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■  ポンと村おこし    第186話「わたしはカラスが好きくない」     ■
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 レッドがお店に降りてきてびっくりしましたが、今は落ち着いています。
 しばらくヤンキー娘と一緒にコンビニ店員をやっていたレッド。
 今はヤンキー娘の胸に抱かれて、スヤスヤ寝息をたてているの。
「すみません、レッドすぐキスしちゃうから」
「びっくりしたよ」
 抱いているレッドの背中をポンポンしながらヤンキー娘は、
「ふう、ファーストキッスされたから、結婚するしか」
「ププ!」
「あ、笑った!」
「い、いや、笑うでしょ……それに……」
「それに?」
「わたし、目の細い配達人にプロポーズされたんですよ」
「え! 目の細いって、憲史先輩にプロポーズされたの?」
「「ポンちゃん、好きだ、結婚してくれっ!」って言われたんですよ」
「へぇ、それで?」
「ここに連れて来られたら「俺、人間、残念タヌキと結婚できないやー」」
「ププ!」
「それに子供のしてる事ですよね」
「えー、本気だったんだけどなぁ」
 ヤンキー娘、笑ってます。
 レッドのキスで怒られなくてよかったです。

 昼はジルにレッドを預けて、わたしはコンビニ店員です。
 コンビニのお仕事は、山のパン屋より忙しいけど……わたしでも出来るくらいのお仕事
です。
 藤華さんも言ってたけど、ここのコンビニはよそよりは仕事が簡単なのかもしれません。
 レジと商品を並べるのは、パン屋と同じ。
 おでんや、焼き鳥、ポテトを出すのは、ソバ屋の娘の時に似ています。
 それに一人で入ってるわけじゃないんです。
 今日は配達人が一緒です。
「ポンちゃん助かるよ〜」
「これくらいなら、わたしでもできます」
「ふふ、ポンちゃんならできるけど、コンちゃんじゃできないよ」
「まぁ、コンちゃんはなにもしませんけどね」
 今頃コンちゃん、くしゃみしまくってるでしょう。
 そこにジルとレッドが帰ってきました。
「ただいまゆえ〜」
「レッド、おかえり〜、ジルありがとう」
 ジル、なんだか疲れています、愛想笑い浮かべて消えちゃいました。
 レッド、わたしにキスしながら、
「きょうはプールであそんだゆえ!」
「そうですか、あ、プールの匂いがしますね」
「たのしかったゆえ!」
 レッドの視線が、ふと配達人に向けられるの。
「はいたつにんといっしょがいいゆえ!」
 レッド、わたしから離れて配達人にとりつくの。
 そう言えば……
 配達人の事はちょっと気になります、邪悪な二人の妹とか見たいです。
「わたしも配達人の家を見てみたいですね」
「うわ、ポンちゃんもいきなり言うなぁ」
「まさかエッチな本とか隠しているとか?」
 配達人は、どことなく連れて行きたくないふうです。
「エッチな本を隠してますね、見られたくないんですね」
「ポンちゃん、あっちゃんと響ちゃん知ってるよね」
「裸の写メ送ってきた娘ですよね」
「うん、あっちゃん達、面倒くさいよ」
「何か隠してるんでしょ!」
「隠してないし……」
 って、配達人はレッドとわたしを交互に見ます。
「そうだね、レッドの相手、ジルだけにやらせるのもなんだしね」
「?」
 レッドの相手ってなんでしょう?
 あの、写メの二人がレッドの相手をしてくれるんでしょうか?
「もうすぐ藤華ちゃんがバイトに来るから、それから行こうか」
「はぁ」
「3件隣だから、すぐだし」
 配達人のお宅訪問です!
 なんでしょう、胸騒ぎが止まりません!
 でもでも、行っちゃうんですけどね。

 アパートの階段を上がりながら、
「ポンちゃん、レッド、いつもごはんは?」
 聞いてくる配達人に、レッドがニコニコで、
「おべんとうゆえ、ハンバーグすきすき!」
「コンビニのお弁当ですね、話によれば期限切れらしいですね」
「うん、廃棄の弁当、捨弁ね、俺も半分は捨弁かなぁ」
 配達人、レッドを抱っこすると、
「捨弁ばっかじゃなんだし、今日は家で食べていってよ」
「えー! 配達人のごはん、おいしいのー!」
「ミコちゃんと比べられたらなんだけど、ね」
 そうだ、配達人の焼きそばとか、結構おいしいです。
 これはちょっと、期待できそう。
 コンビニ弁当も悪くないんですが、よくよく食べていると、やっぱり味はイマイチ。
 ミコちゃんのごはんに舌が馴れちゃってるからかな。
 配達人、ドアを開けると、
「何にもないけど、どうぞ」
 開かれたドア。
 その瞬間、「女のニオイ」がしました。
 いつも配達人の服に微かに匂う「ニオイ」です。
「おじゃまします……」
 わたしはおどおど。
「おじゃましまーす!」
 レッドは元気に。
 って、わたしもレッドも足が止まるの。
 畳の部屋のちゃぶ台。
 その上に「カラス」がいるんです。
 わたしはそれっきり固まっちゃいました。
 でもでも、レッドはダッシュです。
「とり! とり! とり!」
 もう、一直線で、カラスをゲットしちゃうの。
「配達人さん! カラス飼ってるんです?」
「うん、俺のじゃないけどね」
 配達人、わたしに顔を寄せると、
『カラスにレッドの相手をさせるのはどう思う?』
『配達人、ナイスです!』
 レッド、カラスを抱いてニコニコです。
 配達人の作戦は成功。
 でも、なんでしょう、カラスがじっとわたしを見ているように見えます。
 できるだけ……目を合わせないで様子を見ましょう。
 レッド、カラスを見つめて、
「とり! カラス! すき!」
「ボク、くーチャン、ヨロシクネ」
「けのいろがあかいからレッドー!」
「ヨロシクネ」
 カラスはしゃべれるようです、嫌な予感急増です。
「すきすきー」
「ヤサシクシテー!」
 レッドのキス攻撃にカラスは戸惑ってるみたいです。
 ってか、なんでわたしを見るんでしょう。
 わたし、レッドの腕をゆすります。
「カラスはやさしくしてあげてね」
「わかったゆえ」
illustration やまさきこうじ
 レッド、カラスを手放してから、
「ねぇねぇ、カラスさんは、カラスさんは!」
「くーチャンくーチャン、ヨロシクネ」
「クーちゃん! クーちゃん!」
 レッド、改めてカラスを抱っこすると、
「しゃべるゆえ、かわいいゆえ」
 って、カラス、まだこっちを見てます。
 その時、配達人が、
「はい、ポンちゃんとレッド、ごはん食べてよ」
 野菜炒めとハンバーグの皿がちゃぶだいに置かれます。
 追ってごはん茶碗も並べられるの。
 レッド、ハンバーグを見て、
「やたっ! ハンバーグ!」
 もう食べ始めました。
 配達人、レッドに代わってカラスを抱っこすると、
「コンビニ弁当ばっかじゃ、味気ないかなって」
「うまうま、ハンバーグすきすき」
 レッドは満足そうです。
 わたしも野菜炒めから手を出します。
 この男は……微妙に女子力高いです、おいしいですよ。
 でも、食べてるわたしを、カラスが見つめているの。
『あの、見ないでくれます、落ち着きません』
 テレパシー投げてみるんです。
『なんでタヌキとキツネがいるんだ』
『うわ! 返事来た!』
『なんでタヌキが!』
 このカラス、返事がしっかりしてます。
『なんでタヌキが人間なんだ!』
『い、いろいろあるんですよ!』
『なんでー!』
『レッドけしかけますよ、いいんですかっ!』
『うっ!』
 配達人の家のカラスは、おしゃべりできるカラスです。
 カラス、ちょっと頭いいかなって思っていたけど……
 このカラス、中身は人間と一緒ですよ。


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