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■  ポンと村おこし    第171.5話「ひよそ釣り」           ■
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 日曜日、そして朝。
 今日は忙しそうな予感です。
 お店の前にはパラソルやテント。
 その下では、ラムネが冷やしてあったり、金魚すくいやヨーヨーの水槽。
 そしてカラーひよそもいます。
 そんな露店、守っているのは千代ちゃんなんです。
「千代ちゃん、おはよう」
「ポンちゃん、おはよう〜」
 千代ちゃん、ちょっと疲れた笑顔です。
「どうしたんです?」
「いや、あの、配達人につかまっちゃって」
「店番を?」
「うん、バイト代は出るんだけど」
「じゃあ、いいじゃないですか、タダ働きじゃなくて」
「うーん、でも、ニンジャ屋敷やぽんた王国のお手伝いの方がいいかな」
「どうしてです?」
「一人じゃないから、休憩もあるしね」
「ここの店番、一人なんですか?」
「パン屋さんの誰かを貸してほしい」
「むう」
 わたし、お店に目をやります。
 今日は日曜日。
 パン屋さんは平常運転なんですが、まぁ、いつもよりお客さんが多いくらいです。
 でも、ぽんた王国にヘルプで出ちゃう人がいるのも事実。
 レッドにみどりはニンジャ屋敷にヘルプに行く事が多いです。
「そうだ、シロちゃんがいる!」
 です、シロちゃんはパトロールと称してお散歩してるだけ。
「シロちゃんを出してあげますよ」
 って、そんな声を聞きつけてシロちゃん登場。
 いきなり銀弾鉄砲を抜いて、
「ポンちゃんが手伝えばいいであります」
「えー、シロちゃん、お散歩してるだけだよね?」
「タイホであります」
「この撃ちたがり警察の犬!」
「そのとおりであります」
「い、痛い、銃口を押し付けないで!」
 銀弾鉄砲の銃口をグリグリ押し付けないでください、撃たれるより痛い!
 って、シロちゃん、銀弾鉄砲を引っ込めると、
「お店の前で露店は、どうしてであります?」
「あ、わたしも思った、千代ちゃんどうして?」
 って、千代ちゃん、ひよそを一匹つかまえると、
「これを売って欲しいって」
「はぁ」
「ヒヨコ釣りなんて、今さら流行らないよ」
「そうですか?」
「だってニワトリ、飼うの面倒くさいし」
「あ、千代ちゃん、聞いてないんですか、これは「ひよこ」じゃなくて「ひよそ」なんで
すよ」
「ひ、ひよそ? ひよこじゃないの、ひよこっぽいし、カラーだけど」
 って、いい感じで目の細い配達人やってきました。
 駐車場の隅に車を止めてやってきた配達人、千代ちゃんを見て、
「ふふ、千代ちゃん、ちゃんと来てくれたね」
「バイト代、はずんでね」
「カラーヒヨコを売りまくってね」
「むー、今さらヒヨコ釣りなんて、絶対売れないような」
「かわいいから、きっと売れるよ」
「かわいいかなぁ」
 千代ちゃんは浮かない顔です。
 わたし、ひよそを一匹つかまえて、
「千代ちゃんは、ひよそ、かわいくないんですか?」
 千代ちゃん、持っているひよそを見て、
「家で飼ってたし、大きくなるから」
「だからひよそはヒヨコじゃないから、大きくならないんですってば」
「本当かなぁ〜」
 千代ちゃんはひよそを普通のヒヨコと思っているようです。
 目の細い配達人、ニコニコ顔で、
「たくさん売れたら、バイト代はずむからさ」
「前向きに善処します」
 千代ちゃん、浮かない顔で戦闘開始です。

「これ、ポン、あれはなにかの」
「千代ちゃんが露店やってるんですよ」
「何故、あのように人がたかっておるのかの」
「露店だからですよ」
「わらわも行きたいのじゃ」
「……」
 露店にはひとだかりです。
 千代ちゃんの浮かない顔を裏切って、ひよそ釣りは繁盛しているみたい。
 めずらしく獣耳モードのコンちゃん。
 まぁ、露店に客をとられて、パン屋さん今は静かなので、
「行ってきていいですよ、お客さん増えたら頑張ってくださいよ」
「やったのじゃ!」
 コンちゃん、獣耳ビンビン、しっぽフリフリでお店を出て行くの。
 すぐさま千代ちゃんから釣竿をもらって、ひよそ釣り開始。
 あんなにニコニコ顔のコンちゃん、見た事ないかな。
 ずいぶん長生きなはずですが、ひよそ釣りはストライクなんでしょうね。

 ミコちゃんがやって来て、
「お店、今日はお客さんが……」
「露店に取られちゃってます」
 そう、露店、大好評です。
 パン屋に来る客が全部そこで足止め状態。
 でも、ミコちゃんが厳しい目で、
「ヒヨコ釣り終わったら絶対来るから、油断しないでね」
「わたしも思います、でも」
「でも?」
「ひよそお店に入れていいんですか? 一応ペット禁止ですよね?」
「ウッドデッキはお外だから」
「そうか」
 これは忙しくなるかもしれませんよ。
 あの停滞してるのが全部来たら。
「ちょっとミコちゃん」
「なに?」
「わたしも、ちょっと見てきたいから」
「いいわよ」
 ミコちゃんに店番を頼んで見学です。
 っても、店先なんですけどね。
 見てみると、どれも人気があるみたいだけど、一番は「ひよそ釣り」です。
 千代ちゃん、常連のおばさん達につり竿を渡しています。
「千代ちゃん千代ちゃん」
「あ、ポンちゃん」
「繁盛してますね」
「意外だけど……ちょっと楽しくなってきた」
「そうなんですか」
 ここからはテレパシーです。
『このリモコンでヒヨコを操作できるし』
『あ、リモコン』
『ポンちゃん、知ってるの?』
『知ってる知ってる』
『これがあれば、出し入れ自由』
『インチキっていいませんか?』
『露店のくじの紐は繋がってないんだよ』
『千代ちゃん、悪人の顔です』
『でもでも、そろそろ出すよ、回転させないといけないから』
『パン屋がすっからかんです、お願いします』
『では、ポチっと』
 千代ちゃんが隠れてリモコンのボタンを押すと、おもしろいようにひよそが食いつくん
です。
 常連のおばちゃんたち、釣り上げたひよそにニコニコです。
 って、保健の先生登場。
「おお、ひよそ、売れてるわね、よかったわよ」
 保健の先生、わたしを引っ張ってウッドデッキへ、
「ポンちゃん、私の発明、試してみない?」
「は? イヤホン? なに?」
 普通に音楽プレーヤーみたいですが……
 聞いてみれば「ひよそ」の声が聞こえるんです。
「「「ジユウダー」」」
 みんな自由を謳歌しています。
『先生せんせい、みんなしゃべれるんですか?』
『知能高そうだったから、もしかしたらってね、ちょっと面白いわね、これ』
『ピヨピヨ鳴いてるだけの方がかわいくないですか?』
『そんなもん?』
『うちのカラスがゴハンゴハンってかわいくないです』
『でも、この機械使わないとわからないから』
『それならいいかな』
 ひよそをゲットした常連さん達、わたしに、
「ねぇ、ポンちゃん、中に入っていいのかしら?」
「ウッドデッキはOKですよ」
「たまには外でいいか〜」
 おばちゃん常連さんたち、ウッドデッキに陣取ると、一度パンを選びに店内に。
 すぐに戻って来ると、箱の中のひよそを見てニコニコです。
「いや、ヒヨコ釣りなんて久しぶり」
「見なくなったからね〜」
「でも、昔は釣り針でひっかけていたような」
「スルメで釣るとはびっくり、食いつかないと怒るところだった」
 って、コンちゃんも帰ってきました。
 青いひよそをゲットしたみたい。
「わらわもゲットしたのじゃ、青いヒヨコなのじゃ!」
illustration やまさきこうじ
 コンちゃん少女です、いつもこうならいいんですが。
「なかなか釣れず、イライラしたのじゃ」
「コンちゃん、うちは食べ物屋さんだから、飼ったらいけないんだよ」
「うう……なんとかならんかのう」
 箱の中の青いひよそ、ピイピイ鳴いています。
「ジユウダ、チョロイゼキツネムスメ」
 だそうです……でも、なんてか、この青ひよそ……わたしが先日相手したヤツですよね。
 わたしと目が合う青いひよそ。
「ピッ」……「タヌキムスメニヨウハナイ」……コロス!
 隣で保健の先生も笑ってます。
「ポンちゃん、コーヒー頼むわ〜」
「はいはい、お待ちを」
「ポン、わらわにも頼むのじゃ」
「仕事は?」
「今しばらくカラーヒヨコの話をしたいのじゃ」
「はいはい」
 少女なコンちゃん、なんだかかわいいから、しばらくほっときましょう。
 コーヒーをおばちゃんたちに配っていると、
「勢いでとっちゃったけど、どうしたもんだか」
「そんなの、一ヶ月のしたら大きくなるから、ひねっちゃうがね」
「そうだねー」
「ひねる」ってなんでしょ?
『ねぇねぇ、保健の先生、ひねるってなんです?』
『ニワトリの首をひねって、首をはねて、血を抜いて、フライドチキンとか』
『たたた食べちゃうんですか!』
『私も釣ったヒヨコ食べるって……どんだけおばちゃん達年いってるのよ』
 って、わたしのイヤホン、さっきから沈黙です。
 箱の中のひよそ、ガクブル。
『先生、ちょっとかわいそうじゃないですか、食べられちゃうんですよ』
『ひよそ、大きくならないから、大丈夫よ』
 ってそれが聞こえたのか、ひよそたちが、
「「「ジユウダー!」」」
 保健の先生のメガネがキラリ。
「スズメの焼き鳥とかあるわよね、ひよそ、丸揚げとか」
 ひよそガクブル。
 保健の先生、いじわる言わないでください。


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