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■  ポンと村おこし  第153話「夕飯のおはなし」             ■
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「ポンちゃん、今日はありがとう」
 村長さん、ニコニコ顔です。
「どういたしまして、今日は観光バス来ない日だったし」
 さっきまで老人ホームでレクリエーションのお手伝いをしていたんです。
「しかし疲れたのう」
 コンちゃん、ぼやきます。
 でもでも、コンちゃんはたいした事してなかったような……気が……します。
「じゃあ、これ、いいわよ」
 村長さんは言いながら、小さな容器を二つくれるの。
 ムースです、ムース、学校給食に出るヤツです。
「わーい、ムースなのじゃ!」
「甘いのは嬉しいかも!」
 わたしとコンちゃん、ムースをもらってパン屋さんに帰るとします。
 でも……
 そんな帰り道に会いたくない人と出会ってしまうの。
「ポン姉〜」
 レッド、ダッシュでやって来るの。
「ポンちゃん、どうしたの?」
 レッドの後からやって来るのは千代ちゃんです。
 二人はわたし達の持っているムースをガン見。
「ちょ、このムースはわたし達のお駄賃なんだから!」
「むーす! むーす!」
 レッド、もう貰えるものと思って獣耳モードです。
 うーん、取られちゃうのかな〜
 ずっとわたしの服をひっぱるの。
「しょうがない……しょうがない」
 もう、涙がちょちょ切れちゃうんです。
 レッドはムースを貰って大喜び。
 千代ちゃんはそんなレッドの頭を撫でながら、
「私もレッドちゃんに捕まっちゃって……」
 って、目を細めてコンちゃんの方をチラチラ。
 コンちゃん、髪をうねらせながら、
「ムースはわらわのものなのじゃ! あげないのじゃ!」
「コンちゃん、大人気ないよ、ムースあげなよ」
「嫌なのじゃ、わらわムース好きなのじゃ」
「千代ちゃん、ある事ない事ミコちゃんに言うよ」
「うっ! ううっ!」
 コンちゃん、大泣きで千代ちゃんにムースをあげるの。
 そうですよ、ムースくらい我慢するんです。
 お姉さんは我慢なんです、我慢。
「からすがなくゆえ、かえるゆえ」
 レッド、わたしのしっぽを握って言います。
「そうですね、早く帰りましょ、ちょっと長くなっちゃいましたよ」
 そうそう、老人ホームのレクリエーション、今日はちょっと長くなっちゃったんですよ。
 いつもはおやつの時間を区切りに終わるんですけど、今日はおじいちゃん達のテンショ
ンもすごくて、休み時間もなく夕方までブッ通しでしたもん。
 そうこう言っているうちに、学校の方から5時のオルゴールが流れてきました。
「そうじゃのう、今日は本当に長かったのう」
「職員さん達も大変そうでしたもんね」
 レッドはしっぽに取り付いて、もらったムースにニコニコしてます。
 わたし、隣を歩いている千代ちゃんに、
「千代ちゃんも、今日は遅くないですか?」
「うん、レッドちゃん、なんだかお絵かきにはまっちゃって」
「はぁ」
「一枚もらった」
 千代ちゃん、鉛筆絵を見せてくれるの。
 千代ちゃんを描いた絵ですけど、レッド、たいしたものです。
 本当、写真みたいな出来ですよ。
「レッド、絵はすごいんですけどね」
「今日はなんだかたくさん描いてたよ、もう、固まって動かなかったもん」
「千代ちゃん、別に付き合わなくてもよくない?」
「うーん、みどりちゃん、早々帰っちゃったから、私しかいなかったし」
「では、ムースくらいあげないとですね」
「えへへ」
 千代ちゃん笑うと、コンちゃんプウと頬を膨らませて、
「わらわのムース……クスン」
「クスンはウソ泣き」
 千代ちゃん即答です。
 でも、ムースを見ながら、それをコンちゃんに返してしまうの。
「え! いいのかの!」
「うん、今日の給食でジャンケンで勝ったから、2個食べたし」
「やったのじゃ!」
 コンちゃん、ムースを手にピョンピョン跳ねてます。
 レッドと一緒になって獣耳になって大喜びですよ。
 千代ちゃんと一緒にお帰りなんですが……
「千代ちゃん、なんで一緒に帰るんですか? 方向違うけど……」
 って、千代ちゃん手を上げると、レッドの手が握られてます。
 レッド、なんで千代ちゃんは手で、わたしだとしっぽなんでしょ。
「どうしよっかな、今日はパン屋さんに泊ろうかな」
「千代ちゃんならいいかも、お家に連絡したらいいと思うよ」
「え! いいの?」
「ええ、別に問題ないですよ、千代ちゃんなら」
「千代ちゃんなら? どゆこと?」
「吉田先生とか、保健の先生とか、花屋の娘はミコちゃん怒るかも」
「え? なんで?」
「家庭訪問でごはんをたかりに来るからですよ、ビールとから揚げ」
「吉田先生、そんな事してるんだ」
「もう、レッドをだっこして入るなり『ビールとから揚げ』で、ミコちゃんこわい顔にな
るんですよ」
「そ、そりゃぁ……」

「あれ? ミコちゃんと店長さんは?」
 パン屋さんでお迎えしてくれたのはシロちゃんでした。
「二人は老人ホームに出かけたであります」
「なんで?」
 千代ちゃんは家に電話を。
 レッドは手を洗いに。
 コンちゃんはムースをみどりに見つかって……泣いています。
 シロちゃんが、
「なんでも老人ホームで鍋をひっくりかえしたそうです」
「むう、夕飯が一品、無くなったとか?」
「多分そうでありますよ」
 見れば配達人がいます。
 わたし、シロちゃんに目で聞くと、
「配達人は明日の朝にパンを貰うのにお泊りであります」
「そうなんだ」
 シロちゃん、頭をかきながら、
「ごはんがないであります、ミコちゃんの帰り待ちであります」
「むう、どうしよう」
 ジャーの中にごはんはあります。
 でも、おかずがないみたいですね。
「どうしよう、ミコちゃんいないと……」
「本官もそう思ったので聞いたであります」
「どうだった?」
「老人ホームでついでに作ってくると言ってたであります」
「じゃあ、ミコちゃん待ちだね」
「であります」
 配達人は……ま、どうでもいいでしょう。
 千代ちゃんは……ま、大人しく待ってくれそう。
 みどりも……まぁ、黙って我慢してくれそう。
 レッドとコンちゃんが……特にコンちゃんが「ブーたれ」そうですね、むう。
 そんなわたしとシロちゃんの前に、レッド・みどり・千代ちゃんが戻ってきました。
「手を洗ったゆえ」
「千代がいるのはどうして?」
「家に電話したから、お泊りOKだよ」
 3人が言うのに、わたしはシロちゃんを、シロちゃんはわたしを見ます。
『ポンちゃん、温泉に行って欲しいであります』
『シロちゃん、なんで?』
『食事がまだであります』
『うん、わかるけど……』
『ミコちゃんと店長さんが戻ってくるまで、時間稼ぎをするであります』
『なるほど!』
 シロちゃん、チラッと千代ちゃんを見て、
『幸い、千代ちゃんがいるであります、特別な感じで温泉に行くであります』
『温泉の神さまもいるから時間稼げそうだしね』
 シロちゃんの言う通り、温泉に行くとしましょう。

 温泉の神さま、レッド達と遊んでくれています。
 わたしとコンちゃんは湯船に浸かりながら、そんなのを眺めつつ、
「なるほど、ミコは老人ホームに行っておるのかの」
「鍋をひっくりかえしたヘルプみたいです」
「ともかくミコが帰ってくるまでは時間稼ぎだったのかの」
「そうなんですよ、家のお風呂だとレッドすぐに上がっちゃいますよね」
「子供はそんなものかのう」
「え、そうです? わたし、みどりと一緒に入ると、みどりは長い〜」
「むう、確かにみどりは長湯かの、うむ」
 わたし、脱衣所の柱に掛かった時計を見ます。
 そろそろ1時間。
 時間稼ぎには充分でしょう。
「レッドー帰るよー」
 って、温泉の神さま、レッドを乗せてやってきます。
「もう帰るのかの? もうちょっと遊ぶのじゃ」
「これ以上遊んでいたらユデダコになっちゃうよ」
 って、わたし、コンちゃんに合図。
 同時にコンちゃんが元栓を「きゅっ」です。
「ふごっ! 何をするかっ!」
「また連れて来ますから」
「タヌキ娘、覚えておれっ!」
『いちいち覚えてませんよ』
 小さくなった神さまなんてコワクないです。
 レッドとみどり、千代ちゃんを脱衣所に出したところで元栓開放。
「タヌキ娘、覚えておれっ!」
「また連れてきますよ、いつまでも遊んでるわけにいかないでしょ」
「むー! 卑弥呼が来たら嫌かのう」

 着替え終わったら、レッドとみどりは船を漕ぎ始めちゃいました。
「むう、レッドとみどりはおんぶですね」
 わたしはみどり、コンちゃんはレッドをおんぶして帰り道。
「千代ちゃんが寝なくてよかったよ」
 千代ちゃんは着替えのカバンを持ってくれてます。
「私はそんなに遊んでなかったから」
「千代ちゃんは神さまと遊ぶの、嫌なんですか?」
「うーん、ちょっとはいいけど、温泉ならゆっくりしたいかな〜」
「そうなんですか」
「レッドちゃんやみどりちゃんと一緒だと、それだけでゆっくりはできないかな」
「そう言われると、そうですね」
 って、コンちゃんが、
「しかしレッドをおんぶしては、疲れるのう」
「コンちゃん、レッドとみどり、交換しようか、みどりの方が重いと思うよ」
「レッドでよいのじゃ」
 コンちゃん、わたしから顔を背けるの。
 そんなわたし、コンちゃん、ついつい鼻がひくひくしちゃいます。
「ああ、なにかおいしいニオイがしますよ」
「うむ、そうなのじゃ」
 わたし、コンちゃんに続いて千代ちゃんもクンクン。
「夕ゴハンのニオイだね」
 3人とも黙り込むの。
 まず、わたしが、
「お味噌汁」
 コンちゃんが、
「煮物……」
 千代ちゃんが、
「焼き魚……かな?」
 連想ゲームっぽいかな? わたしが、
「この感じだと、お魚に大根おろしとか」
「おお、いいのう、大根おろし」
 ちらっと千代ちゃんが見回しています。
 むむ、ちょうど駄菓子屋さんの前なんですよ。
「駄菓子屋さんのおばあちゃんなら、たまごやきとかないかな?」
「ああ、ですね、太巻きとか作ると、中に入ってます、おいしい」
 コンちゃん、真剣にクンクンして、
「むむ、たまごやき……いやいや、かつぶしとしょうゆの香りがするのじゃ」
 千代ちゃん、目が「ピキーン」となって、
「なら、きっとぽんた王国のお豆腐だよ、冷奴」
「おお、冷奴!」
「わたし、すごいお腹すいてきました」
「私も」
「わらわも」
 もう、村のおうちの夕ゴハンの香りでお腹の虫も鳴き出すの。
 コンちゃん、マジな顔で、
「わらわ、今のニオイのせいで焼き魚とお酒がいいのじゃ」
 千代ちゃんニコニコ顔で、
「おばあちゃんの煮物、いつも食べるけど……あれがないと、ちょっと物足りないかな」
「ああ、それってありますよね、なんとなくいつも夕飯にあがるの」
「ポンちゃんは何?」
 千代ちゃんが聞いてくるのに、わたし、ちょっと考えちゃいます。
「むう、ゴハンはともかく……海苔かな?」
「!」
「最初の一口はしょうゆをひたした海苔でパクっと……」
 そうです、なんででしょ、いつも最初の一口ってそんな感じです。
 千代ちゃんもコンちゃんも、わたしを嫌そうな目で見て、
「な、なんて事を!」
「ポンめ、よくも言いおったな!」
「わ、わたし、なにか悪い事言った?」
 千代ちゃん、わたしをひじでつつきながら、
「なんだかすごく食べたくなった」
「わらわもじゃ」
「そ、そう……」
「早く帰ってゴハンを食べるのじゃ!」
 コンちゃんが力説するのに、千代ちゃんも真剣な顔で頷くの。
 燃える二人を見ていたら、なんだかわたしも唾がどんどん出てきちゃう。
 頭の中はほかほかゴハンに海苔のイメージばっかりです。
「わたしも……早くゴハン、食べたくなってきました」
「ふふ、ポンが言い出しおったのじゃ」
「それはそうなんですけど、お腹も空いたからかな」
 千代ちゃんニコニコ顔で、
「きっとそれもあるよ、早く帰ろう」
「ですね、もう、ミコちゃんも帰ってきてるでしょう」
「そうなのじゃ! そうなのじゃ!」
 さっきまでレッドが重いとか言ってたコンちゃん、もう駆け出しそうな空気です。
「ああ、わらわ、どんどんお腹が空いてきたのじゃ、ポンがいかんのじゃ!」
 文句を言ってるわりに、コンちゃんは笑顔です。
 ですね、ともかく家路を急ぎましょう。
 夕飯、楽しみです。
 ああ、他所に家のゴハンの匂い、空腹に効きます。

「うまうまです!」
 レッド、スプーンが止まりません。
「本当、アンタもやるわね!」
 みどり、文句を言いながらも、トンカツを口に運んでいるの。
「ポンちゃん達も食べるであります」
 家に残っていたシロちゃん、事も無げにスプーンを動かしています。
「ほら、食べて食べて、俺が作ったのだけど」
 配達人、ニコニコ顔でわたし・コンちゃん・千代ちゃんの前にカレーを出すの。
 わたし・コンちゃん・千代ちゃんはプルプル震えが止まりません。
「ははは配達人さんっ! これはっ!」
「カレー、カツカレーとハンバーグカレー」
 配達人、胸を張って、
「カレーは簡単だけど、ハンバーグとカツは大変だったんだよ、手間だけだけど」
 千代ちゃん・コンちゃんが配達人を挟みます。
 二人の視線にわたし、応えます。
「ははは配達人さん……これはなんなんですかっ!」
「だからカレーだってば」
 配達人がニコニコ顔で言うのに、レッドが、
「ちょううまです、おいしいです、うまうまゆえ」
 みどりもスプーンを止めて、
「アンタ、なかなかね、ミコ姉には負けるけど、おいしいわよっ!」
 言い終えると、ハンバーグを頬張ってますよ、本当においしそう。
 シロちゃんも首を傾げて、
「ポンちゃん達はどうしたでありますか?」
 わたし、配達人をゆすって、
「わたし達は和食と思っていたんですよ!」
「そうなのじゃ!」
「海苔とゴハン〜!」
 コンちゃんと千代ちゃんが続いてくれます。
 配達人、一瞬嫌そうな顔をして、
「じゃあ」
 すぐにホカホカごはんと海苔、そうそう、小皿の醤油も出てきました。
「どうぞ」
「「「わーい!」」」
 ゴハンと海苔、最高です!
 すぐにお茶碗一杯完食するの。
illustration やまさきこうじ
 レッド、みどり、シロちゃんは不思議そうな目で見てますよ。
 だって、さっきまで想像してたんだもん。
 ゴハンと海苔、どうしても食べたかったんです。
「じゃ、これで終わりでいい?」
 わたし達、きっぱり言います。
「カレーも食べるんですよ!」
「わらわはカツカレー」
「ハンバーグおいしそう」
「なんなんだか、もう」
 配達人、わたし達の言葉にトホホ顔です。
 でもでも、レッド達の食べてるのを見てたら、カレーも食べたくなっちゃいました。
 配達人のカレー、ジャガイモやにんじん、すごく大きいの。
 ふふ、おいしくいただきましたよ。


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