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■  コンと村おこし  第13話「酔拳」                   ■
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 ふむ、今日はおそば屋さんにおそばの気分なのじゃ。
 むむ、のれんに「準備中」とあるの。
 かまわん、わらわは神ゆえ、関係ないのじゃ。
「あ、まだお店やってな……」
 わらわが入れば、ポン太の声。
 すぐにわらわと気付くと、声が止まるのじゃ。
「コン姉、準備中なんですけど……」
「ポン太よ、わらわは神ぞ、おそばを出すのじゃ、ざるそばじゃ」
「準備中なのに」
「わらわ、ポン太を嫌いになるが、よいかの?」
「……」
 ポン太、怒った顔で厨房の方を見よる。
 長老が体をゆらして、そんな視線に頷いておるのじゃ。
「長老、いいって言ってますよ、どうぞ」
「ポン太より、長老の方がずっと聞き分けよいのじゃ」
「で、コン姉、お金、持ってますよね?」
「わらわ、神ゆえ、お供えされるのじゃ」
「ツケときます」
「踏み倒すからいいのじゃ」
「ミコ姉に言いますから」
「ポン太嫌いになるのじゃ」
「……」
 ポン太、むすっとした顔で奥に引っ込むのじゃ。
 わらわ、カウンターに陣取って、長老の仕事を見ながら、
「ふむ、酒のニオイがするのう」
 長老、片手でおそばを茹でながら、もう一方の手で「クイッ」とやっておる。
 このニオイ……「ポン太のお酒」と思うが、ちょっと違うかの?
「これ、長老、何を飲んでおるのじゃ」
「お酒です」
「そんなのはわかっておるのじゃ、銘柄じゃ」
「ポン太のお酒ですが……」
「わらわの鼻がおかしくなったかのう?」
「ふふ、コンちゃんもキツネですよね、神ですけど」
「うむ、そうなのじゃ」
「さすが、ニオイに敏感ですね」
 長老、飲んでいる方の手を酒瓶に持ち帰ると、
「大吟醸が出来たんです」
「!」
 ポン太のお酒……今まで家で飲んでいたのは「無印」だったのじゃ。
 今、長老の持っておるのは「大吟醸」!
「わらわ、呑んだ事ないのじゃ、出すのじゃ」
「ダメですよ、おそばは出しますが、お酒はダメです」
「何故じゃ」
「お酒は高いからダメです」
 長老、大吟醸を抱いて赤くなっておる。
 あの酒は……絶対うまいのじゃ、ニオイでわかるのじゃ。
 わらわが近付けば、長老厨房への入り口を閉じよる。
「酒を出すのじゃ」
「ダメです」
「あばれるぞ」
「ダメです」
 ムカつくの、あばれるのじゃ。
「ゴット・アロー!」
 って、あれ?
 ゴット・アローが出んのじゃ。
 普通なら光り輝く弓と矢が現れる筈なのじゃが……
 何故ゴット・アロー出んのじゃ?
 わらわの背中をツンツンしておるのは……ポン吉かの。
「コン姉、あれ、アレ!」
「?」
 見ればお札が貼ってあるのじゃ。
「ミコ姉が貼ってくれたんだよ」
「むう、ミコのヤツ、どっちの味方なのじゃ」
「コン姉がツケ溜めるからだろう〜」
「むう」
 ポン吉、あきれて笑っておる。
 ふむ、こやつを捕まえてじゃの。
「おお、コン姉、何すんだ」
「これ、タヌキ爺よ、ポン吉が人質じゃ、酒を出すのじゃ」
「うわ、オレ、人質!」
「それ、仔タヌキが一匹☆になるのじゃ」
 ポン吉の首に腕を回して「ぎゅーっ」じゃ。
 すぐさま落ちたぞ、殺してはおらんがの、こやつはまだまだ利用価値があるからの。
「わらわ、殺るといったら殺るでの」
「お酒は出しません」
「ポン太、来るのじゃ」
 ポン太、固まっておる。
 ポン吉を助けたいようじゃが、わらわがおって近づけんようじゃの。
 固まっておるなら、こちらから行くのじゃ。
 それ、ポン太も捕まえたのじゃ。
「こ、コン姉、何を!」
「ポン太よ、おぬしも人質なのじゃ」
「コン姉……」
「これ、タヌキ爺よ、酒を出すのじゃ」
 長老、グビグビとやってから、
「ポン太を殺せば、もうお酒、造る者がいなくなりますが」
「わらわがポン太を殺さぬとでも思うかの?」
 長老、またグビグビと呑んでから、
「ポン太よ、短い人生だったですね」
 このタヌキ爺は、我が子(?)が危機でも助ける気ナシじゃの。
 ポン太を見れば……あきれて笑っておる。
 ポン太の方がずっと大人かもしれぬのう。
 わらわ、ポン太とポン吉を放すと、
「しょうがないの、実力行使でいくのじゃ」
 わらわ、長老に迫るのじゃ。
 長老、呑みながら逃げよる。
 それ、ゴット・パンチ、連射じゃ!
 むむ、長老、軽く避けておる!
 何度パンチを出しても避けられるのじゃ!
「ぬうっ!」
 それどころか、こっちが何発か食らっておるっ!
 どうしたことかの!
「ふふ、コンちゃん、どうしましたか?」
「ぬぬぬ!」
「私も卑弥呼さまのお供です、伊達に長生きしているわけではないです」
「な、何をうっ!」
「コンちゃんは酔拳の前に沈むのです」
「ぐぐぐ……」
「卑弥呼さまに代わって、私がコンちゃんを封じるのです」
「い、言わせておけばっ!」
 しかし、わらわ、長老にかなわぬのがわかるのじゃ。
 長老、大吟醸を「クイッ」とやって、
「呑めば呑むほど強くなる」
 千鳥足で迫って来るのじゃ。
 わらわ、長老の攻撃を防ぐだけで手いっぱいなのじゃ。
「こ、このタヌキ爺がっ!」
「負け犬の遠吠えですか? コンちゃんはキツネでしたね」
「ぬぐぐ!」
 しかし、長老の拳を受けておるうちに、思うところがあったのじゃ。
 たしかに長老の「酔拳」は強い。
 だが、こやつの「酔拳」はニセモノなのじゃ。
「どうしました、コンちゃん」
「ふふ、おぬしの酔拳はニセモノなのじゃ」
「また遠吠えですか?」
「本物の酔拳、お見せするのじゃ」
「ほほう」
 わらわ、長老から間合いを取って、ポン太とポン吉を捕まえるのじゃ。
「うわ、コン姉、なにを!」
「うお、またオレを殺す気が!」
「ポン太、ポン吉、わらわに協力するのじゃ」
 ポン太は赤くなって頷きおる。
 ポン吉はしぶい顔で、
「オレとアニキに何をしろと?」
「ポンを捕まえておくのじゃ」
「「は?」」
 さすが兄弟じゃの、はもっておる。
 わらわすかさず、
「ゴット・召喚! ポンの登場じゃ!」
 召喚は英語でsummonじゃ。
 それ、わらわが術を使えば、宙に魔法陣が現れ、そこからポンが登場じゃ。
「お! え? なに?」
 ポンはかき氷を食べておるところじゃったようじゃの。
 きっと駄菓子屋でゴチになっておったのじゃろう。
 いきなり召喚されてびっくりしておるかの。
 まず、持っておるかき氷を取り上げて、
「ポン太! ポン吉!」
 わらわが声を上げれば、小タヌキ二人はポンの腕を捕まえるのじゃ。
「うわ、なに? なに?」
「ポンは黙っておれ、これ、長老、酒を出すのじゃ」
 わらわが声を大にして言うと、長老は大吟醸を抱きしめて、
「嫌です」
「誰が大吟醸を寄こせと言うたか!」
「?」
「上選を出すのじゃ」
「?」
 長老、ポカンとして「ポン太のお酒・上選」を寄こすのじゃ。
「上選は卑弥呼さまに出していますが」
 ふふ、長老、一升瓶を出してきおった。
「わかっておる、家にたくさんあるのじゃ」
 わらわ、一升瓶を奪って親指で栓を開けると、
「タヌキ爺よ、真の酔拳をとくと見るのじゃっ!」
「何っ!」
 さて、ここからが「危険」じゃ。
「ポンっ!」
「な、なに? コンちゃ……」
 口を開いた瞬間、逃さんのじゃ。
 その口に「ポン太のお酒」を押し込むぞ。
「むぐっ!」
「それ、呑むのじゃ、こぼすと叩くからの」
 鼻を押さえて、口も押さえて、これで呑むしかないのじゃ。
 ふふ、ポンめ、目を白黒させて呑んでおる。
 ゴキュゴキュ喉が上下するのじゃ。
 ポン太が青くなって、
「コン姉、大丈夫なんですかっ!」
「大丈夫じゃないのじゃ」
 ポン吉が引きつりながら、
「お、オレ達は大丈夫なのかっ!」
「ポンが覚醒するまで、間があるのじゃ」
 長老が大吟醸をチビチビやりながら、
「ポンちゃんが呑むのは大丈夫なんですか?」
「タヌキだから、大丈夫なのじゃ!」
 さて、もういいかの。
 一升瓶を引き抜けば、ポンはぐったりしておるのじゃ。
「ポン太、ポン吉、もういいのじゃ、離れるがよい」
 わらわの言葉に従って、小タヌキ二人はすごすごと店の隅に。
 ペタンと座り込んだポンに、わらわは、
「ポンよ、長老が仲良くしたいと言うておる」
「ふにゃ? 長老が?」
 おお、いい感じで酔っておるようじゃ。
 ポワポワしておるの。
「あんな豆タヌキ、一捻りじゃと申しておるっ!」
「なーにー!」
 台詞は「なーにー!」だが、ポン、ニコニコしておるのじゃ。
「ちょうろう、わたしを、ばかにしているー!」
 怒っておるような言いっぷりじゃが、千鳥足で顔はヘラヘラしておるのじゃ。
「まえまえから〜、ちょうろうは〜、わたしを〜、ばかに〜、してますますます〜」
 右に左にフラフラしながら長老に迫るポン。
 ポン、狂ったような拳の連打じゃ。
 しかし長老、しっかりガードしておる。
 だがの、長老、さっきまでの酔いは醒めておるのじゃ。
 ポンの攻撃にびびっておる。
「むらでは〜、わたしが〜、いちばん〜、うええぇぇぇ〜」
 ポン、吐いてはおらぬが目を回しておる。
 拳の連打は狙いが定まらぬゆえ、長老も翻弄されておるのじゃ。
 わらわ、ポン太達のおる店の隅まで逃げて、
「ふふ、長老、ポンを倒せるかの」
「確かに、真の酔拳、ポンちゃんが使い手とは!」
「ふふ、大吟醸を寄こすのじゃ、さすれば……」
 はて、わらわ、何か大事な、大切な事を忘れておるような気がするのじゃ。
 大吟醸をゲットする……そのために長老を倒さねばならぬ。
 で、真のボスキャラ・ポンを召喚し、酔拳も発動させた。
 長老が果てるのも、時間の問題なのじゃ。
 しかしの、長老が倒れ、大吟醸をゲットし、そして、どうなるというのじゃ。
 そこには真のボスキャラ・ポンが酔拳発動したままではないかの。
 あわわ、ポンがわらわにしっぽを挿れに迫ってくるのじゃ。
 こわいのじゃ!
 長老、目が紅に光ると、
「ポンちゃんと、雌雄を決するしかないみたいですね」
 長老の連打がポンに襲いかかるのじゃ。
 千鳥足で避けるポン。
 しかし、手数で攻める長老、拳が何発も当たるのがわかるのじゃ。
 その都度ポンの身体が弾かれるのが、わらわにもわかるのじゃ。
 長老の重いパンチ……長老の口元に笑みがこぼれておる。
「私の拳を受けて、無傷でいられますかな?」
 確かに!
 わらわが見ていても、音を聞いても、拳は確実に効いておる!
 千鳥足とは違った、崩れ落ちる動きのポン。
 長老、ポンを、酔拳モードのポンを仕留めたのかの!
「「「「!!」」」」
 わらわが、ポン太が、ポン吉が、そして長老が凍りつく。
 倒れかけたポンが、そのまま長老に取り付いたのじゃ。
 長老を背後から抱きしめるポン。
 魂のない、ぼんやりとした瞳で、
「えへへ、ちょうろう、つ・か・ま・え・た〜」
「はうっ!」
「えいっ!」
 魂のない目で、うつろな笑みを浮かべた口元で、長老の首を捻るポン。
「えいっ!」の言葉と同時に長老の首が半回転するのじゃ。
 わらわが、ポン太が、ポン吉が、抱き合って震える瞬間なのじゃ。
 ポンは屍と化した長老の身体を「執拗」に「抱き」「砕い」て、そして床に捨てる。
「けけけ、次ポン太をギュッとしちゃうかな〜 ポン吉かな〜 コンちゃんかな〜」
 ポン太・ポン吉、二人の小タヌキは縮みあがっておる。
 わらわ、そんな二人を抱きしめて、
「大丈夫じゃ、わらわにはゴット・シールドがあるのじゃ」
「「コン姉!」」
 2匹の小タヌキの目に希望の光が見えた。
「えいっ!」
 わらわ、そんな2人をポンの方に押しやるのじゃ。
「「え!」」
 二人はあっさりポンの腕の中。
「えへへ、ポン太、ポン吉、つかまえた!」
「コン姉裏切ったー!」
「信じたオレがバカだった!」
 まぁ、裏切ったのは本当かの。
 しかしの、ポンを倒すには、これしかないのじゃ。
「ゴット・シールド」でも、真のボスキャラ・ポンは破るやもしれぬ。
 二人を生贄に出せば、ポンの両腕が塞がるからの。
「ポン太もポン吉も、わたしの良さを……」
「いい加減にするのじゃ」
illustration やまさきこうじ
 そう、酔ったポンには「一升瓶でゴン」じゃ。
 わらわの振り下ろした一升瓶、いい感じでポンの頭に命中なのじゃ。
 大きな☆ひとつのダメージ。
 ポンは目をグルグル回しにしてダウンじゃ。

 今日の店番はわらわ一人なのじゃ、シロが帰ってきたら一緒させるかのう。
 ポンは「一升瓶でゴン」したから「お休み」なのじゃ。
 わらわ、戦利品の「大吟醸」の瓶を見て、しかしなんだかむなしいのじゃ。
 と、向こうからポン太とポン吉がやって来るのじゃ。
 カウベルがカラカラ鳴って、二人が入って来おる。
 昨日、二人を裏切ったゆえ、わらわを見る目が冷たいのう。
「これ、ポン太、ポン吉、何か文句のある目じゃのう」
 ポン太がわらわに鍋を渡しながら、
「はい、お豆腐、裏切ったのはコン姉ですよね」
「ああせねば、ポンは倒せぬのじゃ」
 ポン吉はアブラアゲの包みをカウンターに置きながら、
「ひどいぜコン姉、シールドあるのに」
「おぬしら、ゴット・シールドがポンに効くと思ったかの?」
 わらわの言葉に、二人は難しい顔になるのじゃ。
「おぬしらには悪いと思ったが、ポンの両手を塞がねば必中ならなかったでの」
「それなら……」
「しかたねぇかなぁ」
 二人とも納得しておる、まぁ、当然かの。
「長老はどうしておる?」
 ポン太が疲れた顔で、
「うなされています」
「わらわの治癒の術も、完璧ではないでのう」
 ポン吉が唇をゆがめて、
「ポン姉はどうしてるんだよ」
「寝ておる、大きな☆一つのダメージゆえ」
 わらわ、二人を見て、
「この村で、誰が一番コワイか、わかったかの?」
 二人、表情こわばらせてブンブン頷くのじゃ。
 それはそうじゃろう。


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