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■  ポンと村おこし    第174話「家出します」             ■
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 お昼、お客さんはまばらです。
 わたしはレジに立って、とりあえずはトングを磨いているところなの。
 コンちゃんは定位置でテレビを見てポヤンとしていますね。
 奥ではミコちゃんが夕ゴハンの支度をしている音が聞こえてきます。
 わたしの見た感じ、テーブルでお茶しているお客さんにそろそろ「おかわり」を出す…
…くらいのお仕事しかないですね。
 今日は観光バスの予定もありませんから、大挙してお客さんが来る事もないでしょうし、
いきなりお客さんがドカンと来る感じでもないでしょう。
 そんなわけでパンの補充もしなくてよさそうですから……一応品薄になった時用に準備
してあるクッキーを、閉店前にちょっとお店に並べればOKってところでしょう。
 クッキー、レッドが作ったの、結構売れるんですよ。
 レッドが作ったクッキーだから大した事ないって思っていたけど、なかなか飽きない味
なんです。
 でもでも、一番売れてる理由はパッケージをみどりが描いているからかな?
 みどりもなかなか絵心あって、漫画チックなレッドがニコニコしているパッケージを描
いています。
 レッドスキーなお客さんにも、そうでないお客さんにも、このパッケージは好評みたい。
「かわいい」イラストではあるかもしれませんが、まぁ、わたしにとってはどーでもいい
かな。
 むう、わたしにとっては、クッキーが微妙に、本当に飽きない&おいしい事です。
 どうしてレッドにこれが作れるんでしょう?
 まぁ、レッドがやってるのは型に抜くところだけなんですけどね。
 あ!
 そんなレッドが帰ってきましたよ。
 みどり・千代ちゃん一緒にご帰還です。
「ただいまゆえ〜」
「ただいま〜」
「こんにちわ〜」
 レッド・みどり・千代ちゃんの声。
 わたし、退屈していたから、ちょうどいい話相手になってくれそう。
「おかえり〜、手洗ってきて〜」
 ちょうどおやつの時間だから、まっすぐ洗面所に行ってもらいましょう。
 わたしは……最後に洗面所に向かっている千代ちゃんに目で合図。
『おやつ持ってくるから、コンちゃんのテーブルに』
『はーい』
 ま、目で合図するまでもないんですけどね、いつものパターンです。
 さて、奥のミコちゃんのところに行って、
「今日のおやつはなんですか?」
「レッド、帰って来たみたいね」
「うん、千代ちゃん連れて来た」
「冷蔵庫にプリンあるから」
 冷蔵庫を開けてみると……
「ミコちゃん、プリン、どこ?」
 見当たりません、プリン。
 ミコちゃん、包丁を持った手を止めて、
「あれ、まだあると思うんだけど……」
「どこ?」
「ちょっとちょっと」
 ミコちゃん脇から冷蔵庫の中を覗き込むの。
 上から下まで、下から上まで、見てみるけど、それっぽいのは……
「これこれ!」
「え!」
「これ!」
「こ……これ……」
 お味噌汁のお碗に、確かにプリンが!
「なんでお味噌汁のお椀なんです?」
「マグカップ、ちょっと老人ホームに貸したのよ、なんでも落として割っちゃったって」
「そうなんですか、で、お椀」
「そう」
 お味噌汁のお椀にプリン。
 うーん、正直「茶碗蒸し」状態?
 でも、わたし、なんだかワクワクしてきたの。
 お椀のプリン、ぜったい普通に作ったプリンより「大きい」です。
 最初はびっくりしましたが、超楽しみ、期待大!
 ミコちゃん、ゴハンを作りながら、
「千代ちゃんもいるなら、おやつはお店で食べたらいいわ」
「ですね、どうせコンちゃんも食べるし」
 わたし、プリン5つをトレイに載せて持って行くんです。
 ふふ、まだ「お椀プリン」ありますよ。
 今夜も食べれたらうれしいかな。

「はーい、おやつですよ」
「わーい!」
 レッド、喜んでいます。
「今日のおやつはお味噌汁?」
 みどりはお椀を見て首を傾げているの。
「何? なに?」
 千代ちゃんもわからないみたいです。
 でも、みんな、中を見たら笑顔。
「「「プリン!」」」
 コンちゃんもお椀を覗き込んで、
「おお、プリンかの、大きいのう」
「ふふ、わたしも超楽しみです、このお椀だから、大きなプッツンプリンよりも大きいか
も」
「そうじゃのう、たくさんじゃのう」
 コンちゃん、ちょっと視線が泳いでから、
「のう、ポンよ」
「何、コンちゃん」
「わらわは熱いコーヒーがいいのじゃ、ブラック」
「はぁ、飲み物ですね」
 レッド、みどり、千代ちゃんはプリンに夢中みたい。
「子供はカフェオレにするのじゃ」
「カフェオレってコーヒー牛乳ですよね」
「砂糖無しじゃ」
「えー、子供は砂糖たっぷりでしょう」
「プリンは甘々じゃ、ちょっと苦いのが欲しいのじゃ」
「むー、ま、甘い方がいいなら、後でシロップ入れればいいですよね」
「そうなのじゃ」
「じゃ、お茶持ってきまーす」
 わたし、ミコちゃんにお茶を貰いにいきます。
 コンちゃんの熱々コーヒーと、アイスのカフェオレ持って戻って来ると……
「!」
 わたしのプリンの所にお客さんが座っています。
 この間の、本を読む常連さんです。
 そしていきなり、
「このプリン、いただいていいかしら?」
「え、ええ……まぁ」
「レッドちゃんの食べてるの見たら、おいしそうだったし」
「そう……ですか」
 まだ令倉庫にもあったし、お椀プリンは売ってるプリンと同じ値段でいいでしょ。
 って、遠巻きに見ていたお客さん達も席を立ってやって来ると、
「私達も……」
「……」
 なんだか嫌な予感がしてきました。
 そして、そんな予感は的中するんですよ、ええ!

 夕飯前のひととき。
 わたしとシロちゃんでおかずを配って、ミコちゃんがよそいだゴハンを配るの。
 たまおちゃんは小鉢を配っていますね。
 店長さん・コンちゃん・子供達は席で大人しくしているの。
 ってレッドだけはおかずのミートボールに獣耳になっちゃってます。
 みどりは獣耳にはなってないけど、おかずの冷奴に目が輝いているよ。
 冷奴、どこがいいんでしょ?
 コンちゃんも冷奴好きですが、あれは呑兵衛だからと思ってました。
 配り終わったところで、ミコちゃんが席に着いたら、
「はい、めしあがれ」
 ミコちゃんの合図で、
「いただきまーす」
 みんなの声が重なる時です。
 夕ゴハン、みんな楽しそう。
 でも、わたし、さっきからずーっとひきずってるんですよ。
 そう、さっき、お店でおやつをした時です。
 お椀プリンは全部売れちゃったの。
 結局、わたしはプリン食べられなかったんです。
 テーブルの、お味噌汁のお椀。
 見ていたら思い出しちゃった。
「ミコちゃん!」
「何? ポンちゃん?」
「今日のゴハンにプリンがないですっ!」
「……」
「わ、わたしのお椀プリン……ううっ……」
「……」
「ううっ! 今日はプリン食べれると思ったのにっ!」
 何故かじっと見つめているレッド。
 ミートボールを食べながら、
「プリンおいしかったゆえ〜」
 くっ!
 子供は残酷ですねっ!
 ここでそれを言いますかっ!
「そうよね、今日のプリン、おいしかったわよっ!」
 みどりも言いますねっ!
「そっとしとく」とか思わないんですかっ!
「確かに……いつもより量が多いだけなのじゃがのう」
 コンちゃんまで言いますかっ!
 大人の対応してくれると思ったのにっ!
 ああ、ミートボール、わたしも大好き。
 なのに、何故か、味がしないんですっ!
 お腹が膨れるだけで、ちっともおいしくないの。
「もう、売り物だけど」
 って、売り物のミコちゃんお手製プリン出てきました。
「ミコちゃんまで……このプリンはいつものプリンと違うんです、うう……」
「……」
「やきそばと、カップのやきそばと、違うんです、うう……」
「……」
 って、何故でしょう……
 ミコちゃんとコンちゃんは苦々しい顔をしています。
 レッドとみどりはすごいニコニコ。
 心配してくれてる人は、一人もいません。
「も、もう、わたし、家出するーっ!」
 って、何故レッドとみどり、拍手する?
 慰める気、全然ないでしょ?
 家出するんですよ、家出。
 わかってますか?
 本気なんだから!

「家出してきました」
 お豆腐屋さんに厄介になっているの。
 ちょうど夕飯時なんですね。
 わたしが言うと、お豆腐屋さんのおじいちゃんとおばあちゃんが微笑んでいます。
 長老は何事もなかったかのように、変化なし。
 ポン太はプルプル震えて、ポン吉は笑っているの。
 ポン太が嫌そうな目でわたしを見て、
「ポン姉、何考えてるんです?」
「ポン太はプリンを食べられなかったわたしの気持ちがわかっていない」
「わかりたくもない」
 ポン太、プイと顔を背けるの。
 ポン吉、わたしの方をクンクンしてから、
「なんだよ、飯食って来てるのかよ」
「だってゴハンの時にプリン出たら許そうって思ってたから」
「そんなの無理に決まってるじゃんかよ〜」
「買いに行けばいいのに」
「無茶言うなぁ〜」
 ポン吉は笑いながら、ゴハン食べ始めるの。
 わたしの前にもゴハンが準備されていて、出されたモノは食べているんです。
 今日のお豆腐屋さんは魚のメニューですね。
 わたし、シャケ、大好きです、しょっぱくてゴハン進みます。
 おじいちゃん、ニコニコで、
「ポンちゃんが来てくれてうれしいのう」
 おばあちゃんもニコニコで、
「私も、女が増えてうれしいよ」
 だそうです。
 長老がようやく、
「まぁ、ポンちゃんはそば屋を任せられますから、いいですね」
 ですです、わたしは5cでそば屋の娘をやったから、即戦力なんだから。
 おばあちゃん、体を揺らしながら、
「うちはいいんだがねぇ」
「では、お願いします」
「ポンちゃん家出して、パン屋は大丈夫かね?」
「わたしなんて、いなくてもいいんですよ、大事にしてくれるなら、わたしの分のプリン
忘れすはずないもん」
「とは言ってもねぇ」
 って、おじいちゃん、お酒を持ってきました。
 長老と一緒にチビチビやっているの。
 って、長老がポン太にちらっと目をやると、ポン太もすぐに立って、お椀を持って戻っ
てきました。
 お椀にはなにか白いモノが見えます。
「お豆腐ですか?」
 おじいちゃんニコニコしながら、
「うちは豆腐屋だからね、晩酌はコレ」
 おじいちゃん、箸で豆腐をちょっと崩して、おしょうゆとカツオブシで食べ始めます。
 長老もチビチビやって、豆腐は食べる分だけ崩して食べているの、あ、しょうがを足し
ましたよ。
「お椀のお豆腐、お椀のプリンそっくりです」
 もしかしたらプリンかも…でもでも、カツオブシとかしょうがを入れたりしないですね。
 おばあちゃんびっくりして、
「ポンちゃん、大丈夫かね?」
「え? あ?」
「急に泣き出して」
「え? 泣き出して?」
 わたし、言われて初めて泣いているのに気付きました。
 ポン太はハンカチをくれて、ポン吉はニコニコで、
「プリンプリンってバカじゃねーの」
 わたし、ポン太のくれたハンカチで涙を拭って、深呼吸するの。
 ポン吉の様子をうかがって、ここぞというタイミングで、
「ちょっとトイレ」
 席を立ったと同時にポン吉を捕まえて部屋の外へ。
 食事の席で折檻はダメですからね。
「何すんだよ」
 膨れるポン吉、わたし、そのしっぽを即捕まえて、
「そーれ、しっぽブラーン」
「痛い! 死ぬ!」
「死ね!」
 お姉さんのわたしに「いらん事言ったら」、どうなるか忘れてるみたいですね!

 今日からは「豆腐屋の娘」になったんです。
 って、豆腐屋さんの朝はパン屋さんと一緒で早いの。
 わたし、パン屋さんと同じ時間に起きたら、もうみんな起きてました。
「おはようございます」
「あらあら、ポンちゃん、まだ寝ててよかったよ」
「おばあちゃん、起こして欲しかった」
「ふふ、ポンちゃんが働いてくれるなら、昼の店番でいいがね」
「朝はいいんですか?」
 おばあちゃん、お店を見回して、
「お豆腐、わからんでしょ?」
「食べるばっかですね」
「だったら準備はわしらでやるがね」
「むう、店番ならわたしでもできるでしょうか?」
「パン屋でお代を受け取るがね」
「レジくらいはしますね」
「それでいいがね、あとはテーブル拭いたり、食器洗ったりしたらいいよ」
「それならおそば屋さんでやった事あります」
 おばあちゃん、ちょっと考える顔になって、
「昼はそば屋に行くといいがね、昼くらいわしらでやるがね」
 そうです、ここ「ぽんた王国」には長老のやってるおそば屋さんもあるの。
「わたしでも活躍できそうですね」
「ポンちゃん頼りにしてるがね〜」
「頑張りますよ〜!」
 お豆腐屋さんなんですが、パックになっているお豆腐と、お鍋やタッパに入れるのがあ
るんです。
「ポンちゃんは、いつもお鍋だがね」
「ですね、お鍋に分けてもらってます」
「昔は全部、お鍋だったがね、今はお鍋を持ってくるのは常連さんだけかね」
「どうしてでしょ?」
「ポンちゃんみたいに近所だったらお鍋でいいけど、お鍋いちいち持って来るのは面倒だ
がね」
「むう、なるほど」
「そんな人はパックしてないと買えないからね」
「でもでも、お豆腐屋さん、結構繁盛してますよね?」
「お店で食べる人もいるからね、簡単な料理はそば屋の出前だがね」
「ああ、なるほど、逆におそば屋さんに出前する事もあるでしょ」
「うんうん」
「うーん、わたしは一体なにをしたらいいんでしょ?」
 わたしが言うのに、おばあちゃんはニコニコして、
「そうじゃね、豆腐をすくってタッパに入れたりするのはどうかね?」
「え!」
「うん?」
「それって結構難しくないですか?」
 パックの豆腐は冷蔵庫に入っているんですが、水の中に沈めてある、タッパに入れる豆
腐もあるんですよ。
 わたし、お豆腐もらいに来る時、おばあちゃんがここからすくって取ってくれるんです。
 わたしはタッパじゃなくてお鍋にもらうんですが……お豆腐をすくい上げるのは一緒。
「できないかね?」
「うーん」
 おばあちゃんが取ってくれるのを何度も見ているから、どうするか〜は、わかるんです
よ。
 でもでもお豆腐、崩れやすいから、失敗しないかな?
「まぁ、ちょっとくらい失敗してもいいよ、ポンちゃんなら大丈夫がね」
 おばあちゃんが言います。
 なら、とりあえずチャレンジしてみましょう。
 お豆腐、壊さないように頑張るんだから!

 ふふん、わたし、ちゃんと出来ています。
 お豆腐をすくって、タッパにいれて渡すだけなの。
 あせってやらなければ大丈夫だいじょうぶ。
「ポンちゃん、余裕だがね」
「えへへ、お任せです、まぁ、こわれやすいものはやさしくですよね」
「たのんだよ〜」
 って、新しいお客さんがやってきましたよ、お鍋を持って。
「うん?」
 お鍋でやってくるお客さんはなんと「コンちゃん」「レッド」。
 コンちゃん、髪が軽くうねっていますね、ウネウネ。
「やってきたのじゃ、豆腐をよこすのじゃ」
「コンちゃん……壊れているのはないんだけど……」
 わたし、おばあちゃんに視線をやると、おばあちゃんは指を3本立てて返します。
 そう、いつもお豆腐3つもらってますもんね。
 わたし、泳いでいるお豆腐をすくってお鍋に移すの。
 いつもならポン太辺りがやってくれるを見ています。
 そう、だからわたしだって出来るんですよ。
 お豆腐2つお鍋に入れてコンちゃんに返すの。
「はい、お豆腐」
「ポン、ぬくぬくやっておるようじゃの」
「ぬくぬくではないでーす、しっかりやっているんです」
「ふん」
 さて、おばあちゃんの合図は3つでしたが、2つお渡ししました。
 最後の1個はレッドに渡すんですね。
 レッドも小さいお鍋を持って、こっちをじっと見てるの。
「はーい、レッドの分でーす」
 レッドのお鍋にもお豆腐を入れてお渡し。
「……」
「どうしましたか?」
 レッドはじっと見つめたまま、黙っているの。
 でもでも視線で怒っているの、まるわかり。
「どうしましたか?」
「ポン姉、いえで、わるいこ」
「今は豆腐屋の娘なんです、ちゃんと働いていて、いい娘してるんです」
「もうかえらないゆえ?」
「豆腐屋の娘ですから」
「むー!」
 レッド、膨れて一度はジャンプしましたが、お鍋を持っているからピョンピョンできず。
 恨めしそうな目でわたしを見つめるばかりです。
 最後にコンちゃんが、
「ふん、おぼえておれ!」
『なにを「おぼえておれ」なんでしょ』
 二人が帰っちゃったら、おばあちゃんが、
「ポンちゃん家に帰るがね」
「なんでです?」
「プリンでヘソを曲げるなんて子供じゃがね」
「おばあちゃんはわからないんです、大事な事です」
「コンちゃんとレッドも迎えにきたがね」
「お客さんで来たんですよ」
 って、ちょうどお客さんが切れました。
 わたし、手を拭いてから一度奥へ。
 って、ちょうどポン太とポン吉がいますよ。
「あーあ、ポン姉、いつまでいるのかな」
「さぁ、プリンプリン言ってたから」
「オレ、早く帰って欲しい、面倒くさいし」
「ボクも早く帰った方がいいと思うんだけどなぁ」
 そぉーれ、ポン太を捕まえます。
「コラ、わたしがいたら邪魔ですか?」
「うわ、ポン姉!」
「ポン吉が邪魔者扱いするのは予想できたけど、ポン太も言いますか!」
「だ、だってー!」
「だってなに?」
「コン姉とレッドが迎えに来たのに」
「お豆腐貰いに来ただけだよ」
「あれは迎えに来たんですよ、絶対」
「そうかなぁ、髪うねってたよ、怒ってた」
「だからですよ」
「そうかなぁ〜」
 どうせコンちゃんが怒っていたのは、わたしがいないで店番をしないといけないからで
す。
 レッドが怒っていたのは、しっぽをモフモフできないだけでしょ。
 って、ポン太、わたしを見上げながら、
「ボクはコン姉が来てくれたらうれしいのに」
 くっ!
 言いますね、この仔タヌキは!
 まぁ、ポン太はコンちゃんスキーだからしかたないか。
「オレはシロ姉がいい」
 ポン吉も言いますね。
 まぁ、ポン吉もシロちゃんスキーだから、言いますよね。
 じっとわたしを見つめてくるポン太とポン吉。
 わたし、ニヤニヤしながら、
「居座ってやる、居候決めてやる、ずっとココにいるから!」
 二人、嫌そうな顔するから、捕まえて「ギュッ」と抱きしめるんです。
「ほーら、わたし、ポン太もポン吉も好き、だからずっとココにいる」
「……」
「オエ〜」
「オエ〜」を言ったのはポン吉。
「わたし、ポン吉、超好き、死ね!」
 ふふ、こんな時のわたしはすごいんです。
 即座にポン吉の首に腕を決めて、締め上げちゃうんだから。

 普段はお豆腐屋さんの看板娘。
 お昼はおそば屋さんの看板娘。
 わたしの日常は「パン屋の看板娘」から看板が変わっただけです。
 お店の店員さんはもう、お手のものですね。
 そして、毎日のように、レッドとコンちゃんがお豆腐を貰いにやって来るんです。
 日々、コンちゃんの恨めしそうな目が、どんどん殺意を増していくの。
 ふふ、わたしがいないから、店員を真面目にやってるんでしょう。
 わたしのありがたみを感じたらいいんだから!
 日々、レッドがやつれていくの、しなびていくのがわかります。
 なんでレッドがやつれていくんでしょうね?
 どんどん「ひからびていく」とでもいいましょうか。
 今日はお豆腐を受け取るだけで、なにも言わずに帰っちゃいました。
 よろよろと帰る二人の背中を見送っていたわけですが……二人が見えなくなった頃、お
豆腐屋さんの前に光球が現れたの。
「光球」はテレポートの前触れ。
 ミコちゃんが登場ですよ。
「ミコちゃんいらっしゃい、どうしたの? テレポートで?」
 って、ミコちゃん「おたま」を手に髪をうねらせています。
 なにを怒っているんでしょう?
「ちょっとポンちゃん、いいかげんにしたらどうなの?」
「は?」
「レッドとコンちゃん、謝りに来たんでしょ?」
「は? なにもなかったですよ? お豆腐貰いに来ただけですけど?」
「……」
 ミコちゃん、黙っちゃいました。
 でも、ちょっと考えた風になってから、
「レッドがやつれてるの、わかるでしょ?」
「ですね〜 どうしたんでしょ〜」
「ポンちゃんがいないからよっ!」
「え〜? どうしてどうして?」
「レッドはポンちゃんのしっぽがないと、元気がなくなるのよ」
「そんなの死ねばいいんです」
「コンちゃんも全然使えないのよ」
「そんなの知ってますよ……いつも目に殺意満々」
「お店の雰囲気悪いんだから、早くポンちゃん帰ってきてくれないと困るのよ」
「でも、謝る風な感じ、なかったですよ」
「そんな筈は……」
 ミコちゃん、わたしの目をじっと見つめます。
 わたしがキョトンとしていると、
「いいから、家に帰る!」
「えー! わたし、ぽんた王国の看板娘だし」
 って、ミコちゃん、髪をウネウネさせながら「ゴット・アロー」出現させて、
「看板娘、死にたいか? それともパン屋の看板娘に戻るか?」
「ミコちゃんコワイよ」
「帰るわよ!」
 ミコちゃんがお店の中に目をやると、おじいちゃん・おばあちゃん・ポン太・ポン吉が
頷いています。
 しかたないですね、パン屋に帰るとしますか。

「お豆腐屋さんも朝、早いんですよ〜」
 わたし、夕ごはん食べながら報告するの。
 パン屋さんも大変ですけど、お豆腐屋さんも大変でした。
 今までは日曜にちょっとお手伝いに行くくらいでしたが、今回の家出でお豆腐屋さんの、
ぽんた王国の事がよくわかりました。
 これからは、日曜のお手伝いも、もっとしっかり出来るでしょう。
「それはよかったでありますね」
 シロちゃんが言います。
 でもでも、ちょっと気になる事があるんですよ。
 ミコちゃんが相変わらず、怒ってるんです、髪がヘビみたいにウネウネ。
 たまおちゃんは通常運転。
 店長さんもいつも通り。
 みどりも、もくもくと食べています。
 レッドとコンちゃんが怪しいんですよ。
 レッドはなにか気まずそうな、微妙な顔をしているんですが……
 コンちゃんは明らかにミコちゃんににらまれてます。
 レッドとコンちゃん、ミコちゃんに「にらまれる」の、なんででしょう?
 ここは、ちょっと動いてみましょう。
 夕飯をさっさと食べてしまうと、
「ごちそうさま、お風呂いただきまーす」
「あら、ポンちゃん、もういいの?」
 ミコちゃんびっくりして言うの。
 ミコちゃんはいつもの様子なんですが、ともかくレッドとコンちゃんがさっきから変。
 わたしの野良タヌキのカンでは、わたしがここにいるから、変な空気になってるみたい
なの。
「うん、わたし、お豆腐つまみぐいしてたから」
 これは実は本当です。
 ともかく、わたし、食器を流しに沈めて、お風呂に行く「ふり」。
 リビングを出て、一度は脱衣所に行くの。
 でも〜 
 抜き足〜
 差し足〜
 忍び足〜
 柱の陰から夕飯の様子をうかがうの。
「レッドもコンちゃんも……」
 ミコちゃん髪をうねらせながら言い出します。
「なんでお詫びのプリン全部食べちゃうかな!」
illustration やまさきこうじ
 な、なんですと!
 レッドもコンちゃんも、プリン食べちゃったの?
「毎日まいにちプリン持たせたから、すぐにポンちゃん帰ってくると思ったら全然だし、
全部食べるなんてどーゆー事?」
 毎日プリン食べられてたのか〜!
 こ、この二人は、わたしの事、どう思ってるんでしょ?
 プリンの方が、わたしよりも、おいしいと!
 たしかにプリン、おいしいですけどね……
 ミコちゃんの目が怒ってます。
 レッドは弱々しい顔で、
「コン姉がたべてもいいといったゆえ」
 途端にミコちゃんの眼光がきつくなって、コンちゃんに向けられます。
「どうせそんな事だろうと思った」
「だってどんぶりプリンおいしそうだったのじゃ」
「だからってお詫びのプリン食べる?」
 ミコちゃん、コンちゃんチョップしまくり。
 たまにレッドもチョップしてます、力加減してるけど。
「最初に食べたのはレッドなのじゃ」
「コン姉が『どうぞ』っていうゆえ」
「だからってお詫びのプリン食べますかっ!」
 ミコちゃん二人にチョップです。
 二人は小さくなっています。
 コンちゃんいじいじしながら、
「だって、どんぶりプリン、大きいのじゃ、スペシャルなのじゃ」
 レッドも目をランランとして、
「おおきなプリン、すごいゆえ」
「どんぶりプリン」って、なんなんでしょう?
 いや、わかってるんです、どんぶりのプリンなんですよ。
 すごい大きな、プリンです。
 わたしのお詫びで準備されていたはずのプリン。
 その、大きなプリンを、毎日まいにち、この2匹のキツネは「食べちゃった」ですか……
 もう、許せません!
 わたし、リビングに再降臨!
「ポンちゃん!」「ポン姉!」「ポン!」
 ミコちゃんが、レッドが、コンちゃんが声を上げます。
 わたし、ミコちゃんの肩をポンポン叩いて、
「コンちゃんをお願いします!」
 ポカンとして、うなずくミコちゃん。
 コンちゃん、青くなってガクブル。
「わ、わらわが悪かったのじゃ、許すのじゃ」
「わたしは許してあげるから、ミコちゃんの折檻を受けてください」
「わーん、ポン、許してなのじゃー」
『許すか!』
 さて、わたしはレッドを抱えて退場です。
「ポン姉、ゆるしてくれるゆえ?」
「許しません、どんぶりを全部、毎日食べますかね?」
「おいしかったゆえ」
 レッド、ニコニコです、この仔キツネはわかってませんね。
 わたしがにらむと、ポカンとして、
「ゆるしてくれるゆえ?」
「仲直りしましょう、ええ、水に流して!」
「さすがポン姉ゆえ」
「ふふふ、一緒にお風呂して、ザブーンですよ、ザブーン」
「ふえ、おに、あくまー!」
「泣け! 叫べ!」
「たすけてー!」
「ふふ、食べ物の恨みはコワイんだからモウ!」


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