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■  ポンと村おこし    第176話「女のニオイがします」         ■
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 開店準備をしていると、駐車場に一台の車がやってきました。
 配達人の車ですね。
 そうそう、小麦粉の配達があったんでした。
 目の細い配達人が、小麦粉の袋を抱えてやってきます。
 小麦粉は裏の勝手口から入って搬入なので、お店には入ってきません。
「綱取興業でーす、裏に置いときまーす」
 目の細い配達人、表を通りながら大きな声。
「はーい、おねがいしまーす」
 目の細い配達人、いつもの事なのでわたしを見向きもしませんよ。
 まぁ、配達終ったらこっちに来て、伝票をもらったりするから、その時ゆっくり話す事
になるんですけどね。
 それにわたしも、パンを並べるのに大忙しなんです。
 目の細い配達人が何度も行ったり来たりを繰り返している時、わたしもなんとかパンを
並べ終えたの。
「ポン、終ったかの」
「ちょっとコンちゃん、手伝ったらどうなの!」
「わらわは神ゆえ、ポヤンとしておるのじゃ」
「手伝え〜」
「いやじゃ、働きとうないのじゃ」
「なまけもの〜」
「わらわは神なのじゃ、なまけものではないのじゃ」
 って、まぁ、コンちゃんが働かないのは「いつもの事」だから、もう頭にも来ません。
 コンちゃん……かまったら負けです。
 ほどよく距離をとるのがいいんですよ。
 あんまり無視すると、また絡んできて面倒くさいからですね。
 それに開店準備、終っちゃいました。
 むう、ではでは、目の細い配達人のお手伝いでもするとしますか。
 でもでも、一番のお客さんがやってきましたよ。
 駐在さんと帽子男が並んでやってきました。
 カウベルがカラカラ鳴って、二人が入ってきます。
「いらっしゃいませ……って、まだ開店前なんですけど」
 駐在さんはニコニコしているだけ。
 帽子男がちらっとわたしを見て、
「モーニングだ、コーヒーを頼む」
「そんなサービスしてないんですけど……いいけど」
 わたし、奥からコーヒーを持って来て二人のテーブルに置きます。
 駐在さんニコニコ顔で、
「すみませんね、開店前に」
「いいですよ、でもでも勝手にやってください」
 帽子男、一口コーヒーをすすってから、
「おう、パンは勝手に取るから」
「お代は後でいただきます」
 わたしが行こうとするのに、帽子男首を傾げて、
「おいおい、ポンちゃん、配達か?」
 って、駐在さんもコクコク頷きながら、
「学校の方にはシロが配達に行っていたようですが」
「あ、配達人のお手伝いですよ」
 それを聞くと二人はもうわたしを見ないで、なにか話を始めたみたい。
「これ、ポン」
「なんですか、コンちゃん!」
「わらわのコーヒーは?」
「自分でとってくるんですよ、まったくモウ」
「ポンはわらわに冷たいのじゃ、わらわが嫌いになったかの?」
「最初から好きでもないですよ」
「クスン」
 出ました「クスン」ウソ泣きです。
 どうせ言っているだけですから、ほっといて目の細い配達人を手伝いましょう。
 じっとしていると暇で、時間が経つのが遅いんですよ。
 でもでも、老人ホームや学校は嫌。
 どっちも「忙しすぎ」だから。
 いやいや、学校は「めんどうくさい」ですかね。
「配達人さん、なにかお手伝いしましょうか?」
「おお、ポンちゃん、なら、この大きな小麦粉の袋を……」
「オイ、コラ、か弱き乙女に『大きな小麦粉』ですと?」
「か弱き?」
「叩きますよ?」
「こ・わーい」
 なにが「こ・わーい」ですか、チョップです、チョップ。
「では、ポンちゃんにはこの小さい袋を頼むよ〜」
「はーい、運びまーす!」
 小さい袋っていうのはレジ袋がいっぱいあるんです。
 お店で出しているコーヒーとか紅茶とかお茶っ葉とかですね。
 レジ袋に入っているから持ちやすいですよ。
「む! 重いのもありますね!」
「油断しないで……」
「あ!」
 バランス崩してフラフラ。
 目の細い配達人が「サッ」と支えてくれるの。
「ポンちゃん大丈夫? か弱い芝居なんていらないから」
「あんですってー!」
「だから、小芝居はいらないから」
 って、目の細い配達人、わたしを立たせるとすぐに仕事に戻っちゃうの。
 わたしの事をなんだと思っているんでしょう?
 か弱き乙女に、もうちょっとかける言葉とか知らないんですかね。
「うん?」
 でも、わたし、ちょっと気になる事が……
 配達人の支えられたとき……
 思ってもない事が……
 そう、目の細い配達人から……
「女」のニオイがしたんです、間違いないですっ!
 わたし、改めて配達人の服をクンクンするの。
 クンクン……
 クンクン……
 やっぱり「女」のニオイです!
 店長さんの時、村長さんのニオイでした。
 でもでも、この目の細い配達人からするニオイは、わたしの知っている「女」のニオイ
じゃなかったです。
 こういう時は「迅速」に「電光石火」な感じで、
「コンちゃん! 配達人からオンナのニオイがしますっ!」
 わたしが叫ぶと、いつものテーブルに着いてポヤンとしていたコンちゃんがピクリとし
ます。
 立ち上がると、すぐにやって来て、
「ポン、大きな声をあげるでない」
「本当なんですよ、配達人からオンナのニオイですっ!」
「どうせ村長や、老人ホームのお婆達のニオイであろう、みどりや千代やも知れん」
「わたしの知らないオンナのニオイなんです!」
「どれどれ」
 わたし、全力で配達人を捕まえます。
 配達人は力無く笑いながら、されるがまま。
 コンちゃん、配達人の服をクンクン。
「確かに……わらわの知らぬ女のニオイなのじゃ」
「でしょ」
 コンちゃん、配達人をジッと見つめて、
「この男から女のニオイ……事件なのじゃ」
「俺、なんだかひどい言われような気がするんだけど」
 コンちゃん、わたしに向き直ると、
「尋問じゃ、拷問なのじゃ、白状させるのじゃ」
「わたしもそうするべきだと思いました」
「ちょうどよい事に、駐在も店におるのじゃ」
「ですね、配達人の罪状をはっきりさせましょう」
 わたし、なんだかワクワクしてきました。
 目の細い配達人は、トホホといった顔で、
「かんべんしてくれないかなぁ」
「黙るんですよ、この犯罪者」
 コンちゃんも腕を組んで頷きながら、
「配達人よ、いくら女に相手にされぬからと言って、犯罪はいかんのう」
「俺、絶対ひどい言われようだよね」
 って、奥からミコちゃんも出てきました。
「どうしたの? さわがしいけど?」
「あ、ミコちゃん、配達人からオンナのニオイがするんです」
「村長さんとか、子供達じゃないの?」
「わたしの知らないオンナのニオイなんです」
「配達人さんもあちこち回ってるから、しょうがないんじゃないかしら」
「いいや、この男はなにか悪さをしてるんです、絶対」
「ポンちゃんはモウ」
 さて、目の細い配達人を座らせて、縄でグルグル巻きにしちゃいます。
 駐在さんが、
「ポンちゃん、ちょっと大げさではないですか?」
「駐在さんは人間でニオイがわからないから、そんなふうに言えるんです」
「まぁ、ポンちゃんは元はタヌキみたいだし」
「コンちゃんにも確かめてもらったから、絶対です、犯罪なんです」
「女のニオイで犯罪って、満員電車乗っただけで犯罪者になってしまいますよ」
 駐在さんはあきれ顔で言います。
 帽子男が、
「まぁ、配達人だって女の一人や二人、いるだろう」
「なに言ってるんですか、いるわけないでしょ、この男に!」
「俺、絶対失礼な事言われてるよね」
「犯罪者は黙って!」
 って、配達人の体から携帯の着信音。
 コンちゃんが音のするポケットから携帯電話を取り出して……
 ……取り出して……表情が凍っています。
illustration やまさきこうじillustration やまさきこうじ

「駐在よ、これを見ても犯罪者ではないと言い切れるかの!」  コンちゃん、携帯電話の画面を駐在さんに見せてます。  途端に厳しくなる駐在さんの顔。  普段の温和な表情はなく、怒りに燃えた刑事の顔になっているの。  グルグル巻きで動けない目の細い配達人の襟首をつかむと、 「どう弁解するかな? ああん?」  帽子男とミコちゃんも、コンちゃんの持っている携帯の画面を見て、表情が険しくなるの。  でもでも、配達人はあいかわらずのほほんとした顔をしています。空気読めていませんね。  帽子男が、 「コイツがロリコンだったとは……」 「ロリコンってなに?」  配達人は相変わらずです。  ミコちゃんの髪がヘビみたいにうねって、手には光る「ゴット・ソード」が出現してま す。 「この犯罪者! 見損なった! 死ねっ!」  ミコちゃん、光るゴット・ソード振りまくり。  目の細い配達人はザクザク切られてるんだけど……一応、痛いみたいなんだけど…… 「ミコちゃん痛いよ、やめてよ、CGでも痛い時は痛いんだから」  CGかなにかと思ってるみたいです。  わたしも携帯の画面を見るの。  って、裸の女の子が二人、写っています。  でもでも、女の子、カメラ目線で、ニコニコしてますよ。 『コンちゃんコンちゃん』 『なんじゃ、ポン、おぬしもこの男を見損なったであろう』 『うーん、一瞬「うわ」って思ったけど……これ、メール?』 『の……ようじゃが』 『どれどれ』  わたし、携帯を操作して…… 『ねぇねぇ、これってどう思う?』 『なになに……「お兄ちゃん、晶子のセクシー感じる?」とな?』 『なんていうか、配達人が強要して送らせているようなメールじゃなさそうな……』  メールの続きは、 『ほら、続き、「ねぇねぇ、あたしのセクシーは?』 『確かにのう、これはこの娘達のイタズラメールじゃの』 『ちょっと配達人に見せてみましょう』  わたし、携帯を配達人に見せます。  途端に目の細い配達人、嫌そうな顔になります。  そして、沈んだ声で言うの。 「早く、携帯を切ってくれない、電話が掛かってくるから」  って、言ってるそばから携帯電話に着信音。  画面には「あっちゃん」。  駐在さんが電話を受け取って、通話を押すの。 『あはは、お兄ちゃん、メール見た?』  わたし、コンちゃん、駐在さん、帽子男が目と目を合わせます。 『晶子、今日はお肉食べたいな、たくさん、いい、待ってるよ』  そして別の声で、 『あたしもお肉、たくさん』  写真に写っていたもう一人の女の子でしょう。  わたし達はキョトン。  配達人は嫌そうな顔……を、背けて、 「電話、切ってください」 「あ、え、ああ……」  配達人のあまりの落ち込みように、駐在さんは電話を切っちゃうの。  配達人は目尻に涙を浮かべて、 「メールも消してください、お願いします」 「あ、ああ……」  駐在さん、メールを消しました。  って、途端に携帯が震えて、思わず駐在さん通話開始。 『ちょとお兄ちゃん、何電話切ってるの!』  そしてさらに、 『晶子達の写メ、消したよね、わかるんだよ、晶子も響ちゃんも』  すぐに電話切れます。  わたし、こわくなりました。  コンちゃんも、駐在さんも、帽子男も引きつるの。  って、また携帯が鳴って、新しい写メが送られて来ました。  今度はまた別のポーズで、ニコニコ顔の裸少女2名の写メ。  わたしだって感じます、このメールは絶対嫌がらせ。  また電話が鳴って、 『無視したらブッ殺すからね、お兄ちゃん、わかってる? 晶子、お兄ちゃんの事、愛し てるから』 『あたしは憲史兄ちゃん、好きじゃないから』 『『ぎゃはは!』』  笑い声を残して通話終了。  電話の向こうには、二人の悪魔がいるのがわかるの。  配達人はガクブルで、わたし達だって嫌な気分になりました。 「帰りたくない」  つぶやく目の細い配達人。  駐在さんを見て、 「小学生の裸の写メがあったら、犯罪でお泊りですよね」 「え、あ、ああ、うん」  駐在さん頷きます。  って、コンちゃん携帯を奪って削除すると、 「あ、消してしまったのじゃ」 「コンちゃん、なんて事を!」 「配達人は家に帰るのじゃ、妹達が待っておるのじゃ」  コンちゃんはニコニコです。  わたしは、なんだか、今日はお泊りさせてもいい気分です。  ちょっとかわいそうになってきました。  わたしもレッドにやられっぱなしですからね。  そうそう、目の細い配達人がお泊りすれば、レッドを丸投げできますしね。  って、電話がまた鳴りました。  画面を見れば「社長」です。  わたし、携帯を目の細い配達人に渡すと、配達人は耳に当てて何度か頷くんです。  キラリと涙が流れました。 「パンを貰って帰って来いって言われた、帰る」  トボトボと出て行く配達人、コンちゃんはニコニコで、 「あやつ、今夜殺されるのじゃ、楽しみなのじゃ」  わたしもなんだか、嫌な予感がします。 「あのあの、駐在さん、お泊りさせた方がよくなかったですか?」 「警察は民事不介入」 「面倒くさいだけですよね」  駐在さん、愛想笑いです。  帽子男が、 「あの配達人が、あんなに落ち込むとはなぁ、ただの小学生に見えたんだが」  そう、たしかに「イタズラ」好きそうな二人に見えました。  でもでも、なんでしょう。  あの二人は、とても「ダメ」「危険」なのを感じました。  わたしの野良のカンは間違っているでしょうか? pmy176 for web(pmy176.txt/htm/jpg)(pma) pmy176b.jpg NCP5(2019) (80L) (C)2008,2020 KAS/SHK (C)2020 やまさきこうじ (HP:やまさきさん家のがらくた箱) (pixiv:813781) (twitter:@yamakou0_1019)