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■  ポンと村おこし    第161話「ホラー映画のように」         ■
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 テレビは今、ホラー映画をやっているところです。
 コワイ映画は正直イヤなんですが……
 なんてか、今日のは、度が過ぎて笑える映画です。
 ってか、こう、突っ込み所満載な映画なの。
 レッドとみどりは固まっていますが、わたしやコンちゃん、店長さんは笑いが止まりま
せん。
 映画の内容なんですが、古代エジプトが舞台だそうです。
 ミイラがよみがえって、王朝を滅ぼそうとしたり……
 神官が術を使って、政権をのっとろうとしたり……
 隣国が武力でもって、攻め込んできたり……
 笑える第一は問題のエジプトの王様は「なーんにもしない」事です。
 実はさっきから「ミイラ」「神官」「隣国」がドンパチするばかりで、王様は全然痛く
もかゆくもないです。
 わたし、隣でクスクス笑っている店長さんに、
「店長さん店長さん」
「何、ポンちゃん?」
「店長さんは、見た事あるんですよね」
「うん、だね」
「わたし、オチを予想してみていいですか」
「うん、ポンちゃんのラスト予想は?」
「王様、なにもしないで終了」
「おしい! ちがう!」
「へぇ、なにもしないで終わったほうが、みんなが『やっぱり』って思うと思うんですよ」
「うーん、王様は結局たいした事はしないんだけど……」
「どんな終わりなんです?」
「ネタバレしていいの?」
「いいですよ、これってコメディですよね」
「だね」
「だったら笑ってるだけで充分です、で、終わりは?」
「ほら、王様の横にはお后様がいるよね」
「おきさきさま……お嫁さんですよね」
「うん、あの、横に座っている女の人」
「あのお后様がどうするんです?」
 店長さんニコニコ顔で、
「いきなりお后様が魔法使いって言い出すんだよ」
「は?」
「お后様、魔法使いなんだ」
 わたし、それを聞いただけでわかっちゃいました。
「お后様、魔法使いで、魔法を使って解決しちゃう?」
「その通り……」
 店長さん、そこで固まっちゃいます。
 コンちゃんとシロちゃん、ミコちゃんが冷たい目でにらんでいるの。
 コンちゃんが、
「店長、後でコロス」
 シロちゃんが、
「本官、残念であります、聞きたくなかったであります」
 ミコちゃんが、
「店長さんのごはん、しばらく半分」
 ミコちゃんの「口撃」が一番こたえたみたいです。
 でも、店長さん、ため息一つ、ついてから、
「もうゴハン半分だから、最後までクイズいこうか?」
「店長さんいいんですか、またネタバレしたら『ゴハンぬき』かもしれませんよ」
「くっ……その時はぽんた王国に家出するからいい」
「家主なのに家出するんだ」
「で、ポンちゃん、クイズです」
「はい、なんでしょう?」
「お后様が魔法使いで敵をやっつけちゃいます」
「やっつけるんだ……方法は〜ってクイズです?」
「そうです、どんなオチでしょう」
 店長さん、ニコニコしています。
 そのバックではコンちゃん・シロちゃん・ミコちゃんが頬を膨らませているの。
 答えを言ったら、店長さんフルボッコかもしれませんよ?
 むむ……たまおちゃんが「ポッ」と頬を赤らめてます。
 なんででしょうね?
「ヒントはないんでしょうか?」
 別に当てても当てなくてもいいんですが、聞くだけ聞いてみましょう。
 クイズ……やっぱり当てたいのが本音ですからね。
「うーん、ヒントねぇ」
 店長さん、ニコニコして、でも、考える顔。
 コンちゃん達はさらに髪がうねっています。
 たまおちゃんはさらに赤くなってます。
 たまおちゃんが赤くなる……のがわかりません。
 ただ、たまおちゃんはこの映画のラストを知っているのは確かみたい。
「店長さん、ヒントは?」
「うーん、そうだね、王様は女ったらしです」
「!」
「っても、ほら、時代劇でもあるよね、大奥って」
「あ、大奥は知ってますよ、日本版ハーレムでしょ」
「それ、なんか違うような気がするけど、まぁ、いいかな」
 店長さん、顔が青くなります。
 テレビ画面では血しぶきあがりまくりで、人間がミイラに食われまくっているの。
「この映画、スプラッタなシーンはすごいんだよなぁ」
「うわ、血まみれですね」
 わたしも店長さんも、ミコちゃん達も固まるの。
 たまおちゃんは……見れば何でもない顔です。
 うーん、こんなシーンは興味がないみたいですね、たまおちゃんは、
 店長さん、何かに気付いて……みどりを抱き上げました。
 みどり、今のシーンで逝っちゃったみたいです。
 白目をむいて、気を失っています。
 店長さん、みどりを抱き上げて退場、すぐに戻ってきました。
 きっとお布団に寝かせてきたんでしょう。
「で、ポンちゃん、答えは?」
「女ったらし……もうちょっとわかりやすいヒントがいいです」
「むう、そうだね、この映画の、今までの展開で足りないものです」
「今までの展開で足りないもの……はぁ?」
 と、「神官」が術を使って敵を催眠術にかけちゃうんです。
 術に掛かった隣国の兵隊さんは、お互いを切りつけるようになっちゃうの。
 またしても血の惨劇です。
 って、レッド、ダウンしました。
 ちょうど「神官」が術をかけているシーンで逝ってしまいましたよ。
 店長さん、レッドを抱えて一旦退場、すぐに戻って来ると、
「で、答えは?」
 テレビは今、ミイラが人間を食いまくっているシーンなんですが……
 最初はいつも「ドキッ」とするんですよ。
 でも、ドンドン殺戮シーンがエスカレートしていくと……
 急に笑えるようになってきちゃうのが、この映画のいい(?)ところです。
 今、兵士が腕を食いちぎられました……兵士、びっくりしてミイラを追いかけ始めるの。
 ミイラはスキップでもするような足取りで逃げて……
 腕を持っていかれた兵士は……腕がないのに、妙に元気……
「店長さん、わたし、腕を食いちぎられたらこんなに元気でいられません」
「俺も思うよ、ほら、あっちでは真っ二つ」
 ミイラの剣を受けてお腹から上下に切られた兵士。
 ミイラは勢いあまって自分も真っ二つになって……
 兵士は上半身が落ちないように、手でしっかり下半身押さえてて……
「店長さん、この映画、血しぶきすごいけど、コメディですよね」
「だね、鉄板ってくらいなコメディだよね」
 神官達が攻勢に回ります……術でミイラを燃やしまくりなんですね。
 って、横から隣国兵士の戦車が登場、神官を轢いちゃいました。
 兵士の戦車は燃えているミイラの群れに突入して、燃え出しちゃうの。
「バカですね」
「だよね〜」
 燃えているミイラは、川に飛び込んで、ワニが群がって再びピンチに。
 戦車に轢かれた神官は、バラバラになった自分の身体を集めてまわってます。
 燃え出しちゃった兵士は、もだえるだけで、燃え続けているの。
「バカですよね」
「だね〜」
 ワニが群れようが、バラバラになろうが、燃えようが……死にません、いい映画かも。
 と、それぞれ苦しんでいた「ミイラ」「神官」「兵士」が「なにか」を思い出したよう
に、王様に向かっていきます。
 ワニに食われている最中のミイラが王様に迫ります。
「店長さん店長さん」
「何、ポンちゃん」
「わたし、まず、ワニをどうかしたらって思います」
「俺も思うよ」
 あ、ミイラ、食われちゃいました。
 でも、ワニのお腹の中であばれているの。
 ギャグですよね。
 今度は燃えている兵士が王様に迫ります。
「店長さん店長さん」
「な、何、ポンちゃん」
「わたし、まず、火を消せよって思っています」
「俺もそう思うよ」
 あ、兵士、燃え落ちちゃいました。
 灰になって……灰が集って……ちっちゃくなっちゃいました。
 どこかのお笑いマジシャンですか。
 最後にバラバラ神官が王様に迫ります。
 神官がしゃべっている間にも、腕が落ちたり、足がもげて倒れたりするの。
「店長さん店長さん」
「ポンちゃん、何?」
「……はやく死ねよって思います」
「思う思う」
 ああ、神官、元に戻れなくなり……肉片になっても術、撃ちまくりです、迷惑です。
 って、玉座を押し退けてお后様登場。
「王様あぶないっ!」
 うわ、押し退けられた王様、床にしたたか打ち付けて血まみれ。
 お后様の攻撃(?)が一番効いてたように思うの、わたしだけ?
 コンちゃん・ミコちゃんもクスクス笑ってます。
 お后様、最前線に出ると印を結んで、
「ゴット・シールド!」
 お后様の術で敵からの攻撃を防御。
「ブーッ!」
 噴き出すコンちゃん・ミコちゃん。
 その先にいたシロちゃんは迷惑な顔をしてます。
 お后様のターンは続くの、
「ゴット・アタッーク!」
 途端にテレビがフラッシュして、ゾンビ・兵士・神官が消えます。
 次第に色が戻ってくる画面。
 って、エンドロール始まっちゃいました。
「ああ、あの術で敵を全滅しちゃったってストーリーなんですね」
「いや、さっきの術で全部女の子のなっちゃうんだ」
「は?」
「だから、全部女の子」
「なんで?」
「お后様の術が失敗して、女の子」
「女の子になってどうするんです?」
「ハーレムになって終わり」
「ぶちこわしですね!」
「この作品に足りないのは、お色気だから、最後にポンって付けた感じなんだよ」
「そんな風に『ポン』ってつけないでほしいです」
 たまおちゃん、ため息をついて、
「最後がいいのに」
 たまおちゃん、女なのにそんなシーン見て楽しいんでしょうか?

 お店には2・3人のお客さん。
 さっきから入れ替わりで、いつものお店の空気です。
 足音が聞こえてきました。
 レッドがご帰還です。千代ちゃんも一緒なの。
「ただいま〜」
「はい、お帰りなさい、千代ちゃんも一緒なんですね」
「千代ちゃもいっしょ、さいみんじゅつを」
「催眠術を?」
 レッドはさっさと奥に手洗いに行っちゃいました。
 千代ちゃんニコニコ顔で、
「ポンちゃん、昨日の映画、見た?」
「あ、ええ、あのお后様の活躍する映画ですね」
「ポンちゃん、お后様の活躍って……笑ったけど……」
「ですよね、千代ちゃん」
 わたし、おやつを準備して、千代ちゃんは一度トイレに手洗いに行きました。
 千代ちゃん、手を拭きながら戻って来ると、
「レッド、学校で催眠術催眠術ってずーっと言ってたんだよ」
「催眠術?」
「ほら、神官のおじさんが使っていた……」
「ふむ」
 そうそう、神官が「糸にぶらさがった5円玉」をブラブラさせて催眠術かけちゃうんで
すよ。
「5円玉」なところが笑えるところです。
 エジプトが舞台な映画と思うんですけどね。
 千代ちゃん、疲れた笑みで、
「私、ずっと相手してたんだよ」
「おつかれさまです」
「ポン太も相手をして、ポン吉は寝てた」
「むう、レッドはもしかして『得意』になってませんか?」
「うん……夢を崩さない方がいいのか悪いのか、わからないんだけど」
「面倒くさいから、崩してしまいましょう」
 レッドの駆けて来る足音がします。
「ポン姉! ポン姉!」
 手には「ひも付き5円玉」です。
 おやつの席に着くと、アイテムをわたしに見せながら、
「ポン姉はだんだんねむくなーる」
「……」
「ねむくなーる」
「……」
「ねむくなる? なるゆえ? なるとき? なるなる?」
「なりません、えいっ!」
「ひも付き5円玉」を取っちゃうの。
「うわーん、さいみんじゅつー!」
「術なんて使えないんですよ、まったくモウ」
「がっこうではつかえたゆえ!」
「わたしには効かないんですよ、えいえい」
 わたし、レッドのほっぺを「うにょーん」って引っ張るの。
「いたいゆえー!」
「痛くしてるんですよ、えいえい、うにょーん」
「いたいー」
 騒いでいると、コンちゃんがムスっとした顔で起きました。
「静かにせぬか、おやつは静かに食べるのじゃ」
「ポン姉がいじめるゆえ!」
「ポンはいじめっこなのじゃ、レッドが悪いのじゃ」
「ふむ、なっとくゆえ」
「なにが納得ですか、誰がいじめっこですか!」
「なっとくゆえ」
 って、そこにミコちゃんと配達人が登場です、二人は仕入れのお話をしている最中だっ
たみたい。
 おやつのテーブルに着くと、目の細い配達人が、
「どうしたの? 楽しそうだね」
「催眠術の話をしてたんですよ、昨日の映画の」
「ああ、俺、見た事ある、最後がいやらしいのに、残念だったね」
 配達人は本当の最後を見た事あるみたいです。
 むう、わたしも見てみたいです、気になります。
 レッド、わたしから「ひも付き5円玉」を奪うと、ミコちゃんに催眠術かけてます。
「ミコ姉はだんだんねむくなーる」
「くう!」
 ミコちゃん寝た振りです。ちょっとかわいい。
 レッドは得意顔で、
「ほら、かかったゆえ」
「わたしはかからないんですよ」
「むー!」
 レッドの頭上に裸電球、点灯するの。
「いじめっこにはかからないゆえ!」
 ケンカ売ってるんですか、この仔キツネは。
 レッド、今度はコンちゃんに向かって、
「ねむくなーる!」
「ならんのじゃ、ていっ!」
 コンちゃん、即チョップです。
 レッド、困った顔で、
「こここコン姉はいじめっこ! しょっくゆえ!」
 レッド、今度は配達人に術を……
 って、配達人、レッドの耳元に顔を寄せて何かささやくの。
 レッドは5円玉をブラブラさせながら硬直。
 配達人が離れると、目をパチクリさせながら、
「いまのはほんとうゆえ?」
「やってみたらいいよ」
「おお!」
 なにか教わったみたいです。
 レッド、自分の背中を見るようにして、背後を確認しています。
「むずかしいゆえ!」
「頑張れ頑張れ」
 配達人にはげまされて、レッドなにかやってるみたいです。
 でも、すぐにレッド、万歳して、
「いまからまじしゃんゆえ!」
 はぁ、なに言ってるんでしょうね。
 レッド、わたし達に背を向けて立つと、しっぽを……
 とぐろを巻いたしっぽが回るんです、渦巻きみたい。
 レッド、コワイ顔をして、
illustration やまさきこうじ
「うにょーん」
「……」
「ねむくなーる」
「……」
「うにょーん」
「チョップです、チョップ」
 わたしがチョップをしても、レッド、止めません。
 ってか、レッド、びっくりした顔です。
 配達人、千代ちゃんは愛想笑いで効いてません。
 ミコちゃんは萌え死んでいます……レッドすきーだからですね。
 コンちゃんは……目、回してます、効いてます、ふらふらしてるの。
 これは止めないといけませんね。
 とぐろを巻いているレッドのしっぽをつかまえます。
「やめるんですよ、コンちゃん目を回してるでしょ」
「おお、さいみんんじゅつ、きいてまする」
「目、回しているだけですよ」
 レッド、ふらふらしているコンちゃんの前に立つと、
「だっこしてほしいゆえ」
「わらわに〜おまかせ〜なのじゃ〜」
 コンちゃん魂の無い目でレッドをだっこするの。
「わーい、さいみんじゅつ、だいせいこうゆえ!」
 まったくモウ、コンちゃんもたいした事ないですね。
 チョップすると、コンちゃんの目に生気が戻ってくるの。
「ほら、しっぽを見て目を回さない!」
「おお、ポンよ、助かったのじゃ」
「コンちゃん、神さまのくせに大した事ないですね」
「むう、あのしっぽグルグル・うにょーんは本当に目が回るのじゃ」
 わたし、だっこされているレッドを取り上げて、
「しっぽグルグルは禁止です、禁止」
「なにゆえ!」
「レッド、悪さするでしょ、催眠術で」
「きつねゆえ」
「ふーん、お風呂で『ザブーン』でいいんですか?」
「ポン姉、あくま、こわい」
 って、そんなわたしとレッドを見て千代ちゃんが、
「ポンちゃん、そんな事やってるんだ」
 配達人が、
「こ・わーい!」
 千代ちゃんはいいでしょう。
 でもでも配達人はチョップですチョップ!


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