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■  ポンと村おこし    第160話「駄菓子屋さんお手伝い」        ■
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 今日もパン屋さんはのんびりした時間が過ぎています。
 コンちゃんはテレビを見てポヤンとし、お客さんはお話しながらお茶してるの。
 わたしはスケジュールを見ながら、今日のお昼の配達の事を考えています。
 学校に配達なんだけど、お昼をゴチになって、ドッチをして帰ってくるか、その後で老
人ホームなんて感じでしょうね。
 パン屋さんはわたしがいないけど、コンちゃんだけでも大丈夫でしょ。
 観光バスが来ないから、今日はのんびりなんですよ。
「ポンちゃん、ポンちゃん」
 奥からミコちゃんがパタパタ足音をさせながらやってくるの。
 なにかな?
「ポンちゃん、ちょっといいかしら」
「なになに? 配達?」
「うん、いいかしら?」
「今日は観光バスもないからいいんじゃないかな、コンちゃん一人でも」
「コンちゃん……まぁ、そうね」
 ポヤンとしているコンちゃん、一瞬こっちを見ましたが、すぐに目を逸らしちゃうの。
「コンちゃんと私でお店をやるから、行ってきて」
「って、どこです?」
 配達のバスケットの中を見ると「ドラ焼き」。
 でも、たまおちゃんの神社に持って行くにしては少ない……2個です。
「駄菓子屋さんなの」
「駄菓子屋さん……」
 おばあちゃんが店番をしているから、2個はわかります。
 でもでも、どうしてでしょ。
 ミコちゃん、ニコニコしながら、
「駄菓子屋さんの店番をしてほしいらしいのよ」
「はぁ……駄菓子屋さんの店番ですか……」
 わたし、駄菓子屋さんのお仕事、思い出してみるの。
 レッドやみどり、千代ちゃんと一緒に買い物、行きますからね。
「パン屋さんと一緒で、お菓子の代金いただくだけですよね」
「そうね、できそうかしら?」
「そんなに難しい計算もなさそうだし……お客さん来るのかな?」
 そうです、駄菓子屋さんで他の子供を見た事、あんまりないですよ。
 大人のお客さんが立ち寄ってるのも、あんまり見ません。
 楽チンな気がしてきました。

「あ、ポンちゃん、いらっしゃい」
「配達と店番で来ました」
「ふふ、頼んだよ」
 おばあちゃん、座布団を出してくれます。
 わたし、座敷席のところに腰を下ろすと、配達のドラ焼きを渡すの。
「ふふ、ありがとうね、で、お店の番をお願いしてるけど、いいかね?」
「あ、ミコちゃんから聞いてます、お代をいただけばいいんですよね?」
「じゃがね、パン屋さんでやってるから大丈夫じゃろ」
「はい、レジは?」
「あれ」
 そう、パン屋さんはお金をレジに入れているんです。
 でもでも駄菓子屋さんにはそんなものありません。
 おばあちゃんが指差すのは、天井から吊るされたザルです。
「お金はココに入れるといいよ、お釣りもここから出すんだがね」
「はぁ……あ、ゴムで伸びるんですね」
「そうじゃよ、八百屋や魚屋でもやってるがね」
「え……わたし知らない」
「ポンちゃんも現代っ子じゃね」
「タヌキですけどね」
 おばあちゃん、前掛けを外すと、
「私は床屋に行って来るからね」
「はぁ、床屋さん?」
「髪結いじゃがね」
「ああ、パーマとかですか?」
 おばあちゃん、手をヒラヒラさせると行っちゃいました。
 さて、一人残されましたよ。
 頑張って……お客さん来るのかなぁ。

 うわ、思っていた通りです。
 お客さん、さっぱり。
 わたし、座敷席に座ってぼんやりしているだけなの。
 テレビ、つけてますが、あんまり見る気になりません。
 座敷にすわって、ちょうど通りが見えるんですが、まぁ、午前中は人、来ませんよね。
 でもでも、駄菓子屋さんはたまおちゃんの神社に行く時、前を通る感じです。
 そのうち参拝する人が通るんですよ。
 そんな事を考えているうちに、足音が聞こえてきました。
 むむ……若い女性の足音、一人です。
 きっと神社に参拝なんだから。
「あ!」
「ポンちゃんであります!」
「シロちゃん、どうしてまた!」
 シロちゃんはいつもの「ミニスカポリス」姿です。
 その手には配達のバスケットですよ。
「本官、ミコちゃんに配達を頼まれたであります」
「ああ、神社のドラ焼きですね」
「であります……ポンちゃん駄菓子屋で何をやってるでありますか?」
「わたし、今は駄菓子屋の娘なんです」
「店の手伝いでありますね」
「うん、おばあちゃんは床屋さんに髪結いなんだって」
「おばばも、歳をとっても女という事であります」
「いつまでたっても、おしゃれさんって事ですね」
「であります……本官、配達に行くであります」
「いってらっしゃーい」
 残念、お客さんじゃなかったです。
 でも、ちょっとおしゃべりできてよかったかな。
 こう、退屈なのこの上なしです。
 わたし、座敷席にいるのもなんだから、表のベンチに移動です。
 お客さん、来ないかな。
 ヒマです、ヒマ。

 って、このお店のお客さんのパターン、わかりました。
 まずは神社に参拝なんです。
 一度はお店の前を通り過ぎるの。
 それから、戻ってくる時に立ち寄るんです。
 全員が全員、寄ってくれるわけではないんですけど、年配のお客さん、寄ってくれるみ
たいです。
 ってか、パン屋さんの常連さん、多いですよ、見知った顔。
「あれ、ポンちゃん、どうして?」
 ほら、顔見知りです。
「今日はおばあちゃんの交代なんです」
「へぇ、そうなの」
 いつも3〜4人でやってくるおばちゃん達です。
「いいかね、ポンちゃん」
「はいはい、えっと、なんです?」
「注文、いいかね」
「え? 注文? 駄菓子屋さんで注文?」
 おばちゃん達、ニコニコ顔で、
「甘酒、いいかね、冷蔵庫に入ってるよ」
 むう、おばちゃん達が冷蔵庫の甘酒を教えてくれます。
 冷やしてあるのを……耐熱のコップに注いで……レンジでちょっと温めるそうです。
 そんな事をしている間、おばちゃん達は駄菓子を見ています。
 思い思いのを手にお会計。
 駄菓子の値段はレッドと一緒の時知っていますが、
「え? 甘酒って200円もするんです?」
 お金もらってびっくりです。
 駄菓子屋さんで高い買い物って、かき氷・100円くらいまでです。
 あ、まてまて、お好み焼きも200円くらいしますね。
 わたしがびっくりしていると、おばちゃんの一人が一杯手にして、
「そんなもんかねぇ、ここのは粒もたくさんでおいしいよ」
 みんな、ベンチに座ってチビチビと舐めています。
「ちょっと熱かったです?」
「別にいいよ、熱いなら熱いで」
「わたし、お好みとかかき氷なら食べた事あるんだけど、甘酒は初めてです」
「ふふ、ポンちゃんも一度飲んだら好きになるよ」
「ふむ、ちょっと飲んでみますね、今度」
 おばちゃん達が表のベンチでワイワイやっていると、参拝帰りの人達が覗いていくよう
になりました。
 いそがしくなってきましたよ〜
 駄菓子屋さんは「子供の社交場」って聞いていたけど、どうしてどうして。
 おばちゃんだけじゃなくて、若い人も立ち止まるんです。
 ちょっと食べる……のにはいいのかもしれません。
 10円とか20円だから……ですね。
 でもでも、駄菓子よりも甘酒や焼き芋がどんどん出ます。
 おばちゃん達が教えてくれたからよかったようなものの、焼き芋も初めて見ましたよ。
 大きな壺のような中にお芋があるんですけど、ホクホクでおいしいみたい。
 おばちゃん達は「ぽんた王国」にお豆腐を買いに行くそうです。
 ちょっとアレコレ聞いておきましょう。
 わたし、いつもレッドと買い物に来てるけど、駄菓子屋さんはいろいろ売っててびっくり。
 おばちゃんニコニコ顔で、
「駄菓子屋っていうけど、看板は『商店』だよね」
「むう、びっくりです」
 別のおばちゃんが甘酒とセットらしい「たくあん」をつまみながら、
「どっちかと言うと、茶店?」
「ああ、はいはい」
 他のおばちゃん達も賛成してます。
 言われると、大人ばっかりの駄菓子屋さんは、お茶屋さんっぽいでしょうかね。

「あれ、ポンちゃん?」
「たまおちゃん!」
 今度はたまおちゃんが現れました。
「神社はいいの?」
「うん、ちょっと退屈だから駄菓子屋さんに」
「サボり……」
「いいの!」
 たまおちゃん、ベンチに腰を下ろすと、
「甘酒を一つ、冷で」
「うわ、冷、初めて!」
「冷蔵庫から出すだけよね」
「なるほど、冷で出すために冷蔵庫なんですね」
「温めるのはレンジでやってるでしょ」
「うん、いつも温めてるから、なんで焼き芋みたいにしてないのかな〜って」
「あ、聞いたら焼き芋、食べたくなっちゃった、焼き芋も」
「焼き芋、落ち葉で焼けばいいのに」
「いいから」
 たまおちゃん、ベンチの腰を下ろすと足をブラブラさせながら言います。
 わたし、甘酒の冷と焼き芋をたまおちゃんの横に置くと、
「駄菓子屋さんも、結構忙しいんですね」
「参拝帰りに寄る人多いから、ね」
「ですね〜」
 わたしは麦茶をいただきます。
 今はわたしとたまおちゃんだけです。
「だとしたら、観光バスが来たら大忙し?」
「まぁ、お店、これだけだから、たくさん来てもね」
「確かに、パン屋さんより小さいもんね」
「今は『ぽんた王国』に流れちゃう方が多いと思うよ」
「むう、駄菓子屋さん、ピンチ?」
「おばあちゃん、儲けようってつもりでやってるわけじゃないから、いいんじゃないかし
ら」
「そうなんですね」
 確かにパン屋さんより売り上げないですが……
 レッドと買い物に来ているイメージからすると、すごい売り上げです。
「甘酒一杯で200円なんですよ」
 わたしが言うと、たまおちゃん考える顔。
 飲んでいるコップを見ながら、
「おばあちゃん、カップ酒のコップで出してるから微妙だけど……200円ねぇ」
「わたし、おやつ代100円だから買えません」
illustration やまさきこうじ
「200円、普通と思うけど、100円のところもあるけど、ここの粒がたくさんでおい
しいし」
 たまおちゃん、たくあんをポリポリやりながら言います。
「わたし、今まで村はなんにもないってばっかり思ってました」
「どうして?」
「だって、老人ホームでも学校でも、静かになったら、音がなくなります」
「そうねぇ、学校の休み時間の声は神社まで聞こえる」
「休み時間が終わったら、授業になったらすごい静かなんです」
「でも、神社、人が来るわよ、ヌシがいるから」
 たまおちゃん、難しそうな顔をして、
「ヌシが死んだら、お客さん来なくなるかな?」
「お客さんとか言っちゃってますよ、参拝客くらいにしたらどうです?」
「参拝・客・じゃない!」
「それはそうですけど」
 たまおちゃん、お代を置くと、お芋を食べながら、
「じゃあ、ねー」
「はーい、また来てくださいね」
 行っちゃいました。
 入れ替わりでお客さんです。
 さてさて、店番、がんばりましょう。

 お昼前、やっと人がいなくなりました。
 ってか、お昼の時間だから、おそば屋さんとか、ラーメン屋さんに行ったんでしょう。
 さもなくばパン屋さんでしょうね。
 わたし、お座敷で一息ついていると……カップル現れました。
 とはいっても、中年カップル……夫婦でしょうかね、そんな感じ。
 店先から中を覗き込んでいる男の人。
 女の人はそんな男の人に腕を絡めて、一緒に覗き込んでいます。
 そんな女の人と目があっちゃいました。
 ってか、見覚えのある顔ですよ、パン屋さんの常連さんです。
「いらっしゃいませ、どうしました?」
「ポンちゃん……パン屋さんはどうしたの?」
 女の常連さん、聞いてきます。
「今日は駄菓子屋さんの娘なんですよ、いろいろあって」
「いろいろ……そう」
「どうしました?」
「いや、その、ポンちゃんだし」
「わたしではダメと?」
「えっと、お好み焼き、出せる?」
「うっ!」
「お好み焼き」と来ました!
 そうです、座敷にはテーブルがあって、鉄板もあるんですよ。
 たまにおやつでお好み焼きをいただく事もあるの。
 壁には「お好み焼き」「やきそば」「もんじゃ」、どれも200円ですね。
 女の常連さん、わたしを見てニコニコしながら、
「ポンちゃん、出来る?」
「うー、わたし、料理はさっぱり」
 困りましたね。
「あの、ラーメン屋さんとかはダメなんです?」
「どこもいっぱいだから、こっちに来てみたの」
 男の人も頷いています。
「パン屋さんはダメでした?」
「パンはちょっと物足りないかな〜って」
「あ、それはちょっとわかります、わたしもごはんの方が食べた感じしますもん」
「ポンちゃん、パン屋の娘がそんな事言っていいの?」
 って、わたし、ひらめいちゃいました。
 電話をパン屋さんにかけちゃうんです。
 すぐに受話器があがって、ミコちゃんの声です。
『はい、山のパン屋です』
「ミコちゃんミコちゃん、わたし、ポンちゃん」
『どうしたの?』
「お好み焼きのお客さんが来ちゃって」
『お好み焼きのお客さん?』
「そう、わたし、料理できないから」
『ああ、なるほど!』
 って、そこでちょっと受話器から聞こえてくる音が遠くなりました。
「あの、ミコちゃん」
『あ、ごめんゴメン、今、行くから』
「え! 今行くって!」
 電話が切れてしまうと、店先に光の渦が現れるの。
 電話の子機を持ったミコちゃんが、その光の渦から登場です。
「はい、到着!」
「到着って……術で来ちゃっていいんですか」
「だって、急ぎなんでしょ?」
 ミコちゃん、座敷でポカンとしている男女を見て、
「あ、いつものお客さんですね、今日はこっちですか」
 男の人も女の人もびっくりして固まっているの。
『ミコちゃん、術を使って来るからだよ』
『だって常連さんじゃない、今さらびっくりするなんて思ってなかったの』
『肝心な時にうっかり、ミコちゃんもモウ!』
『応援に来たのにそんな事言うの?』
『はいはい、お好み焼きをお願いします』
 ミコちゃん、ニコニコしながら奥に引っ込んじゃいました。
 わたしは二人にお茶を出しながら、
「あの、そろそろ我に返ってもらえますか?」
 お二人、ミコちゃんのテレポートを見てから言葉がないです。
 わたしが言うと、お互いを見合って頷くと、女の人が、
「ねぇねぇ、ポンちゃん!」
「なんですか?」
「ミコちゃんも術を使うの!」
「え? 知らなかったんですか?」
「知らないわよ、コンちゃんが飛んだりするのは見た事あるけど」
「ミコちゃんも術が使えるんです」
 って、男の人が首を傾げて、
「ミコちゃんってしっぽないけど……」
「ミコちゃんはミコちゃんなんです、すごいんです」
「すごい……はぐらかされてるみたいで……いいか」
 人柱で幽霊みたいな……なんて言えません。
 でもでも、何か言わないと、男の人、わたしをじっと見つめています。
「そうですね……『仙人』とかでどうでしょう?」
 言葉が浮かびませんでした。
 でもでも、仙人はなかなかいいでしょう。
 そんなわたしの言葉に女の人が、
「とりあえず、ミコちゃんは人間……なのかしら?」
「まぁ、そんな感じでいいです」
「ポンちゃんもいいかげん〜」
 わたし達が話していると、ミコちゃん奥から出てきて、
「噂してたでしょう〜」
 ちょっと怒った顔をするミコちゃんに、わたし達は愛想笑いするばかりなの。
 ミコちゃん鉄板に火を入れると、脂をひきながら、
「こっちにはよく来るんですか?」
 男の人が、
「今日はたまたま…こっちが空いているかなって」
「ふふ、パン屋さんにも来てください、500円でコーヒーサービスですから」
 鉄板が湯気をあげるのに、ミコちゃんお好みを焼き始めるの。
 わたし、焼いているのを見ながら、
「むう、ホットケーキみたいだから、わたしにも焼けないかな?」
 みんなクスクス笑っています。
 バカにしていますね!
 でもでも、なんだかちょっと難しそうです。
 わたしもたまにここでごちそうになるけど、いつもおばあちゃんに焼いてもらってます。
 よく考えると、わたしはレッドと一緒に焼くホットケーキだけかもしれません。
「おやおや、ミコちゃんがいるがね」
 おばあちゃんが帰ってきました。
 わたしすぐに、
「おばあちゃん、わたしお好み、焼けません」
「だったねぇ、ポンちゃんはいつも私が焼くねぇ」
 お好み焼いているミコちゃんを見ておばあちゃん、
「むう、今度からミコちゃんを呼ぶかねぇ」
 みんな笑ってます。
 くっ! くやしいっ!
 今度ちょっと、お家でホットプレートで練習しましょう。
 え、えっとですね……
 くやしいよりも……
 なんだか、お好み、自分で焼いた方がおいしそうな気がするんです。
 自分で焼けるように、練習、してみましょう。
 なんたってパン屋さんに小麦粉はたくさんあるんだから!


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