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■  ポンと村おこし    第168話「暴走族とシロちゃん」         ■
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 山のパン屋さんは、今日ものんびりした時間が過ぎていきます。
 って、お客さんもまばらなんですが……
 そんなパン屋さんに迫って来る爆音があるの。
「うわ、すごいのが来そうです」
 わたし、コンちゃんのテーブルでトングを拭きながら、音が近付いて来るのを聞くの。
 コンちゃんもテレビを見上げながら、
「バイクのようじゃのう」
「走り屋さんでしょうか?」
「そうじゃのう〜」
 見れば駐車場に一台のバイクが入ってきました。
 ウッドデッキのすぐ前にバイクを止めると……
 ヤンキー兄さんがバイクを降りて、やたらと大きめサイズの服をなびかせてお店に入っ
て来るの。
『うわー』
『なんじゃ、ポン、どうしたのじゃ』
『やだなーって』
『嫌? 何故じゃ?』
『だってこわそうだもん』
『そうかのう』
『コンちゃんはゴット・シールドがあるからだよ』
『まぁ、わらわ、ゴット・シールドでへっちゃらじゃのう』
 わたし、こわくなったので、拭いていたトングを持って奥に引っ込みます。
 コンちゃんは……ポヤンとテレビを見たまま、席を動きもしません。
 本当、こんな時、神さまはいいですよね。
 術があるから、ヤンキーさんからケンカ売られてもへっちゃらなんですよ。
 パンチを受けても「ゴット・シールド」で弾いちゃうんです。
 って、ヤンキー兄さんまっすぐコンちゃんに向かって行くの。
 そんなヤンキー兄さんの行動にお店のお客さん達に緊張。
 でも、すぐにそんな緊張も「わくわく」に変わります。
 お客さんは常連さんばっかりだから、ヤンキー兄さんが攻撃しても、コンちゃんが返り
討ちにするの、わかっているんでしょう。
 って、ヤンキー兄さん、コンちゃんのテーブルに着くと、一緒になってテレビを見始め
ました。
 お店は「緊張」と「わくわく」で微妙な空気。
 わたし、コンちゃんにテレパシーするの。
『コンちゃん、コンちゃん、どうするの!』
『わらわもびっくりなのじゃ、こやつ何のつもりかの』
『なにか話しかけたら?』
『むう』
 テレビを見ていたコンちゃん、細めた目をヤンキー兄さんに向けると、
「これ、おぬし」
「?」
「パンを買ってから席に着かぬか」
「!」
「パンは5個買えばお茶が付くのじゃ」
「あ、ああ、知ってる……」
「!」
 コンちゃんに言われて、ヤンキー兄さんは素直に席を立つと、トレイとトングを手にパ
ンを選び始めました。
『これ! ポン!』
『なに! コンちゃん!』
『このヤンキー、店に来た事があるようじゃぞ』
『わたしもびっくりした、いつ来たのかな?』
『わらわ、初めて見るがのう……』
『わたしだって!』
 って、奥からミコちゃんが惣菜パンを持って出てきました。
 パンは店長さんが作るんですが……
 サンドイッチに挟むタマゴやサラダはミコちゃんが作ってるんですよ。
 ミコちゃんが持って来たのは「サンドイッチ」「ハンバーガー」「ネコパン」。
「ちょっと、ちょっと、ミコちゃん」
「何? ポンちゃん?」
「ミコちゃん、あの人知ってる?」
 わたしが目配せしながら聞くと、ミコちゃんヤンキー兄さん見て微笑むと、
「最近ちょくちょく来る人ね、どうしたの?」
「わたし、知らないんだけど……」
 ミコちゃん、考えるふうな顔になって、視線が天井を泳いでから、
「そうね、ポンちゃん配達とかお手伝いに行ってる時に来る事が多いかしら」
「そ、そうなんだ」
「ヤンキーさんだけど、お店では大人しいから、大丈夫よ」
 ミコちゃんそれだけ言うと、惣菜パンを売り場に並べに行っちゃいました。
 そんなミコちゃんのところにヤンキー兄さん近付くと、まだミコちゃんの持っているパ
ンを直で取りながら、なにか話しているみたいなの。
『これ、ポン、ミコは何と言っておるのかの?』
『わたし達がお手伝いに行っている時に、結構来てるみたいだよ』
『ふむ、それで知らんかったのかのう』
 ヤンキー兄さん、パンを持ってわたしのところに来ました。
 わたし、レジを打ちながら、
「5個買ったらお茶がオマケです、コーヒーにします?」
「ああ、コーヒー、ホットで、ブラックで」
「はい」
 わたし、レジ打ちしながら、ついついヤンキー兄さんにらんじゃいました。
 ヤンキー兄さんはこっちを見ないでお財布からお金を出していましたが……
『コンちゃんコンちゃん』
『なんじゃ』
『この男はカッコウだけです、ヘタレです』
『おお、ポン、語るのう』
『この男、ネコパン持って来ました』
『うむ、ヘタレ認定なのじゃ』
 ヤンキー兄さん、コンちゃんのテーブルに着くと、モグモグとパンを食べ始めるの。
 コンちゃんのこめかみに「怒りマーク」浮かびますが、すぐに消えました。
『ヘタレであるが、まぁ、許す』
『どうしたんです、コンちゃん!』
『小指立てて食ったら殺しておるのじゃ』
『ヤンキーな格好でそれやったら、わたしだって怒ります』
 わたし、コーヒーを持って席に行くと、
「あの」
「はい?」
「シロちゃんは?」
「は?」
 このヤンキー兄さんはシロちゃんに用事があるみたいです。
 ヤンキーなのに、警察の犬になんの用なんでしょう?
「シロちゃんは?」
「えっと、シロちゃんはちょっと出ていますね」
「どれくらいで帰ってきます?」
「1時間もすれば、帰ってくるかな?」
 わたしがこたえると、今度はコンちゃんが、
「これ、おぬし、シロに何か用かの?」
 コンちゃんの言葉に頷くヤンキー兄さん。
「して、何の用かと聞いておるのじゃ」
 コンちゃん改めて聞くと、ヤンキー兄さんプイと顔を背けて、
「何でも……」
 言いながら頬染めです、赤くなってるの。
 途端にコンちゃん悪魔の顔になって……神さまなんだけど。
「おぬしにシロはやらぬ!」
「!」
「ネコパンを食らう女々しい男には、シロはやれぬっ!」
 途端にヤンキー兄さんの背後に雷が落ちるの。
「な、何で!」
「ネコパンを食らうのは女々しいのじゃ、男ではないのじゃ!」
 って、一瞬はショックを受けたヤンキー兄さん、頭上に「?」を浮かべて、
「何で?」
「ネコパンは女の食い物なのじゃ、子供の食い物なのじゃ」
「え……」
「わらわでも、ネコパンは食わんのじゃ」
 って、帽子男がやって来て、お店のカウベルがカラカラ鳴るの。
「いらっしゃいませ、今の時間に珍しいですね」
「ああ、ポンちゃん、今日は仕事って気分でもないからサボり」
「村長さんに怒られますよ」
「ああ、だろうな」
 帽子男、パンを選ぶとレジへ。
 わたし、ショックを受けます。
 帽子男が「ネコパン」選んでいるの。
「ちょ、ちょっと、なんでネコパンなんですか!」
「あ、なんだよ、ネコパンうまいぜ」
「かわいいパンですよ、女の子とか子供向け」
「ああ? ポンちゃん、食ったことないのか?」
 帽子男、コンちゃんのテーブルに着くとネコパンを半分に割って、
「これってアンパンだよな」
「ですね」
「こっちは?」
 言いながら帽子男は「アンパン」も割るの……アンパンも買ってたんですね。
「味が違うんだよ、ネコはミコちゃんが作ってるんだろ」
「ですね」
 帽子男がすすめてくれるままに、わたしとコンちゃん、まずネコパンを食べるの。
 そして今度はアンパン。
「あ、味、違いますね」
「確かにそうかの」
 わたしとコンちゃん、びっくりです。
 同じアンパンと思っていたのに、ネコパンは「こしあん」なの。
 帽子男、ちょっと怒ったような顔で、
「俺も最初はネコなのが気にいらなかったんだよ」
「それが食べてみたら〜ですか?」
「ああ、レッドがおいしいから〜って一口くれたんだよ、うまかった」
「そんな事があったんですね」
「普通のアンパンもうまいけど、ネコパンは上品な感じかな」
「あ、それ、わたしも思いましたよ、うん」
 そこでヤンキー兄さんが、
「やっぱりネコパンはダメ?」
「むう、いいでしょう、おいしいから」
 わたしはそう言うんですが、コンちゃんは、
「それでもシロはやれんのじゃ」
 怒った顔で言うんです。
 ヤンキー兄さんは困り顔。
 帽子男がパンを食べながら、
『何があったんだよ、ポンちゃん』
『このヤンキー兄さん、シロちゃんが好きみたいなんですよ』
『ふーん』
 って、帽子男が窓の外に目をやると、ちょうどシロちゃんが帰ってくるところです。
 帽子男はヤンキー兄さんに出したコーヒーを奪うと一口飲んでから、
「ほら、シロちゃん帰って来たぜ、告白タイム」
 そんな言葉にヤンキー兄さんの表情が「本気」
 どこからともなく花束も出てきて、
「ただいまであります」
 お店のドアが開いて、カウベルがカラカラ鳴って、シロちゃんが入ってきました。
 って、ヤンキー兄さんダッシュでシロちゃんの前に行くと、
「好きだ! 結婚してくれ!」
 は、早い、いろいろと、ダッシュも早いし、いろいろ略していきなり結婚です。
 でも、ダメダメですね、こんな告白ならポン吉がマジックマッシュルームでやりました。
 シロちゃん、花束を見て目を細めると、
「本官は任務に忙しいであります、お断りであります」
 それだけ言うと、奥に引っ込んじゃいました。
 むう、わたしも店長さんに全然相手にされていませんが……
 他人がフラれるのを見ると微妙……
 あれ?
 ヤンキー兄さん、全然落ち込んでいませんよ。
 目をランランと輝かせて、
「ふふ、シロちゃん、俺はまだまだあきらめてないぜ!」

 お昼の、お客さんのいないお店に、シロちゃんが帰ってきました。
 今日は駐在さんも一緒なの。
 カウベルがカラカラ鳴って、シロちゃんお店に入って来るなり、
「あのヤンキーは……」
 そこまで言って、シロちゃん黙っちゃいます。
 黙ったまま、一緒に入って来た駐在さんに目をやるの。
 駐在さんはそんな視線に気付いてはいるんだけど、微笑むだけなんですね。
「どうしたんです?」
「あのヤンキーは……」
「ヤンキー兄さん……お店には来ませんでしたよ」
「本官の前に現れたでります」
「? ? ?」
「本官、駐在さんと一緒にいたであります」
 わたし、それを聞いて駐在さんに目をやると駐在さんが、
「スピード違反を取り締まっていたんですよ」
「スピード違反ですか……それでどうだったんです?」
「そこにあの男が現れたわけなんです」
「はぁ」
「それもスピード違反をして」
「それで?」
「違反したので捕まえる……と、いうか、処理していると……」
「ヤンキー兄さん、シロちゃんと話し始めた……んじゃないです?」
「ポンちゃんの言うとおりです」
「で、シロちゃんはうんざりしてるというわけですね」
「はい」
「そうであります」
 シロちゃんもこたえると、怒りで髪をうねらせながら、
「本官、あのような男には興味ないであります」
「だったら、それを言ったらどう?」
「言ったであります、お断りと」
「この間も言ってたよね」
「そうであります」
「信じてないよね……目の前で彼氏と一緒にいるのを見せ付ければいいんじゃないでしょ
うか?」
「ポンちゃん、それであります」
 シロちゃん、目を輝かせて、
「本官、店長さんと腕を組んで見せるであります」
「それはわたしが許しません」
「ポンちゃんがアイデアを出したでありますよ」
「店長さんはダメです」
 わたし、いろいろ考えます。
 そうこうしていると、ヤンキー兄さんやってきました。
 お店に入って来るなり、
「シロちゃん、好きだ、結婚してくれ」
 途中すっとばして結婚……結婚軽……
 わたし、コンちゃんに目をやります。
『なんじゃ、ポン』
『店長さん以外で誰かいませんか!』
『ふむー!』
 って、コンちゃんの頭上に裸電球が光るの。
『ナイスな人材おったのじゃ、それ、召喚じゃ!』
 コンちゃんが念じると、お店の中に光球出現。
 光がおさまって、目の細い配達人が「ポツン」。
「配達人……」
「ふふ、シロにお似合いなのじゃ」
「コンちゃんひどい、もうちょっとマシなのいなかったかな」
 わたし、ちょっと考えて、
「イケメンさん辺りでよかったんですよ」
「わらわ、ネコパンを食う男は好かん」
 コンちゃんの好みなんてどうでもいいところです。
「こやつの方が、まだマシなのじゃ」
「……そう言われると、配達人の方がいいような気がします」
「器量は残念じゃがの」
「コンちゃんひどい言い方〜」
 わたしもついつい笑っちゃいます。
 コンちゃん、配達人とシロちゃんを引っ付けると、
「ヤンキーよ、この目の細い男はシロと契りを結んでおる」
 その言葉に、ヤンキー兄さん雷落ちたみたいに固まっちゃいました。
 これからどうなる?
 わたしはですね……
『コンちゃん、配達人、ヤンキー兄さんに殺されますよ!』
『だからこの男にしたのじゃ、死んでも損害なしなのじゃ!』
『コンちゃんひどいね、配達は誰がやるんでしょ』
『その時はその時なのじゃ』
 ひっつけられたシロちゃんと配達人。
 シロちゃんは配達人をにらみ、配達人は嫌そうな顔。
 駐在さん心配そうな顔で目で伝えてきます。
『あの、配達人は迷惑では』
『この男はなにをしてもいいんです』
『かわいそうに』
 って、心配している駐在さんとは反対に、コンちゃんワクワク顔で、
『ヤンキー、早く手を出さんかのう、面白くなりそうなのにのう』
『コンちゃん、本当に配達人に冷たいですね』
『ポンだって、楽しみではないかの』
『む……』
 でもでも、なかなかヤンキー兄さん、手を出しませんね。
 固めた拳がプルプル震えていて、爆発寸前って感じなんですが……動かない、動きませ
ん。
「「「あ?」」」
 わたし、コンちゃん、駐在さん、はもっちゃいました。
 ヤンキー兄さん、青くなって、
「おおおお前はっ! お前はっ!」
 その、あまりのびびりように、配達人もシロちゃんも首を傾げてます。
 ヤンキー兄さん冷や汗ダラダラで、
「居村憲史かっ!」
「あれ? どこかでお会いしましたっけ?」
「ひひひ日春高校の壁男・憲史」
「なに? それ?」
「わーん!」
 ケンカになると思ったら、ヤンキー兄さん泣きながら行っちゃいました。
 結局ヤンキー兄さんもヘタレだったんですね。
 わたし・コンちゃん・駐在さん・シロちゃんはポカン。
 配達人はシロちゃんから離れると、
「なんだったかなぁ」
 トイレに消えました。
 駐在さん、考える顔になって、コンちゃんを捕まえます。
 コンちゃんの腕をまくると、宙にモニターが浮かび上がります。
 コンちゃんが動画を見るために、つけてもらったコンピューターですね。
 駐在さん勝手知ったるように操作すると、画面に「居村憲史」登場です。
 目の細い配達人が笑顔で写っているの。
「彼、札付の悪みたいですね、壁男って呼ばれてます」
「さっきなんか言ってましたもんね」
 って、配達人、トイレから出て来ました。
 宙に映し出された写真を見て、
「うわ、なに、俺の写真、どうしたの?」
 わたしはコンちゃん、コンちゃんはシロちゃん、シロちゃんは駐在さん。
 みんなに視線が回ったところで、
「ちょっと配達人さん!」
「何、ポンちゃん?」
「もしかしたら、悪い人ですか?」
「何言ってるの?」
 みんなで配達人をじっと見るの、ウソとかついている感じじゃないですね。
 でもでもすね、この男は「そんな男」なんですよ。
 わたし、みんなに目で合図。
「この男の取調べを行います!」
「え!」
illustration やまさきこうじ
 言うが早いか、配達人の右をコンちゃんが、左をシロちゃんが、
 駐在さん、いつになく悪い警官な笑みを口元に浮かべて、
「久しぶりに、いろいろやってみますかね」
 普段の駐在さんからは、想像できない邪悪微笑なの。
 わたしのポジションがないですね。
「コンちゃん、わたしは『女王さま』でお願い!」
「うむ、拷問……尋問には『女王さま』よのう」
 配達人の口から「なに」が出るか……それはまた別のお話!


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