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■  ポンと村おこし    第190話「コンちゃんの逃亡」          ■
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 休み時間、藤華さんに許可をもらって……目の細い配達人宅にお邪魔しています!
 いや……
 ちょっと……
 気になった……
 事があるんです……
 ここのみんなは、目の細い配達人を優しく……って言います。
 どうしてでしょう?
 あの男は、パン屋では「何をやってもいい」キャラなんですよ。
 わたしだって「結婚詐欺」されたくらい。
 でもでも、みんな「優しく」って言います。
 どうしてでしょう。

「お兄ちゃん、お肉、お肉!」
「憲史兄ちゃん、野菜なんかいいから!」
 わたし、黙って見守ってるの。
 視線の先、台所では配達人が料理の最中です。
 野菜を刻んで、どんどんフライパンに投入。
「お兄ちゃん、お肉は! お肉! 聞いてる?」
「憲史兄ちゃん、それは魚肉ソーセージなんだよ!」
 超楽しいです。
 あっちゃんと響ちゃんは、今日も相変わらず「裸族」。
 配達人もパンツにシャツみたいな恰好。
 まぁ、この部屋、エアコンがないから暑いんですけどね。
 あっちゃんが、
「お肉ー! ねぇー!」
 響ちゃんが、
「なんで野菜ばっかなのー!」
 って、二人は沈黙、お肉をあきらめた……と、思ったら……
 あっちゃん、響ちゃんから桃色オーラ発散するの。
 それも「毒々しい」桃色オーラ。
 あっちゃんが右側から、
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、晶子のセクシー感じる?」
 響ちゃんが左側から、
「あたしは! あたしのセクシーは!」
 二人は配達人をからかってるの、超楽しんでます。
 配達人は、包丁を鳴らしながら野菜を刻んでは投入。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、晶子のセクシー感じる?」
「あたしは! あたしのセクシーは!」
「ねぇねぇ!」
「あたしは! あたしは!」
 わたしも楽しくなってきました。
 二人とも、もっとやるんです、どんどんからかうんです!
 って、配達人が無反応なのに、あっちゃん達のモードが切り替わるの。
「お兄ちゃんってばー!」
 あっちゃん、ボスボス配達人を叩くんです。
 レバーに叩き込まれるパンチ。
 骨の、肉のひしゃげる音。
 叩かれた反対側が盛り上がるんです。
 まるで漫画みたい、すごい痛そう。
「憲史兄ちゃんのバカー!」
 言いながら、響ちゃんは配達人の背中に飛びついて、肩を「ガブリ」。
 何度も噛みつくのに、配達人のシャツが血に染まるの。
 すごい「歯力」、血の量はちょっとしたホラー。
 でもでも、配達人、何事もなかったかのように料理……
 料理……してた……だけど……
 配達人の背中に暗黒オーラ。
 そして、ちらちらと「嫌そうな顔」見えるんですよ。
 って、包丁の音が止まります。
 配達人、瞬時に二人をハグ。
「あっちゃん、響ちゃん、好きだー!」
「「きゃあ!」」
「死ねーっ!」
「「ギャー!」」
 配達人の背中がプルプル震えるの。
 抱きしめられた二人の腕が、宙をかきむしり、息絶えます。
「ふう……メシ作ってる最中に面倒くさい」
 あっちゃんと響ちゃん、ポイっと床に捨てられます。
 配達人、わたしを見て、
「ポンちゃんわかってるよね、助けてよね」
「い、いや、面白かったから」
 笑いが止まりません。プププ。

 コンビニに帰ると、
「藤華さん、どうもです」
「先輩どうだった?」
「超面白かったです、あっちゃん達面倒くさいです」
「ふふ……先輩優しくしてあげようって思った?」
「あ! あっちゃんの攻撃見ました!」
「すごかったんじゃない?」
「どうして配達人は死なないんでしょう?」
 藤華さん、固まります。
 ちょっとしてから、
「叩かれ慣れてるから……打た筋あるから大丈夫って言ってた」
「打た筋……嫌な筋肉ですね」
 でも、わたし、思ったんです。
「だったら、配達人、何したっていいですよね!」
「ポンちゃん……」
 藤華さん、思い出したように、
『あの、ちょっとポンちゃん』
『なんですか、小さな声で』
『いや、ポンちゃんの報告面白かったから、ついつい』
『なんです?』
『この人はパン屋のキツネさんよね』
 って、バックヤードの仮眠用の長椅子に、コンちゃんが眠っているの。
「うわ、コンちゃん、なんで!」
「コンちゃんって言うんだ、パン屋さんの人だよね……キツネか」
「コンちゃんはキツネですね、女キツネです、気分屋で、なにもせんねん女王です」
 わたしの悪口に、コンちゃんのまぶたが開かれます。
「これ、ポンよ、わらわの悪口を言ったであろう」
 面倒くさそうなので、ここは……
「こっちの人が、コンビニ店員の先輩、藤華さんです」
「あ、どうも、奥藤華です、よろしく」
 藤華さんがペコリ、コンちゃんも戸惑いながら、
「わ、わらわはコンちゃんでいいのじゃ」
 コンちゃんが体を起こして目をこすっていると、
「超綺麗! なに、山のパン屋はコスプレパン屋?」
 藤華さん目が「☆」になってます。
 そしてコンちゃんのしっぽをモフりながら、
「綺麗なしっぽ! って、コンちゃんまさかレッドのお母さん!」
「違うのじゃ、わらわはお稲荷さまで、神さまなのじゃ!」
「おお、神さま、そっかー」
 藤華さん「尊い」とか微塵も思ってないみたい。
 もう、コンちゃんのしっぽをモフモフしまくりなの。
 コンちゃん頬を膨らませて、
「神のしっぽを無断でモフるとは、何事なのじゃ!」
「えー 神さまなんだから、小さい事言わないでよ」
 って、言ってから、藤華さんの手が止まるの、
「ポンちゃんとコンちゃんがいなくなったら、誰がパンを作るの?」
「パンはちゃんと作ってくれる人がいるんですよ」
「そ、そうなんだ……で、コンちゃんは何で来たの?」
「あ、それ、わたしも思いました、コンちゃんどうしたんです?」
 どことなく、疲れた感じのするコンちゃん。
 でも、コンちゃんが「疲れた」ってのが微妙です。
 この「なんにもせんねん女王」が!
 コンちゃん、モジモジしながら、
「ポンがおらんから……」
「はぁ!」
「ポンがおらんから……」
「な、なんですと!」
 コンちゃん、わたしに抱き着いて、
「ポンがおらんから、わらわは追っかけて来たのじゃ!」
「えー!」
 わたし、びっくり。
 藤華さんは引いています。
「ポンちゃんとコンちゃんって、そんな関係だったの! 百合百合!」
 コンちゃん、わたしの体を「ギュッ」って抱きしめて、
illustration やまさきこうじ
「これなのじゃ、「ちょうどよい」のじゃ!」
「……」
「百合! ポンちゃん百合だったの! もしかして私もそんな目で!」
 藤華さんが面倒くさいです。
 でも、抱き着いてるコンちゃんも面倒くさいの。
 わたし、コンちゃんを引きはがすと、
「変な噂が立っちゃうから、コンちゃんから説明してください」
「え? あ? え?」
 コンちゃん、藤華さんを見てから、
「おお、わらわ、百合扱いされても困るのう……」
「ち、違うの? 雰囲気出てたけど!」
 コンちゃん、藤華さんをわたしに抱き着かせると、
「ほれ、藤華よ、ポンを「ギュッ」とするのじゃ!」
「え! 私、百合じゃないんだけど!」
「いいから、ポンを「ギュッ」とするのじゃ」
「ふむ……ギューッ!」
「ちょうどよかろう……」
「!!」
「ちょうどいいであろう……」
「あ、なに、この低反発枕とは違った、微妙なフニフニ感は!」
「レッドが発見したのじゃ、このフニフニは最高なのじゃ」
「ちょっとわかるわ、なに、これ、いい感じで人肌」
 なんかムカつきます。
「フニフニ」で褒められても、ちっとも嬉しくないんだからモウ!
「ポンがいなくなって、毎晩眠れず枕を涙で濡らしたのじゃ」
「うわ、それはもう恋じゃない、でも、確かに、これは「ちょうどいい」ね!」
「もう、藤華さんは黙っててください、恋なんかじゃないですよ」
 わたし、ため息つきながら、
「なにが枕涙ですか……今までどうやってたんですか?」
「むう、「大きなイルカさん」で我慢しておったのじゃ」
 コンちゃんが術を発動すると、ポンッ!と「大きなイルカのぬいぐるみ」登場。
「わたしが配達人からもらったのです……うわ、クタクタじゃないですか」
「毎晩抱いておったが、これではポンの代わりにならんのじゃ」
 コンちゃん「大きなイルカさん」に術をかけます。
 クタクタだったイルカさんは、元の姿に戻りました。
「わらわも街に遊びに来たかったのじゃ!」
 むう、困ったちゃんです。
 でも、もうすぐ帰る予定だからいいかな。
 パン屋さんはシロちゃんやみどりで頑張ってもらいましょう。


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