児たち。
 シロちゃんは手にした「水鉄砲?」を見て、首を傾げています。
 水鉄砲みたいだけど、なんだかちょっと違うみたい。
 ペットボトルの中に水は入っているんですけどね。
 でも、普通の水鉄砲じゃないです、何かが違います。
「引き金」は付いているんですけど……
 花屋の娘、わたしとシロちゃんに視線をくれます。
「畑の野菜をー、泥棒するー、悪い動物さんがー、いるんですよー!」
 一番年長そうな男児が、
「それを退治するのかよっ!」
「そうでーす!」
 わたし、気付きました。
 花屋の娘の目が、鋭さを増したんです。
 シロちゃんも、そんな花屋の視線の先を察したようです。
「タイホでありますっ!」
 シロちゃん、受け取った得物を構えるの。
 引き金を引くと、水が飛び出すんじゃなくて、ペットボトルの方がロケットみたく飛ん
で行きます。
 噴出す水にビショビショになるシロちゃん。
 でもでも、それにびびって姿勢を崩すなんてしないの。
 そんなびくともしないシロちゃんのおかげで、ペットボトルは真っ直ぐ飛んで行くんで
す。
 ペットボトルの向かう先には、不自然に揺れるトウモロコシが!
 トウモロコシの林に消えるペットボトル。
「ボコッ」って重たい音がして……
「ぎゃー!」
 ポン吉の声です。
 ペットボトルを手に、トウモロコシ林から出てきたポン吉は、
「痛いじゃねーか、死ぬかと……」
 って、ポン吉とシロちゃんの目が合います。
 ポン吉、ふるふる振るえながら、
「シロ姉、オレを撃ったのかっ! そ、そんなっ!」
「ポン吉、野菜泥棒、タイホであります!」
 シロちゃん、いつの間にか一番強そうな、一番大きな水鉄砲を抱えているの。
 でも、自分で撃ったりしないで、
「それ、子供らよ、泥棒タヌキをタイホであります、撃ちまくりであります」
illustration やまさきこうじ
「「「「わーい!」」」」
「げっ!」
 普段のポン吉なら子供相手に逃げ遅れるなんてないでしょうけど……
 いい感じで盗んだトウモロコシやスイカを抱えているの。
 あっという間に子供らに囲まれて「水攻め」なの……水鉄砲だけに。

 泥棒仔タヌキは捕まりました。
 花屋の娘は盗まれたトウモロコシやスイカを確認しながら、
「ふふ、バカな仔タヌキね、収穫の手間が省けたわ」
「ひ、ひどい、オレを騙したのかよっ!」
「ま、いいじゃない、子供達、よろこんでいるわよ」
 縛られたポン吉の前で、子供たちはニコニコしてます。
 花屋の娘はトウモロコシを適当に切ってバーベキューの網に載せると、配達人・引率の
先生に目で合図。
 すぐさま二人は動いて、網の上にはお肉や、獲ったお芋が、お皿には茹でていたレンジ
ごはんが盛られるの。
 わたしは子供らを誘導して手を洗わせて、シロちゃんはテーブルに連れて行きます。
 園児たち、バーベキューも嬉しいみたいですが、
「とったおいもー」
「食べれるのかしら?」
「ふわわ、大きい〜」
 盛り上がってるみたいです。
 引率の先生、みんなのテンションが高いのに手早く、
「はーい、手を合わせましょう〜」
 みんな静かになって手を合わせてます。
 レッドもいつもやってるから、手をあわせて先生を見ているの。
「いただきます」
「「「「いただきまーす!」」」」
 みんな元気ですね。
 飽きずに、芋掘り遠足は終われそうです。
「ちょ、ちょっと、オレにはゴハン、ないのかよっ!」
 そうそう、泥棒仔タヌキは縛られて、もがいています。
 わたし、シロちゃん、ポン吉の前で、
「どうしたものでありますかね」
「仔タヌキの丸焼き……ポン吉だとお腹壊しますね」
「な、ポン姉、覚えてろ、シロ姉、あんまりだ!」
 そうそう、シロちゃん、ポン吉に額のこぶを撫でながら、
「まぁ、ペットボトル・ロケットをぶつけたのはなんであります」
 言いながら、縄を解きますよ、いいんですか?
 って、シロちゃん、銀弾鉄砲をポン吉のこぶに押し付けながら、
「子供達にお肉をとってあげるであります、配膳係りであります」
「えー!」
「泥棒は罪を滅ぼすであります」
「えー!」
 シロちゃん、こめかみをピクピク、引き金に掛かった指もピクピク。
「うえ……」
 ポン吉、すごすごと子供達のお食事を手伝うの。
 最初から「良い子」にしていればよかったんです。
 まぁ、あとでゴハン、ちゃんと食べさせてあげますよ。


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