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■  ポンと村おこし  第155話「もの思い帽子男」             ■
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「それそれー!」
 今日は学校に配達したんです。
 そのまま給食お呼ばれして、昼休みのドッチボールも参戦なの。
 ふふ、わたし、ドッチボール大好きですよ。
 狙った獲物は外しません。
 とは言っても、キャッチされたら終わりなんだけどね。
「おりゃー!」
 ポン吉が投げてきます。
 ニンジャなだけに、重たいボールですよ。
 体全体を使ってキャッチです。
 むう、まずはポン吉を殺さないとダメっぽいですね。
 ポン太はすでに殺しています。
 ダークホースは千代ちゃんだけど、まぁ、あとでじっくり。
 相手チームで大人はラーメン屋さんのイケメンさんだけです。
 でもでも、あの女々しいイケメン、なかなかどうして強いんですよ。
 うまく避けるし、ボールも重くないけど、キャッチできません。
 でも、今は、ポン吉を殺したい気分ですね。
 そのポン吉、わたしの正面で構えています。
 今、わたし・ポン吉、西部劇モードなの。
「ポン姉、こいよ、オレの方が強いって教えてやるよ」
「ポン吉、コロス!」
 わたし、全身をばねにしての投球です。
 でも、そんなわたしの目に、外野の帽子男の目が入って来ました。
「パスしろ」って目です。
 むう、わたしとしては正面から正々堂々勝負したい。
 でも、なぜか、帽子男の目にひかれました。
 わたし、全力でパス。
 キャッチする帽子男。
 即座にポン吉を背後から刺します。

 さて、昼休みも終わったので、パン屋さんに帰りますか。
 あれれ、運動場の埋められたタイヤに帽子男が座ってますよ。
 どうしたんでしょうね。
illustration やまさきこうじ
「どうしたんです?」
「ああ、ポンちゃん、うん、別に」
 帽子男、一度はタバコを出したけど、わたしを見て引っ込めました。
 わたし、別にタバコはどうでもいいんですが……
 吉田先生いつも吸ってますしね……
 でもでも、帽子男が心配なの。
 なんだかいつもと様子が違います。
 わたしも帽子男のとなりの埋められたタイヤに座るの。
 このタイヤ、運動場と学校の間にずっと並んで埋められていて、たまにこれで遊んだり
します。
 両端からダッシュして……落ちたらスタート地点に戻って……出あったらジャンケンす
るんですよ。
 そんな遊びをたまにしてるんですが、こう、体育の休憩の時の椅子代わりにもなってま
す。
「どうしたんです、なんだか元気ない」
「あ、そうか? ドッチでちょっと疲れたかな」
「えー、子供相手ですよー」
「子供相手だから疲れるんだろ、底なしだし」
「ああ、それ、なんだかわかります」
「大体微妙なんだよな、レッドがいて、接待しないといけないし」
「ふふ、レッドの接待ドッチ、わかる〜」
「ポン太とか、トリックプレー連発だし、ポン吉は結構重たいの投げるし」
「そう言われると、ポン太もなかなかですね」
「なんだよ、ポンちゃん、一番の強敵は多分ポン太と千代」
「そうなんです? わたしはポン吉とばかり」
「ポン吉元気ばっかりだろ」
「まぁ、ですね」
「そこへ行くとポン太と千代は『なにか考えてる』からな〜」
「ああ、それはわかるかも」
「ポン太がしっかりしてるかと思いきや、実は千代が一番めんどうくさそうな」
「千代ちゃんが……」
 って、帽子男、ブンブン首を横に振って、
「いや! いや! いや!」
「どうしたんです?」
「いや、最近、ちょっと思う事があってな……」
「はぁ……」

 で、パン屋さんです。
 今日もお客さん、いません、正直困ります。
 でもでも、相談がある時は、都合いいですね。
「そんな事があったんですよ」
 わたし、帽子男さんと話した事、コンちゃんに言うの。
 コンちゃん、ムスッとした顔でティーカップを口に運びながら、
「ふむ、そうかの、帽子男、ヒットマンに戻るというかの」
「なんだか、『昔の稼業に戻ろうかと思う』って真剣な顔で言うんです」
「あやつの昔の稼業はヒットマンじゃったの」
「ですよ、殺し屋ですよ」
「ポンは前の『ぽんた王国』で会った事あるかの?」
「ううん、わたしは会わなかったよ……でもでも長老は知ってるみたい」
「ふうん、そうかの」
「……」
「ふう……」
「ねぇねぇ、コンちゃん、なんだかどうでもいいみたいだけど」
「うむ、どうでもいいかの」
「えー! なんでー!」
「なんでもなにも……わらわの関するところではないのじゃ」
「そんな〜」
「ポンも関係ないであろう」
「……」
 うーん、帽子男さんとわたし……用務員さんとパン屋の店員さん……関係ないかな。
「でもでも、わたし、なんだか嫌かな」
「どうしてじゃ」
「だって〜」
「だって?」
「帽子男さん、結構朝、ここに食べに来ますよね」
「うむ、確かに」
「一緒に朝ゴハン食べたりもするから、なんだかほっとけません」
「しかしのう……あの男が用務員を辞めたがっておるようでは、しょうがないではないか
の」
「どうして辞めたいんでしょうね?」
「ふむ……」
 コンちゃん、空になったティーカップの縁を指でなぞりながら、
「辞めたいと言ったのかの?」
「!」
 そうそう、帽子男さんは「辞めたい」とは言ってないような。
「辞めたい……とは言ってなかったですよ!」
「では、何と言ったのかの?」
「そろそろ昔の稼業に戻ろうか……ですね」
「ふむ、そうかの」
「用務員の仕事はきついんでしょうか?」
「まさか、そんな事はあるまい」
 わたし、コンちゃん、黙っちゃいます。
 わたし……用務員の仕事を思い出すの、見た感じでは「草むしり」「子供と遊ぶ」が多
いですね。
 帽子男さんは料理も出来るから、たまに給食や、老人ホームの食事もやってます。
 たま〜に、本当にたまにだけど、長老のおそば屋さんも手伝ってますかね。
 コンちゃん、ティーカップをわたしの方に押しやって、
「子供の面倒はめんどうだからのう」
「そうなんですか?」
「ポンは子供ゆえ、わからぬのじゃ」
「まぁ、めんどうくさいのは、わかるけど……辞めるほどかな?」
「だから、辞めるほどではなさそうでも……じゃ」
「辞めるほうではなさそう……でも?」
「殺し屋稼業と比べると……と、言う事じゃ」
「え? 殺し屋稼業の方が大変そうですよ!」
「それでは……ポンはパン屋の娘であるが……」
「ですね、パン屋の店員さんですね」
「パン屋の店員と、子供の世話と、どっちが楽しいかの?」
「む〜」
 子供の世話はめんどうくさいけど、「嫌」って事は……たまにあるけど……嫌ってほど
ではないような気がします。
「む〜、それって正直わかりません、どっちもどっちです」
「ポンは『こだわり』がないのう」
「こだわり……ですか」
「あの男は、なんだかんだでも『そっちの世界』の人間だと言う事なのじゃ」
「むう、『こっちの世界』の方がきっと絶対たのしいですよ」
「そういったのは、好みの問題なのじゃ」
「もういいです、コンちゃんなら止めてくれると思ったのに」
「ふむ、わらわに止めて欲しかったのかの」
「コンちゃんは嫌じゃないんですか?」
「ふむ、そうじゃのう、人が減ると退屈するのう」
 でも、なんだかコンちゃんの顔は「どうでもいい」みたいな感じです。
 村で一緒してるのに、いなくなっちゃってもいいのかな?
 わたしは帽子男さんには、村にいて欲しいです。

 相談する相手が悪かったんですよ。
 ここはミコちゃんに相談して、帽子男が村を出ちゃうのを阻止するだけです。
「そんな事があったんですよ」
「まぁ、用務員さん、そんな事を」
「ミコちゃん、なんとかしてください」
 今、わたしはミコちゃんと一緒に台所なんです。
 コンちゃんやレッド、みどりはお風呂です。
 シロちゃん・たまおちゃん・店長さんはテレビを見てるの。
 ミコちゃんと二人きりでお話するのは食後の洗い物の手伝いが一番。
「用務員さん、悩んでいたのかしら」
「昔の稼業って殺し屋ですよ、ヒットマン」
「いつも子供と遊んでて、そんな感じ、全然なんだけど」
「わたしだってそう思います、村にいて欲しいです」
「そうよね、私もそうなんだけど」
 ミコちゃん、洗った食器をわたしの方へ。
 わたしは泡を流して食器乾燥機に並べるんです。
「コンちゃんは何て言ってたの?」
「ミコちゃん、わたしがコンちゃんに相談したの、わかるの!」
「うーん、なんとなく、私に相談するより、コンちゃんが先よね、シロちゃんとか」
「うん、コンちゃんには相談した」
「コンちゃんは何て?」
「好みの問題……だって」
「好みの問題……ねぇ」
 ミコちゃん、食器を洗いながら考える顔です。
「コンちゃんの事だからテキトウな事言ってるのよ」
「ミコちゃん、なんで?」
「だって、コンちゃんだって、用務員さんと遊ぶ事あるでしょ?」
「え?」
「ほら、麻雀とか」
「ですね」
「だから、コンちゃんだって、本当はいて欲しい筈よ」
「でもでも……」
「でもでも?」
「帽子男は、本気の顔でした」
「そう……」
「わたし、シロちゃんにも相談してみるよ」
「そうね……用務員さんがここに残るきっかけ、シロちゃんだしね」

 シロちゃんと一緒にお風呂です。
「シロちゃん、帽子男が殺し屋稼業に戻りたいみたいです」
「はぁ、それがどうしたでありますか?」
「シロちゃん、止めてください、警察のお仕事ですよ」
「しかし、未遂であります」
「防犯の意味もあるから、止めてください」
 シロちゃんは自分の体を洗っています。
 わたしはシロちゃんの背中を洗っているの。
 シロちゃん、黙っていましたが、
「何の話でありますか?」
「その、帽子男が昔の稼業に戻るって言い出したんです」
「はぁ、確か、殺し屋稼業、ヒットマンでありましたね」
「だから、シロちゃん止めてよ」
「確かに、殺し屋を野に放つのは警察として見逃せないであります」
「じゃあ! 協力してくれるの!」
「もちろんであります」
「やったぁ〜!」
 って、シロちゃん振り向いて、
「しかし、いいでありますか?」
「はえ?」
「本官、用務員を殺してしまうであります、射殺」
「は? なんでそうなるの!」
「いや、ポンちゃんは殺し屋に戻るのを止めてくれと言ったであります」
「い、言ったけど、なんで帽子男を殺しちゃうんですかっ!」
「いや、殺し屋に戻るのを止めるには、殺す事になるであります」
「ど、どうしてそんなに飛躍というか、あさってに行っちゃうんですかっ!」
 シロちゃん、わたしの方に体を向けて合図します。
 こんどはわたしが背中を洗ってもらう番なんですね。
 シロちゃん、わたしの背中をこすりながら、
「本官と用務員で再び勝負をするであります」
「え、えっと……帽子男がここに残るきっかけになったのはそうだよね」
「勝負をしたら、本官が勝つであります」
「……」
「そして用務員は銃弾に倒れて死ぬであります」
「え、えっとね、どうしてそう、いきなりワープしちゃうんです?」
「銃と銃で勝負したら、負けた方は死ぬ、当たり前であります」
「シロちゃん、銀玉鉄砲だよね」
「まさかであります、こういった緊急事態、駐在さんから本物を借りるであります」
『貸してくれるかなぁ』
「そして勝負したら、本官が勝つであります」
「シロちゃん、すごい自信だね、どうかしたの?」
「勝負する前から、わかりきっているであります、本官負ける要素ないであります、勝負
するまでもないであります」
『自信の根拠がまったくわかんないんだけど』
「用務員を射殺して、持ち物は没収であります」
「うわ、帽子男の銃をゲットする気ですね」
「没収であります」
 物欲まみれの撃ちたがりなシロちゃん、確かに負ける気がしないような……
 うじうじしている帽子男は、本当に最初から勝負になってないような気もしますね。
「しかしポンちゃん、タレこみ感謝であります、明日にでも用務員はタイホであります」
「シロちゃんの『タイホ』は射殺だよね」
「そんな事はないでありますよ、逆らうからタイホなだけであります」
『絶対射殺だよね』
 むう、シロちゃんに相談したわたしがバカ? でした、とほほ。

 そうこうしているうちに、パン屋の駐車場で西部劇モードです。
 帽子男、銃を確かめながら、
「俺も、本業に戻ろうかと思ってな」
 シロちゃんも銃を確かめながら、
「本官、任務の都合もあって、見逃せないであります」
 シロちゃん、すごい「ルンルン」してます。
 パン屋のウッドデッキで見学しているのは「わたし」「コンちゃん」「ミコちゃん」
「村長さん」「保健の先生」そして「駐在さん」。
 わたしとミコちゃん、駐在さんをにらまずにおれません。
 わたしが、
「ちょ、ちょっと! 駐在さん、なんでシロちゃんに銃渡しちゃうんですかっ!」
 ミコちゃんうなずいています。
 駐在さんニコニコ顔で、
「シロがあんまりしつこかったので」
「シロちゃん撃ちまくったらどうするんですかっ!」
「一発しか入ってないから、一人しか殺せません」
『い、いや、一人殺せるのマズいでしょ!』
 わたし、駐在さんをブンブンゆすって、
「シロちゃんやられて、死んじゃったらどうするんですかっ! 決闘止めるべきでしょ
ー!」
「いや、シロ、絶対勝てるってすごい自信でしたから」
「あの撃ちたがりの警察の犬は欲に目がくらんでいるんですよ」
「どういう事です?」
 駐在さん首を傾げます。
「帽子男を殺して、持ってる銃を自分のモノにしちゃう気なんですよっ!」
 駐在さんニコニコ顔で、
「あの男にシロが勝てますかねぇ」
「って、シロちゃん負けちゃったら死んじゃうんですよっ!」
「そうですねぇ」
 って、テーブルに着いている「保健の先生」が、
「ちょっとミコちゃん、唐揚げまだ?」
 コンちゃんも、
「ちと早いが、わらわも保健医と一緒に晩酌するかの、ビール」
 村長さんもニコニコ顔で、
「私もビール、いただこうかしら、唐揚げ、美味しいらしいわね」
 村長さんまで言い出すとは……
 わたしの隣で勝負の行方を見守っていたミコちゃん、ムスっとして奥に行っちゃいまし
た。
 戻って来たミコちゃん、ビールと唐揚げをテーブルに置いて、自分でも食べ始めました
よ。
「保健の先生」
「何、ミコちゃん?」
「パン屋さんは居酒屋じゃないんです、あれこれ噂流さないでください」
「えー! 最初は吉田先生じゃない、家庭訪問でビールは昭和の定番よ」
「今は昭和じゃないでしょう」
 ミコちゃんと保健の先生が言い合っている間にも、コンちゃん・村長さん・駐在さんは
ビールを傾け、唐揚げを食べながら、
「これ、村長、駐在、どっちが勝つかの」
 コンちゃん、唐揚げをモグモグ。
「私は用務員さんと思うわ、だって男だもの」
 村長さんも唐揚げを食べなら言います。
「ですね、用務員が、勝ちますかね」
 ビールをチビチビやりながら駐在さんは目を細めて言うの。
「誰もシロを味方せんの、では、わらわはシロに賭けるかの、ポンはどっちの味方かの」
「わ、わたしは……シロちゃんで、仲間だし」
 と、保健の先生とミコちゃんが残りました。
 わたしが視線をやると、ミコちゃんは、
「私もシロちゃんよ」
 って、保健の先生はみんなを見て、
「何を賭けるのよ? ねぇ」
「え、なにか賭けるの! どうしよ、わたし、なにも持ってないです、賭けるものなし」
 駐在さんが、
「職業柄、賭け事は禁止なんですが……冷蔵庫にさつまあげがあります」
 村長さんは、
「あ、カステラが1本あったかしら」
 ミコちゃん、不満そうな顔で、
「唐揚げ出したのに、まだ出すの?」
 保健の先生、わたしとコンちゃんを見るの。
 でもでも、出せるモノなんて持ってません。
「うーん、昨日の残りのメロンパンなら出せます」
「ケチくさいわね……でもポンちゃんなにも持ってなさそうだしね」
「そうですよ、しょうがないじゃないですか」
 保健の先生、視線が宙を泳いでます。
「さつまあげとカステラとメロンパンか、ミコちゃん、お酒まだあるでしょ、それね」
「どうしてそうなるの……」
「私が一人勝ちするから、総獲りね!」
「「「「は?」」」」
 保健の先生の言葉に、ミコちゃん・駐在さん・村長さん・コンちゃんはもります。
 わたしは……なんか最初から「そうなりそう」って思ってました。
 保健の先生、白衣をなびかせながら、シロちゃん・帽子男の前に。
「私も勝負に参加するわよ、面倒くさいから、二人まとめて来なさいよ」
「「!!」」
 シロちゃん・帽子男、びっくりです。
 帽子男は神妙な顔になってますが、シロちゃんは不愉快な顔で、
「保健の先生は、保健の先生をやっていればいいであります」
「ふん、弱い犬ほどよく吠えるわね」
 熱くなってるシロちゃんとは対象的に、帽子男は表情青いです、真っ青。
「死ねっ!」
 動いたのはシロちゃん。
 帽子男も抜きます。
「ふん」
 保健の先生の口元が笑うのと同時に、シロちゃん・帽子男、吹っ飛ぶの。
 すすまみれになって転がるシロちゃんと帽子男。
 保健の先生は「ポワワ銃」を手にニヤニヤしています。
「ぬるい、ぬるすぎる、私の相手なんて百年早いわ」
 わたしもびっくりです。
 保健の先生がいつ「ポワワ銃」抜いたか、わかりませんでした。
「見ましたか、今のすごい早かったと思うんですけど!」
 ここは専門家に聞いてみましょう、はい、駐在さん。
「保健の先生、ただ者ではないですね」
 駐在さん、真剣な顔で語るの。
 保健の先生、すすまみれのシロちゃん・帽子男を引きずって持ってくると、
「私が勝ったわよ、掛金総取りなんだから!」
「保健の先生、なんで二人を連れて来ちゃうんです?」
「ああ? 私が勝ったんだから、この二人はこれから私の奴隷」
「こわ……」
 保健の先生、シロちゃん・帽子男をその辺に転がすと、ニコニコ顔で、
「ミコちゃん、祝杯挙げるわよ、ビールどんどん持ってきて、ほら、唐揚げとか、コロッ
ケなんかもいいかも! 駐在さんはさっさとさつまあげ持って来る!」
 ミコちゃん、普段なら怒るところですが、あぜんとして奥に行っちゃいます。
「ちょっとちょっと、ミコちゃん、怒らないんですかっ!」
「なんだかもう、押されちゃって……」
 って、ミコちゃん立ち止まると、
「でもでも、用務員さん辞めないで、よかったかしら……シロちゃん死んじゃったけど」

 次の日の昼休み後。
 運動場のタイヤに帽子男がたたずんでいます。
「どうしたんです? ひとりで?」
「おお、ポンちゃん、いや、なんとなくね」
「なんとなく?」
「昨日、勝負がうやむやになったからな」
「保健の先生がむちゃくちゃにしちゃいましたしね」
「ふふ……」
 帽子男、笑ってから、
「でも、俺、思ったんだよ」
「なにをです?」
「俺は、世界一のガンマンに、早撃ちにって思っていたんだよ」
「で?」
「シロちゃんに……駐在も早撃ちだよな……そして……」
「そして?」
「長崎(保健の先生)倒さないとな……うん」
 帽子男さん、なんだかちょっと嬉しそう、楽しそう。
 この前、辞めるとか言ってたのと、全然違う感じです。
 そうそう、元気になったんじゃないでしょうか。
 こっちもなんだか、ニコニコ顔になっちゃうの。
「でも、ですね……」
「なんだよ、ポンちゃん」
「保健の先生に勝てますか?」
「!」
「勝てますか!」
 帽子男さん、急にシリアス顔になって、
「そりゃ、遠いような気がするな」
 わたしもそう思います。
 あーゆータイプは、なかなか手ごわいんです。
 って、校舎の、保健室の方からくしゃみが聞こえて来ました。


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