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■  ポンと村おこし    第162話「遠足は科学館」            ■
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 めずらしく村長さんがお店にいるんです。
 コンちゃんのテーブルで難しい顔で固まっているの。
 シリアス村長さん。
 コンちゃんはうつらうつら、舟を漕いでいます。
 二人のギャップにわたしはどう言っていいものやら……
 ただ、経験上、村長さんがお店に来る……ロクな事ないような気がするの。
 わたし、奥に引っ込んでミコちゃんに聞くの、
「ねぇねぇ、ミコちゃんミコちゃん」
「何? ポンちゃん?」
「村長さんが来てるんですよ」
「知ってるわ、お茶しに来たんじゃないかしら」
「それは……わたしがコーヒー出したから、わかってる」
「お茶しに来てる……だけなんじゃない?」
 わたしとミコちゃんで、柱の陰からお店を見るの。
 村長さんはムスッとした顔で固まっています。
「怒ってませんか?」
 わたしが聞くと、ミコちゃん小さく頷いて、
「怒ってるか、悩んでいるか」
「どっちにしても、近付かない方がいいよね」
「そうねぇ」
 しかし、そんな村長さんの前でコンちゃんはうつらうつら、舟を漕ぐの。
 村長さんの目が、コンちゃんに向けられました。
 それまでは固まっていた村長さんですが、プルプル肩が震えだしますよ。
「ミコちゃんミコちゃん」
「何? ポンちゃん?」
「面白い事になりそうですよ」
「……」
 ミコちゃん、唇をゆがめてから、
「ポンちゃん、助けてあげたら?」
「もう、手遅れですよ」
 って、わたしが言うが早いか、村長さん身を乗り出すとコンちゃんのほっぺをつまんで、
左右にビローンって引っ張るんです。ビローン。
「ひたひ、なにをするー!」
「こっちが悩んでいるのに、何寝てるのっ!」
「なにをー!」
「それ、ビローン」
「ひたひー!」
 村長さんがコンちゃんのほっぺを「ビローン」すると、コンちゃんはワタワタするばか
り。
 コンちゃんが怒ると面倒なので行くとしましょう。
「ちょっとちょっと、村長さん村長さん、やめてくださいっ!」
「ポンちゃん止めないで、この居眠りキツネをビローン」
「いいから、止めてくださいって!」
「何でポンちゃん止めるの? コンちゃん寝てるばっかりじゃない」
「いいんですよ、寝てるだけなら面倒くさくないんですから」
 わたしが言うと、村長さんコンちゃんを解放してくれました。
 でもでもコンちゃんのほっぺ、赤くなってるの。
 コンちゃん、一瞬は怒りの炎のこもった目で村長さんを見るけど、村長さんの背後に暗
黒オーラが渦巻いているのにひっこんじゃいます。
 コンちゃんもたいした事ないですね。
「村長さん、どうしたんです?」
「むう、ポンちゃん、よく聞いてくれたわ」
「そりゃぁ、まぁ、機嫌悪そうだし」
「そんなに機嫌悪そうにしてた? ごめんなさいね」
「まぁ、普通コンちゃんのほっぺを『ビローン』なんてしませんよ」
「だって気持ちよさそうに寝てるんだもの、頭にくるじゃない」
「どうして頭にきてたんです?」
「そこなんだけど……」
「そこなんだけど?」
「遠足よ、遠足」
「はぁ……遠足?」
「ネタに困ってるのよ」
「ネタ? 遠足の?」
「そう、どこに行くかな〜ってね」
「ああ、はいはい、この間は水族館に行きましたね」
 すると、途端にコンちゃんの髪がうねりだして、
「むう、水族館、わらわ、おいてけぼりになりそうだったのじゃ」
「はいはい、そんな事もありましたね」
「しかし水族館は楽しかったのじゃ、大きな水槽よかったのじゃ」
 コンちゃんの機嫌はすぐに戻りました。
「わらわ、また水族館でもいいと思うぞ」
 コンちゃんが言うのに、村長さんムスッとした顔で、
「また? 同じ所はだめなんじゃないかしら?」
 って、コンちゃん、指をパチンと鳴らして、
「ゴット・コンピューターなのじゃ!」
「「ゴット・コンピューター!!」」
 わたしと村長さんはもっちゃうの。
 コンちゃんの目の前に画面が浮かび上がっています。
 まるで未来のパソコン。
 浮かび上がった画面を指で操作しながらコンちゃんは、
「ほれ、村長よ、よく見るのじゃ」
「コンちゃんすごいわね、未来っぽいわよ」
 って、村長さんの言葉にコンちゃんの手が止まるの。
 それから左の手首を見せると、そこには腕時計が巻かれています。
「この機械を保健医からもらったのじゃ」
 コンちゃんの左手首に巻かれているのは、腕時計っぽいけど、またちょっと違うみたい
ですね。
 コンちゃんそんな機械を撫でながら、
「テレビもよいが、動画サイトを見たかったので、保健医に作ってもらったのじゃ」
 コンちゃん、画面を指で操作、そして村長さんに合図すると、
「ほれ、水族館は一つではないのじゃ、あちこちにあるのじゃ」
「……」
「わらわ、このペンギンの水族館がいいのじゃ、ペンギン行進面白そうなのじゃ」
 って、画面ではペンギンの行進動画が再生されています。
 村長さんは小さく頷きますが、わたしは歩いているペンギンを見て、
「にわとりが歩いているのと変わらなくないですか?」
「ポンはわかってないのう、ヨチヨチ歩きが面白いのじゃ」
「そうかなぁ、歩いているだけだよね」
「ポンはわかっておらぬのう」
「わかりませんよ、ふん!」
 って、村長さん、コンちゃんの画面を指でなぞりながら、
「でも、遠いのはちょっとねぇ」
「むう、村長、いいではないか、遠くても水族館ならまだたくさんなのじゃ」
「水族館は結構いいのよね、老人ホームでも行けるし」
 でもでも、村長さんの顔を見ていると「水族館」はなさそうですね。
 まだ、なにか、別のモノを考えてるみたいですよ、村長さんは。
「村長さん、動物園でよくないですか?」
「ポンちゃん、手抜きね……って、私もそろそろソレ、考えてるんだけどね」
「動物園、遠足の定番なんですよね」
「そうよ、定番なの、それに市内の動物園、植物園も一緒で暇つぶしにもいいしね」
「なら、動物園にしたらいいじゃないですか」
「ポンちゃんも行くのよ」
「むう、いいですよ、タヌキしっぽはコスプレって事で」
 わたし、愛想笑いで言うと、村長さん難しい顔で、
「いい、みどりちゃんも行くんだけど」
「みどりのしっぽもコスプレって設定なんです」
「みどりちゃんは、動物園からさらわれてきたんだけど」
「!」
「忘れたの?」
「そんな設定、ありましたね、そうそう、みどりは動物園からさらわれて来たんでしたね」
「そんなみどりちゃんを、動物園に連れて行っていいかしら?」
「むう……」
 みどりを動物園に連れて行ったらどうなるでしょう?
 やっぱりとんでもない事になるかもしれません。
 動物園はやめておいた方がよさそうですね。
「そこで、あの男を呼んでいるのよ」
「あの男?」
 村長さんは言ってから、視線を窓の外へ。
 目の細い配達人がやって来るのが見えますよ。
 カウベルがカラカラ鳴って、
「ちわー、綱取興業っす」
 わたしとコンちゃんで、配達人の左右を抑えるんです。
 そして村長さんの前へ。
「ちょ、ちょっと、なんで?」
「逃げ出さないようにですよ」
「ほれ、配達人、よいアイデアを出すのじゃ」
 わたしとコンちゃんが言った後で、村長さんが厳しい目で、
「電話で言ったけど、遠足、いいかしら?」
 配達人、すぐさま、
「水族館のチケット準備してますけど」
 コンちゃんは喜んでいますが、
「コンちゃんから連絡あったからなんだけど」
 配達人の言葉に、わたしと村長さん、コンちゃんをにらみます。
「行ってみたかったのじゃ、ペンギン水族館」
「遠いでしょ、まったくもう」
 村長さんは怒ってます。
 配達人は一瞬は困った顔になったんですが、
「近所で動物園以外なら、科学館どうです?」
 配達人の言葉に村長さんの顔が明るくなるの。
「それ、いいわね、私も行った事あるし」
 もう決まったみたいですね。
 でもでも、科学館ってどんなところでしょ?
「科学」の「館」なんですよね……どんなんでしょう。

「科学館」に遠足です。
 水族館の時と一緒で、みんなしっぽをつけて行くんです。
 科学館はですね、●んじろう先生のやってるのを、実際にやってみるみたいなところで
した。
 ふふ、ダンボールで空気砲もやったんですよ。
 でも、最後に「プラネタリウム」はみんな喜んでました。
 わたしとコンちゃんは「どよーん」とした気分になっちゃったんです。
 だって「夜空」は「ダンボールの刑」なんですから。

 山のパン屋さんは……今日はヒマです、お昼なのに。
 わたし、コンちゃん、ミコちゃんでテレビ前の席で暇つぶしです。
 コンちゃんはポヤンとテレビを見ています。
 ミコちゃんとわたしは……今夜老人ホームで使うもやしの髭を取ってるところなの。
「ヒマですね」
「そうじゃのう」
 わたしが言うのにコンちゃんはダラダラした口調でこたえるの。
 ミコちゃん、微笑みながら、
「二人は科学館、どうだったの?」
 そんな言葉に、わたしとコンちゃんの表情が険しくなります。
「わたしは空気砲が楽しかったかな」
「わらわはゲームばかりだったのじゃ」
「あの……学校じゃプラネタリウムが一番人気だったみたいだけど」
「「はぁ!」」
 わたしとコンちゃん、はもっちゃいます。
 ミコちゃん不思議そうな顔で、
「わたしは遠足行かなかったけど、プラネタリウムは楽しそうなんだけど」
「ミコちゃんはわかってませんね」
「な、何、ポンちゃん」
「わたしとコンちゃんにとっては、星空なんてダンボールの刑でお馴染みなんですよ」
「ダ、ダンボールの刑」
「だから、星空なんていらないんです!」
「ポンちゃん、ロマンチックじゃないわね」
「ミコちゃんも思わないんですか?」
「?」
「ミコちゃんだって、レッドと温泉行ったりしますよね」
「ま、まぁ……たまに」
「帰り道は夜ですよね」
「そう、ねえ」
「大体、この村は山の上で田舎なんです、ほっといても星はたくさんです」
「そ、それはそうだけど」
 わたしとコンちゃんが怒っているのに、ミコちゃんタジタジです。
 って、ミコちゃんの目が窓の外に向けられます。
 レッドが保健の先生と一緒にご帰還ですよ。
 うん?
 でも……
 なんだかいつもと様子が違います。
 いつもだったらレッドはニコニコしているところですよ。
 なんたって保健の先生は眼鏡なんですからね。
 それが今日のレッドは、なにか考えているのか笑顔がないです。
 いつも見られないような、考える顔なんですね。
 わたし、保健の先生にテレパシー
『どうしたんですか?』
『うーん、なつかれちゃって……ちょっとちがうかな』
『どうしたんですか?』
『学校でね……』
『学校で?』
 って、レッドと保健の先生、わたし達の座ってるテーブルの空いた席に着きます。
 レッドは保健の先生から離れないから、先生の膝の上です。
 そのレッド、切な気な目(?)で保健の先生を見つめて、
「ねぇねぇ」
「はいはい」
「せんせー」
「……」
「おそらまっくら、みたいゆえ」
「……」
「ねぇねぇ」
「おそらまっくら」ってなんでしょうね?
『保健の先生、保健の先生、「おそらまっくら」ってなんです?』
『ほら、科学館行ったじゃない』
『保健の先生も付き添いで行ったじゃないですか』
『プラネタリウム、おぼえてる?』
『もうプラネタリウムはいらないです、夜空キライ』
『夜空じゃなくて、あったじゃない、日食の話』
『日食……』
 わたし、コンちゃんを見ればうなずきます。
 ミコちゃんは遠足についてこなかったから、知らないでしょう。
 みんなの視線がレッドに向けられます。
 レッドは保健の先生の白衣を引っ張って、
「おそらまっくら、みたいゆえ」
 訳すると「日食見たい」でしょうね。
 保健の先生、目を逸らして、
「あれはお月さまがお日さまを隠すのよ」
「ねぇねぇ」
「とは言われてもねぇ」
 わたしもプラネタリウムで見ました。
 お昼なのに真っ暗になる……わたしもリアルで見たいかな。
「保健の先生、なんとかならないんですか?」
「むう、ここで見るのはちょっと無理でも、ちょっと待ったらどこかで……」
 って、保健の先生がしゃべっていると、ミコちゃんが小首を傾げて、
「日食を起こせばいいのよね」
 保健の先生が、そしてコンちゃんが青ざめます。
 レッドは保健の先生からミコちゃんに移っちゃいました。
 わたし、ミコちゃんの術発動を期待します、日食見たいし。
 レッドとミコちゃん、一緒になってウッドデッキへ。
 保健の先生とコンちゃんは固まって動かないです。
「ねぇ、日食、見に行かないでいいんですか?」
 わたし、二人をゆすりながら言うの。
「ほら、始まっちゃうよ、はやく行こう」
 って、地震です、ゆれゆれ。
 でもでも小さい地震だから、パンがテーブルから落ちたりとかはしません。
 保健の先生が立ち上がって、
「止めないと!」
 コンちゃんもワンテンポ遅れて立ち上がると、
「まさかと思うが!」
 わたしもウッドデッキに出ます。
 あ、日食、始まってますよ、どんどん暗くなるんです。
 レッドは獣耳モードでハイテンション。
illustration やまさきこうじ
 ミコちゃんはニコニコ笑顔で空に手をかざしています。
 保健の先生とコンちゃんは真っ白。
 どんどん空が暗くなって、プラネタリウムで見たとおりになっちゃいました。
 お昼なのに、真っ暗で不思議!
 レッドもわたしも、ワクワクです!
「すごいすごーい!」
 ですよね、お昼なのに真っ暗だし。
 でもでも保健の先生はひきつって、
「えらいこっちゃ!」
 コンちゃんも肩を震わせながら、
「ミコのヤツ、ここまでできるのかの!」
 むう、月を動かしてお日さまを隠すって言ってました。
 月を動かすのって、そんなに大変な事なんでしょうか?


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