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■  ポンと村おこし    第159話「怒りの朝ごはん」           ■
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 わたし、朝から大忙しです。
 まずは目が覚めるところから……レッドのキスを防がないといけません。
 そしてコンちゃんの祠の掃除です。
 パンをお店に並べる……前に、ラーメン屋さんに卸す麺を作るの、わたしの仕事なの。
 袋に入れた生地を「ふみふみ」するのが仕事なんですけど、結構大変。
 でもでも任されたお仕事です、頑張るんだから。
 それが終わったら、ようやく朝ごはんですね。
 一仕事やって、お腹もいい感じで空いているの。
 わたし、テーブルに着きながら、
「ふう、ラーメン作るの、ちょっとキツイです」
 ぼやくわたしに、ミコちゃんはごはん茶碗を寄こしながら、
「ポンちゃんの踏んだラーメン、おいしいらしいわよ」
「たまに、長老のそばも踏んでます」
「あ、それ、聞いた事あるわ、長老ほめていたわよ」
「長老、さぼりたいだけですよね、ね」
「そうね、ふふふ」
 ミコちゃん、みんなの席にごはん茶碗やお味噌汁のお椀を置いていきます。
 見計らったようにみんなもやってきて、席に着くの。
 今日の朝ごはんは鮭・卵焼き・お味噌汁に海苔、浅漬け。得意な朝ごはんですよ。
 ミコちゃんが目で合図をくれるのに、わたし小さくうなずくと、生卵が追加です。
 最近は卵かけごはんがマイブーム。
 ってか、最初はそんなに好きでもなかったんだけど、ポン太が「卵かけごはんの醤油」
を作った時にお試しでもらったのがすごくおいしかったんです。
 今ではまぜまぜするのが楽しいですね。
 コンちゃんにたまおちゃんは納豆をまぜまぜして、レッドとみどりはふりかけ派。
 ミコちゃんとシロちゃんは海苔で、わたしも昔はこの派閥でした。
 ちなみに店長さんは、まわりを見て、毎日変わる感じです。
 今日の店長さんは……なにもごはんに乗せないパターン。
 おかずの鮭や卵焼き、浅漬けで食べています。
 みんなお話しながら食べたりしているんですが……
 わたしはそれどころではありません。
 今日は老人ホームに配達当番。
 それも老人ホームで朝食のお手伝いからやる予定。
 早く食べて、早く行かないと!
 レッドが卵焼きをねらってくるのをやっつけながら、さっさと食べてしまうんです。
 手を合わせてごちそうさま。
 食器をかさねて流しに沈めるの。
 ミコちゃんに目をやったら、ミコちゃんも小さく頷いてくれます。
 お店に行けば、もうバスケットは準備してあるの。
 中を確かめてれば「ドラ焼き」です。
 これは食後のお茶の時に出されるヤツですね。
 では、バスケットを手に出発。
 今日も一日が回り出すんです。

「まったくモウ!」
 老人ホームで配膳のお仕事。
 お食事が始まってからも、油断なりません。
 食べているとゴホゴホ咳き込む人がいたら急行。
 背中をトントンしたり、様子を確かめたりするんです。
 この老人ホームのおじいちゃん・おばあちゃん達はみんな元気って保健の先生は言うけ
れど、やっぱりたまには危ない事があるとかないとか。
 ゴハンを食べていてゴホゴホいうと、ゴハンをちゃんと飲み込めてないそうですよ。
 わたしと保健の先生で、食事の様子を見守りです。
 あとは村長さんと、今日の朝食を作った長老も見守っているの。
「保健の先生」
「何、ポンちゃん」
「以前言われたから、ゴホゴホいう人、気にしているけど、あんまり見ませんね」
「そうなのよね、この老人ホームくらいよ、本当に」
「よその老人ホームはゴホゴホ多いんです?」
「そうねぇ、うん、そうねぇ」
「よそを見た事ないから、わかりません」
 保健の先生近くの車椅子さんがゴハンをちょっとこぼしたのに急行しながら、戻って来
ると、
「ポンちゃんは、ゴハンを配っていて思った事ない?」
「はぁ……」
 わたしの頭上に裸電球、点灯です。
 これは前々から思っていたんですよ。
「わかりました」
「おお! で、ポンちゃん、どうぞ」
「ゴハンの量が少ない」
「……」
「え? 違うんです? 少ないですよね! ね!」
 おじいちゃん・おばあちゃん達全員ってわけじゃないんですよ。
 でも、ほとんどのおじいちゃん・おばあちゃんのお茶碗、小さいの、レッド級。
 もちろん「おかわり」する人だっています……でも、たいてい一膳なの。
「ですよ、みんなレッドのお子様お茶碗で食べてます、おかわりもなし」
「……」
「おかずだって……レッドだってまだ食べてます」
「ポンちゃん、そこ?」
「そこですよ……もしかして『イジメ』ですか、老人イジメ」
「あー、そうか、ここしか知らないから、しょうがないか」
 保健の先生、ニコニコしながら、
「普通の老人ホームだったら、こんな普通の食事じゃないのよ」
「普通の食事じゃない食事ってなんなんです?」
 わたしの頭上にまたまた裸電球点灯です。
「あ、知ってますよ、戦争の時は麦ごはんとか食べていたんですよね」
「ちーがーうー」
「だったら『●しん』ってドラマで『大根めし』とか!」
 ふふ、『●しん』は老人ホームで人気のドラマです。
 DVDでしょっちゅう流れてます。
 保健の先生、あきれた顔で、
「うーん、その、おじいちゃんになっちゃうと、ごはんが別のところに……その、肺とか
に行っちゃうのよ」
「別のところ??」
「普通はこう、お腹の虫が鳴いているところに……胃なんだけど、行っちゃうの」
「だから?」
 わたしが聞いたら、保健の先生口をパクパクしてしばらく何も言えません。
「ともかく、お年寄りになったら、ゴハン思ったように食べられないのよ」
「むう、で、どーするんです?」
 聞いたら、保健の先生の頭上に裸電球光りました。
「そうそう、歯のないおじいちゃん、いるよね」
「ああ、入歯の人ですね!」
「そうそう、で、ポンちゃん、歯がなかったらどう?」
 どうって……わたしは歯、ちゃんとあるからわかりません。
 でもでも、想像してみましょう。
 歯がなかったら……ですよね。
「ふふ、わからないみたいね」
「まぁ、わたしは歯、ありますからね……保健の先生だって歯、ありますよね」
「私はこう見えてもお医者さんなんだから、歯がなかったらどうかはわかっているのよ」
「むう、で?」
「そうねぇ……ここではあんまり出さないけど、干物をあぶったのなんか、どうかな?
 スルメでもいいかな?」
「スルメはごはんのおかずじゃないですけど……」
 あ、保健の先生の言っている意味、解っちゃいました。
「硬いモノは、食べにくいですね、食べれないかも」
「そうなのよ、私達みたいに普通に食べれないの、だから間違って胃じゃない方に、肺の
方に行っちゃうの、わかる?」
「肺とか胃とかわかりませんが、まぁ、なんとなく」
「だから、他の老人ホームだったらおかゆとか、飲み込みやすいようにしたごはんなんか
が多いのよ」
「そうなんですね」
 って、返事をして思い出しました。
「でもでも、子供ごはんでお腹、空かないんです??」
 保健の先生、一瞬表情がフリーズして、すぐに笑顔になると、
「老人ホームのおじいちゃん、そんなに動かないでしょ」
「ですか?」
「むう、ポンちゃんはレクとか手伝ってくれるから動いているように思うかもしれないけ
どね、小学生とかと比べると全然でしょ」
「あ、ですね、小学生と比べていいんでしょうか?」
 保健の先生の言う通りです。
 小学校、給食お呼ばれの後はドッチとかおにごっことかひまわりとか陣取りとか。
 どれも老人ホームのレクとは比べ物になりません、激しいんです。
 あ、でも、例外が!
「先生、せんせいっ!」
「なに、ポンちゃん、今度は?」
「おじいちゃん達、動かないのはわかりました、ごはん少ないのも」
「で?」
「うちのパン屋には、働かない女キツネがいるんです、知ってますよね?」
「は……」
「あの女キツネはバクバク食べます、ええ、普通に、機嫌がいいとおかわりしますし」
 って、保健の先生、嫌そうな顔して、
「コンちゃんはコンちゃんよ!」
 ちょっ、保健の先生、チョップしないで、ちょっと本気入ってますよね。
 い、痛いっ!

「そんな事があったんですよ」
 わたし、夕飯が終わってから、残り物のパンを袋詰めしてるんです。
 一緒しているのは、目の細い配達人なの。
「はは、コンちゃんく、しゃみしまくりなんじゃないかな」
「ですかね……いやいや」
「いやいや?」
「今のは『噂』じゃなくて『事実』だから、きっとくしゃみなんてしないんです」
「うわ、ポンちゃん言うね……でも、事実か、たしかに『何もせんねん女王』」
 って、配達人が言った途端、配達人の背後に暗黒空間が広がり、コンちゃんが登場です。
 髪がうねりまくり、指がわきわき動いているの。
「これ、配達人よ、悪口を言ったであろう」
 コンちゃん、背後から配達人の首をしめあげてます。
「コンちゃん、配達人が死んだら面倒くさいですよ」
「ふむ、そうじゃのう、生かしておいて、こきつかうのがいいのじゃ」
 コンちゃん手を放します。
 青くなっていた配達人の顔に血の気が戻ってくるの。
「死ぬかと思った」
「配達人よ、余計な事を言うからなのじゃ」
 コンちゃん、配達人の背後から抱きついて、
「ほれほれ、わらわの下僕になるのじゃ、わらわの言う事を聞くのじゃ」
「こ・わーい」
「何がこわいのじゃ」
「いや、どうせ何か変なの要求してくるから」
「おぬしも言うのう」
 コンちゃん、考える顔をして
「これ、おぬし、卵かけごはんの醤油を出すのじゃ」
 わたし、配達人、ポカンです。
「卵かけごはんの醤油」はあるんです、わたししか使ってないかな。
 そんなわたしの顔を見てコンちゃんは、
「ふふ、ポン、おぬしは知らんようじゃの」
 コンちゃん、配達人に目を向け直して、
「これ、配達人よ、おぬし、隠し事をしておるであろう」
 コンちゃん、キスでもしそうなくらい顔を配達人に近付けて言います。
「ほれ、神に隠し事はなかろう」
 って、配達人はポカンとしてます、この顔は本当に知らないですよ。
 でもでも、コンちゃんも引きません。
「新作があるであろう、長老が喜んでおったぞ」
「あー!」
「長老」の辺りで配達人も気付いたみたい。
 すぐに部屋を出て行って、戻って来ると醤油をくれますよ。
 でもでも、見た目は普通に「卵かけごはんの醤油」byポン太。
「わたしの使ってるのと一緒ですよ」
 コンちゃん、醤油をクンクンしながらニコニコ。
「ふふ、ポンもニオイを確認するのじゃ」
「ニオイ?」
 クンクン……うん、ちょっと違います、なんだかさわやかな感じでしょうか?
「明日の朝ごはんが楽しみなのじゃー!」
 って、コンちゃん袋詰めをサボって行っちゃいました。
 わたしもちょっと気になります。
 明日のごはんで「新作」わけてもらいましょう。
 しかしコンちゃん逃げましたよ。
 わたしと配達人で、袋詰め頑張らねば!

 朝です、今日も祠の掃除です。
 花壇ではレッドとみどりが水をやってますよ。
 さてさて、一仕事終わったので、朝ごはんです。
 コンちゃんニコニコ顔で、
「ふふふ、今日の朝ごはん楽しみなのじゃ」
「あ、コンちゃん、昨日の醤油ですね」
「なのじゃー」
「今日、真面目に掃除していたのは……」
「そうなのじゃ、働いてお腹を空かせていたのじゃ」
 むう、毎日「新作」作ってくれないかなぁ。
 コンちゃん働いてくれるのに。
 って、戻ってみればテーブルにはすでに配達人。
「あれれ、配達人さん、早いですね」
「うん、俺、パンを貰ったらすぐに出るから」
「でもでもミコちゃんいませんけど」
「うん、ミコちゃんがパンを運び入れている間に食べちゃってって」
「そうなんですか」
 コンちゃんが、レッドが、みどりが一度は配達人を見て、それから洗面所に向かうの、
ごはんの前は手を洗うんです。
 みんなで手を洗って、口をよそいでからごはん。
 テーブルに向かうと……ミコちゃんの髪がうねっています。
 それも半端なく、ヘビのごとく、うねっているの。
 コンちゃんがびびってわたしの腕をつかむんです。
「みみみミコが怒っておるっ!」
「わたしだってびっくりですよ!」
 なぜミコちゃんがあんなに怒っているんでしょう?
 見れば視線の先には配達人……配達人がミコちゃんを怒らせる!
 いったいあの目の細い男は何をやらかしたんでしょう?
 って、見てみれば、別に……なにも……してないですね。
 普通にごはん、食べてるだけ……ですよ。
『ちょっとちょっと、ミコちゃん』
『何、ポンちゃん、今、私、怒ってるんだけど』
『見ればわかるよ、どうしたの?』
『配達人さん、見て、頭に来る!』
 やっぱり原因は配達人です。
 でも、べつに、普通、ですよ。
『配達人、べつに……』
 ミコちゃん、わたしを見て怒ってます。
『わ、わかんないよ』
『私、せっかく作ったのに、あんな食べ方して!』
 ふむ……配達人は味噌汁をごはんにぶっかけてすすっています。
 鮭の切り身も勢いに任せて食べちゃってます。
「味噌汁ぶっかけごはん、おいしいんですよね」
 って、怒りのオーラがわたしに吹き付けます。
「あんだってー!」
「こ、こわ! だって味噌汁ぶっかけごはん、おいし……」
「ポンちゃんごはんヌキ……」
「えー!」
 って、ミコちゃん、わたしの席から食事を持っていこうとするの。
 阻止です阻止。
 ミコちゃんを捕まえると、呪い殺しそうな目でわたしを見ます。
「ミコちゃん、そこ、怒るところじゃないと思うよ」
「そんな、私、せっかく気持ちを込めて作ったのに、あんなにして食べたらがっかり」
「味噌汁ぶっかけごはんはおいしいんですよ」
「私は許せないのっっ!」
 って、ミコちゃんの怒りが急にしぼんじゃうの。
 わたしをジッと見て、
「おいしい? でも、ポンちゃんそんな事したことないじゃない」
「あー わたしがタヌキだった頃、千代ちゃんのごはんはいつもコレです」
「ネコまんま……タヌキまんま……かしら」
「ともかく味噌汁ぶっかけごはんはおいしいんですよ」
 って、コンちゃんテーブルに着きます。
 コンちゃんは「新作」でごはん開始です。
 レッドとみどりも席に着きます。
 配達人を見て、レッド、獣耳モード突入なの。
 容赦なくごはんに味噌汁ぶっかけました。
 それまでうねっていたミコちゃんの髪、途端にダランとしちゃうの。
「このあいだ、じだいげきでやってたゆえー!」
 レッドはニコニコ顔でごはんをかき混ぜ、すすりだしてますね。
 熱いのか「ハフハフ」しながら「フーフー」しながら食べてます。
 みどりもレッドのを見て、配達人を見て、澄まし顔でぶっかけちゃうの。
 ミコちゃん、フラフラしながら台所に消えました。
 わたし、ごはん持って行かれたから追うんだけど……
illustration やまさきこうじ
 ミコちゃん、包丁を持ってプルプルしてます。
「配達人のせい……配達人のせい……コロス」
「こ、こわいよ、ミコちゃん、やめて!」
 台所に置いてある丸椅子に座らせて、包丁取り上げるの。
「ミコちゃん、そんなに怒らないでも」
「でもでもでもでも!」
 ミコちゃんくやしそうです。
 でもでも、味噌汁ぶっかけごはんはおいしいんです。
 って、ノコノコ配達人登場です。
 食べ終わった食器を流しにやりながら、
「ミコちゃんごちそうさま、おいしかったでーす」
 言いながら、手をヒラヒラさせて行っちゃいました。
 ミコちゃん、涙目で……わたしが食べるはずだったごはんを食べ始めるの。
 それも味噌汁ぶっかけごはんで。
 シャブシャブした後、一息ついて、
「確かにおいしいのよね、ネコまんま」
 わたしのごはん……新しく作ってくださいね。


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