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■  ポンと村おこし    第163話「花屋の娘vsポン太」         ■
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「今日はポンちゃん、ぽんた王国に行ってほしいのよ」
 朝ゴハンの時、ミコちゃんが切り出しました。
「今日は日曜なんだけど、いいの?」
「パン屋さんは観光バスが来ないから、私とコンちゃんでなんとかするわ」
「まぁ、それでいいなら行くけど」
 わたしのぽんた王国お手伝い、決定です。
 ぽんた王国のお手伝い、何をするんでしょう?
 みやげ物屋のお手伝いかな?
 お豆腐屋さんのお手伝いかな?
 おそば屋さんのお手伝いかな?
 それともニンジャ屋敷のお手伝いかな?

 正解は「おそば屋さんのお手伝い」でした。
 長老がおそばをこねながら、
「ポンちゃんはおそば屋さん大丈夫だから来てもらいました」
「長老、わたしでいいんですか?」
「ポンちゃんなら安心です」
「まぁ、わたしもおそば屋さんなら経験あるからいいかな」
 長老はとりあえずのおそばを準備しながら、
「日曜日はお客さんが多いから、経験者じゃないとダメですから」
「それはそうと……」
 さっきから長老、真面目におそばをこねています。
 そんな長老をわたし「クンクン」しちゃうの。
「何ですか? ポンちゃん?」
「いやいや、今日はお酒のニオイがしませんよ」
「ふふ、ポン太がうるさいので、お酒は日曜終わるまでお預けです」
「長老、ポン太に負けるなんてないでしょう?」
 そうです、ポン太をニンジャとして……本当に人類抹殺のために訓練した……先生にあ
たる人なんですから、ポン太に負けるなんてないです。
 長老、おそばを切りながら、
「ポン太は……なんだかんだで子供だからですね」
「ですよね、長老負けませんよね」
「ポン太も大きくなったから、なかなか手ごわくなったんですが……」
「ですよ、長老、負けないでしょ」
「最近ポン太は村長さんを連れて来るんですよ」
 ポン太、やりますね、村長さんを連れてくるなんて。
「長老も村長さんにはかないませんか?」
「村長と……保健医さんもコワイですね」
「おお、なんだか長老と気が合ったような気がします、わたしも同じです」
「村長さん怒らせるとコワイですね」
「ふふ、それでお酒を止めてるんですね」
「そうなんですよ」
 長老、おそばを切り分けると、一食分に分けながら、
「でも、最近、金曜と土曜にお酒を止めるとですね」
「健康になりました?」
「健康……は、わかりませんが、日曜のお酒がおいしくなりました」
「ああ、なんだかそれもわかりますよ、わたしもレッドにプリンをたべられまくって、お
あずけ食らって、ひさしぶりに食べるとおいしいし」
「ポンちゃんもそんな事があるんですね」
 って、お店の引き戸が開いて、お客さんが入ってきました。
 まだ時間にはちょっと早い気がしますが……
「いらっしゃいませ〜って、花屋さんじゃないですか」
 そう、入ってきたのは「花屋の娘」です。
「ポンちゃんおはよう、ポンちゃんもそば屋でバイト?」
「ポンちゃんもって……花屋さんも今日はここで?」
「うん、花屋の仕事は朝で終わったし、ね」
 花屋の娘、長老から前掛けを受け取ると、
「私は洗い場を担当するから、よろしく〜」
 今日は3人態勢でおそば屋さんです。
 わたし、ちょっと思い出してみるの。
 日曜のおそば屋さんは忙しいですよ。
 いつもはポン太やポン吉も一緒なんです。
 作る人・洗う人・注文とって持って行く人は確かに最低限、いるでしょうね。
「あれ、長老長老!」
「なんです、ポンちゃん?」
「ポン太とポン吉は?」
「二人はニンジャ屋敷ですよ、日曜ですから」
 それで「わたし」「花屋の娘」がおそば屋さん手伝いなんですね。
 お店の引き戸がカラカラと音をたてます。
 今日一番のお客さんですよ。
「ポンちゃんも、花屋さんも、たのみましたよ」
 長老の言葉に、わたし達頷きます。

 長老が茹でたり作ったりして、花屋の娘が盛り付けをやるんです。
 出来上がりをわたしが持って行く。
 注文をとるのもわたしでしょう。
 食べ終わったら食器を引いてくるのもわたしの仕事かな。
 洗い場まで持って行くと、頃合を見計らって花屋の娘が洗うんです。
 レジはわたしがやる感じですね。
 ともかく日曜のおそば屋さんはすごい忙しさです。
 お昼すぎるまで、息つくヒマなしって感じでしょうか。
 お客さんがまばらになって、閉店の時間前になってようやくまかないなの。
 まずは花屋の娘がお食事です。
 花屋の娘はえび天丼を食べながら、
「平日のそば屋とはえらい違いね」
 花屋の娘が言うのに、長老は体をゆらしながら、
「それは平日とは比べ物にならないでしょう」
「私、こんなに忙しいとは思わなかったわ」
「アルバイト、しなければよかったですか?」
「もうちょっと、アルバイト代はずんでほしいかな」
「ふふ、次回交渉ですね」
「むう、今回はしょうがないか」
 花屋の娘はえび天を食べながら、
「他のお店も、やっぱりそうなの?」
 花屋の娘がわたしを見ながら言います。
「パン屋は……どうかな?」
「そんなにかわらないの?」
「うーん、パン屋は観光バスがこわいです」
「観光バスがこわいの?」
「はい、観光バスが来ると、パンがなくなっちゃいます……売れるのはいいんですが」
「なりほど、その瞬間は死ぬように忙しいのね」
「ですね、日曜もこわいけど、一番は観光バス、それも3台とか」
「そうなんだ」
「だから、日曜はぽんた王国のお手伝いとかしています」
「ふむ、日曜はこっちの方が忙しいみたいね」
「きっとそうですよ」
 わたし、ちょっと考えてから、
「わたし、今日はおそば屋さんでしたけど、ニンジャ屋敷のお手伝いも多いですよ」
「へぇ、ニンジャ屋敷ねぇ」
「ちょっと覗いてきたらどうです?」
 わたしは言いながら長老に目をやります。
 長老もそんな視線に気が付いて、
「今日はもう、おそばも終わりなので、店を閉めてもいいでしょう」
 花屋の娘はにっこり笑顔で、
「ニンジャ屋敷、ふふ、どんでん返しとか?」
「本当にやった事ないんですね、好きそうなのに」
「どんな感じなの? ニンジャ屋敷っていったらこう、カラクリばっかり」
「ですね、スタンプ集めて、地下でボスと対決するんです」
「ゲームみたいね」
 花屋の娘、ワクワクしています。
 わたしもおそば屋さん、終わったら一緒しましょう。

 花屋の娘と一緒に、まずは「みやげ物屋」をまわります。
「みやげ物……買うんですか?」
「ううん、ほら、ここに桃とか卸してるでしょ、カブトムシとか」
「カブトムシは大当たりみたいですよ」
「やられたわよ、10万円とかどんだけよ」
 花屋の娘はくやしそうです。
 でも、すぐに真顔に戻って、
「でも、私の所まで人は来ないから、しょうがないわね」
 言いながら、売り切れた桃の棚を見ています。
「今日、卸した桃、全部売れてるのね」
 他のくだものの棚も全部売り切れです。
 花屋の娘、残っているしょうゆとかパンを見ながら、
「私の作ったくだもの、売れてるのね」
「みたいですね」

 豆腐屋さんで、今日の夕飯のお豆腐をゲットしたら、いよいよニンジャ屋敷なの。
 チケット売り場ではレッドとみどり、千代ちゃんがニンジャ装束でお出迎え。
 千代ちゃんが、
「ポンちゃん、どうしたの?」
「おそば屋さんでお手伝いしてたの、終わったからちょっと見てまわってるの」
「そうなんだ……花屋さんも」
 千代ちゃんが声を掛けると、花屋の娘はニコニコしながら手を振って、
「あら、千代ちゃん、アルバイト?」
「はい」
「儲かってる?」
「さぁ……」
「どれだけ入ったの?」
 花屋の娘、身を乗り出して千代ちゃんやレッド、みどりの方を覗き込みます。
 すぐに人数を確認すると、
「さ、300人も入ったの?」
「日曜ですから」
 表情をこわばらせて言う花屋の娘に、愛想笑いまじりに答える千代ちゃん。
 花屋の娘は入場料を確認すると、
「300人って15万?」
「子供は300円ですから」
「全部子供でも9万じゃない!」
 花屋の娘が食いつくのに、千代ちゃんタジタジ。
「その、大人半分子供半分だから9万じゃないです」
「どんだけよ!」
 花屋の娘の背後に暗黒オーラが渦巻き出しました。
「ちょっと、私、入りたいんだけど?」
「え、えっと、今日の営業は終わったんですけど」
「は・い・り・た・い・ん・だ・け・どっ!」
「うう……」
 千代ちゃんびびりながら、連絡用の電話に手を伸ばします。
 でも、そんな手を花屋の娘がつかまえて、
「いいのよ、私はポン太やポン吉に用があるのよ」
「?」
「入るわよ、いいわね」
「お金……」
「ああん? 営業終わったんじゃないの?」
「うう……」
 千代ちゃんびびっていますが、隣に座っているレッドが、
「しゅりけんは10まいで100えんでーす」
 そんなレッドに、花屋の娘、100円払って手裏剣を受け取るの。
 今度はみどりが、
「伝説の刀がないと、最後のボスは倒せないんだからね!」
 伝説の刀……おもちゃのプラスチックの刀です。
 花屋の娘、得物をゲットしたら、しばしレッドを見てから、
「ちょっとちょっと、レッド、こっちに」
「なにゆえ?」
「いいから、いいから」
「??」
 花屋の娘の手招きに、レッド出てきて……花屋の娘にだっこされてます。
「レッドのレンタルはタダかしら?」
「レッドのレンタル?」
 千代ちゃん戸惑っていますが、
「一緒に連れて行っていいかしら?」
「あ、別にいいですよ」
 千代ちゃんうなずいてこたえるの。
「じゃ、レッド、一緒に行こう」
「はーい」
 わたし、なんだか嫌な予感がして、とりあえず花屋の娘の服をひっぱるの。
「ちょっとちょっと、なんでレッドなんです」
「それはレッドが一番よさそうだったからよ」
 花屋の娘はみどり、千代ちゃんを見てからレッドに視線を戻すの。
「レッドが一番よさそう?」
「そうよ、だっこできるし、小さいし、私の言う事聞いてくれそうだし」
「??」
 わたし、不安継続中です、花屋の娘がなにをしでかすか不安だからついていきましょう。
 ニンジャ屋敷……もう、最後の営業の終わったので、ガランとしているの。
「なんでポンちゃんついてくるの?」
「嫌な予感がするからですよ」
「なに、それ、私がなにかしでかすとでも?」
「わたしの予感、きっと当たります」
 わたしが言い切ると、花屋の娘は抱いたレッドをゆらしながら、
「ふーん、そうなんだ」
「きっと当たります」
「ふふふ、じゃあ、ポンちゃんが言ったから、私、しでかすんだから」
「えー!」
 花屋の娘、言うだけ言うと、どんどん中に入って行っちゃうの。
「ま、まてー!」
「嫌ー!」
 花屋の娘、おにごっこ気分ですね。
 だっこされているレッドもニコニコしてるの。
「おお、なんだなんだ!」
 ポン吉登場です。
 営業後の見回りをしてたみたいですね。
 ニンジャコスプレで巡回している最中だったみたい。
「なんだよ、花屋の姉ちゃんじゃんか」
「ポン吉、見つけたわよ、それ、ゲット」
 言うと花屋の娘、ポン吉をギュっとして捕まえちゃうの。
「なにすんだ!」
「むう、ポン吉か……」
「放せー」
「うん、ポン吉ならいいかな」
 花屋の娘、ポン吉を手放すと、
「ちょっと、ポン太に用があるんだけど」
「アニキは地下だぜ、今日はボスやってたかんな」
「ふうん、地下、どこから行くのよ?」
「そこ」
 階段あって「順路」って矢印もあるの。 
 さっさと行こうとした花屋の娘ですが、階段の前で立ち止まると戻ってきて、
「暗いとこわいから、あんたも来なさい」
「は?」
 花屋の娘、ポン吉の手をにぎってご一緒です。
 わたしの不安、ちょっとうすらぎました。
「暗いのこわい」ってなんだか、かわいい。
 嫌な予感は気のせいかもしれません。
 地下に降りると……ポン太が片付けをやってる最中です。
 お客さんが投げた手裏剣なんかを集めていますね。
 って、花屋の娘、いきなり大きな声で、
「ちょっとポン太!」
「あ、花屋さん、どうしました?」
「ちょっとポン太、あんた儲けすぎよ、なんとかしなさいよ!」
「は?」
 わたし、嫌な予感がまた大きくなってきました。
「儲けすぎよ」の辺りが「いやー」な感じ「ヒシヒシ」なの。
 花屋の娘、ポン吉を抱き上げて、
「ほら、弟が死ぬわよ、人質の命、風前の灯」
「あ、あの、どうしろと?」
 ポン太はタジタジです。
「ポン太、桃、売れてるわよね、ね!」
「は、はぁ……」
「だったらもっと高く買ってよ、モウ!」
 うわ、値上げ交渉ですよ。
 花屋の娘、強く出ます。
「ほら、ポン吉、死ぬわよ」
 って、さっきから抱き上げられているポン吉ですが、なんだかもう死んでいます。
illustration やまさきこうじ
 腕がダランとして……ってか、抱き上げている花屋の娘の腕が決まってます、首しまっ
てるの。
「ちょっ、花屋さん花屋さん!」
「なによ、ポンちゃん、どっちの味方よ!」
「ポン吉死んでますよ、腕決まってます!」
「あ! 本当だ!」
 気付いた花屋の娘、ポン吉を捨てます。
 それからポン太を見つめて一瞬戸惑ったものの、
「ほら、今度はレッドが人質よ!」
 わたし、ポン太、あきれて黙っちゃうの。
 花屋の娘はだっこしていたレッドをゆすると、
「ほら、レッド、泣くのよ、助けを呼ぶのよ」
「わーん、たすけてー」
 レッド……ニコニコしながら言うとぶち壊しですよ。
 花屋の娘、ポン太に迫ると、
「ほら、レッドがひどい目にあうわよ、いいの?」
 ポン太、固まっています。
 視線は死んでいるポン吉を見て、それから花屋の娘、そしてレッドへ。
 レッド、ポン太と目が合うと、
「ぽんたー たすけてー」
 ニコニコです。
 困ったポン太はわたしに目で、
『あの、どうしたらいいでしょう?』
『レッドを人質にとった場合は、ミコちゃんに解決してもらうのが……』
『では』
 ポン太、携帯電話を出すとすぐに電話かけちゃいます。
 って、花屋の娘、そんなポン太の携帯を奪うと、
「誰に電話してるのよ! あ、なんだ、ミコちゃんじゃない!」
 花屋の娘、ニヤニヤしながら、
「ちょっとミコちゃん、こっちに来てよ、今、レッドを人質にしてるのよ」
 ちょっとちょっと!
 レッドを人質にしてるなんて言ったら、ミコちゃんに殺されますよ。
 って、地下室にミコちゃん、テレポートしてきました。
 ミコちゃんの右手におたま、左手に電話の子機なの。
 テレポートした時から髪がヘビみたいにうねって……
 花屋の娘、躊躇なしで登場したばっかりのミコちゃん捕まえます。
「出てきたわね、ミコちゃん、ちょっと協力してよ、レッド人質にしてるんだからモウ」
「え? は? え?」
「聞いてよモウ、ポン太が桃を高く買ってくれないのよ!」
「……」
「だからレッドを人質にして、ミコちゃんにも来てもらって、桃を高く買ってもらうの!」
「……」
 ミコちゃん、今までにない展開に戸惑っていましたが、花屋の娘から離れるとポン太に
目で、
『ポン太は、桃、いくらで買ってるの?』
『50円で……』
『いくらで売ってるの?』
『100円で……』
 途端にミコちゃんの顔が険しくなりました。
『そんなに高く買ってるの?』
『だ、だってそれで買えって花屋さん言うし』
『赤字じゃない』
『桃は置いているだけだから、まぁ、別にいいかなって』
 ミコちゃんが花屋の娘をにらむのに、花屋の娘は頬をプウと膨らませて、
「配達人は100円で買ってくれるのに、ポン太は50円なのよっ!」
 ポン太、トホホ顔で、
『だって花屋さん、配達人には「売り物」を売ってるし』
 そうです、花屋の娘は配達人に「箱入り」を売っています。
 ミコちゃん、それを聞くと、暗黒オーラを背負って花屋の娘をにらむの。
 空気の読めない花屋の娘は、レッドを抱きしめてミコちゃんにすり寄ると、
「ミコちゃんからも言ってよ、ポン太はズルいって」
 そんな言葉にミコちゃん、手に持っている「おたま」を見て、
「ゴット・レドル!」
 言うと、「おたま」で花屋の娘を叩いちゃうの。
「ポワン」って音と、☆3つのダメージ、花屋の娘は崩れ落ちました。
 あぶないあぶない、レッドはわたしがキャプチャ。
「ポン姉ポン姉!」
「なに?」
「これ、おほしさま!」
「そうだね、お星さま、3つありますよ」
「はなやしゃん、おねむゆえ」
「そうですね、ほっときましょう」
 レッドはダメージで出た☆にご満悦です。
 ミコちゃん腕組みして、
「花屋さんはモウ、守銭奴ね」
「でもでも、あの花畑買うのにだまされたらしいよ」
「あら、そうなの?」
 って、一瞬は納得しそうになったミコちゃんだけど、すぐに「おたま」で花屋の娘を叩
いちゃうの。
 新しい☆をレッドうれしそうに拾ってます。
「ミコちゃん、なんで叩いちゃうの?」
「ダメよ、やっぱり、こんなのどかな村でお金お金って」
 でも、わたしは思うんです。
 花屋の娘、これくらいで変わったりしませんよ、絶対。


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